セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第76回日本医学放射線学会総会が2017年4月13日(木)〜16日(日)の4日間,パシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。15日(土)に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー10では,大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学教室教授の富山憲幸氏が座長を務め,藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室講師の村山和宏氏,国立がん研究センター中央病院放射線診断科医長の曽根美雪氏,岩手医科大学附属病院循環器放射線科教授の吉岡邦浩氏が,「超高精細CT:頭部・腹部・循環器領域における臨床応用」をテーマに講演した。
2017年7月号
第76回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー10 超高精細CT:頭部・腹部・循環器領域における臨床応用
超高精細CT:循環器領域における臨床応用
吉岡 邦浩(岩手医科大学附属病院循環器放射線科)
本講演では,東芝メディカルシステムズ社製の超高精細CT「Aquilion Precision」の心血管領域における使用経験について,冠動脈を中心に,大動脈,末梢血管についても報告する。
冠動脈への臨床応用
1.当院におけるCoronary CTAの撮影法と症例提示
Coronary CTAは通常,64列や80列装置での撮影では,Retrospective ECG-gating法かProspective ECG-gating法のいずれかを用いる。後者の方が心拍数など制限は多いが,被ばくが圧倒的に少ないことから,当院ではProspective ECG-gating法(心電同期フラッシュスキャン)を基本としており,Aquilion Precisionでの撮影にも全例で第一選択としている。以下に,320列ADCT「Aquilion ONE」とAquilion Precisionの両方で撮影した症例の画像を供覧する。
症例1は,60歳代,男性,狭心症症例の右冠動脈のCPR画像(図1)であるが,Aquilion ONE(a)と比較し,Aquilion Precision(b)では血管の辺縁がきわめて明瞭である。
また,図2は,図1と同症例の左前下行枝であるが,やはりAquilion Precision(b)の方が,血管の辺縁(▼)はもとより非常に細い中隔枝も明瞭に描出されている(▲)。さらに,時間分解能はAquilion ONEが0.275秒,Aquilion Precisionが0.35秒とAquilion ONEの方が優れているが,大動脈弁は明らかにAquilion Precisionの方がシャープに描出されており(図2b←),大動脈弁の描出においても空間分解能が大きく寄与していると考えられる。
2.超高精細CTの臨床的有用性の評価
超高精細CTの臨床的有用性を評価するためには,血管造影との対比が必要である。
症例2は,50歳代,男性。Aquilion PrecisionのCPR画像にて,右冠動脈起始部に99%の高度狭窄が認められる(図3a▲)。血管造影画像でも血流遅延が認められ,同様の所見である(図3b▲)。短軸像(図3c)でも高度狭窄が確認でき,その先にある石灰化と血管内腔との境界も,ブルーミングアーチファクトが従来CTよりも減少しているため非常に明瞭である。
また,短軸像にて血管の狭窄率を求めるには,リファレンスとなる部分と狭窄部位を計測して算出する必要がある。従来CTでは画像が不明瞭で正確な値を求めることは困難であったが,Aquilion Precisionでは正確な測定が可能になると考えられる。実際に,定量的冠動脈造影法(quantitative coronary angiography:QCA)で求めた狭窄率と,Aquilion Precisionの画像からソフトウエアで算出した狭窄率を比較したところ,ほとんど誤差は認められなかった。従来型のCTを用いた先行研究を見ると,64列ヘリカルCTでは約30%,ADCTでも約25%の系統誤差がある。そこでSCCTガイドライン1)では,狭窄率の定量的な判定は控え,軽度,中等度,重度という半定量的な評価方法が推奨されている。しかし,半定量的な判定でも20%あるいは25%区切りで行う必要があるが,系統誤差が大きいと軽度と中等度(有意狭窄の可能性がある)の境界にある症例の診断にしばしば苦慮する。ここに,超高精細CTが一つの回答を与えてくれるものと期待している。
このほか,超高精細CTではステント内再狭窄,高度石灰化,プラークの評価などでも診断精度が向上すると思われる。
症例3はステント内再狭窄の症例で,内部に線状の低吸収域が認められ,短軸像でもそれを確認できる(図4)。従来CTではステント内再狭窄の明瞭な描出が困難であったが,Aquilion Precisionの登場で,いよいよステント内腔評価が可能になると実感している。ただし,これについては今後,さらなる検討を重ねる必要がある。
3.被ばく線量の評価
Aquilion Precisionで撮影した当院の約150症例について被ばく線量を検討したところ,平均5.7mSv(DLP:378±103mGy・cm)であった。320列ADCTでは現在,1mSv程度で撮影できるため,それに比べると多いが,64列あるいは80列装置と比較するとそれほど多くはなく,Coronary CTAの診断参考レベル(DLP:1400mGy・cm)と比較しても少ない被ばく線量で撮影できている。
大動脈への臨床応用
まだ症例数は少ないが,当院にてAquilion Precisionを大動脈の診断にも使用している(図5)。
症例4は,DeBakey Ⅲb型の大動脈解離症例である(図6)。Aquilion ONEの2mmスライス厚の画像(図6a)では真腔から偽腔への血流の入孔部(→)が不明瞭である。しかし,Aquilion Precisionのスライス厚0.25mmの画像(図6b)では,入孔部(→)が剥離内膜の断裂像として認識できる。Aquilion Precisionは,このような微細・微小な入孔部の診断に威力を発揮している。
末梢血管への臨床応用
末梢血管の診断にも,超高精細CTによるサブトラクションは有用である。従来CTでも下腿3分枝までの動脈の描出には有用であるが,Aquilion Precisionでは,足部まで描出可能である(図7)。従来,足先は画像診断の対象となりづらい領域であったが,いよいよ画像診断の対象となってくるのではないかという印象を持っている。
●参考文献
1)Leipsic, J., et al. : SCCT guidelines for the interpretation and reporting of coronary CT angiography ; A report of the Society of Cardiovascular Computed Tomography Guidelines Committee. J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 8・5, 342〜358, 2014.
吉岡 邦浩(Yoshioka Kunihiro)
1985年 岩手医科大学卒業。同附属病院,同医学部放射線医学講座を経て,97年に同附属循環器医療センター放射線科配置。2004年 同医学部放射線医学講座助教授,2007年 同准教授,2012年より同附属病院循環器放射線科教授。
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