セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第76回日本医学放射線学会総会が2017年4月13日(木)〜16日(日)の4日間,パシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。15日(土)に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー10では,大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学教室教授の富山憲幸氏が座長を務め,藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室講師の村山和宏氏,国立がん研究センター中央病院放射線診断科医長の曽根美雪氏,岩手医科大学附属病院循環器放射線科教授の吉岡邦浩氏が,「超高精細CT:頭部・腹部・循環器領域における臨床応用」をテーマに講演した。
2017年7月号
第76回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー10 超高精細CT:頭部・腹部・循環器領域における臨床応用
超高精細CT:腹部領域における臨床応用
曽根 美雪(国立がん研究センター中央病院放射線診断科)
国立がん研究センターは東芝メディカルシステムズ社と共同で,2001年に東病院にて超高精細CTの開発を開始し,その後,検診センターで1〜5号機の試作機の開発・研究を行った。臨床機である「Aquilion Precision」は2017年3月から稼働を開始しており,4月12日現在の検査総数は844件,そのうち精査として超高精細モードで撮影したのは,肝胆膵領域を中心に約200件である。本講演では,Aquilion Precisionの初期使用経験として,胆・膵悪性腫瘍の診断とIVRの術前シミュレーションについて,症例を提示して報告する。
超高精細CTはどのくらい小さいものが見えるのか
Aquilion Precisionは,スライス幅0.25mmときわめて高分解能であるが,実際にどの程度描出できるか検討した。IVRでの血管塞栓術に用いる750μmの球状塞栓物質と生理食塩水をビニールのエクステンションチューブに入れて撮影したところ,Aquilion Precisionでは塞栓物質を球状に描出でき,従来のCTでは描出不可能なサイズの物質が描出できると考えられた。
胆・膵悪性腫瘍の診断
1.症例提示
症例1は,50歳代,男性,膵頭部癌である(図1)。SD値が同等なAquilion Precision(図1 a)とMDCT(b)の画像を比較すると,Aquilion Precisionの方が腫瘍の境界が非常にわかりやすく,周囲にスピキュラ状に進展している様子も確認できる。
症例2は,50歳代,男性,膵体部癌のAquilion Precisionの画像である(図2)。やはり腫瘍の境界が明瞭で,かつ膵癌の診断において大変重要な上腸間膜動脈や腹腔動脈周囲の神経叢浸潤がはっきりと確認できる。
症例3は,60歳代,女性,膵神経内分泌腫瘍である(図3)。腫瘍が囊胞性であることはMDCT(図3 b)でもわかるが,壁内の微小な囊胞様の構造までAquilion Precision(図3 a)では描出されている。
肝門部胆管癌は,従来のCTのCPRやMPRの画像では,胆管壁の性状から癌であるかどうかを判断するのが困難であり,診断や手術適応の判断に苦慮することが多い。一方,Aquilion Precisionでは,壁進展や血管浸潤の詳細な評価が可能であり,病期診断に大きく寄与すると考えている。
また,リンパ節において,従来のCTでも,明らかに良性の脂肪を含むリンパ節は描出されていたが,脂肪を含まない低吸収域は見えづらかった。一方,Aquilion Precisionは,内部構造を描出できる可能性が高く,構築の乱れや濃度の差による診断の可能性に強い期待を寄せている。膵癌の場合,特に傍大動脈などは従来のクライテリアでは正診率が低く,PETの診断能も不十分と言われているため,この可能性は非常に重要である。
2.胆・膵悪性腫瘍診断における超高精細CTの可能性
胆管癌の病期診断におけるこれまでのデータを見ると,他のモダリティと比較してMDCTではかなり良い結果が得られているが,胆管浸潤(精度86%),肝動脈浸潤(感度84%,特異度93%),リンパ節転移(感度61%,特異度88%)についてはやや不十分である1)。また,膵癌の病期診断もMDCTがメインとなるが,血管浸潤(感度58%,特異度95%)とリンパ節転移(感度24%,特異度88%)については感度が低すぎる印象である2)。
肝胆膵悪性腫瘍の診断においてはMDCTが病期診断の中心であることが,国内外のガイドラインに記載されているが,予後規定因子である血管浸潤,神経叢浸潤,リンパ節転移の診断能は不十分である。また,胆・膵癌は薬物療法でサイズが縮小しないことも多く,従来は造影増強効果などで判断していたが,バイオマーカーとしてのエビデンスは確立していない。そのため,超高精細CTにて診断能が向上することの臨床的有用性を評価することで,これらの問題の一部でも解決できればと考えている。具体的には,手術・病理所見との対比や,radiomics/radiogenomicsの手法を用いる必要があると考えている。
IVRの術前シミュレーション
症例4は,60歳代,男性,肝細胞癌で,肝動脈化学塞栓術(TACE)を施行した。肝右葉の辺縁に近い場所に5mmの腫瘍があり,遅延相にてwashoutしているのが明らかであった(図4)。このような場所にある腫瘍では,供血動脈が肝内,肝外のどちらにあるかを事前に知っておくことが,治療や患者説明において重要である。本症例をAquilion Precisionの1mmスライス厚の画像(図5)で見ると,腫瘍内に動脈が見え,それを中枢側に追っていくと肝動脈に連続している様子がわかる(●)。一方,下横隔膜動脈(↑)は腫瘍内に入っていないことが確認できたことから,本症例は肝内からのアプローチで治療可能との予測の下に血管撮影を行った。また,これを利用して供血動脈のシミュレーションを行い,DSAの画像と比較したところ,供血動脈についてはほぼ同様に描出されていたため(図6 a,b),この血管に絞ってカニュレーションを行い,超選択的TACEが施行できた(図6 c)。
症例5は,50歳代,男性,両側多発腎細胞癌で,凍結治療前にX線での腫瘍の描出能向上と出血予防目的に腎動脈塞栓術(TAE)を施行した。TAEのターゲットは,右腎のやや大きな病変と,約1cmの腎下極の病変の2か所である。小さな病変は血管撮影で供血動脈を同定するのが困難なことがあるが,Aquilion Precisionのpartial MIP画像にて同定可能であった(図7)。この画像を基にスムーズな治療を施行でき,特に小さな腫瘍は血管撮影にてほとんど濃染しないため(図8),術前シミュレーションが重要と思われる。
動脈造影下cone-beam CTによる術中シミュレーションが普及してきているが,術前シミュレーションが行えればより有用である。超高精細CTを用いることで,経静脈造影CTを用いたシミュレーションが可能になると考え,現在,研究を進めている。
まとめ
超高精細CTは,MDCTでは見えづらかった構造物が見えるようになるのは明らかであり,見えなかった構造物,例えばリンパ節なども見えるようになる場合がある。今後は,臨床でどのように利用するかが重要であり,技術の工夫や革新はもとより,患者アウトカムに直結する臨床評価を行っていく必要があると考えている。
●参考文献
1)Ruys, A.T., et al. : Radiological staging in patients with hilar cholangiocarcinoma ; A systematic review and meta-analysis. Br. J. Radiol., 85・1017, 1255〜1262, 2012.
2)膵癌診療ガイドライン 2016年版. 日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会 編,東京,金原出版,2016.
曽根 美雪(Sone Miyuki)
1988年 岩手医科大学医学部卒業。岩手県立中央病院臨床研修医。1990年 岩手医科大学中央放射線部助手。1996年 同放射線科助手。2000年 岩手県立北上病院放射線科医長。2003年 岩手医科大学放射線科講師。2012年 国立がん研究センター中央病院放射線診断科医長。
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