セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第75回日本医学放射線学会総会が2016年4月14日(木)〜17日(日)の4日間,パシフィコ横浜(横浜市)にて開催され,15日(金)には東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー4「最先端3T MRIによる新しい展開」が行われた。第一部では名古屋大学大学院医学系研究科総合医学専攻高次医用科学講座量子医学分野教授の長縄慎二氏が司会を務め,名古屋大学医学部附属病院放射線科病院准教授の田岡俊昭氏と藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室講師の村山和宏氏が,第二部では杏林大学医学部放射線医学教室教授の似鳥俊明氏を司会に,神戸大学大学院医学研究科先端生体医用画像研究センターセンター長の大野良治氏が講演した。
2016年7月号
第75回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー4 最先端3T MRIによる新しい展開
Vantage Titan 3T Saturn Gradientの体幹部における最新臨床技術
大野 良治(神戸大学大学院医学研究科 先端生体医用画像研究センター/同内科系講座 放射線医学分野 機能・画像診断学部門)
東芝メディカルシステムズにおける3T核磁気共鳴(Magnetic Resonance:MR)装置は,当初は60cm Open Boreを有する研究用システムである「Vantage 3T」として開発されたが,2010年以降は71cm Open Boreを有する臨床用3T MR装置「Vantage Titan 3T」として臨床導入が世界的に推進されてきた。Vantage Titan 3Tには(1) ガントリシステムとしてはPianissimoシステムやConformテクノロジーを有し,(2) グラディエントシステムとしてはSlim gradientコイルを採用している。そして,Maximum gradientは30mT/mであり,Slew rate maxが203mT/m/msである。また,(3) RFシステムとしてMulti-phase Transmissionを採用し,(4) 128 element RF receive systemおよびParallel imagingとしてAtlas SPEEDERを採用したコイルシステムを有している。そして,2016年に新たなSaturn Technologyを採用したグラディエントシステムを有する新たなVantage Titan 3Tが臨床導入された。
本講演では,このSaturn Technologyを採用したグラディエントシステムを有する新たなVantage Titan 3Tに関して概要を述べるとともに,2010年以降のVantage Titan 3Tの最新臨床応用に関しても述べる。
Saturn Technologyに関して
Saturn Technologyとしては,(1) High pressure gradient moldingと(2) Gradient triple cooling systemが挙げられる。この技術を採用することにより,Vantage Titan 3Tは,従来のNormal gradient systemに比してSaturn gradient systemにおいてはSignal-to-noise ratio(以下,SNR)が有意に改善する。以下にその概要を記す。
1.High pressure gradient moldingとは
傾斜磁場に電流を流すと静磁場と直交する部分にローレンツ力が発生する。静磁場強度が上がったり,傾斜磁場に流す電流が増えたり,傾斜磁場強度を強めると発生するローレンツ力も強くなる。また,傾斜磁場波形のスイッチングにより,傾斜磁場コイルに振動する力がかかる。この際の振動の伝播が検査時の音となり,Phase errorの原因になるため,傾斜磁場強度を上げる際には傾斜磁場コイルにかかるローレンツ力を抑制する堅牢さが要求される。Saturn gradientはMaximum gradientを45mT/mに上昇するため,従来よりも2.3倍の圧力でローレンツ力を抑制している(図1)。したがって,Fast advanced spin-echo(以下,FASE)やEcho planar imaging(以下,EPI)などの撮像法におけるPhase errorが改善され,画質改善が認められる(図2)。
2.Gradient triple cooling systemとは
従来のNormal gradient systemではPassive shimのみの冷却を行っている。Passive shimの温度が傾斜磁場の熱によって上昇することにより,中心周波数のズレが生じ,画質劣化がEPIなどにおいて発生するが,Saturn gradient systemにおいてはPassive shimのみならず,傾斜磁場コイルも冷却することにより(図3),従来に比して2倍の冷却効率を達成し,中心周波数のズレを抑制し,画質を改善することが可能である(図4)。また,冷却効率が上昇することにより腹部拡散強調画像におけるTEの短縮化による画質改善も可能になるとともに(図5),Gadolinium-EOB造影T1強調像においてより大きなFlip角を用いて,Contrast-noise ratio(以下,CNR)を改善するとともに,画質改善を行うことも可能になる。
Vantage Titan 3Tによる最新臨床応用
2010年のVantage Titan 3Tの臨床導入以降,Vantage Titan 3Tは3T MR装置としての有用性をさまざまな体幹部領域で示しているが,その主なものに関して下記で簡潔に解説する。
1.非造影3D-MR angiographyおよびMR perfusion imagingの臨床的有用性に関して
Nephrogenic Systemic Fibrosisの問題が提起されて以降,Gadolinium造影剤を用いた3D-MR angiographyやMR perfusion imagingと併せて,造影剤を使用しない非造影MR angiographyおよびMR perfusion imagingに対する関心は,さまざまな領域において世界的に高まっている。一般に3T MR装置において血液のT1緩和時間が延長するため,非造影MR angiographyおよびMR perfusion imagingの施行において,1.5T MR装置に比しての優位性が示唆されている。
Vantage Titan 3Tにおいては,造影MR angiographyやMR perfusion imagingと同様に体幹部での非造影MR angiographyおよびMR perfusion imagingが可能である。Vantage Titan 3Tにおいては,非造影MR angiographyとしては3D ECG-gated Fresh Blood Imaging(以下,FBI)とTime-Spatial Labeling Inversion Pulse(以下,Time-SLIP)法が主に用いられる。3D-FBIにおいては心収縮期と拡張期の差分画像より高分解能な非造影3D-MR angiographyを撮像するが,Time-SLIP法では選択的なInversion recovery(以下,IR) pulseを任意の部位に加えることにより標識された血液が,内因性の造影剤として血管内を移動していく動きを画像化するものであり,Spin-echo系のFASEやGradient-echo系のSteady-state free precession(以下,SSFP)法と組み合わせることも可能である。これらの手法は中枢神経領域のみならず,肺血管などの体幹部の血管解剖などの評価における有用性が示唆されている1),2)。
また,肺循環における非造影MR perfusion imagingは,1999年以降さまざまな手法で試みられてきた。しかし,すべての手法が2D非造影MR perfusion imagingであり,検査時間延長などのさまざまな問題において臨床応用がなされなかった。しかし,Vantage Titan 3Tにおいては,3D-FBI法を応用することにより3D-MR perfusion imagingが肺において,臨床現場において過大な検査時間の延長なく施行可能であることが示唆された3)。本手法は,肺癌患者の術後肺機能予測において造影MR perfusion imagingや核医学検査およびCTなどと同様に有用であり3),今後さらなる臨床応用が期待される。
2.Computed diffusion-weighted imaging(以下,cDWI)およびFASEを用いた新たなDiffusion-weighted imaging(以下,DWI)の臨床的有用性に関して
3T MR装置などの高磁場MR装置では高b値でのDWIにおける画質劣化が臨床的問題点として挙げられているが,その問題点を改善するために,2つ以上のb値によるDWIとそのApparent diffusion coefficient(以下,ADC)mapを用いて,任意のb値のDWIを計算画像として再構成するcDWIは,Vantage Titan 3Tの臨床導入当初よりその有用性が示唆されている4), 5)。
その一方で,Vantage Titan 3Tにおいては,磁場の不均一性に伴う磁化率アーチファクトが強く,画質劣化が顕著な体幹部領域においてSingle-shot EPI法によるDWIの画質劣化を改善するために新たに3T MR装置用にFASE法によるDWIの撮像を可能にした。本手法は肺癌における転移リンパ節診断などで有用性が示唆されており6),胸部領域などでの画質改善が顕著で,今後のさまざまな領域における臨床応用が期待される。
3.Chemical exchange saturation transfer(以下,CEST)imagingによる新たなMRIによる分子イメージングの可能性に関して
MR装置において形態や機能情報を得ることは臨床現場において可能であるが,代謝および分子情報を得ることは容易ではない。分子情報を得る手法の一つとしてMR spectroscopyがあるが,信号が低く,空間分解能が低いため,その臨床応用には限界がある。CEST imagingはMR imaging(以下,MRI)における新たなコントラストに基づくMRによる新たな分子イメージング法であり,生体内の重要な代謝化合物や生体内環境に関するさまざまな情報を臨床現場に提供する可能性を秘めている。現在,CEST imagingには(1) Atom exchange,(2) Molecular exchange,および(3) Compartmental exchangeに分類されるが,Vantage Titan 3Tにおいては現在,Amid protonを対象としたCEST imagingの臨床応用研究がなされている。われわれと東芝メディカルシステムズで共同開発した胸部用のCEST imaging撮像法および解析法を用いた研究では,CEST imagingは細胞実験系での結果と同様に,胸部腫瘍において良・悪性の鑑別,肺癌とその他の胸部悪性腫瘍の鑑別および肺腺癌と扁平上皮癌の鑑別などが可能であることが示唆されている7),8)。
4.Micro TEあるいはUltra-short TEによる高分解能MRIによる新たな肺イメージング法の臨床応用に関して
MRIにおける肺実質の画像化は,ガス交換の場である肺胞と肺胞道,終末・呼吸細気管支などの気道系および肺胞レベルの毛細血管から肺動・静脈レベルの各種の血管系が複雑な三次元構造を構成しながら,空気と広範に境界面を形成するというガス交換を担う臓器であるがゆえの構造上,機能上の特性に起因する。肺実質は(1) 空気と組織の境界よりもたらせられる磁化率効果による磁場の不均一性による急速な信号減衰による短いT2*値(1〜2ms),(2) 低い水分含有量による低いプロトン密度(0.15〜0.45g/mL),および(3) 心拍と呼吸運動によるmotion artifactsなどによりMRIによる画像化が困難であり,主に腫瘍性疾患や血管性疾患に対して1990年代から臨床応用がなされてきた。しかし,200μs以下のTEを使用した3D-gradient echo法を用いることにより,薄層CTと同様に肺実質の画像化が可能である9),10)。Vantage Titan 3Tにおいては現在,TE=96μsで高分解能MRIを撮像可能であり,標準線量あるいは低線量CTと同様に肺血管や気管支などの肺実質構造や各種肺疾患の診断および各種画像所見の評価が同様に可能であることが示唆されており(図6)10),今後のさらなる画質改善によりCTの代用として肺末梢構造の解析なども可能になることが期待される。
結語
Vantage Titan 3Tは2010年以降,東芝メディカルシステムズが臨床現場でさまざまな最新画像診断法の臨床応用を可能とした3T MR装置として広く臨床導入を図っており,その臨床的有用性に関するさまざまなエビデンスが確立されつつある。そして,その性能をさらに向上するためにSaturn Technologyを採用した新たなSaturn gradient systemが開発され臨床導入された。今後,国内外におけるさらなる臨床研究の発展により,この新たなSaturn gradient systemを搭載したVantage Titan 3Tの臨床的有用性および可能性はさらに広がるものと期待される。
●参考文献
1)Shimada, K., Isoda, H., Okada, T., et al. : Non-contrast-enhanced MR angiography for selective visualization of the hepatic vein and inferior vena cava with true steady-state free-precession sequence and time-spatial labeling inversion pulses ; Preliminary results. J. Magn. Reson. Imaging, 29, 474〜479, 2009.
2)Ohno, Y., Nishio, M., Koyama, H., et al. : Journal Club: Comparison of assessment of preoperative pulmonary vasculature in patients with non-small cell lung cancer by non-contrast- and 4D contrast-enhanced 3-T MR angiography and contrast-enhanced 64-MDCT. Am. J. Roentgenol., 202, 493〜506, 2014.
3)Ohno, Y., Seki, S., Koyama, H., et al. : 3D ECG- and respiratory-gated non-contrast-enhanced (CE) perfusion MRI for postoperative lung function prediction in non-small-cell lung cancer patients ; A comparison with thin-section quantitative computed tomography, dynamic CE-perfusion MRI, and perfusion scan. J. Magn. Reson. Imaging, 42, 340〜353, 2015.
4)Ueno, Y., Takahashi, S., Kitajima, K., et al. : Computed diffusion-weighted imaging using 3-T magnetic resonance imaging for prostate cancer diagnosis. Eur. Radiol., 23, 3509〜3516, 2013.
5)Shimizu, H., Isoda, H., Fujimoto, K., et al. : Comparison of acquired diffusion weighted imaging and computed diffusion weighted imaging for detection of hepatic metastases. Eur. J. Radiol., 82, 453〜458, 2013.
6)Ohno, Y., Koyama, H., Yoshikawa, T., et al. :
Diffusion-weighted MR imaging using FASE sequence for 3T MR system ; Preliminary comparison of capability for N-stage assessment by means of diffusion-weighted MR imaging using EPI sequence, STIR FASE imaging and FDG PET/CT for non-small cell lung cancer patients. Eur. J. Radiol., 84, 2321〜2331, 2015.
7)Togao, O., Kessinger, C.W., Huang, G., et al. : Characterization of lung cancer by amide proton transfer (APT) imaging ; An in-vivo study in an orthotopic mouse model. PLoS One, 8, e77019, 2013.
8)Ohno, Y., Yui, M., Koyama, H., et al. : Chemical Exchange Saturation Transfer MR Imaging ; Preliminary Results for Differentiation of Malignant and Benign Thoracic Lesions. Radiology, 279, 578〜589, 2016.
9)Johnson, K.M., Fain, S.B., Schiebler, M.L., et al. : Optimized 3D ultrashort echo time pulmonary MRI. Magn. Reson. Med., 70, 1241〜1250, 2013.
10)Ohno, Y., Koyama, H., Yoshikawa, T., et al. : Pulmonary high-resolution ultrashort TE MR imaging ; Comparison with thin-section standard- and low-dose computed tomography for the assessment of pulmonary parenchyma diseases. J. Magn. Reson. Imaging, 43, 512〜532, 2016.
大野 良治(Ohno Yoshiharu)
1993年 神戸大学医学部卒業。1998年 同大学院医学研究科内科学系放射線医学修了。2000年同大学医学部附属病院助手。Pennsylvania大学放射線科Pulmonary functional imaging research, Research fellow,Harvard Medical School Beth Israel Deaconess Medical Center(文部科学省在外研究動向調査員として派遣)などを経て,2009年より神戸大学大学院医学系研究科内科系講座放射線医学分野機能・画像診断学部門 部門長/特命准教授,同大学医学部附属病院放射線部部長(併任)。2012年より同大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野機能画像診断学部門 部門長/特命教授,同先端生体医用画像研究センター センター長(併任)。
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