セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
2016年7月号
第75回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー4 最先端3T MRIによる新しい展開
Vitrea Workstationを用いた脳神経画像解析と臨床応用
村山 和宏(藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室)
東芝メディカルシステムズ社の画像処理ワークステーション「Vitrea」にOlea Medical社のソフトウエア“Olea Sphere”が搭載された。本講演では,Vitreaを用い,dynamic susceptibility contrast(DSC)ーMRI,dynamic contrast enhanced(DCE) ーMRI,そして,intravoxel incoherent motion(IVIM)解析を行った脳神経領域の臨床画像を供覧する。
脳神経領域の鑑別診断
1.DSC-MRI,DCE-MRI
日常の臨床でよく遭遇する鑑別が難しい脳腫瘍症例では,perfusion MRIやpermeability MRIによる評価が有用である。permeability(血管透過性)は,造影剤がextracellular extravascular space(EES)に漏出する移行速度定数(Ktrans),血管に戻る移行速度定数(Kep),血管内の血漿ボリューム(Vp),EESボリューム(Ve)といったパラメータで構成される。鑑別におけるperfusionやpermeabilityの有用性については多くの報告があるが,当院の検討でも,lymphoma(リンパ腫)とhigh grade glioma(HGG)を比べると,脳血液量(CBV)はHGGの方が高く,VeやKtransといったpermeabilityはリンパ腫の方が高いという傾向が確認されている。
●症例1:low grade glioma(LGG)
症例1(図1)はLGGのグレード2である。造影MRIでは高信号の部位(○)が認められたが,Ktransを見ると造影剤の漏出はほとんどなく,CBVでも特に上昇は認められず,LGGと判断した。
●症例2:CNSL(中枢神経系リンパ腫)
症例2(図2)は,出血を伴う造影病変があり,拡散制限も認められ,不均一な出血と壊死を伴っていることから,形態診断ではglioblastoma(神経膠芽腫)であると考えられた。しかし,perfusion MRIではCBVの上昇はなく,Ktransをはじめpermeabilityはおおむね高値であった。出血や壊死はリンパ腫ではまれであり鑑別が困難であったが,permeabilityの傾向から最終的にはリンパ腫であると考えられた。本症例は実際にCNSLと診断され,permeabilityが非常に有用であった一例である。
●症例3:meningioma(髄膜腫)
meningiomaは一般的に脳実質外腫瘍(extra-axial tumor:extra)であり,脳脊髄液(CSF)や脳実質,血管との位置関係,クモ膜下腔の拡大,rim signなどが主な所見となる。しかし,外方増殖性の脳実質内腫瘍(intra-axial tumor:intra)はextraのように見えることもあり,腫瘍が小さい場合はintraとextraの鑑別が困難な場合もある。また,がんの既往がある患者では脳転移も鑑別に挙がる。intraとextraの鑑別は非常に重要であるが難しいことも多い。
症例3(図3)の腫瘍は明瞭に造影されたが,血管が脳表面にあり腫瘍内側に皮質が認められなかったことからintraと判断され,glioblastomaが疑われた。しかし,permeabilityでは非常に高いKtransを示し,CBVも上昇が認められ,meningiomaと診断された。
●症例4:glioblastoma(神経膠芽腫)
症例4(図4)の腫瘍は均一で境界明瞭であり,extraのmeningiomaのように見えたが,permeabilityを行うと,Ktransは高めであるもののmeningiomaほど高値ではなく,glioblastomaと判断した。
当院の検討では,meningiomaとHGGを比べると,KtransやCBVはmeningiomaの方が高い値を示す傾向となった。通常のMR画像にpermeabilityやperfusionの画像を組み合わせることは鑑別に有用であると考えられる。
2.IVIM解析
脳神経領域におけるIVIM解析については,CBVとIVIM解析の微小灌流の水分子の割合を示すf mapを見ると,glioblastomaとatypical PCNSL(中枢神経系原発リンパ腫)はよく相関しており,鑑別が可能であるという報告1)がある。
●症例5:meningioma(髄膜腫)
症例5(図5)は造影MRIで明瞭に造影されたが,CBVで高値を示さず,同様にf mapでもあまり信号変化が見られなかった。
このように,CBVとf mapが関連あるパラメータだとわかる。f mapは,造影不可症例における非侵襲的な手法として有用であると考える。f mapは視覚評価が難しいため,実際には計測をして最大値を取るといった解析が必要である。
脳神経領域の血流イメージング
Olea SphereではASLも解析できる。
●症例6:encephalitis(脳炎)
症例6(図6)は,脳梗塞疑いでMRI検査を施行した。DWIでは右大脳半球に高信号領域が認められ急性期脳梗塞が疑われたが,MRAでは中大脳動脈は左側よりも右側の方が良好に描出された。そこでASLを追加すると,左側よりも右側の方が血流が高いことが認められ,encephalitisと診断された。後に行ったSPECTでもASLの所見とおおむね一致し,ASLの追加が臨床的に非常に有用であった一例である。
●症例7:PCNSL(中枢神経系リンパ腫)
症例7(図7)は,びまん性脳損傷,リンパ腫の既往がある症例で,リンパ腫の再発が疑われて検査を行った。FLAIRでは不明瞭であり,DWIではわずかに高信号領域が認められた(○)。本症例では造影検査ができなかったためASLを追加したところ,DWIと一致して高値を示したことから,リンパ腫の再発であると診断できた。
まとめ
DSC-MRI,DCE-MRIを組み合わせることで,脳腫瘍のより正確な鑑別ができる可能性がある。また,IVIM解析は非侵襲的に微小血管のperfusionを評価できる手法であり,脳腫瘍の鑑別に役立つ。これらの灌流画像は,従来の検査だけでは診断が難しい症例において追加情報を提供することができる。
●参考文献
1)Suh, C. H., et al:Atypical imaging features of primary central nervous system lymphoma that mimics glioblastoma;Utility of intravoxel incoherent motion MR imaging. Radiology, 272・2, 504〜513, 2014.
村山 和宏(Murayama Kazuhiro)
2003年 藤田保健衛生大学医学部医学科卒業。同年藤田保健衛生大学病院研修医。2008年 藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室助教。2009年 藤田保健衛生大学大学院医学研究科終了。2010年より藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室講師。
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