セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第75回日本医学放射線学会総会が2016年4月14日(木)〜17日(日)の4日間,パシフィコ横浜(横浜市)にて開催され,15日(金)には東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー4「最先端3T MRIによる新しい展開」が行われた。第一部では名古屋大学大学院医学系研究科総合医学専攻高次医用科学講座量子医学分野教授の長縄慎二氏が司会を務め,名古屋大学医学部附属病院放射線科病院准教授の田岡俊昭氏と藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室講師の村山和宏氏が,第二部では杏林大学医学部放射線医学教室教授の似鳥俊明氏を司会に,神戸大学大学院医学研究科先端生体医用画像研究センターセンター長の大野良治氏が講演した。
2016年7月号
第75回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー4 最先端3T MRIによる新しい展開
Oleaを選んだ理由
田岡 俊昭(名古屋大学医学部附属病院放射線科)
演者は2012年,フランスのOlea Medical社(Olea社)製MRI画像処理ソフトウエア“Olea Sphere”を,国内ではいち早く導入した。その後,2015年10月に東芝メディカルシステムズ社がOlea社を傘下に加えたことで,Olea Sphereが同社の画像処理ワークステーション「Vitrea」のプラットフォーム上でも操作できるようになった。
本講演では,演者がOlea Sphereを選ぶ理由となった,臨床的有用性の高い各種機能を紹介する。
Olea Sphereとの出会い
演者は2012年,当時国内では未発売だったOlea Sphereのプレゼンテーションを受ける機会を得た。当時はちょうど,perfusion MRIやpermeability MRIに取り組んでいた。これらの解析において,例えば脳腫瘍評価で単純にROI内の平均値を取ると囊胞や壊死成分などを含んでしまうことから,ヒストグラム解析が必要だと考えていたが,それが可能な市販ソフトウエアは高価なため入手が困難だった。そんな時に紹介されたOlea Sphereは,ヒストグラム解析が容易に行えることはもとより,多くの有用な機能を備えていることに驚かされた。
まず,perfusion MRIで用いる動脈入力関数(AIF)測定のためのサンプリング位置の設定を自動で行うことができる。サンプリング位置によりperfusion解析結果は大きく変わることから,自動サンプリングにより客観性のあるデータを得られることは重要である。また,2012年当時から,perfusion MRIにおけるデコンボリューション法の一つとして,造影剤が低速に流入しても計算可能なblock-circulant型アルゴリズムを搭載していることも好印象であり,導入を決意した。
現在はOlea社を傘下に加え,Vitreaのメイン画面にOlea Sphereに搭載されているソフトウエアのアイコンが表示され,さまざまな機能をシームレスに使用できるようになっている。
Permeability MRI
permeability (血管透過性)MRIは,血管からの造影剤漏出の程度を評価する手法である。髄膜腫(meningioma)と悪性髄膜腫(malignant meningioma)の症例画像を比較すると,perfusion MRI(rCBV)では同じように描出されるが,造影剤のESS(Extravascular Extracellular Space:血管外細胞スペース)への移行速度定数であるKtransは悪性髄膜腫の方が高値を示す(図1)。また,グレード3の星状細胞腫(astrocytoma)ではpermeabilityは比較的低く,グレード4の多形膠芽腫(glioblastoma)では高値を示すなど,グレードの高い腫瘍の鑑別においてpermeabilityは有用である。
permeability解析にはdynamic造影T1強調画像が用いられ,通常Tofts法による解析を行う。Tofts法では信号値の補正を行う必要があり,未経験者が行うには非常に困難な解析であるが,Olea Sphereではこれを容易に行うことができる。さらに,血漿体積まで考慮したExtended Tofts法の選択も可能である。
なおOlea Sphereは,マウスの右クリックが不要なワンボタン操作も特長である。アプリケーションの起動から解析結果表示まで数クリックで実行可能であるほか,解析画面左側にある詳細設定では,入り口は非常にシンプルで,かつ深く使用することが可能である。
Perfusion MRI
一般的に行われるdynamic susceptibility contrast (DSC)法のperfusion MRIは,造影剤の漏出がないことを仮定して解析されるが,実際には脳腫瘍の悪性度が高くなるほど造影剤は漏出しているため,漏出補正(leakage correction)が必要となる。
膠芽腫症例(70歳代,男性)の摘出術後フォローアップで,術後約1年で再発が疑われる所見が認められた。MRI装置のコンソール上のperfusion解析では,再発と思われる病巣にCBVの上昇が認められず放射線壊死(radiation necrosis)と診断してしまう可能性があったが(図2右下↓),Olea Sphereで漏出補正を行うと高信号を示し(図2中央↓),再発であることが示唆された。この腫瘍は摘出術が施行され,再発腫瘍であることが確認されたが,その3か月後に,さらにもう1つ腫瘍を再発した。この際も,通常のperfusion解析では低CBVとして示され(図3 b→),漏出補正を行うと高いCBVを示した(図3 c→)。これは,Ktrans(図3 d→)が高値を示すことからわかるように,造影剤が血管外に漏出しているためである。このように腫瘍のperfusion MRIでは,漏出補正をしなければ正しいデータを得ることができないので注意が必要である。
Perfusion MRIにおけるpermeabilityの評価
permeability MRIは脳腫瘍などの診断において非常に有用な情報を提供するが,解析にはT1強調画像を約20秒ごとに数分間(5〜6分)にわたって撮像する必要があり,実臨床で利用しにくいという課題があった。
一方で,前述のDSC法perfusion解析における漏出補正の程度(K2)は,造影剤の漏出量に相当することから,permeabilityを短時間で取得可能なK2で評価できないかと考え,後ろ向きの検討を行った。神経膠腫 22症例(グレード2〜4)を対象に,Olea Sphereを用いて腫瘍部のROIを取ってCBV,K2,Ktransのヒストグラム解析を行い,5,10,15,20,30パーセンタイル(%ile)値と平均値を求めた。
その結果,悪性度が上がるにつれて上昇が見られるKtransと同じように,漏出補正の程度(K2)も上昇した。K2とKtransはおおむね相関しており,K2で腫瘍のpermeabilityおよび悪性度を評価できる可能性があることが示唆された。これらの解析において,前述のヒストグラム解析が重要であり,腫瘍の悪性度の違いによる有意差を得ることができた1)。
Olea Sphereの最新機能
Olea Sphereはdiffusion解析も可能で,拡散テンソルイメージング解析では明瞭な画像を得ることができる。
また,複数のb値を用いて撮像した拡散強調画像データを処理することでperfusion情報を得るintravoxel incoherent motion(IVIM)解析も可能である。肝臓のIVIM解析を行ったところ,D,D*,FといったIVIM解析パラメータを容易に得ることができた(図4)。
さらに,Olea Sphereの“Analysis”画面(図5)では,任意の2種類の画像(rBVとT1など)を選ぶだけで画像をフュージョンすることができる。さらに複数の画像を並べて表示できるため比較しやすく,同時にヒストグラム解析も表示できる。ROIは,領域ごとにワンタッチで設定することもでき,非常に有用な機能である。
また,過去画像とレジストレーションし,病変の経時的な変化を計測可能な“Follow-up Application”も搭載されており,今後活用していきたいと考えている。
まとめ
Olea Sphereは,臨床指向のフィロソフィを持ち,シンプルなマウス操作や自動解析機能の搭載により簡単に使用できることが特徴である。同時に,最先端の技術開発も行って,それらを使いやすい機能として実装している,非常に有用なソフトウエアであると言える。
●参考文献
1)Taoka, T., et al., Magn. Reson. Imaging, 34・7, 896〜901, 2016(Epub ahead of print).
田岡 俊昭(Taoka Toshiaki)
1989年 奈良県立医科大学卒業。1999~2000年 アイオワ大学放射線科客員研究員。奈良県立医科大学助手,同講師を経て2007年〜同中央放射線部准教授。2015年〜名古屋大学医学部附属病院放射線科病院准教授。
- 【関連コンテンツ】