Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)
2025年1月号
侵襲なく全身を診られる超音波検査で子ども達の声なき声を聞く小児臨床超音波の実際 〜明瞭でわかりやすい高画質やSMIが小児や保護者に寄り添う診断・治療に貢献〜
北九州市立八幡病院
小児救急医療に力を入れる北九州市立八幡病院は、2015年から小児の超音波検査を全例小児科で行う体制を整え、2023年4月に小児臨床超音波センターを設立した。2017年からはキヤノンメディカルシステムズの「Aplio i700」を使用し、不機嫌、原因不明の発熱、嘔吐、歩けないなど、不調を言葉でうまく表現できない子ども達の声なき声を聞き、低侵襲な検査・治療を提供している。小児のスキル、臨床のスキル、超音波のスキルを掛け合わせて診療を行う「小児臨床超音波」の普及に努める小児臨床超音波センターの小野友輔センター長に、小児医療における超音波検査の課題や意義、プレパレーションの工夫、臨床における有用性について取材した。
小児科医が超音波検査を行う「小児臨床超音波」
北九州市立八幡病院は、24時間365日、軽症重症問わずに診療を提供する公立病院として、地域医療を支えてきた。同院の特色の一つが小児医療の充実で、さまざまな専門を持つ小児科医が約30人在籍し、一次〜三次救急に対応している。小野センター長は、「この診療体制が構築されたのは、小児救急医学会の特別栄誉理事長で当院院長を務めた故・市川光太郎先生が、子ども達と保護者達のユートピアをつくりたいと、24時間365日の小児救急医療を開始したのがきっかけです」と話す。現在は、年間で外来が約4万人、入院は約3000人の小児の診療を行っている。
小野センター長は、小児科専門医・指導医と超音波(総合領域)専門医・指導医のダブルライセンスを持ち、小児科医自らが臨床で超音波検査を行う「小児臨床超音波」を実践している。小児臨床超音波に取り組むことになった経緯について、小野センター長は、次のように説明する。
「研修医時代、原因不明の腹痛に苦しむ入院患児に対応した時に、『小児腹部超音波診断アトラス』(内田正志著、ベクトル・コア)を片手に超音波検査を行ったところ先天性胆道拡張症とわかり、手術して快復したという経験から、小児医療・小児救急には超音波検査が必要だと考えました。当時院長だった市川先生に頼み込んで、小児科医を休職し茨城県立こども病院で無給の見習い超音波検査士として修行させてもらい、小児医療への超音波検査の導入に取り組みました」
当初は、超音波検査は再現性が乏しい、そのような医療はやったことがないとして理解を得られず苦難の時期もあったが、再度の修行も経て地道に周知することで、徐々に超音波検査の有用性が浸透していった。2015年から小児の超音波検査を全例小児科で行う体制へと変更し、検査件数は以前の3倍以上、現在は年間5000件を超えるようになった。そして2023年4月、満を持して小児臨床超音波センターが新設された。
小児科と有機的に連携し子ども達の声なき声を聞く
小児臨床超音波センターには専任の小野センター長のほか、小児超音波検査の研修を希望する同院・他院の研修生(初期研修医から開業医まで)がおり、外来からオーダされる検査に対応している。センターの診察室は6ブースある小児科外来診察室すべてとバックヤードで連結しており、緊急時には主治医が患児を連れて直接来室するなど、外来と有機的に連携して診療を行っていることが特徴だ。小野センター長は小児臨床超音波の利点について、「私は小児科医としての視点や知識を持ちながら検査を行います。(上の写真のように)右手に超音波プローブ、左手に聴診器を持つようなイメージです。その結果、臨床的な追加検査の必要性や治療の方針を検討できますし、検査技師では立場上対応が難しい保護者からの質問に対しても説明することができるので、検査に立ち合う保護者の不安や疑問を解消する力になれます。主治医と超音波検査を行う小児科医が協力して診療に当たるダブルアイシステムにより、より良い医療が提供できると考えます」と話す。
同センターでは全身領域の検査を行っているが、腹痛や嘔吐、原因不明の発熱や歩行困難などで受診した小児の原因検索のための検査が多い。小野センター長は、小児医療における超音波検査のメリットは、リアルタイム性、繰り返しの検査やベッドサイドでの検査が可能なことに加え、侵襲性がないことだとして次のように説明する。
「子ども達は痛い、つらいなど自らの症状を具体的に表現できない場合が多いです。当センターでは原因が疑われる部位をすべて診ていきます。被ばくや鎮静なしに全身の検査を行える超音波検査は大変有用で、プローブを通して『子ども達の声なき声』を聞くことが当センターの役割です」
小児超音波検査におけるプレパレーションの重要性
小児超音波検査では、小児ならではの難しさがある。新生児と思春期では臓器サイズも疾患も大きく異なるため、年齢ごとの解剖や疾患の知識が必須なことに加え、絶食絶飲や蓄尿が難しい、不機嫌や啼泣、体動を抑えられないなど、検査への協力を得られないことも多くある。それに対して小野センター長は、「検査前に待合室で挨拶する、子どもに合わせたアイコンタクトや会話、おもちゃや音楽で気を紛らわせる、超音波診断装置を装飾する、温かいタオルや検査室を用意して部屋の明るさにも配慮するなど手探りでいろいろと試し、必要な検査を遂行できるように努めています」と述べ、子どもの不安を軽減し検査に協力してもらえるように、さまざまな工夫でプレパレーションを行っていると説明する。
また、保護者とのコミュニケーションも大切だ。小野センター長は、「保護者との信頼関係を築くことは、適切に検査・治療を行うために重要です。保護者の思いにも気を配りながら検査を行い、患児・保護者と主治医の間の潤滑油になることが小児臨床超音波を実践する私の役目だと考えています」と述べる。
明瞭な画像で診断・治療を支える高画質なAplio i700の導入
同センターでは2017年に、超音波診断装置を「Aplio 400」から「Aplio i700」へと更新した。機器選定について小野センター長は、「エコーの師匠から正しく診断するために高画質のハイエンド装置を使うことの大切さを教わったこともありますが、クリアな画像であれば、初めて超音波画像を見る保護者にもわかりやすく、研修生への説明や講演で紹介するときにも小児超音波の有用性をアピールできます。実際、Aplio i700へと更新したことで、画質が飛躍的に向上しました」と話す。
現在同院では、虫垂炎の診断は超音波検査で行いCT検査が不要になっているほか、腸炎の鑑別、腸重積・ヘルニアは超音波のみで診断・整復するなど活用している。乳幼児に多い腸重積は一般的にX線透視下で整復が行われているが、同院では超音波を用いて重積した腸管の確認から、超音波下整復、整復完了のリアルタイムな確認まで行っている(図1)。小野センター長は、「超音波で腸重積と診断したら、そのまますぐ隣の急患室に移動し、同じく超音波と生理食塩水のみを用いた高圧浣腸で整復します。整復では腸管内が生理食塩水で満たされるため病的先進部も評価しやすく、さらに整復完了を画像でしっかりと確認・証明できます。当院では年に20〜40例経験しますが、穿孔など非観血的整復禁忌例も超音波検査で判断していますので、整復率は私が赴任した2015年以降は100%です」と話す。
Aplio i700で利用できる低流速血流イメージング「Superb Micro-vascular Imaging(SMI)」も診断や治療方針の検討に活用している。小野センター長は、「SMIは通常のドプラでは難しい組織の細かい血流も拾うことができ、モーションアーチファクトも軽減してくれるため、ある程度は体動があっても評価しやすく、小児の検査で有用です」と言う。虫垂炎や精巣捻転では微細な血流の有無を確認して手術適応の判断に役立てているほか、カラーで高精細に表示される血流表示は子どもや保護者にもわかりやすく、治療に抵抗がある場合には、血流信号の説明を行い治療の必要性を示すことで、同意を得る上でも役立っている。
また、小児整形外科領域の検査では、「単純性股関節炎が最も多く、週に数件は必ず行います。X線撮影では同定できず成長痛として見逃されがちですが、超音波検査では関節内の液体貯留を明瞭に確認でき、有用性を感じる瞬間です」と述べる(図2)。ほかにも、よちよち歩き骨折(歩行を開始して間もない頃に生じる不全骨折)は、X線撮影では受傷後2週間ほど経過して仮骨ができてからでないと診断できないが、超音波検査では仮骨形成の超早期画像をとらえることができる。一方で、痛みによる歩行障害で股関節炎を疑い検査を依頼されたが、超音波検査で所見がないことから逆にセンターから血液検査を依頼したところ白血病が見つかったこともあり、侵襲なく、繰り返し検査を行える超音波検査が大いに役立ったケースと言えるだろう。
■Aplio i700による「小児臨床超音波」の臨床画像
一人でも多くの子どもの幸せのために人材育成と普及活動を推進
小野センター長は、小児臨床超音波の人材育成や普及に向けた活動にも精力的に取り組んでいる。日本超音波医学会委員会活動や講演・ハンズオンセミナーのほか、キヤノンメディカルシステムズの画論(最優秀賞含む3回の受賞歴あり)などコンテストへの応募も通して、小児臨床超音波の有用性を発信してきた。小野センター長は、「小児臨床超音波では人材育成が課題となっているため、当センターに学びに来てくれた先生方が各地で活躍できるように支援していきたいと思っています。小児臨床超音波の有用性を広め、超音波検査を通して子ども達の代弁者となる医師を増やすことで、一人でも多くの子ども達が幸せになることを願っています」と話す。
小児臨床超音波センターでは、これからも高画質な超音波診断装置を活用し、小児や保護者に寄り添った診療を続けていく。ここで学んだ医師達が、多くの子ども達を救っていくに違いない。
(2024年10月23日取材)
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見が含まれる場合があります。
一般的名称:汎用超音波画像診断装置
販売名:超音波診断装置 Aplio i700 TUS-AI700
認証番号:228ABBZX00022000
北九州市立八幡病院
福岡県北九州市八幡東区尾倉二丁目6番2号
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