Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)
2025年1月号
スポーツ外傷や障害にていねいな診察と画像診断による的確な診療でオーダーメードの医療を提供 〜1.5T DLR-MRIの高画質化技術によって疲労骨折や軟部組織の性状を精密に描出〜
あさひかわ整形外科・スポーツクリニック
北海道旭川市のあさひかわ整形外科・スポーツクリニックは、2023年10月に開院したスポーツ医学に重点を置く整形外科のクリニックだ。佐々木祐介院長が、スポーツ外傷や障害に悩むアスリートにプロ・アマ、年齢を問わず専門的で的確な診療を行いたいと開設した。同院には、キヤノンメディカルシステムズの1.5T DLR(Deep Learning Reconstruction)-MRI「Vantage Gracian」、一般X線撮影システム「RADREX」などが導入されている。SVリーグ「ヴォレアス北海道」のチームドクターも務めるなど、アマチュアからトップアスリートまで診療を行う佐々木院長に診療のコンセプトや、1.5T DLR-MRIを中心とする画像診断機器の運用を取材した。
リハビリから予防までアスリートに寄り添った診療を提供
同クリニックは、JR旭川駅から車で10分、眼科や薬局などが入る医療テナントビル2階にある。整形外科を標榜するが、施設の名前のとおり、アマチュアからプロまでスポーツ選手を対象とした診療を提供しており、ウエイトマシンやトレッドミルなどを備えた、トレーニングルームのようなリハビリテーション室があるのも特徴だ。スタッフは、佐々木院長のほか、看護師5名、理学療法士(PT)3名、リハビリ助手1名、診療放射線技師2名、事務4名(医師事務作業補助者含む)など。佐々木院長は診療のコンセプトについて、「アスリートに対して手術だけでなく、リハビリや予防医学、コンディショニングなど、個々の症状に合わせた最適な医療を提供することを目的として開業しました」と説明する。
佐々木院長は、2003年に旭川医科大学医学部卒業、同大学整形外科学講座に入局し助教、講師などを経て、今回の開業に至った。佐々木院長は開業のねらいについて次のように述べる。
「中学生の時にスポーツのケガで手術をして“スポーツ整形”という分野があることを知り、アスリートを診る医師になりたいと思ったのがきっかけです。自分が競技スポーツを続ける中で、病院にかかってもスポーツ選手としては診てもらえないと感じていましたし、大学でもスポーツ整形という言葉はあっても、具体的に実践する場がありませんでした。学生から高齢者まで、トップアスリートからスポーツ愛好家まで、地域のスポーツ選手が安心して幸せに競技生活を送れるようなサポートがしたいと考え、30年来の念願を叶える形で開院しました」
現在、外来は1日120〜130人、スポーツ障害の患者が6〜7割を占める。疾患としては、腰痛、膝周囲のオーバーユース、野球肩・野球肘などの肩関節の障害が多く、競技では野球、バレーボール、サッカーが多い。診療圏としては、旭川市内だけでなく、北は稚内、東は知床、西は岩見沢などからも来院している。佐々木院長は、「想定していたより広範囲から来院があり、スポーツ整形を必要としている患者さんは多いと確信しました」と述べる。
リハビリから予防までアスリートに寄り添った診療を提供
アスリートの診療について佐々木院長は、「最初に正確な診断を行うことが基本です。そのためには、ていねいな問診としっかりとした診察が必要で時間をかけて行っています。看護師が行う問診では、痛みや部位だけでなく競技内容や練習時間、ポジション、利き腕など細かいところまで聞きます。その上で、診察では姿勢や柔軟性、実際のフォームなども含めて観察し、痛みや障害の原因を追究していきます。リハビリについても同様で、痛みが取れたら終わりではなく、痛めた原因となる動きや身体の状態、トレーニングの状況などを確かめて、筋力や柔軟性を上げるなど痛みをもたらす問題に根本から対応するようにしています」と話す。
同院には、1.5T MRI、X線撮影装置ほか、ポータブルを含めて超音波診断装置2台、骨密度測定装置などが導入されている。佐々木院長は画像診断の役割について、「正確な診断やリハビリの方針決定のために必要不可欠なのが、MRIやエコーなどを使った正確な画像診断です」と述べる。画像検査ではX線撮影を基本として骨折や骨の構造変化、変性などを確認、エコーでは筋肉や神経などの軟部組織や動的な確認、そのほかエコーガイド下の手技も行っている。
軟部組織や疲労骨折の診断のため1.5T DLR-MRIを導入
MRIの導入のねらいを佐々木院長は、「障害や痛みの原因を正確により早く把握するためにも、自前のMRIが必要でした。軟部組織や疲労骨折をMRIで確認することで、治療方針や競技復帰までの判断を適切に行えます」と述べる。Vantage Gracianは、ディープラーニングを用いて設計したSNR向上技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」を搭載し、高画質と高速撮像を両立する。佐々木院長は機種選定のポイントを、「クリニックの限られたスペースの中で導入できる装置であることが一つの条件でした。Vantage Gracianは本体がコンパクトなだけでなく、冷却装置などを検査室内に収めることができ、無駄なく設置することができました。DLR技術による高画質や検査時間の短縮などの効果と併せてトータルのバランスを評価して選定しました」と述べる。Vantage Gracianは最小設置面積16m2と省スペースで導入できる。
MRIでは、ヘルニアや脊柱管狭窄症、若年の腰椎分離症、膝などの関節や靭帯損傷、肉離れなどの撮像を行っている。佐々木院長は、「Vantage Gracianでは、AiCEによって膝の前十字靭帯や半月板などがシャープに描出されており、損傷の程度や経過などをより的確に判断することができます。大学病院から紹介で送られてくる高磁場のMR画像と比べても、遜色ない画質が得られています」と評価する。
現在、MRI検査は予約と当日検査で半々で1日7、8件、月間では半年前の120件から180件前後まで増加傾向だ。佐々木院長は、「最近はMRIが即日撮れることから、他施設からの紹介でMRI検査が入ることも多くなっています。撮像時間が短いことから、当日の検査も躊躇なく行えますし、痛みのある患者さんにとっても短時間で検査できることは負担の軽減にもつながります」と述べる。
高精細画像と撮像時間の短縮で疲労骨折や分離症を診断
スポーツ選手では疲労骨折が多いが、問診でも圧痛点が明確でなく、慢性的な疼痛が続く症状を呈するため、経過観察となるケースが多いという。「疲労骨折は足部や脛骨、腰椎や骨盤周囲などさまざまな部位に発生します。X線だけでは診断が難しく、MRIを撮ることで見つかることが多いです。Vantage Gracianは、脂肪抑制画像の画質が高く、骨折に伴う信号が明瞭に観察できます」(佐々木院長)。
また、同院ではCT画像のような骨の情報を描出するBone Imageを撮像している。Bone Imageでは、骨の情報に加えて、MRIでは通常低信号となる腱や靭帯なども高信号で描出される。佐々木院長はBone Imageについて、「腰椎分離症の病期診断では、分離部における骨の途絶の有無や程度で判断しますが、X線では初期だけでなく進行期もわかりにくいことが多いので、CTがなくてもMRIで骨の形状が把握できるBone Imageを撮像することで診断に役立っています。疲労骨折では初期に診断できれば短期間で治癒が可能ですが、不明なままで末期になると治療ができないこともあるので、早期に的確に診断することは重要です」と述べる。
MRIの撮像プロトコールについては、キヤノンメディカルシステムズのアプリケーションスペシャリスト(アプリ担当者)と診療放射線技師が、佐々木院長の要望を聞いて相談しながら作成した。佐々木院長は開院後のアプリ担当者のフォローについて、「例えば、疲労骨折とシンスプリント(脛骨の骨膜の炎症)の鑑別がしたいといった要望にも撮像法の提案をしてくれるなど、熱心にいろいろなアドバイスをくれるので助かっています」と話す。
■Vantage Gracianの臨床画像
画像検査のエビデンスを重ねて競技復帰時期の判断を定量化
また、同院ではX線撮影に下肢の長尺撮影が可能なFPDを導入して、変形性膝関節症の撮影を行っている。通常は1枚のFPDで複数回の撮影を行って下肢全長の画像を作成するが、長尺パネルでは1回の曝射で下肢の全体をカバーできる。骨切り手術の際のアライメントの確認などに使用している。
開院から1年の評価を佐々木院長は、「スポーツ整形としては、ここまでは理想の診療を提供できています。あとは、クリニックとして経営的に持続できるように、さらに診療を充実させていきたいですね」と話す。その中でMRIの可能性については、「高画質なMRIが必要な時に撮像できることで、スポーツ障害の程度や治癒の過程の可視化が可能になりました。その知見を積み重ねていくことで、ケガの予防や競技復帰への判断がより的確に可能になると期待しています。今後はMRIを基本として、画像と障害の治癒の関係を定量的に評価が可能か探っていきたいですね」とのことだ。
画像技術の進化が、アスリートの活躍や地域の人々の健康寿命の延伸にも貢献していくに違いない。
(2024年10月9日取材)
※本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり、本システムが自己学習することはありません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Elan MRT-2020
認証番号:225ADBZX00170000
類型:Vantage Gracian
あさひかわ整形外科・スポーツクリニック
北海道旭川市大町3条6丁目2397-31 大町イチフジビル2階
TEL 0166-50-0660
https://asahikawa-sports.clinic
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