Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)
2024年12月号
3T MRIとUTE MRAを活用して脳血管内治療後のフォローアップを低侵襲に実施 〜金属アーチファクトを低減可能なUTEによる動脈瘤術後評価、周囲血流評価〜
大石脳神経外科クリニック
東急大井町線尾山台駅から徒歩1分の大石脳神経外科クリニックは、順天堂大学などで7000件以上の脳血管内治療を手掛けてきた大石英則院長が、2024年3月に開院した脳神経外科の専門クリニックである。同クリニックでは、キヤノンメディカルシステムズの3T DLR(Deep Learning Reconstruction)-MRI「Vantage Galan 3T / Focus Edition」を導入し、金属アーチファクトを低減して血管の描出を可能にする撮像法であるUltra short TE(UTE)MRAを脳動脈瘤のフォローアップなどに活用している。MRIの特性を生かした低侵襲なフォローアップで、未破裂動脈瘤に対する新たな診療スタイルを提案する同クリニックでの運用を取材した。
3T MRIによる経過観察から手術まで対応する専門クリニック
大石院長は、1991年順天堂大学医学部卒業、同大学脳血管内治療学研究講座教授、同センター長などを務め、これまで7000件以上の脳血管内治療を手掛けてきた。新たに開院したクリニックは脳神経外科の専門クリニックとして、脳血管疾患を中心に頭痛や認知症など幅広く脳疾患の診療を行うが、中心となるのは大石院長が専門とする未破裂脳動脈瘤の診療だ。開業に至る経緯を大石院長は、「これまで脳動脈瘤に対して数多くの脳血管内治療を手掛けてきましたが、多くの患者さんは脳動脈瘤と診断されながら治療方法の選択に悩んでいたり、不安を抱えたりしています。そういった患者さんに対して、専門医に気軽に相談できる場を提供したいと考えて開業しました」と話す。
未破裂脳動脈瘤の治療方針は、動脈瘤の大きさや部位のほか、年齢や合併症など患者背景を総合的に判断して決定することが必要だ。同クリニックでの未破裂脳動脈瘤への診療の特徴を大石院長は、「3T MRIによる高精細画像と、これまでの臨床経験を生かして適切に経過観察することで、手術をしないことも一つの選択肢となることを示していくことがねらいです。もちろん、経過観察だけでなく手術が必要となれば、私自身が直接手術を行えることが診療の特徴でもあります」と述べる。手術は新百合ヶ丘総合病院(神奈川県川崎市)や福岡脳神経外科病院(福岡県福岡市)などの提携病院で行っている。
現在外来は1日30〜50人、そのほか脳ドックなども行っている。開院半年が経過した診療の現状を大石院長は、「開院当初はこれまで手術をしたフォローアップの患者さんが中心でしたが、未破裂脳動脈瘤があり治療方針に迷われている方が検索して来院されることが増えてきました」と言う。
脳血管疾患の詳細な観察のためVantage Galan 3Tを選定
同クリニックの診療の柱となっているのが、開院と同時に導入されたVantage Galan 3T / Focus Edition(以下、Vantage Galan 3T)だ。クリニックへのMRIの導入について大石院長は、「未破裂脳動脈瘤の経過観察には、動脈瘤の些細な変化も見逃さない高解像度の画像が必要であり、3T装置が必須だと考えていました。また、動脈瘤治療後のフォローアップのために、治療に用いた金属のデバイスの影響を受けないで血管の画像化が可能なUTEの技術が利用できることが絶対条件でした。これらの条件に加えて、クリニックで3T装置を安定的に稼働させるためには、機器の保守などサービスも重要であり、装置の性能とサービスを含めたトータルのパフォーマンスを評価してVantage Galan 3Tを選定しました」と述べる。
Vantage Galan 3Tは、デノイズ技術である「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」、超解像技術「Precise IQ Engine(PIQE)」などのディープラーニングを活用した技術によって高画質化と高速化を実現すると同時に、71cmの開口径や静音化技術によって患者にやさしい検査空間を提供する。大石院長はVantage Galan 3Tの画質について、「小さな動脈瘤の変化を見たいという要望にかなう画像が得られていますし、脳実質などもクリアに描出されています」と評価する。また、撮像時間についても頭部ルーチン検査で10分以内に抑えられている(図1)。大石院長は、「短時間で撮像できることで、検査時の患者さんの負担軽減や、検査数増加による経営的な効果も期待しています」と述べる。
今回、ボア内に映像を投影して患者の閉塞感を低減する「MRシアター」も併せて導入された。大石院長はVantage Galan 3Tの広い開口径なども含めて、「実際に広い開口径とMRシアターがあることで、ストレスを感じない、この装置だったら検査を受けていいという患者さんもいて、そこは効果を実感しているところです」と評価する。
UTE MRAでコイルやステントの金属アーチファクトを低減
Vantage Galan 3Tの選定で大きなポイントとなったのが、金属アーチファクトを低減した血管の描出が可能な撮像法であるUTE MRAだ。脳動脈瘤に対する血管内治療では、コイル塞栓術、ステント併用コイル塞栓術、フローダイバーターなど金属のデバイスが用いられる。大石院長はUTE MRAについて、「脳動脈瘤の血管内治療後には、定期的に瘤の閉塞状況や血管の狭窄などのフォローアップが必要です。ゴールドスタンダードはDSAですが、被ばくや造影剤のリスクがあります。低侵襲なMRIでの観察がベストですが、これまでは留置された金属の影響で、動脈瘤や血管の描出が困難でした。金属のアーチファクトの影響を低減して血管の描出を可能にしたのがUTEで、動脈瘤や血管の評価が可能になりました」と述べる。
UTE MRAは、従来のTime of Flight(TOF)法に比べて、1ms以下のTEで撮像することで位相分散の影響を低減し金属アーチファクトの影響の少ない血管の描出が可能になる。キヤノンメディカルシステムズのUTE MRAは、複数時相を撮像することで血管の動態観察も可能だ。また、UTE MRAはCG Reconを活用することで撮像時間が3分と短く、従来のUTE MRAと比較しても半分程度の時間で撮像が可能となっている。大石院長は、「撮像時間は患者さんの許容性にもつながりますので、UTE MRAを加えても時間がさほど延長しないことはメリットです」と述べる。
〈症例提示〉
症例1(図2)は右頸部動脈瘤の症例で、右内頸動脈にフローダイバーターが留置されており、TOF MRA(a)ではステントの影響で血管内腔の信号が欠損して描出されていないが、UTE MRA(b)では内腔の血流が確認できる。症例2(図3)は、前交通動脈に生じた動脈瘤に対してステント併用コイル塞栓術を行った症例で、TOF MRA(a)ではステントが入っている前大脳動脈に狭窄があるように見えるが、UTE MRA(b)では血流の信号が確認でき、正常な血流が保たれていることがわかる。大石院長は、「動脈瘤術後のフォローアップで確認したいのは、動脈瘤の中の血流の有無と留置したステントやフローダイバーター内の狭窄の有無です。これらの症例では、TOF MRAでは狭窄があるように見えていますが、UTE MRAでは内腔が温存されていることがわかり、経過観察としても有効です」と述べる。
大石院長は、「MRAは、従来のDSAを置き換えるものではありませんが、継続的に観察が必要な治療後の動脈瘤のフォローアップには、患者さんへの侵襲性を考えてもMRAが最善の選択です。TOF MRAだけでは、それが本当に狭窄なのか、あるいは血流があるのかは判断が難しいことが多いので、UTE MRAを加えた総合的な判断が必要ですね」と言う。
■Vantage Galan 3T / Focus Editionの臨床画像
MRIを駆使して脳動脈瘤への適切な診療を提供
大石院長はUTE MRAへの要望については、「一般的なUTE MRAに比べれば撮像時間は短いですが、患者さんの負担軽減のためにもさらなる時間短縮を期待しています」と述べる。
脳動脈瘤をはじめとする脳血管障害に対して、MRIと専門医による新たな治療の提供を始めた同クリニックの診療は軌道に乗りつつある。大石院長は、「脳動脈瘤を抱えながら、治療に迷ったり不安を感じている患者さんに受診してほしい」と語る。脳動脈瘤の患者に寄り添い、新たな灯台ともなる同クリニックの診療を最新技術が支えている。
(2024年9月13日取材)
※本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり、本システムが自己学習することはありません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Galan 3T MRT-3020
認証番号:228ADBZX00066000
大石脳神経外科クリニック
東京都世田谷区等々力5-5-5 T’S BRIGHTIA尾山台1F
TEL 03-6805-9500
https://www.oishi-nsc.com
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