Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2023年6月号

グループ内の画像データをクラウドで管理し、ストレージの効率的な運用と病院間のデータ連携を推進 〜線量管理システムや紹介患者のデータ転送にクラウドを活用しグループ内の情報共有を展開

IMSグループ

IMSグループ 医療法人社団明芳会 板橋中央総合病院

 

IMS(イムス)グループは、発祥でもある板橋中央総合病院を中核として関東圏、北海道、東北など全国に135施設、総病床数1万2000床以上を持つ総合医療・福祉グループである。IMSグループでは、2019年からキヤノンメディカルシステムズの医療情報統合管理システム「Abierto VNA」を導入して、グループ内で発生する画像データをクラウドで統合的に管理することで、効率的なストレージの運用や施設間のデータ共有を図っている。日本有数の規模を持つ医療法人グループにおける画像データの管理や運用について、新松戸中央総合病院の加藤悟志技師長と板橋中央総合病院の坂本茂生技師長に取材した。

新松戸中央総合病院・加藤悟志 統括技師長

新松戸中央総合病院
加藤悟志 統括技師長

板橋中央総合病院・坂本茂生 技師長

板橋中央総合病院
坂本茂生 技師長

 

135施設、1万2000床を運営する総合医療・福祉グループ

IMSグループは、関東(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、群馬県)を中心に北海道、東北まで135施設を運営しており、職員数約2万4000人、病床数1万2382床を持つ日本でも有数の医療法人グループである。医療施設は、急性期20、回復期・慢性期15、予防医学・クリニック13などがあり、そのうち放射線診療業務を行っているのは43施設、グループには500人以上の診療放射線技師が在籍する。加藤技師長は、IMSグループ傘下の診療放射線技師をまとめる放射線部門の統括技師長を務める。グループの放射線部では、CT、MRI、アンギオなどのモダリティ別、線量管理や女性技師会などに分かれて定期的に研修や研究会などを開催している。加藤技師長は、「多くの施設を持つメリットを生かすべく、グループ全体としてスタッフの連携を強化して情報共有や技術の向上を図っています」と説明する。

急性期病院など34施設の画像データをAbierto VNAで管理

IMSグループでは、グループ内の各施設の画像データをクラウド上に一括管理するクラウドPACSを2019年から運用している。プライベートクラウド上のサーバにAbierto VNAを導入し、ベンダーやメーカーに依存しないオープンなデータ管理や配信、情報共有が可能な環境を構築した。現在、クラウドに接続されているのは、急性期15、回復期・慢性期11、予防医学8の34施設(図1)。クラウドには、PACSで扱うCT、MRI、核医学、アンギオ(静止画)などが保存される。加藤技師長はPACSのクラウド運用について、「施設ごとに構築されてきたPACSのデータをクラウドで管理することで、画像保管用ストレージの効率的な運用を可能にすることと、画像データの共有による施設間の連携を強化することが目的です。グループ内に急性期病院をはじめ複数の医療機関があり、多くのモダリティが稼働する中で、増え続ける画像データの効率的な管理とより安全な情報管理のため、クラウドでのVNAサーバの構築を進めました」と述べる。
グループ内の各施設のIT化は、同グループの関連企業である(株)アイセルネットワークスが調達や導入などを行っている。クラウドPACSについても、同社が施設ごとのPACS構築を担当する中で、効率的なストレージ管理やサーバの可用性などトータルなコストを含めて検討して導入が進められた。加藤技師長はクラウド導入の背景について、「各施設ではPACS導入時に画像データの発生量を予測して必要な容量を決定しますが、想定通りにいかないことがほとんどです。サーバは予算やタイミングなどの問題もあって簡単には増やせないので、NASの増設などで対応していました。一方でグループ全体では、病院ごとにPACSの更新時期は異なり、ストレージに余裕のある施設があるなど、より効率的な運用が求められていました。グループ全体としてストレージの最適な運用方法として、クラウドでの管理を検討しました」と述べる。
クラウドPACSでは、各施設にはオンプレミスのサーバを設置して直近(3年分)の画像データを保存し、それを超えたデータはクラウドに転送され保存される。この運用について加藤技師長は、「各施設での画像データの運用を解析した結果、過去画像の再見率(比較読影のために呼び出す割合)は、1年以内のものが80%で3年を超えるとぐっと下がることがわかりました。そこで3年を経過したアクセス頻度の低いデータはクラウド側に保存する運用としました」と説明する。
クラウドへの接続にはIP-VPNを使用し、通信速度は1Gbpsのベストエフォートとなっている。Abierto VNA上の画像データへのアクセスにはDICOM規格のMINTプロトコールで高速な転送を実現している。坂本技師長は、「3年以上前の画像データの呼び出しについてもタイムラグはほとんどなく、クラウド運用になってからも以前と変わらないスピードで業務ができています」と言う。以前は、院内のサーバ容量に配慮してCTのシンスライスデータは転送を制限していたが、現在は特に制限は設けずに運用されている。坂本技師長は、「容量不足への心配がなくなり、Abierto VNAになってからの方が利便性は向上していると言えますね」と述べる。

図1 Abierto VNAによるIMSグループのクラウドPACSシステム概要

図1 Abierto VNAによるIMSグループのクラウドPACSシステム概要

 

サーバ上の名寄せ機能で画像データを共有

グループ内の施設間の画像データの共有は、Abierto VNAの「名寄せ機能」を使って行われている(図2)。サーバ上で患者の名寄せ(氏名や生年月日などをキーに紐付け)を行うことで、サーバ上で患者の画像データの共有が可能となる。これまで他院への紹介では、画像情報をCDやDVDなどの媒体に保存し、患者自身が紹介先へ持参していた。坂本技師長は、「サーバ上でのデータ共有で、スタッフの媒体作成の業務負担や患者さんに持参していただく手間がなくなりました」と言う。データ共有の手順としては、紹介元の医療機関で患者の同意を得た上で、該当の画像をビューワ上で公開設定を行う。紹介先では、患者名で検索し表示された候補から該当患者を選択して名寄せ処理を行うことで、画像ビューワ上に検査履歴として自施設の検査と同列に一覧表示され、参照が可能になる。公開設定は、範囲(公開先医療機関)や期間なども設定できる。加藤技師長は、「グループ内では、急性期病院から慢性期やリハビリテーション病院への紹介などで画像情報が必要とされる機会が多くあります。また、脳神経外科の脳梗塞症例などでは、転院先でより速く画像を参照して処置が可能になりますのでメリットが大きいですね」と話す。
Abierto VNAはグループ内のデータ連携だが、グループ以外の近隣の医療機関との連携については、キヤノンが運営する医療クラウドサービス「Medical Image Place(MIP)」の地域連携の機能を利用する。こちらはMIPに画像データとレポートをアップロードすると登録した医療機関からWebで参照が可能になる。坂本技師長は、「グループ内でもMIPの地域連携サービスは利用できるので、レポートを参照する必要がある場合にはMIP、画像情報を優先して参照したい緊急検査などはAbierto VNAという使い分けも可能です」と述べる。そのほかMIPでは、主治医が外勤先などからモバイル端末で画像参照を可能にする「外部画像参照サービス」についても今後活用していく予定だ。

図2 「名寄せ機能」による施設間の画像共有

図2 「名寄せ機能」による施設間の画像共有

 

クラウドでの線量管理で施設間の情報共有を推進

同グループでは、PACSのクラウド化と同時に、線量管理システムについてもキヤノンメディカルシステムズの「DoseXross」を採用し、クラウド上に線量管理用サーバを構築して一括管理を行っている(図3)。DoseXrossは、CT、アンギオ、核医学検査について、線量データの集計、分析やグラフ表示、モダリティや撮影プロトコールごとの線量分布の確認、患者ごとの個人線量履歴の管理、アンギオでは検査時の皮膚被ばく線量のヒートマップ表示などを提供する。加藤技師長は、各施設での線量管理について、「2020年の医療法の改正で線量管理が義務づけられたことで放射線部門での線量管理システムの導入が進んでいます。モダリティからの線量情報を管理して、医療安全や精度管理を行うものですが、クラウドで運用することで自施設だけでなくグループ内の各施設とベンチマークが可能になり、線量の最適な運用が進むことが期待されます」と述べる。DoseXrossのベンチマーク機能では、モダリティや部位ごとに同じプロトコールを採用する他施設の装置間で比較表示が可能になっている(図4、管理者権限ユーザーのみ)。

図3 クラウドによる線量管理システム「DoseXross」の運用

図3 クラウドによる線量管理システム「DoseXross」の運用

 

図4 施設間の線量管理ベンチマーク

図4 施設間の線量管理ベンチマーク

 

クラウドでの一括管理と情報共有のメリットを活用

クラウド運用のメリットについて加藤技師長は、「データを集約することで効率的な運用が可能になり、また、情報共有が簡単にできるようになったことが大きなメリットです。線量管理などデータを集計することで施設間の比較ができ、グループ全体として課題を共有しながら医療の質の向上に取り組むことができます」と述べる。坂本技師長は、「データ共有によって施設間連携が容易になったことは、スタッフの業務負担が軽減しただけでなく患者さんにとってもメリットが大きいと思います。今後、クラウドサービスを利用してグループ外の近隣医療機関との連携や外部からの画像参照など、さまざまなケースで利用を拡大していきたいと考えています」と語る。
日本で有数の病床数を持つ医療法人グループで進むクラウドサービスを利用した取り組みは、これからの医療課題を解決する一つのカギとなると言っていいだろう。同グループの取り組みがモデルケースとして広がることを期待したい。

(2023年4月7日取材)

*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
D000094

 

IMSグループ
IMSグループ 医療法人社団明芳会 板橋中央総合病院

IMSグループ 医療法人社団明芳会
板橋中央総合病院
東京都板橋区小豆沢2-12-7
TEL 03-3967-1181(代)
https://www.ims-itabashi.jp/

 

●そのほかの施設取材報告はこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP