Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2020年1月号

Cardiac Solution No.4[US]

循環器診療のナショナルセンターが超音波診断装置のフラッグシップ機を導入 〜先進の画像技術を生かし産学連携による次世代の心臓超音波の共同研究を推進〜

国立研究開発法人 国立循環器病研究センター

国立研究開発法人 国立循環器病研究センター

 

国立循環器病研究センターは、2019年7月にJR京都線岸辺駅前に移転。循環器疾患のナショナルセンターとして、最先端かつ高度な医療の提供と次世代の医療技術の研究開発を行う拠点として診療をスタートした。同センターの超音波センターでは、移転時にキヤノンメディカルシステムズの超音波診断装置「Aplio i900」が3台導入され、オープンイノベーションセンターにおける循環器領域での共同研究も同時にスタートした。同センターでの心臓超音波の現状と今後の展開について、心臓血管内科部門心不全科の泉 知里部長、天野雅史医師と超音波センターのスタッフに取材した。

泉 知里 部長

泉 知里 部長

天野雅史 医師

天野雅史 医師

城 好人 主任技師

城 好人 主任技師

     
出村 豊 主任技師

出村 豊 主任技師

柳 善樹 技師

柳 善樹 技師

水元綾香 技師

水元綾香 技師

 

2019年7月、“北大阪健康医療都市”に移転オープン

国立循環器病研究センターは、1977年に千里ニュータウン(吹田市藤白台)に開設。ナショナルセンターとして診療と研究の両面で日本の循環器医療を担ってきた。移転したJR岸辺駅北側は、吹田市と摂津市が共同で進める医療クラスター構想「北大阪健康医療都市(健都)」として整備が進められており、同センターはその中核と位置づけられる。新病院は病床数550床、手術室12室(ハイブリッド手術室4室含む)、血管撮影室9室を擁し、CT、MRIのほかPETやガンマナイフなど高度な診療を提供する環境が整備された。また、産学連携によるオープンイノベーションを加速させる組織として“オープンイノベーションセンター(OIC)”が新設され、企業や大学などとの交流や連携を促進するため、“オープンイノベーションラボ”や“サイエンスカフェ”などが設けられているのも特徴だ。

SHDなど治療方針の決定に心臓超音波検査を実施

心臓血管内科部門は、冠疾患科、血管科、心不全科、肺循環科、不整脈科で構成され、全体で約90名の医師が在籍している。先天性心疾患や重症心不全など循環器系疾患に対して、予防から診断までに対応することはもちろん、24時間365日体制でカテーテル治療や体外循環補助を含めた緊急手術など救急治療にも対応する。
心不全科では、弁膜症や心筋症などの疾患を背景とした心不全全般を対象として診断から治療までを行っている。治療については薬物治療のほか、大動脈弁狭窄症に対するTAVI(経カテーテル的大動脈弁植え込み術)、僧帽弁閉鎖不全症に対するMitraClip、心房中隔欠損症(ASD)に対するデバイス閉鎖術など、カテーテル治療を他科と協力して積極的に行っている。泉部長は、「構造的心疾患(SHD)については、心臓血管外科やほかの心臓血管内科部門と連携したチームで治療体制を組んでおり、心不全科が中心的な役割を果たしています」と現況を説明する。
心臓領域に関する超音波検査は超音波センターで行われるが、心不全科の医師が基本的に全例をチェックする体制を取っている。心臓超音波の検査件数は、年間で経胸壁が1万8000件、経食道が1400件となっている。心臓疾患における超音波検査の役割について泉部長は、「当センターでは、治療の適応については効果が見込めるかどうかを見極めて判断しています。それだけに術前の適応判断のために超音波による心機能の解析が重要になっています」と述べる。
超音波センターには超音波検査士14名が所属し、若手医師(レジデントや専門修練医など)を含めたスタッフで、1日100件前後の検査を行っている。城 好人主任技師は超音波センターの運用について、「心臓と血管系のグループに分かれて検査を行っています。心臓超音波では心機能解析からレポートの作成まで、1日15名のスタッフで検査に当たっています」と述べる。

超音波センターに3台のAplio i900を導入

新病院の超音波センターには15台の超音波診断装置が新規に導入され、うちキヤノンメディカルシステムズのAplio i900は3台導入された。Aplio i900は、Aplio iシリーズのフラッグシップ機であり、“Intelligent DMS(iDMS)”や“iBeam Forming”などの最先端技術で画質を追究し、循環器領域の高度な要求に応える各種の専用アプリケーションを搭載している。心不全科の天野雅史医師は、「Aplio i900では画質が向上し、動態や心機能解析の精度が非常に良くなっています。また、独自技術のSMI(Superb Micro-vascular Imaging)による微細血流イメージングへの期待も大きいですね」と述べる。
超音波センターの柳 善樹技師はAplio i900の画質について、「iBeam Forming でビーム形状が細くなり、より高分解能の描出が可能になっています。特に、浅部領域がクリアで、胸壁に近い心尖部が明瞭に描出されますが、深部も含めて、全体の画質も向上しています。心臓の動きの評価や血栓の検出が可能になっているほか、心機能解析の精度も向上しました」と述べる。血管検査を主に担当する出村 豊主任技師は、「血管系の検査ではカラードプラの描出能が向上しており、深部領域までしっかりと血流を観察できます。SMIでは体格のよい患者でもしっかりと描出でき、カラー表示が見やすくなりました」と血流描出能を評価する。
また、Aplio i900では使いやすさやワークフローを向上する新しいインターフェイス“iSense”により、操作性や装置デザインが一新されている。水元綾香技師は操作性について、「ボタン設定を自分たちでカスタマイズできます。よく使う機能を押しやすい位置や大きなボタンに簡単に割り当てられます」と述べる。柳技師は、「日本語表記という点を含めて、わかりやすく直感的に操作できます」と評価する。
また、超広帯域の周波数帯をカバーしたセクタプローブ「PSI-30BX」は、従来のセクタプローブに比べて小型・軽量化が図られている。水元技師は、「細く軽くなったことで、プローブが扱いやすくなりました。心尖部の描出では、患者さんの脇から背中側までプローブを操作する必要がありますが、プローブが短くなっているので走査性が向上しました」と使い勝手について述べる。

小型軽量のセクタプローブ「PSI-30BX」

小型軽量のセクタプローブ「PSI-30BX」

 

2D WMTなどによる精度の高い自動解析を提供

Aplio i900には、循環器の超音波検査に対応した豊富なアプリケーションが搭載されている。その一つが、壁運動の評価を行う2D Wall  Motion Tracking(2D WMT)である。2D WMTでは、心尖部断面において画像の取り込みから解析までフルオートで処理が可能で、検査の時間短縮につながる。2D WMTでの計測について柳技師は、「Aplio i900ではベースとなるBモードの画質が高いことから、壁運動の追従性が高く精度の高い解析が可能になっています。解析自体は、解析のボタンを押すだけで心筋がトレースされ、迅速に解析できます。元の画質が悪く自動で解析できない場合でも、拡張末期で3点を選択するだけであとは自動でやってくれるので使いやすいと思います」と評価する。
Auto EF with GLS(Auto EF)では、2D WMTのトラッキング技術を使用して高い精度で心筋内膜を自動抽出し、EFを自動的に計測する。柳技師は、「Auto EFでは、計測ボタンを押すだけで比較的高い精度で内腔がトレースされ、微調整も簡単にできるので時間短縮にもなります」と言う。また、心拍出量は、パルスドプラ法で左室流出路などの大動脈駆出血流速度波形のVTI(velocity time integral:時間速度積分値)を計測して算出するが、Aplio i900ではドプラ波の自動トレース機能を利用できる。柳技師は、「Auto EFと同様に、ワンボタンで波形を認識してトレースし、VTIを算出できます。精度も高く、手動で行うよりもスピーディな解析が可能です」と述べる。

■Aplio i900による臨床画像

図1 広帯域セクタプローブ「PSI-30BX」による心尖部四腔像

図1 広帯域セクタプローブ「PSI-30BX」による心尖部四腔像

 

図2 フルオート解析が可能となった2D WMTによる解析結果

図2 フルオート解析が可能となった2D WMTによる解析結果

 

OICにおける心臓血管領域での共同研究がスタート

同センターでは、OICを中心に産学連携によるオープンイノベーションを進めている。キヤノンメディカルシステムズとは2016年に産学連携協力に関する包括協定を締結しており、心不全科では「心臓血管領域における新規血流イメージング」などの共同研究がスタートしている。産学連携への期待について泉部長は、「細かい血流の描出や心筋の組織性状の評価などへのアプローチを進めていく予定です。それによって、予後予測や病態解明など、もう少し先を見越した技術の開発を共同で進めていきます」と述べる。
OICのオープンイノベーションラボには連携する各企業が入居し、“一つ屋根の下”で研究、開発が進められるようになっている。泉部長は、「物理的に近いことで、お互いにスムーズなキャッチボールが可能になると期待しています。さらに、キヤノンメディカルシステムズは国産企業でもあり、開発のレスポンスが速い部分もあると思いますので、OICの環境を活用してプロジェクトを進めたいですね」と述べる。天野医師は、「SMIの血流イメージングやBモードの高精細画像など、キヤノンメディカルシステムズの特徴的な技術を生かすことが、新しい研究や開発につながると思います」と期待する。
日本の循環器医療の最先端の現場で始まった、Aplio i900を中心とする産学連携の成果が期待される。

(2019年11月7日取材)

 

国立研究開発法人 国立循環器病研究センター

国立研究開発法人 国立循環器病研究センター
大阪府吹田市岸部新町6-1
TEL 06-6170-1070
http://www.ncvc.go.jp/

 

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