Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)
2018年8月号
Area Detector CTを用いて最先端の心臓CTイメージングの研究や安定した診療体制を構築 〜ダイナミック心筋Perfusionなどフルコースの心臓検査に対応〜
愛媛大学医学部附属病院
愛媛大学医学部附属病院(24診療科、病床数644床)は、“患者から学び、患者に還元する病院”を基本理念に、診療、教育、研究を展開している。同院では、2017年9月にキヤノンメディカルシステムズの320列ADCT「Aquilion ONE」と、画像処理ワークステーション「Vitrea」を導入し、放射線医学講座の望月輝一教授、城戸輝仁准教授を中心に心臓イメージングの臨床、研究に取り組んでいる。心筋虚血評価の手法として期待されるDyamic Myocardial CT Perfusion(以下、ダイナミック心筋Perfusion)の開発を中心にAquilion ONEの運用を取材した。
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大学病院の診療、研究を支える最先端の環境を構築
愛媛大学医学部附属病院は1976年に開院、地域の中核病院であると同時に医学部附属病院として、高いレベルの教育、研究を実践している。三浦裕正病院長は、同院の画像診断領域の役割と高度医療機器の整備のねらいについて、「地域住民から信頼される安心で安全な診療を提供することはもちろん、世界を視野に入れた最先端の研究が行える体制を整えています。画像診断領域では望月教授を中心に先進的な研究に取り組んでおり、診療と研究や教育のバランスを取りながら進めています」と述べる。
同院の放射線医学講座の特色を望月教授は、「画像診断、IVR、放射線治療を一つの講座ですべてカバーしています。その中で、心臓のイメージングに対してマルチモダリティで取り組んでいるのが特色です」と説明する。望月教授は、「そのほか、診断や放射線治療、IVRの各領域にエキスパートをそろえ、日常診療においても日本のトップレベルの診療を提供していることは言うまでもありません」と現況を説明する。
心臓CTイメージングの研究を目的にAquilion ONEを導入
同院では2017年9月に、64列CTをリプレイスして新たに320列ADCTのAquilion ONEを導入した。診断用CTとしては、ほかに海外メーカーのフラッグシップ装置(2台)がそろう中で、今回のAquilion ONEを導入した経緯を望月教授は、「心臓をターゲットにした研究を進める中で、Aquilion ONEでは、面検出器によるルーチン検査における高い安定性を評価するとともに、研究機として、当講座で進めているCTを用いた心筋血流量(CT-MBF)や冠血流予備量比(CT-FFR)などの心筋虚血の定量的な評価、4D動態撮影の応用を期待して導入しました」とねらいを説明する。
同院のCTの検査は、年間2万3000〜2万5000件(1日平均では約100件)、そのうち心臓CTは年間約500件となっている。診療放射線技術部門の大元謙二技師長は、Aquilion ONEの導入と運用について、「心臓検査をはじめとする高度な撮影への対応はもちろん、日々の多くの検査をこなせるスループットが求められました。また、現場としては、ハイエンドの装置だからこそ故障などトラブルの少ない安定稼働が条件でした。Aquilion ONEは豊富な導入実績があり、稼働後はトラブルもなく安定して運用できています」と評価する。
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ダイナミック心筋Perfusionによる心筋血流評価
同院では、望月教授、城戸准教授の下、CTでのダイナミック心筋Perfusionによる心筋血流評価による心筋虚血の評価に取り組んでいる。2018年の診療報酬改定において、安定冠動脈疾患に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)について施行前に機能的な虚血評価が算定要件となり、心筋虚血評価の必要性が高まっている。心筋虚血の評価方法には、心筋シンチグラフィをはじめさまざまなアプローチがあるが、その中でCTのアドバンテージを望月教授は、「CTは、検査時間や普及率という点で、多くの病院でハードルの低い検査です。低侵襲で狭窄やプラークの評価が可能な冠動脈CTは、治療方針を決めるゲートキーパーの役割を担っていますが、CTで同時に虚血など機能的な情報が収集できれば、冠動脈の支配領域の把握を含めた包括的な心臓検査が可能です」と説明する。
ダイナミック心筋Perfusionでは、ダイナミックに複数心拍の撮影を行い、得られたデータから時間濃度曲線(time density curve:TDC)を解析して、定量的な心筋血流量の評価を行う。城戸准教授は、「ダイナミック心筋Perfusionでは、検査の再現性が重要であり、安定した結果が得られる検査プロトコールの確立と、再現性の高いデータの収集、定量評価が可能な解析方法などについて臨床研究を進めてきました」と述べる。
■Aquilion ONEによる臨床画像
循環器科と連携したフルコースの心臓検査に安定して対応
同院の心臓CT包括的プロトコールは、安定性や被ばく低減が最適になるようにキヤノンメディカルシステムズと共同で構築してきた。Stress時は心拍をスキップしたBeat Skip撮影、Rest時にはCT-FFRや石灰化サブトラクションなどの独自機能に対応できる撮影方式を採用。遅延造影も撮影し、30〜40分以内に完結している。解析に関してもVitreaを用いて、循環器科と連携しながら、症例に応じて低侵襲で価値の高い検査を行っている。
心臓検査におけるAquilion ONEのアドバンテージを城戸准教授は、「面検出器によって、日本人の体型であればほとんどの患者をカバーすることができます。ダイナミック心筋Perfusionでは、これまで検出器の幅が足りず心臓全体がカバーできなかったり、撮影間隔が間延びするなどの問題があり、リミテーションがあることを報告してきました。Aquilion ONEでは、検査の成功率が向上し、安定した検査が可能になっています。心臓検査は500件/年で、その中でもダイナミック心筋Perfusionは100件/年あります。心筋虚血が強く疑われる患者は積極的にAquilion ONEを用いた包括的なプロトコールで撮影しています」と述べる。
さらに、城戸准教授は逐次近似画像再構成技術である“FIRST”について、「ダイナミック心筋Perfusionでは、被ばく線量が増えることが課題ですが、検査プロトコールでもBeat Skipの撮影や、AIDR 3DやFIRSTの適用により、さらなる被ばく低減が期待できます。短時間かつ低侵襲で冠動脈から虚血の評価まで行える包括的CT検査が可能になれば、心臓検査のゲートキーパーとしてさらなる役割が期待されます」と述べる。
Aquilion ONEの導入で検査全体のスループットと安定性が向上
検査を行う立場からAquilion ONEの運用について西山 光主任は、「従来のヘリカルの撮影に比べて、オーバーラップする部分がなくなり、被ばくの低減になっています。また、従来問題になっていた不整脈も、Aquilion ONEでは影響を最小限に抑えることができ心臓検査には最適な装置だと感じています。Aquilion ONEでは心臓CT検査特有の細かい設定を意識せずに検査が行える懐の深さがあることや、高い検査成功率という点でも検査効率の向上につながっています」と説明する。
Aquilion ONEでは、100kV、80kVの低管電圧撮影を行っている。西山主任は、「従来装置では100kVが限界だった血管外科の下肢CTAを、80kVで撮影しています。そのほかにも、肺塞栓PA、DVT、大動脈CTAにも低管電圧撮影を実施しており、これによって造影剤量を従来より2割削減できています」と述べる。
4D撮影や超高精細画像など先進技術を研究に生かす
同院では南海トラフ地震をはじめ災害対応を進めており、発災時にはポータブルのX線撮影装置を稼働できる体制を整えており、非常用電源の容量強化などを行った。大元技師長は、「災害時にCTが稼働できれば、より多くの情報を提供できます。Aquilion ONEは同クラスの製品に比べて消費電力が少ないため、災害時の稼動も期待しています」と述べる。
最後に望月教授は、「これまでわれわれが検討してきたノウハウが、世界中で多く普及しているAquilion ONEで利用できれば、多くの施設で最先端の検査が可能となります。今後は超高精細CTによる、CT-FFRの精度向上にも注目しています」と述べる。さらに、城戸准教授はAquilion ONEでの動態撮影について、「整形外科領域で膝や手などの関節の4D撮影を行うことで、ねじれや歪みなどX線撮影ではわからなかった知見が得られるのではないかと期待しています。研究成果を反映した撮影モードやワークステーションでの解析機能向上を進めるべく、AIなどの教育データ構築も意識しながら、さらなる研究を進めていきます」とこれからに期待した。
(2018年6月26、27日取材)
愛媛大学医学部附属病院
愛媛県東温市志津川
TEL 089-964-5111(代)