次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)
2014年7月号
No. 147 CT colonography遠隔読影におけるAZE VirtualPlace新(あらた)の使用経験
前田恵理子(東京大学医学部附属病院22世紀医療センターコンピュータ画像診断学/予防医学寄付講座)
●はじめに
東京大学医学部放射線科では,筆者が所属するコンピュータ画像診断学/予防医学寄付講座と,画像情報処理・解析研究室が主体となり,病変自動検出(computer assisted detection:CAD)や内臓脂肪・皮下脂肪のvolumetryといった診断支援の理論・技術開発を行っている。そこで,医局員の外勤先や遠隔診療先と共同研究を結び,当科で作成されたCADをそうした施設画像に適用して認識能の向上に役立てようという発想が出てくる。東京大学の業務として他院画像の診断をすることはできないため,このような共同研究を容易にするためには別の法人が間に入る必要があり,当院の医局員により2010年から立ち上げられている「一般社団法人画像診断研究・振興・普及協会(RAPID)」という法人を利用することとなった。現在,当科は,この法人の遠隔画像診断サービスを通してCT colonography(CTC)を含む遠隔読影,提携先とのCADの共同研究を行っている。CTCは,当院の近くの一室にあるRAPIDの読影室で「AZE VitualPlace新」(AZE社製:以下,VitualPlace新)を使用して読影しており,2013年5月からの1年間で100件程度を読影してきた。
●なぜAZEか
ワークステーション(WS)の選定に当たり,法人として重要視したのは,前述のような環境,また今後ネットワーク研究の発展やCADの導入など,種々の課題に柔軟に対応できるかどうかであった。当講座の三木聡一郎が同社のビューアである「AZE Phoenix」の開発に密接に関与していて共同研究の下地があったこともあり,AZE社であれば当法人の課題に柔軟に対応してもらえそうだと考えた。VirtualPlace新には手元のPCからWS本体を遠隔操作できる機能があるほか,CTCの遠隔読影で実績があること,かつリーズナブルであることもプラス要素となった。筆者は読影者として選定にかかわったが,直感的な操作で簡単に美しい画像が得られる点と,3D画像の立体感が自然で,病変検出や食物残渣などとの鑑別の決め手となる輪郭が明瞭である点で,最も自信を持って診断できる感触を持った。学習の過程でradiologic-pathologic correlationに重きを置いてきた診断医にとっては,基本の開き画像が病理像に近い,腸管径展開である点も大きかった。
●画像解析・画像構築
1.大腸抽出,経路探索
読影室には,依頼を受けた画像がリアルタイムにダウンロードされるサーバがあり,VirtualPlace新はこのサーバから画像を読み込んでいる。依頼元は撮影の後,0.5〜1.0mm厚の画像を作成して送信するだけである。われわれは,VirtualPlace新からサーバの画像にアクセスして必要な元画像を取得し,「大腸解析」アプリケーションにて解析を行う。大腸が抽出されたのちにクレンジング,経路探索を行うと,拡張が良好な症例では1回の操作で肛門から上行結腸までの経路が描出される。大腸抽出,クレンジング,経路探索にかかる時間は,元画像の厚みにもよるが,おのおの5〜20秒程度であり,良好な腸管拡張と十分な腸管内造影剤濃度が得られてさえいればスムーズであることが多い。
2.読 影
元画像(主にクレンジング後残渣の有無と分布を見る:図1),開き画像,fly throughの順で病変検出を行う。これらの画像は,待ち時間なく一瞬で表示され,動作もきわめてスムーズである。
開き画像は,粘膜面の立体構造が精緻に描かれるため,3本の結腸ヒモやハウストラが瞬時に認識できる一方,がんによる構造改変も目に飛び込んできやすい(図2)。VirtualPlace新の高画質の真価が発揮される画像である。開き画像には,「表面MIP」という腸管表面から任意の深さの元画像をMIP表示する機能が付いており,厚みをさまざまに変えながら読影に利用する(図3)。CTCでは,前処置剤を最後まで飲み切れない症例が少なからず出てくるが,このような症例では腸管内造影剤濃度が低く,十分にクレンジングされない。開き画像で残渣を認識するのはかなり困難であるため,残渣が多い症例では,この表面MIPを使って真の表面が残渣に隠れている場所(MIPで高濃度に表示される)を探し,その残像があるうちに通常表示に戻して,残渣に隠れていない場所のみ開き画像を読影する,といった操作を繰り返している。造影剤が多少なりとも入っていればMIPで高濃度に表示されるため,検査の質にばらつきのある遠隔CTC読影では便利な機能である。
fly through(図4)も,立体感が明確であるので隆起性病変や,異常なくぼみを認識しやすい。一方で,立体感が明確であるとどうしても“陰の裏”に見落としがあるような気がしてしまうが,手前の腸管を引き延ばしたような像が得られる魚眼モードを用いれば,陰をなくすことができる。好き好きだろうが,画像中心部にある進行方向に目を向けると同時に,見落としが懸念されるヒダの裏側を見るために画像の辺縁を見る,という目の使い方は,黄斑を画像の中心と四隅の間で忙しく動かさなくてはいけないという点で,個人的にはかえって見落としが増える気がするため,筆者は無理には使わないことにしている。
3.レポート作成
開き画像やfly throughで検出した病変候補は,詳細読影で3方向の断面や深達度の観察,濃度測定をして,病変の真偽を判定し,レポート作成に移る。VirtualPlace新では,画像単位や画面単位で添付画像を作成できるほか,fly throughから動画を作成して,サーバに送信することもできる。読影室にはダウンロード型のジェイマックシステム社のレポーティングシステムとビューアがあり,サーバから添付画像や動画を含めてダウンロードしてレポートを作成することで,VirtualPlace新で作成した画像を添付した読影レポートを自在に作成することができる。もちろん,VirtualPlace新でCTCレポートを作成し,これを読影レポートに添付することもできるが,現在のところ所見の少ない検診症例が多いため,依頼元の便も考えて1枚のレポートにすべての情報を記載するようにしている。
●評価と課題
施設によっては経路探索まで診療放射線技師に依頼することができるが,当法人のような形態の遠隔読影では読影医が他の業務の傍らに行わなくてはいけないため,少ない時間と労力で高画質の画像が得られることが必須である。VirtualPlace新の大腸解析ソフトウェアにより,一連のCTC読影は,操作面でも,時間的にも比較的ストレスが少ない作業となっている。また,このような形態で遠隔CTC診断を提供できること自体を,依頼元機関には評価していただいている。当法人では,このほかにも心臓CTやMRIの依頼も受けており,多彩な検査でWSを使いこなし,遠隔画像診断の可能性を深めていきたいと考えている。
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace新(AZE社製)