次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2013年2月号

No.130 拡散テンソル画像(DTI)解析ソフトウェアの紹介

的場 博輝 / 山本 晃義(社会医療法人共愛会 戸畑共立病院画像診断センター)

●はじめに

MRIの進歩に伴い,拡散強調画像(diffusion weighted image:DWI)は,急性期虚血性脳疾患障害や脳腫瘍の診断など,現在の頭部MRI検査において必要不可欠なものとなってきている。このDWIをもとに,一定の方向に向かって連続する神経線維を画像化したものが拡散テンソル画像(diffusion tensor image:DTI)である1)。DTI解析は,錐体路,感覚路,視放線などの神経線維の走行と病変部位との位置関係も観察可能であり2),治療計画や術前シミュレーション,治療後のフォローアップなどに有用であるとの報告もある3)
一方,DTI解析用フリーウェアであるにもかかわらず臨床研究用としては申し分のないソフトウェアも開発されてきたが4),これらのソフトウェアはいずれも実用的なアプリケーションとしての広がりに乏しく,臨床用として運用する際には問題点も多い。例えば,MRI検査用のコンソールにDTI解析ソフトウェアが付属する場合,検査と解析を同時に行うことによって両者の作業効率が低下することや,撮像した元データが装置内部に残っていない場合には,解析を行うことができないような事態を引き起こすこともある。このような問題を解決するためには,多くの施設に普及している三次元画像処理用ワークステーション(WS)にDTI解析機能を搭載し,三次元画像処理ソフトウェアのようなソリューションの一部として運用できることが望ましい。
そこで本稿では,2010年1月よりAZE社とともに共同研究開発を行ってきた「AZE VirtualPlace」(AZE社製)に搭載予定のDTI解析用ソフトウェアの概要と臨床応用例を紹介する。

●DTI解析の流れと特徴

DTI解析の流れは,フローチャート(図1)に示す通りである。初めに,解析する画像(DWI)とBASE画像(診断に用いる画像)を選択し,自動位置合わせを行う。

図1 DTI解析フローチャート

図1 DTI解析フローチャート

 

次に,描出しようとする神経線維の走行を考慮し,起点となる位置(図2 a),ターゲットとなる位置(図2 b)にROIを設定する。必要としない領域がトラッキングされることを防ぐために,回避ROIと呼ばれる関心領域を不要な領域に設定し,回避ROIを通る神経線維を計算させないようにする機能もある(図2 b)。

図2 ROIの設定方法

図2 ROIの設定方法
本症例では,aに示すように延髄に起点ROIを設定した。bでは,ターゲットROIを大脳脚の右側に,回避ROIを大脳脚の左側にそれぞれ設定した。cでは,ターゲットROIを設定した大脳脚の右側に拡散テンソルが表示され,回避ROIを設定した左側は拡散テンソルが表示されていない。

 

最後に,DTI計算用のパラメータ設定を行う。本ソフトウェアでのトラッキングの手法には,1 tensorと2 tensor,そしてPeledとQ-ballという4つの手法が用意されている。特に,1 tensorと2 tensorでは,図3 a,bに示すように得られる解析結果も大きく異なる。1 tensorとは,1つのボクセルの拡散テンソルは単一方向の神経線維のみによって形成されていると仮定して,拡散テンソルボリューム上のある一点を起点とし,神経線維の方向に沿って,異方性が一定以上である間繰り返し追跡を行うことで,拡散テンソルボリュームから連続した1本の神経線維経路を抽出する手法である。一方,2 tensorの場合は,ボクセル内に2つの拡散テンソル(2方向の神経線維)が存在すると仮定し,1 tensorの場合と同様に起点から追跡を開始し,経路の前後関係を考慮し,2つの神経線維の方向から適切な方向を選択しながら追跡を行う手法である5)。このように,描出しようとする神経線維の走行方向を考慮して,解析手法を選択することが重要である。

図3 ファイバートラッキング手法の違いによる拡散テンソル

図3 ファイバートラッキング手法の違いによる拡散テンソル

 

次に,本DTI解析ソフトウェアの特徴について紹介する。本ソフトウェアにはDTI解析結果に対してあらゆる画像をフュージョンすることができる(図4)。さらに,描出された神経線維の数をカウントすることができるため,これまで定性的な評価が主であったDTI解析が定量的解析に利用可能となり,これからの幅広い臨床応用に期待できると考えられる(図4 a)。

図4 異なるコントラスト画像と拡散テンソルとのフュージョン画像の応用例

図4 異なるコントラスト画像と拡散テンソルとのフュージョン画像の応用例
診断に用いられるさまざまなMRI画像と神経線維の走行を同時に表示できるため,病変と神経線維との同定に役立つ。

 

最後に,リアルタイムに局所的なDTI解析を行うことができる“インタラクティブファイバー”と呼ばれる機能について述べる。本機能では,図5に示すようにROIで囲んだ関心部位のDTIをリアルタイムで表示させることができるため,読影や手術中など,その場で必要とする神経線維についてオンデマンドにDTIが得られ,実用的なDTI解析機能として普及することが期待できる。

図5 インタラクティブファイバー表示

図5 インタラクティブファイバー表示
ファイバートラッキングさせたい部位にROIを置くと,リアルタイムにトラクトグラフィが作成される。

 

●DTI解析の臨床応用例

図6は,急性期脳梗塞が疑われてMRI検査を施行した症例である。その際,テンソル撮像を行い,DTI解析を施行した。本症例では,運動路と感覚路の2つの神経線維路の描出を試みた。運動路は皮質脊髄路を起点とし,中心前回を終点としたROIを設定した。感覚路は内側毛帯を起点とし,中心後回を終点としたROIを設定した。このDTI解析結果を,図7,8にそれぞれ示している。運動路にターゲットROIを設定した場合,図8 aに示すように運動路と感覚路の両神経線維が描出された。しかし,図8 bに示すように,感覚路にターゲットROIを設定した場合,脳梗塞部には運動路神経線維の存在は認められず,感覚路神経線維の存在が認められ,神経学的所見と一致していた。今後,ROIの設定場所や解析精度についてさらなる検討が必要となるであろう。

図6 症例(59歳,男性)

図6 症例(59歳,男性)
左下肢の麻痺にて救急搬送された症例。感覚障害はないが運動障害があるため,急性期脳梗塞を疑いMRI検査施行。右内包後脚領域に急性期脳梗塞が認められる。

 

図7 DTI解析結果

図7 DTI解析結果

 

図8 DTI解析結果

図8 DTI解析結果

 

●おわりに

近年,三次元画像処理用WSの画像処理速度や臓器解析処理ソフトウェアの機能の飛躍的な向上に伴い,本稿でも紹介したようなDTI解析といった特殊な機能の搭載も可能となった。本アプリケーションの将来展望として,脳腫瘍の治療に対する放射線治療計画や開頭術前シミュレーション,治療後のフォローアップといった,脳疾患に対するさまざまな診断や治療戦略への応用が考えられる。今後,三次元画像処理用WS上で解析可能なソフトウェアである利点を生かして,“場所や人を選ばないDTI解析ツール”として幅広く利用されることを希望する。

●参考文献
1) 青木茂樹・他 : これでわかる拡散MRI. 東京, 秀潤社, 24~35, 2002.
2) Lober, R.M., et al. : Application of diffusion tensor tractography in pediatric optic pathway glioma. J. Neurosurg. Pediatr., 10, 273~280, 2012.
3) Ellis, M.J., et al. : Corticospinal tract mapping in children with ruptured arteriovenous malformations using functionally guided diffusion-tensor imaging. J. Neurosurg. Pediatr., 9, 505~510, 2012.
4) 増谷佳孝 : MR拡散テンソル画像の解析による脳白質神経線維追跡 ; 追跡の信頼性を考慮した選択的Tractography. Medical Imaging Technology, 20, 584~592, 2002.
5) Qazi, A.A., et al, : Resolving crossings in the corticospinal tract by two-tensor streamline tractography ; Method and clinical assessment using fMRI. NeuroImage, 47, 98~106, 2009.

【使用MRI装置】 Vantage Titan 3T(東芝社製)
【使用ワークステーション】 AZE VirtualPlace(AZE社製)

TOP