次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)
2013年1月号
─"肝臓解析"から"新・肝臓解析"へ
No.129 AZE VirtualPlaceを用いた術前肝切除シミュレーションの有用性
三好 篤/古賀 浩木/中村 淳/井手 貴雄/北原 賢二/能城 浩和(佐賀大学医学部一般・消化器外科)
●はじめに
これまで先進医療であった「肝切除手術における画像支援ナビゲーション」が2012年4月より保険収載され,手術時に2000点が加算できるようになり,今後ますます肝臓外科領域での術前シミュレーション,ナビゲーションは発展していくと考えられる。本稿では,われわれがこれまでに施行してきた「AZE VirtualPlace」(AZE社製)のソフトウェア“肝臓解析”を用いた術前肝切除シミュレーションの有用性と,2012年8月にバージョンアップした“新・肝臓解析”について紹介する。
●系統的肝切除における術前肝切除シミュレーションの有用性
肝癌診療ガイドラインでも推奨されている肝細胞がんに対する系統的肝切除術は,腫瘍の支配門脈領域を切除する術式であり,これまでCouinaudやHealeyが提唱した既存の肝区域分類に基づいて行なわれてきた。しかし,肝区域・肝内脈管分岐形態の研究が進むにつれ,肝内門脈分岐はCouinaudやHealeyが提唱したもののみではなく,さまざまな分岐形態をとることがわかってきた。近年では,正確な系統的肝切除を施行するためには,個々の症例の正確な門脈分岐形態,支配領域の把握が重要と考えられるようになってきている。
肝臓解析では,抽出した門脈1本,1本の支配領域,および重量を予測・同定することができ,患者個々の門脈分岐形態,腫瘍の位置,進行度に合わせた系統的肝切除術の術前シミュレーションが可能となる。また,肝切除の際には切除肝重量・残肝重量の評価が重要であり,予測切除肝重量の正確性が問われるが,肝臓解析を用いたわれわれの検討では,予測切除肝重量と実際の摘出肝重量はほぼ一致することがわかっている(図1)。
●症例提示(図2)
73歳,女性。肝細胞がん,C型慢性肝炎。肝障害度A,ICGR15 22.5%。血管造影下CT画像で,S6に3cmの主腫瘍と周囲に5mm程の肝内転移病変を認めた。3D画像上,後区域門脈はP6とP7の2分岐形態ではなく,多数の枝を出していた。腫瘍は右肝静脈の右側に存在し,既存の区域分類を用いると腫瘍の占拠部位はS6と判断し,後区域からの枝を4本結紮する形でのS6亜区域切除でシミュレーションを施行した。支配領域を評価すると,腫瘍の前区域側が露出し,前区域門脈の背側枝からも支配されていることが予想された。前区域門脈背側枝を4本結紮する切除範囲を追加することで,腫瘍の支配領域門脈がすべて切除される形での系統的切除が可能と判断した(予測切除肝重量504g,肝切除率35.2%)。
このように,2DでのCT画像で評価した既存の区域分類を用いた系統的肝切除では不完全な系統的切除となる場合があり,必要最少限で正確な系統的肝切除術には,3D CTシミュレーションは非常に有用である。
CTAP上,腫瘍はS6に存在が認められた(a)。後区域門脈は多数の枝を出しており,腫瘍は右肝静脈の右側に占拠し,S6と判断(c)してシミュレーションを施行したところ,支配領域評価で,腫瘍の前区域側の領域が露出した(e)。
●“新・肝臓解析”の使用経験
今回のバージョンアップによる主な改善点を下記に示す。
(1) 血管の抽出精度向上:血管造影下CTではなく,通常のMDCTで十分抽出可能
(2) ポリゴン表示:肝臓や血管モデルがシンプル(なめらか)表示になった(図3)。
(3) 多相の位置合わせ機能の向上:各相の位置合わせが自動で可能
(4) 動脈も追加抽出:肝門部胆管がん等の手術でも有用
(5) 機能画像(PET・SPECT等)とフュージョンが可能:アシアロシンチグラフィ等とフュージョンさせることで,残肝の機能を評価することができる(図4)。
●おわりに
術前肝切除シミュレーションは,正確で安全な肝切除を行うためには重要であり,若手肝臓外科医の教育や,医師,患者,コメディカル間の情報の共有化にも有用である。
新・肝臓解析ソフトウェア導入により,3D画像の作成が簡便になっただけではなく,機能解析も可能となり,今後このシミュレーション,ナビゲーションの分野はさらに発展すると思われる。
【使用CT装置】MDCT:SOMATOM Definition(シーメンス社製)CTAP:SOMATOM Emotion6 (シーメンス社製)
【使用ワークステーション】AZE VirtualPlace(AZE社製)