64列/128スライスCT「Supria Optica」× 彦根中央病院
低線量・高画質で高速撮影が可能な64列/128スライスCT「Supria Optica」が地域を支える市中病院で稼働 「IPV」により従来の半分以下の線量での撮影を可能にし小児から高齢者まで幅広い患者に負担の少ない検査を提供
2023-1-5
16列CTが入っていた検査室に設置された
コンパクトなSupria Optica。
左端が吉川元庸技師長,左から3人目が伊藤 晋部長,
右端が情報管理室兼広報室の根本 城室長。
彦根中央病院は,2022年9月にCTを富士フイルムヘルスケアの64列/128スライスCT「Supria Optica」に更新した。開設当初から土日診療を継続するなど,患者や家族が安心できる医療の提供に努めてきた同院がSupria Opticaを選んだ臨床・経営視点における理由,また初期使用経験について,放射線科の伊藤 晋部長,吉川元庸技師長,情報管理室兼広報室の根本 城室長にインタビューした。
土日診療で湖東地域の医療を支えるケアミックス病院
琵琶湖東北部に位置する医療法人恭昭会彦根中央病院は,「誠実・慈愛・和」を理念に,地域に根ざした医療を展開してきた。特徴の一つが1970年の開設当初から実施している土日診療で,湖東地域での365日の医療提供を可能にする地域の要となっている。現在は,内科,小児科,外科をはじめとした17科を標榜し,急性期から回復期の入院病棟と介護医療院からなる総病床数346床のケアミックス病院として医療を提供している。
根本室長は同院の特徴について,「湖北・湖東地域に維持期の病院が少ないため,当院はその役割が大きく,急性期病院から転院患者を受け入れて地域の医療機関と連携しながら自宅や施設への退院支援を積極的に行っています。また,患者や家族が安心できる環境を整えたいとの初代理事長の考えで,病院の開設時から土日診療を継続しており,外来患者は1日平均150人ほどであるのに対し,土日の受診ニーズは高く土曜日は200人を超えます」と説明する。成人病予防センターも併設しており,土日ならばと健診を受ける受診者も多く,予防から退院支援まで地域住民に寄り添った医療を実践している。また,週末の紹介検査も受け入れているため,地域の医療機関にとっても頼れる存在だ。
低被ばく・高速撮影で患者に優しい検査を可能にするSupria Optica
放射線科には,放射線科医の伊藤部長と吉川技師長はじめ診療放射線技師5名が在籍し,診療と健診の検査,読影業務に当たっている。CTは富士フイルムヘルスケアの16列CT「ECLOS」1台を運用してきたが,導入から約10年が経過し装置の更新が検討された。外来は小児から高齢者まで幅広い年齢層の患者が受診し,入院患者は認知症患者も含めた高齢者が中心となることを踏まえ,低被ばく撮影と,息止めでの負担を軽減する高速撮影を要件に装置選定が行われ,Supria Opticaが採用された。
Supria Opticaは,オープン&コンパクトをコンセプトとするSupriaファミリーの64列/128スライスCTで,プライマリケアを担う医療機関における課題解決をめざして開発された最新システムである。人工知能(AI)技術を活用して開発した画像処理機能「IPV(Iterative Progressive reconstruction with Visual modeling)」や検査効率向上技術「SynergyDrive」を搭載し,低線量・高画質な撮影と検査時間の短縮を実現した。搭載されたX線管は16列システムと同等の2MHUでありながら,IPVとの組み合わせにより低線量での広範囲撮影時のノイズ増加を効果的に抑制することなどが特長である。根本室長は,「Supria Opticaは,当院が求める低被ばくと高速撮影の条件をクリアしていることに加え,電源容量が30kVAのため大がかりな電源工事が不要で,X線管も2MHUと小さく,冷却のための空調設備も最小限ですむことから,コストの面でもメリットが大きいと判断しました」と採用の理由を説明する。また,吉川技師長は,「2MHUの管球では連続撮影の負荷が大きいのではないかと懸念しましたが,IPVにより線量を抑えた撮影が可能なため,撮影が続く時間帯でも管球待ちで検査が止まることはなくスムーズに検査できています」と話す。
IPVにより従来の半分以下の線量で検査が可能に
Supria Opticaは2022年9月末に本稼働を開始した。CT検査数は月平均300件程度であったが,更新後は検査数が約10%増加している。吉川技師長は,「導入に当たっては装置の特長を医師に周知したので,低線量撮影ができることで小児や若年者の検査を安心してオーダできるということがあると思います。また,高齢で静止が難しい入院患者も多いのですが,撮影の高速化により患者に負担をかけずにブレのない画像を撮影できるようになったことも,検査数が増加傾向にある理由だと思います」と話す。
撮影領域は,頭部,整形,胸部,脊椎が多い。IPVの適用が可能な検査はすべて低線量条件で撮影しており,線量は以前と比べて頭部で20〜30%,胸腹部で50%以上の低減が可能になっている。伊藤部長は,「以前の半分以下の線量でもノイズレベルが同等の画像を得られています。余裕を持って診断参考レベル(DRLs 2020)よりも低線量で撮影できているので,体格の大きい患者や症例に応じて,もう少し線量を上げて画質を向上させることもできると思います」と話す。頭部撮影では,±30°のガントリチルトを活用してOMラインに合わせて撮影することで水晶体の線量を低減するなど,装置の機能を活用して被ばく低減に取り組んでいる。
また,金属アーチファクト低減技術「HiMAR(High Quality Metal Artifact Reduction)」も実装されており,伊藤部長は「股関節に人工骨頭を留置している場合でも金属アーチファクトがしっかり抑制され,金属周囲の軟部組織も評価が可能です」と有用性を述べる。吉川技師長は,「HiMARは撮影後に適用できるため,必要に応じて再構成しています。脊椎にインプラントが埋め込まれた腰椎術後の症例でも,アーチファクトを低減した画像を得ることができ,MPRや3D画像の作成が容易です」と,画像処理においてもメリットが大きいと話す。
75cm開口径やワークフロー改善で患者と操作者の負担を軽減
開口径75cmのガントリやSynergy Driveを搭載したSupria Opticaは,検査ワークフローの改善や安全性の向上,患者負担の軽減にも貢献している。吉川技師長は,「膝関節が拘縮している患者さんでも無理のない体位で,安全に素早くポジショニングできるようになりました。また,人工呼吸器を装着した状態での撮影は特に気を遣いますが,開口径が大きいためホース(蛇管)が引っかかる心配が少なくなっています」と述べる。
撮影は,胸腹部では以前の半分以下の時間で撮影が可能になり,以前は最後まで息止めができなかった患者も1回の息止めで撮影が完了できるようになっている。患者からも,撮影時間が短く楽になったとの声が上がっているという。
また,自動撮影範囲設定機能「Auto Pose」や最大60枚/秒の画像再構成処理,同時3検査の並行処理などにより,検査効率の向上を実現している。同院では,CT更新に合わせてワークステーションを富士フイルムの3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT」に更新。放射線科でMPRや3D画像を作成して診療科に提供しているため,その作業も含めたワークフローの改善は重要なポイントであった。吉川技師長は,「通常の5mmスライス画像のほか,3D作成用には0.625mmのthin slice画像も作成しています。画像処理のスピードが速く,撮影が終了すると通常の再構成は完了していて,患者さんの退室対応をしているうちにthin sliceの再構成も終わります。次の検査の準備をしながらMPRや3D作成にかかれるため,スムーズに業務を進めることができます」と話す。
患者や家族が安心できる医療の提供をめざして
稼働から約1か月が経過し,順調なスタートを切ったSupria Optica。同院では今後,IPVの強度や体格による線量の検討などを進め,臨床でのさらなる活用を模索していく。Supria Opticaを活用した診療の展望として伊藤部長は,「肺がんCT検診の可能性を検討していきたいと思います。低線量撮影で,胸部X線撮影より肺がんの検出能が上がれば,地域へのさらなる貢献につながると思います」と述べる。根本室長は,「医療をめぐる環境が急速に変化する中で,当院としては患者さんやご家族の信頼を得て,安心して医療を受けていただくことが最も大切だと考えています。今回,Supria Optica導入の最後の決め手となったのは,富士フイルムヘルスケアの誠実な対応でした。これからも同社と協力・信頼関係を築きながら,共に地域の方が安心できる医療の提供に努めていきたいと思います」と話す。Supria Opticaは,同院が地域における役割を全うするための力になっていくだろう。
(2022年10月28日取材)
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