AI活用の最前線が示されたNVIDIA AI DAYS 2022
ヘルスケア分野のDXを加速させる最新事例に注目
ヘルスケアの未来を築く深層学習とGPU コンピューティングの最前線
2022-8-1
NVIDIAは,2022年6月23日(木),24日(金)の2日間,オンラインイベントNVIDIA AI DAYS 2022を開催した。「事例から学ぶ! AI × ビジネス変革の勘所」と銘打って,基調講演2題を含め,前回を上回る80以上のセッションが用意された。その中には,医療・創薬などヘルスケア分野のセッションも多数あり,人工知能(AI)の本格的な普及を予感させた。今回はNVIDIA AI DAYS 2022のセッションから,ヘルスケア分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させるAI活用の最前線について,最新事例を中心に報告する。
AI技術とGPUコンピューティングの事例を紹介
NVIDIA AI DAYS 2022では,23日をDay 1,24日をDay 2として,さらに組み込みや自律マシンに関連する企業などのプレゼンテーションを中心としたEDGE DAYをDay 1と同時開催した。Day 1,Day 2は,それぞれ基調講演を用意。Day 1は東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授の松尾 豊氏が「もはや傍観者でいられない,加速するAI活用」,Day 2はソニーグループ執行役副社長の勝本 徹氏が「ソニーグループでのAIの事例から見るテクノロジーの活かし方とコーポレートR&Dの在り方」をテーマに講演した。また,セッションはTrack A〜Dに分けてプログラムが組まれた。さらに,Inception Pitchとして,スタートアップ企業18社がプレゼンテーションを行う企画も設けられた。
AI活用によりDXの可能性が広がるヘルスケア分野
今回はヘルスケア分野におけるAI技術やGPUコンピューティングの最新事例も多数報告された。
医用画像に関しては,Day 2のTrack Dにおいて富士フイルム メディカルシステム事業部マネージャー/富士フイルムホールディングスICT戦略部マネージャーの越島康介氏が「富士フイルムが目指す未来の画像診断支援AI開発DX」(D2-6),EDGE DAYにおいてコニカミノルタ技術開発本部FORXAI開発センターAI技術開発部テーマリーダーの山野文子氏が「画像IoTプラットフォームFORXAIで『みたい』を形に」(Edge-3)と題したプレゼンテーションを行った。
また,創薬については,Day 2のTrack Dで中外製薬デジタル戦略推進部長の中西義人氏が「中外製薬のDXへの挑戦におけるAI活用」(D2-8),アステラス製薬アドバンストインフォマティクス&アナリティクス デジタルリサーチソリューションズ ヘッドの角山和久氏が「デジタル化する創薬研究」(D2-9)をテーマに発表した。
このほか,EDGE DAYの中で,国立研究開発法人理化学研究所脳神経科学研究センター ユニットリーダーの下田真吾氏が「遠隔触診システム実現に必要なAIとは」(Edge-4),Inception PitchとしてCROSS SYNC研究開発部特任研究員/シニアデータサイエンティストの田端 篤氏が「急性期医療現場において,リアルタイムに画像解析を行うためのエッジコンピューティング活用」(D2-3)と題して,研究開発の概要を紹介した。以下,ヘルスケア分野の主なセッションを報告する。
○富士フイルムが目指す未来の画像診断支援AI開発DX(D2-6)
富士フイルムグループのメディカルシステム事業は,医療が抱える課題に対して,その解決に寄与する医療ITシステムを提供している。PACS「SYNAPSE」は,データ管理などにおける医療者の負担を軽減することが評価され,国内3000サイト,全世界5700サイトで稼働しており,シェアナンバーワンを維持している。
このPACSに蓄積された膨大な医用画像データと高度な画像処理技術をベースに研究開発を進め,2018年にはAI技術ブランドの「REiLI」を発表。すでに,AIを用いた画像処理やワークフロー自動化の技術,診断支援ソフトウエアなどを展開している。
同社では,メディカルシステム事業のDX戦略マップとして,「顧客体験を変える」「モノ売り→コト売り」「事業のビジネスモデルを変える」「顧客のビジネスモデルを変える」「顧客のレイヤーを変える・広げる」という5つの方向性を掲げている。このうち,「顧客体験を変える」ために,診断支援AIプラットフォームを開発し,単なる画像の保存・閲覧だけでなく,ワークフローを改善し,読影効率を向上させるなど,PACSに新たな価値をもたらした。発売から2年半で170以上の施設が導入しており,PACSのシェア拡大に寄与している。診断支援AIプラットフォームの開発では,「NVIDIA DGX」を使用して,ステップ1「高画質化」,ステップ2「臓器セグメンテーション」,ステップ3「コンピュータ支援診断」,ステップ4「ワークフローの効率化」と,段階的に進めて製品への搭載を図っている。
さらに,「事業・顧客のビジネスモデルを変える」ものとして,同社はAI開発支援プラットフォームの提供も開始した。クラウド型AI技術開発支援サービス「SYNAPSE Creative Space」は,プロジェクトの管理からアノテーション,学習管理,実行までをプラットフォーム化して,医療者のAI開発をオールインワンでサポートする。これにより「AI開発の民主化」が実現する。
○画像IoTプラットフォームFORXAIで「みたい」を形に(Edge-3)
コニカミノルタは,独自のイメージング技術を発展させた画像IoT技術を基にプラットフォーム「FORXAI」を開発,展開している。FORXAIは,「FORXAI Imaging AI」「FORXAI IoT Platform」「FORXAI Edge Device」で構成される。
FORXAI Imaging AIは,画像を中心とした高速・高精度なAI処理の技術群で,AIアルゴリズムの高速処理・実装が可能だ。人行動,先端医療,検査についての開発を進めている。コニカミノルタのFORXAIとパートナーの技術を組み合わせる場,これをパートナープログラムと位置づけ,共同で開発する場も提供している。
○中外製薬のDXへの挑戦におけるAI活用(D2-8)
中外製薬は,がん・バイオに強みを持つ研究開発型の企業で,2020年にはデジタル戦略「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を策定。この戦略に基づいてデジタル技術を活用したビジネスの革新に取り組んでいる。これは,デジタル基盤を強化した上で,デジタルを活用した革新的な新薬創出,すべてのバリューチェーンの効率化を図っている。 新薬創出におけるAI活用は製薬業界全体に広がっている。同社はAIをはじめとしたデジタル技術で創薬プロセスを革新し,成功確率を向上させるとともに,プロセス全体の効率化を図っている。すでに,抗体創薬支援AI技術の「MALEXA®」により,従来法の1800倍となる結合増強に成功するなど成果が生まれている。さらに,デジタルパソロジーやテキストマイニングAI,ウエアラブルデバイスなどの技術を活用した創薬にも取り組んでいる。
同社は,AI創薬を加速させるために,人材育成にも力を注いでいる。Chugai Digital Academy(CDA)を設置して,人材育成,採用力強化,外部との連携促進などを進めている。加えて,デジタルイノベーションラボ(DIL)を設けて社内から新規ビジネスのアイデアを募り,組織的なDXスキルアップを図っている。
○デジタル化する創薬研究(D2-9)
アステラス製薬では,化合物合成の自動化に取り組み,細胞アッセイにおける細胞調製には「Mahalo」,スクリーニングには「Screening Station」と呼ばれるAIを用いた独自のロボットシステムを導入している。同社では,このようなAIによる化合物デザイン,ロボットを用いた自動合成,AIとロボットの自動細胞アッセイ,AIを活用した化合物特性予測などDMTAサイクルのデジタル化によって,ヒット化合物から医薬品候補化合物取得までの時間を最大で約70%短縮できた。
また,同社は,膨大な文献情報から創薬関連情報を抽出するテキストマイニングAIの開発にも取り組んでいる。これらの研究開発には,「NVIDIA V100 Tensor コア GPU」などのGPUを活用している。
○遠隔触診システム実現に必要なAIとは(Edge-4)
触診の役割は,医師が患者に触れることで,患部状態を直接確認することだけにとどまらない。触覚からの入力は過去の経験や記憶を呼び覚まし,他情報を統合しながら触れたものを明確に理解することに優れており,触診においても患部に触れることが,医師の過去の経験を基に,他の診察結果を統合し病状を正しく判断することに役立っている。それと同時に,触診を受ける患者には触覚入力を通して病状を提示されることで,自らの状態への理解が深まり,診察への安心感や医師への信頼を生むことが触診の重要な役割である。
本研究では,AIを利用して対面での触診と同等もしくはそれ以上に,医師と患者間の相互理解を深めることができる,遠隔触診システム「4次元Box」の開発を進めている。触診による相互理解を深めるには,エッジコンピューティングにより患者側・医師側双方の直感的な理解を促す必要があり,生物規範型エッジAIのTacit Learningを「NVIDIA Jetson」を用いて実装することで,遠隔触診の実現をめざしている。
○急性期医療現場において,リアルタイムに画像解析を行うためのエッジコンピューティング活用(D2-3)
入院患者に有害事象が発生する数時間前には,「不安定な兆候」がある。しかし,ICUでは集中治療医不足,アナログな現場などの理由から,その兆候をとらえる体制が十分ではない。
そこで,CROSS SYNCは重症患者管理アプリケーション「iBSEN」を開発した。iBSENは,複数患者の重症度を自動で判定し,重症度の推移をグラフ化,リアルタイムで患者情報の表示・共有が可能である。重症度評価には,患者の意識レベルが重要だが,それを評価するのは難しい。
これを踏まえて,同社は眼の開閉を意識レベル評価の指標として,開閉眼推定のAI開発を行っている。エッジコンピュータには,「NVIDIA Jetson AGX Xavier」を用いたほか,「TensorRT SDK」による推論モデルの高速化を図った。今後は,エッジコンピュータに,より高性能な「NVIDIA Jetson AGX Orin」の導入も検討していく。
ヘルスケア分野のDXを加速させるNVIDIA
以上のように,NVIDIA AI DAYS 2022では,ヘルスケア分野のAI研究開発事例が多数紹介された。AIの社会実装が進み活用の場が広がることで,成功事例も増えてきたと言える。特に医療では,AIを用いて開発された医療機器の上市や,プログラム医療機器の認証も増加している。
このような状況において,AI研究開発を支援する立場のNVIDIAの存在感も高まっている。NVIDIAとしても医療を重視しており,2022年3月に行われたGTC 2022において,「NVIDIA Clara」の新たなプラットフォームとして,医療機器開発のための「NVIDIA Clara Holoscan MGX」を発表した。今後もNVIDIAのAI技術とGPUコンピューティングが,医療をはじめとしたヘルスケア分野のDXを加速させることは間違いない。
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