Ingenia Elition 3.0T × 熊本中央病院
これまでの3Tの限界を突破した「Ingenia Elition 3.0T」が臨床現場にもたらすインパクト ─新設計のグラジエントシステムや高速撮像技術,呼吸同期システム「VitalEye」によるMRIの進化
2019-12-27
熊本中央病院が導入した
Ingenia Elition 3.0Tの国内1号機
熊本中央病院は,専門的で高度な診断・治療を提供する紹介型の急性期病院として地域医療に貢献している。地域に選ばれる魅力ある病院づくりのため,2018年8月にフィリップス・ジャパンの3T MRI「Ingenia Elition 3.0T」の国内1号機を導入した。Ingenia Elition 3.0Tは,新設計の傾斜磁場コイルシステム“Vegaグラジエントシステム”や高速撮像技術“Compressed SENSE”の実装により,従来の3T MRIの弱点を克服し,全身領域で臨床価値の高い画像の提供を可能にしている。2019年1月には呼吸同期システム「VitalEye」も搭載し,さらにパワーアップしたIngenia Elition 3.0Tの運用や活用について,放射線診断科の片平和博部長と,放射線科の野田誠一郎主任に取材した。
魅力ある病院づくりのためIngenia Elition 3.0Tの国内1号機を導入
1951年に開設し,58年に現名称に改称した熊本中央病院は,97年に現在の熊本市南区に新築移転した。「質の高い誠実な医療による地域への貢献」という病院理念が示すとおり,専門的な検査や高度な手術・治療を提供する急性期医療を中心とした病床数361床,21診療科の紹介型病院である。2010年に熊本県指定がん診療連携拠点病院,2011年に地域医療支援病院に指定され,地域医療機関からの紹介は月1250件以上に上る。紹介患者の多くは市内からだが,濱田泰之院長が専門とする前立腺疾患を中心に市外,県外からも患者が来院する。また,2013年に開始したMRIガイド下前立腺生検は,現在のところ国内唯一の実施施設であることから,関東や東北など遠方からも患者が訪れる。
同院は,専門的な検査,高度な手術の提供のため,検査装置や院内設備の充実も積極的に図ってきた。2018年にはハイブリッド手術室を新設し,経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)の県内3番目の実施施設として治療を開始している。画像診断装置も,最新の装置をいち早く導入してきた。CTは,フィリップス・ジャパン(以下,フィリップス)の256スライスCT「Brilliance iCT Elite」に加え,2016年に世界で初めて2層検出器を搭載した「IQon Spectral CT」の国内1号機を導入。MRIは1.5T装置と3T装置が1台ずつ,SPECT/CT,血管撮影装置などをそろえている。これらの装置を活用した画像検査を地域に広く提供するため,2012年には地域医療画像連携ネットワークシステム「くまちゅう画像ネット」を構築し,地域のかかりつけ医がオンラインで画像検査依頼や検査結果の閲覧ができる環境を整えた。
放射線診断科の片平和博部長は,画像診断の豊富な経験を基に,最新装置で得られる高精細な画像,付加情報を持つ画像に多くの臨床的価値を見出し,装置を最大限に活用するための方法や知見について講演などを通して共有してきた。同院の特徴と方針について,片平部長は,「紹介型病院である当院は,地域の医療機関から患者さんを紹介していただくために魅力ある病院づくりが必須です。そのための戦略の一つが,最新の画像診断装置の導入です。読影レポートは検査をしながらリアルタイムに作成するため,外来で画像検査を受けた患者さんは,その日のうちに結果説明を聞いて帰宅することができます」と説明する。
最先端の装置を効率良くフル活用していることに加え,常に“新しい画像”を提供することが地域における価値と考える同院では,装置の更新サイクルが比較的早い。3T MRIは,フィリップスのフルデジタルMRI「Ingenia 3.0T」を2012年から使用してきたが,2018年8月に最新システム「Ingenia Elition 3.0T」へと更新した。同年4月に発売されたIngenia Elition 3.0Tの国内1号機となる。
|
|
VegaグラジエントシステムでDWIの画質が向上し全身領域の検査に対応
放射線科は診断科と治療科に分かれ,放射線科医6名(画像診断医5名,放射線治療医1名),診療放射線技師18名で画像診断・血管内治療,リニアックによる放射線治療を提供している。MRI検査については,野田誠一郎主任を中心に7,8名が担当する。
片平部長は放射線科の特徴について,「当科は読影室がなく,画像診断医は日中,CTとMRIの各装置に付いて,技師と一緒に検査をしながら,その場でレポートを書いています。医師が画像を見ながら検査を進めるため,必要な追加検査の指示も行えますし,医師と技師が,臨床と撮影技術を互いに学び合えるいい関係が築けていると思います」と話す。
2台で実施しているMRI検査件数は,ここ数年は年間7500件前後で推移している。予約枠は1日28件(1件30分)で,当日オーダや急患を含めると30〜35件の検査を行っている。検査部位の内訳としては,以前から体幹部の検査が多いことが特徴であったが,2013年に脳神経外科が新設されてからは頭部・脊椎と胸部・腹部・骨盤部で約半々となっている。
1.5Tと3TのMRI装置を設置している医療機関では,それぞれの装置の特徴を踏まえて,使い分けを行っていることが多い。同院でも,3T装置が苦手とする広範囲撮像や空気や水を多く含む部位などは1.5T装置で検査を行ってきたが,Ingenia Elition 3.0T導入後は,基本的に装置を使い分ける必要がなくなった。それを可能にしているのが,Ingenia Elition 3.0Tに搭載された新設計の“Vegaグラジエントシステム”や高速撮像技術“Compressed SENSE”だ。
Vegaグラジエントシステムは,高い冷却効率を実現するDirect Coolingシステムとコイルの層構造の改良により,Ingenia 3.0Tと比較して空間分解能を約60%向上。また,渦電流を最小限に抑えるグラジエントデザインの採用により,拡散強調画像(DWI)で約30%の撮像時間短縮,約70%のコントラスト分解能向上を実現し,画質性能が大きく向上した。Ingenia Elition 3.0Tの画質について片平部長は,「Ingenia 3.0Tも基本性能が高く高画質でしたが,Ingenia Elition 3.0Tでは,特にDWIの画質が向上しました。装置選定の際にVegaグラジエントシステムの話は聞いていて期待していましたが,実際に使い始めてみると,DWIの良さは想像を上回っていました」と高く評価する。
Vegaグラジエントシステムでは,渦電流の発生を抑えることで,信号低下やアーチファクト発生の影響を受けやすいDWIの画質改善が図られた。画質向上だけでなく,撮像時間の短縮も可能になっており,野田主任は,「同じシーケンスであれば,以前は6〜7分かかっていた撮像が約3分と,半分ぐらいに短縮しています」と述べる。また,片平部長は,期待以上と評価する理由として負荷のかかる撮像への対応を挙げ,次のように説明する。
「DWIはノイズが増えやすいため,一般的に6〜7mm程度の厚いスライスで撮像しますが,もともとのポテンシャルが高いIngenia Elition 3.0Tでは,3mm程度の薄いスライス厚やb 1500〜2000程度の高b値でも,許容範囲内のノイズできれいな高分解能画像を得られます。ルーチンでは従来からの厚いスライスで撮像しますが,検査中に気になる部分がある症例では一歩踏み込んだ追加撮像が可能になり,診断にとても役立っています」
頭部であればDWIでありながら比較的短時間で1.5mm厚アイソトロピックのボリュームデータを取得し,後から各断面で再構成して観察できるようになったことを,片平部長は「世界が違う」と表現する。
DWI以外にも,Vegaグラジエントシステムにより広範囲撮像や胸部・腸管などの撮像でも,歪みのない明瞭な画像を得られるようになった。体内金属やペースメーカーがある症例および広範囲体幹部DWI,T1マップの正常値判断のために慣習的に1.5Tで検査をしている心臓以外は,1.5Tと3Tを選ばずに検査できるようになり,現場の手間や負担の軽減につながっている。
救急のFast Scanや検査件数増加に貢献するCompressed SENSE
SENSEと圧縮センシングを統合したCompressed SENSEは,幅広いシーケンスに適用可能な高速撮像技術で,全身領域において画質を大きく劣化させることなく高速化を実現する。同院ではIngenia Elition 3.0Tを導入後,EPI-DWIと体動補正のMultiVane以外の多くの撮像にCompressed SENSEを使用し,大きな効果をもたらしている。
2016年の熊本地震で市内の医療機関が被災した影響もあり,特に2017年以降,同院ではMRI検査数が大幅に増加し,現場には過大な負担がかかっていた。しかし,Ingenia Elition 3.0Tの導入でCompressed SENSEを使用できるようになったことで,個々の検査の撮像時間が短縮。検査枠の合間に当日オーダや急患の検査を入れやすくなった。それにより,検査件数が1日あたり5件ほど増加し40件前後まで可能になっているにもかかわらず,業務終了時間は以前より早くなっている。
特に,急患対応として頭部と胆道系ではFast Scanプロトコールを用意しており,頭部検査(DWI,FLAIR,T1,T2,T2*,MRA)は約2分半(実撮像時間は5〜6分)で撮像している。胆道系検査は呼吸同期ではなく息止めでの検査が可能になり,MRCPは約7分に短縮し,急患に対応しやすくなった。
また,腰や頸部の痛みによる脊椎検査にもCompressed SENSEは活躍する。野田主任は,「最初にCompressed SENSEで短時間3D撮像をしておくことで,途中で痛くて動いてしまった場合にも,後からさまざまな画像を再構成することができます」と述べる。全脊椎検査も,Vegaグラジエントシステムで広範囲撮像が可能になり,3T装置にもかかわらず撮像回数が3回から2回に減ったことに加え,Compressed SENSEで高速化したことで,入室から退室まで25分程度で検査できるようになっている。
さらに同院では,がんの再発や転移の検索,熱源検索のためにWhole-Body DWI(以下,wbDWI)も積極的に撮像している。片平部長は,その理由について「wbDWIでは,PETのような画像だけでなく,それ以上の情報を被ばくなしで得ることができます。加えて,PETと比べて安価なので,繰り返しの検査が可能です。また,当院はDPC対象病院で,入院中にPET検査を外注すると持ち出しになるため,wbDWIで代替できることは経営的にもメリットがあります」と説明する。wbDWI は2005年に開始後,右肩上がりに増加していて,現在年間500件ほどを実施する。基本的には1.5Tで検査しているが,Compressed SENSEによりIngenia Elition 3.0Tでも検査可能になった。
wbDWIが3Tで可能になったもう一つの要因が,アプリケーション“Diffusion TSE XD”である。TSE-DWIは,EPI-DWIと比べて歪みにくいが,従来はノイズが増加しやすいというデメリットがあった。しかし,Diffusion TSE XDではSNR向上やブラーリング改善が図られ,Vegaグラジエントシステムによる画質改善と相まって診断に有用なwbDWI撮像が可能になった。Diffusion TSE XD は,頭部や胸部をはじめ全身領域に使うことができ,MultiVaneとの併用も可能だ。片平部長は,「DWIの撮像は,スピードが速く画質が良好なEPIを優先していますが,歪んでしまうと診断に使えず,以前はどうすることもできませんでした。Diffusion TSE XDにより,EPIで歪んだ場合の次の選択肢ができましたし,3T装置では特に歪みが強いので意義が大きいと言えます」と話す。
症例1:高分化肝がん疑い症例(70歳代,女性)
症例2:急性期脳梗塞症例(70歳代,男性)
症例3:神経線維腫症の症例(30歳代,男性)
症例4:肝臓の嚢胞性腫瘍(←)と主膵管拡張(↓)を呈した症例(80歳代,女性)
画質向上にもつながる呼吸同期システムVitalEye
さらに,同院のIngenia Elition 3.0Tには,2019年1月に呼吸同期システム「VitalEye」の国内1号機が実装された。VitalEyeは,赤外線システムにより50msごとに最大100ポイントでの検知を行い,高精度に呼吸の動きをモニタリングすることができる。呼吸が不規則な患者でも正確な呼吸信号を検出でき,咳などの突発的な動きの信号は排除して呼吸同期を行う。従来の呼吸同期撮像で必要だったベルトセンサーは不要で,患者セットアップも容易になる。
同院では,呼吸同期検査はほぼ全例でVitalEyeを使用している。導入前後に検証を行った野田主任は,「MRCPについて検証したところ,VitalEye使用により呼吸同期の画質が向上する結果となりました。ベルトセンサーでは,痩せた患者さんの場合に大動脈の拍動を誤認してしまい画質が劣化することがありましたが,VitalEyeでは咳への対応も含め,ノイズのない呼吸波形データを得られるため,高い精度で呼吸同期が可能です」と述べる。また,片平部長は,「VitalEyeによる正確な呼吸同期は,画質向上につながります。従来の呼吸同期では画像がぶれて膵管が2本に見えてしまうようなこともありましたが,VitalEyeでは明瞭にとらえることができました。もし呼吸が不規則すぎてうまく同期できない場合にも,Compressed SENSEを用いて息止めで撮像するという手もあります」と,Ingenia Elition 3.0Tの臨床における対応力の高さを指摘する。
野田主任は画質以外にも,VitalEyeによりベルトセンサーの位置調整や呼吸同期不良による再撮像がなくなり,患者の負担軽減とワークフロー向上につながるといった利点を挙げる。VitalEyeで検出した呼吸波形はIngenia Elition 3.0Tのコンソールに表示されるほか,ガントリ前面の左右に設置された12インチのタッチスクリーン“VitalScreen”でも確認できる。VitalScreenでは,患者情報や患者体位の確認,心電図波形のセットアップなどが可能で,呼吸同期のセットアップも含めた検査準備をすべてベッドサイドで行うことができる。
患者の負担軽減やワークフロー向上においては,“In-bore Experience”も大きな役割を果たしている。撮像と連動した照明,音楽,映像により患者のストレスを軽減する“Ambient Light”と“SensaVue HD”,検査進行ガイダンスの“AutoVoice”,静音化技術“ConforTone”に加え,新たに“ComfortPlus Mattress”も搭載できるようになった。ComfortPlus Mattressは柔らかく厚みのある低反発のマットレスで,撮像時間の長い検査でも体位を楽に保持しやすくなる。野田主任は,検査環境について患者アンケートを取っており,「閉所恐怖症のため他院で検査できなかったが映像を見ていることで耐えられた,腰が痛くて仰臥位がつらいがマットが柔らかく快適だった,などの声が寄せられており,In-bore Experienceにより検査ができる患者さんが増えていると思います」と話す。また,AutoVoiceにより,検査を進めながら外来からの電話に対応できるなどのメリットもあり,一日のワークフロー全体の向上にもつながっている。
|
|
|
|
高いポテンシャルを生かしMRIに新たな価値を生む
近年,CTではdual energyを利用したMRI like imageの生成が盛んに研究されているが,反対にMRIにおいても,VegaグラジエントシステムによりMRIの高分解能画像がCTに迫りつつある。Compressed SENSE を併用することで0.6mm厚アイソトロピックのような高分解能画像を,時間を延長することなく撮像でき,骨折線や微細な剥離骨折までも描出する。
片平部長は,外傷など有用と考える症例ではCT likeなBone Weighted Imageも併せて提供しており,診療科医からの反応にも手応えを感じていると話す。
「外傷以外にも応用は広く,治療の可否が分かれる椎間板ヘルニアと骨化/石灰化の鑑別など,臨床的判断に影響する画像を取得することができます。コントラスト分解能に優れることがMRIの優位性でしたが,そこに空間分解能の高さが加われば,症例によってはCT検査を省略できる可能性も出てきます」
同院のIngenia Elition 3.0Tへの満足度は非常に高い。今後の展望や期待について片平部長は,「思いついたことはすぐに取り組み,要望に対してフィリップスは迅速に対応してくれているため,満足しています。さらなるブレークスルーがあると期待しつつ,これからも地域に貢献する画像診断に取り組んでいきます」と述べる。
魅力ある病院づくりをモットーとする同院に選ばれたIngenia Elition 3.0Tは,求められる役割を十二分に果たしている。最新装置で画像診断の可能性を切り開く同院の取り組みに,これからも目が離せない。
(2019年10月28日取材)
国家公務員共済組合連合会 熊本中央病院
〒862-0965
熊本県熊本市南区田井島1-5-1
TEL 096-370-3111
病床数:361床
https://www.kumachu.gr.jp