ディープラーニングをもっと身近に!
北の大地でI2WIのワークアウトが開催!!
「Pythonを用いた機械学習(深層学習)」をテーマに,医用画像への応用を学ぶ
ヘルスケアの未来を築く深層学習とGPUコンピューティングの最前線
2019-12-2
医用画像解析・処理を実践的かつ楽しく学ぶI2WI(Imaging Informatics Workout Initiative)が,2019年11月2日(土),3日(日)の2日間,北海道情報大学札幌サテライト(北海道札幌市)で開催された。6回目となる今回は,「Pythonを用いた機械学習(深層学習)」をテーマに,医用画像における深層学習(ディープラーニング)研究の初学者からエキスパートまで54名が参加。冬の到来を予感させる北の大地が熱く盛り上がった。
医用画像解析・処理を“体験”できるI2WI
I2WIは,医用画像解析・処理の最新技術について,実践的に学習する場として2018年から活動を展開している。医師や診療放射線技師,技術者,研究者,学生などを対象としており,ソフトウエアの操作や医用画像解析・処理の体験,講師による専門知識の講義,参加者同士の情報交換などのワークアウトを,2日間かけて行う。
医用画像解析・処理の技術進歩はめざましい一方で,日常業務に追われる中で時間や場所の制約もあり,それらの知識の習得が困難な人が多い。そこで,I2WIの代表世話人である佐保辰典氏(小倉記念病院放射線技師部),世話人の平原大助氏(学校法人原田学園経営企画室人工知能教育・研究開発チーム/聖マリアンナ医科大学大学院医学研究科医療情報処理技術分野応用研究分野)と小林達明氏(Visionary Imaging Services, Inc./聖マリアンナ医科大学大学院医学研究科医療情報処理技術分野応用研究分野)の3名が,2018年からI2WIの活動を開始。さらに,潮 美邑氏(医療法人厚生会小原病院診療放射線科),町山亜希氏(医療法人厚生会神田南口健診クリニック)が世話人に加わり,1年を1クールとして,3回のワークアウトを開催している。
ワークアウトのコンセプトは,(1) ソフトウエアを使った実践的な処理・解析,(2) ソフトウエアを操作するだけでなく,開発してみる,(3) 一緒に研究する,勉強する,楽しむ仲間を増やす,の3つを掲げている。このコンセプトの下,毎回テーマを設けて既存技術や新技術を操作体験などを通じて学ぶことにより,臨床現場ですぐに使えるだけでなく,研究にも応用できる内容構成となっている。
I2WIの参加者がワークアウトで身に付けたAIなどの知識を日常診療の現場や新たな技術へと還元していけば,効率化で質の高い医療が提供可能となり,社会保障費の増大や医療資源の偏在化など重老齢社会の日本が抱える課題解決の一助となると思われる。
PythonとPydicomを基礎から学ぶ
今回のワークアウトは,エヌビディア(NVIDIA)とグーグル(Google)が協賛した。「Pythonを用いた機械学習(深層学習)」をテーマに,深層学習のためのプログラミング言語であるPythonとPythonでDICOM画像を扱うためのライブラリPydicom,深層学習のライブラリであるKerasの基本的な知識と使い方について,講義と演習が行われた。参加者(Web参加者を含む)には事前にデータセットが配布され,各自がノートPCを持参。Web参加者とはSlackでコミュニケーションを図ったほか,動画配信も行われた。
初日11月2日には,まず上杉正人氏(北海道情報大学医療情報学部医療情報学科教授)が講師を務めて,「Pythonの基礎とPydicomの使い方」が設けられた。最初に,Pythonを使った深層学習の統合開発環境であるSpyderと数値計算の拡張モジュールNumPyについて,上杉氏が解説を行った。その上で,Spyderを使って,DICOM画像の読み込み,複数DICIOM画像のタグ情報表示,DICOM画像から汎用性の高いPNG画像への変換,DICOM画像の画像位置でのソート,CT画像の擬似カラー化,自作関数のライブラリ化などの処理を参加者各自が体験した。また,午後も上杉氏が講師を務めて,「GUIを作ってみよう〜PyQtを使ってみる」が行われた。この演習では,PythonでGUIをプログラミングするためのツールであるPyQtを使用して,参加者がDICOM画像のウインドウ表示やボタン作成などを学んだ。
このほか,1日目には,ランチョンセミナーが設けられた。ランチョンセミナーの1題目は,「富士フイルムが考えるAI『REiLI』が目指す新たな診断ワークフロー」と題して,同社の成行書史氏がエヌビディアの「NVIDIA DGX-2」で開発を進めるREiLIを紹介した。さらに,2題目には小林泰之氏(聖マリアンナ医科大学大学院医学研究科医療情報処理技術分野応用研究分野教授)が講演した。
深層学習による研究開発を支えるエヌビディアのGPU
ランチョンセミナーの後には,協賛するエヌビディアの藤山裕子氏(シニア マネージャ,AIコミュニティ&デジタルマーケティング担当)によるプレゼンテーションが行われた。同社は2006年に「NVIDIA CUDA」の発表以降,超音波診断装置やCTなどのモダリティにGPUが搭載され,画像処理能力・解析技術の向上に貢献してきた。さらに,現在では,病変の検出技術等の開発における深層学習にも同社のGPUが数多く採用されている。2018年からはヘルスケア分野にフォーカスしたNVIDIA Claraプロジェクトを開始。2019年春からは,GPUによる高度な画像処理やレンダリングに加え,深層学習をはじめとするAIの研究,開発を加速させることを目的にしたSDK(Software Development Kit)も提供している。このSDKはAI研究で先行する米国,中国,欧州や日本でのAI研究に活用され始めており,米国では臨床現場への導入も進みつつある。
藤山氏はこれらを解説したほか,深層学習の研究のためのGPUのラインアップを紹介した。深層学習には,学習と推論の2つのフェーズがあるが,コンピュータパワーを要する学習には,「DGX」や「Tesla」シリーズなどが適している。一方,推論では,比較的に安価で入手できる「Jetson」シリーズでも十分対応できるという。
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Kerasによる深層学習を体験
初日のワークアウト後半には,平原氏が講師を務めて,「Pythonの画像処理」と「Kerasの基礎」が行われた。まず,「Pythonの画像処理」の演習では,参加者がPythonでの深層学習を行うライブラリなどを集めたAnacondaからプログラミングおよび実行環境のJupyter Notebookを起動させて,イメージプロセッシングを実行する形式で進められた。続く「Kerasの基礎」では,Kerasと2日目の演習で利用するGoogleが無償で提供するクラウド環境,Google Colaboratoryについて説明した。平原氏は,Google ColaboratoryではNVIDIAのGPU環境が使えるので,演算が格段に速くなると強調した。
2日目には,「Kerasによる深層学習分類と回帰」「Kerasによる深層学習領域分割と画像生成」が行われた。平原氏のガイドの下に参加者が胸部単純X線画像の性別での分類,セグメンテーションのアルゴリズムであるU-Netを使った胸部単純X線画像での肺野のセグメンテーション,generative adversarial network(GAN)による画像生成などを体験した。また,平原氏は,医用画像が機微な情報であることを考慮して,実際の研究ではクラウドではなくオンプレミスでGPUコンピューティングを行うことが望ましいと述べた。
さらに,演習の合間には,髙屋英知氏(聖マリアンナ医科大学大学院医学研究科医療情報処理技術分野応用研究分野)が,「機械学習の実践で気をつけたいこと〜情報漏洩を防ごう〜」と題して,データセットの取り扱いについて講義を行った。
AI研究の裾野の拡大に期待
2日にわたる第6回I2WIでは,Webも含め54名が参加した。現在,日本では産官学が一体となってヘルスケア分野のAI技術の開発に力を注いでいるが,今後は研究の裾野を広げていくことも非常に重要となる。
これからもI2WIの活動を通じ,より多くの医療従事者や技術者が実践的にAIを学び,体験することでヘルスケア分野でのAI研究が活性化することが期待される。
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Column
第6回I2WIの参加者の関心を集めたのが,超小型のAIコンピュータである「Jetson Nano」だ。Jetsonシリーズで最もコンパクトサイズで,手のひらに乗る大きさながら,NVIDIAのGPUを搭載。わずか5Wの消費電力で,深層学習におけるデータの推論などに威力を発揮する。
会場では,ビデオカメラの動画像から人の姿勢を検出するソフトウエア「Acculus Pose」(アキュラス:https://acculus.jp
)のデモンストレーションが行われた。Jetson Nanoとビデオカメラを組み合わせたシンプルなシステムから,リアルタイムに人の動きと同期して姿勢を検出。スムーズに追従して,参加者からは驚きの声が挙がっていた。なお,Acculus Poseはパッケージソリューションとしての販売も可能となっている。Acculus Poseを開発したアキュラスは,ヘルスケア分野をはじめ共同研究にも積極的だ。
Jetson Nanoは「開発キット」が提供されており,これから深層学習を始めたいという医療従事者や技術者,研究者,学生に最適な製品である。価格も1万円強で,低コストでの導入が可能であり,ヘルスケア分野のAI研究の裾野を広げるポテンシャルを持っている。
Jetson Nano開発キットは,スイッチサイエンス(https://www.switch-science.com
)などから購入が可能だ。
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■I2WI
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