医知の蔵2.0 × 深谷赤十字病院,星総合病院
進化した「医知の蔵2.0」でBCPとTCO削減のメリットを両立した医用画像管理を実現〜新機能“ILM”でランニングコストを約25%削減,データの価値に応じた最適な画像の保管管理・運用が可能に〜
2015-11-25
ILMのコンセプト
GEヘルスケア・ジャパンが2011年に開始した医用画像のクラウド型外部保管サービス「医知の蔵」が,2014年4月に新たな料金体系や機能を採用した「医知の蔵2.0」へと進化した。特に,新機能で追加された“ILM(Image Lifecycle Management)”は,データセンターに保管されている医用画像データを,ユーザーの設定に基づいて自動的に圧縮・削除する。この機能によって,参照率の低い5年以上前の検査画像を非可逆圧縮してデータサイズを縮小し,データセンターのストレージ使用量を減らすことが可能になり,医療機関はより低コストで医知の蔵2.0を利用できるようになる。そこで,ILMを利用しランニングコストを抑え,効率的にサービスを利用している深谷赤十字病院と星総合病院を取材した。
BCPとTCO削減に貢献する医知の蔵2.0
●大手モダリティメーカーが提供するサービスという信頼性
GEヘルスケア・ジャパンは,2011年から医用画像のクラウド型外部保管サービスである医知の蔵を提供している。このサービスは,医療機関が自施設内で保管しているCTやMRIなどの医用画像を,外部のデータセンターに保管するものである。データセンターは,通信企業大手であるソフトバンク(旧・ソフトバンクテレコム)が提供しており,医療機関と接続されるプライマリサイトと,プライマリサイトのデータをバックアップ保管するセカンダリサイトが国内2か所にある。サービスは,厚生労働省,経済産業省,総務省のガイドラインに準拠しており,導入施設はセキュアな環境で利用できる。
医知の蔵では,医用画像の保管を「2ティア型」と呼ばれる方式で行う。これは,検査直後の画像から検査後5年程度までの画像を医療機関内に設置した短期ストレージ(Short Term Storage:STS)に,5年以上前の画像を,データセンターの長期アーカイブ(Long Time Archive:LTA)に保管するものである。実際の運用では,医療機関内のPACSサーバをSTSとして直近のデータが保管され,医知の蔵のプライマリサイトに長期保管データと直近のデータのバックアップデータが保管される。さらに,セカンダリサイトには,プライマリサイトのバックアップデータが保管される。これにより,災害時におけるBusiness Continuity Plan(BCP)にも有用である。
また,利用頻度が高いデータを医療機関内に保管することで,高速に表示できる。一方で,利用頻度の低いデータをデータセンターに保管することで,PACSのストレージの導入や設置スペースにかかるイニシャルコストを減らし,さらに電気代やシステム管理の人件費といったランニングコストを抑えるなど,医用画像管理におけるTotal Cost of Ownership(TCO)の削減に大きな効果をもたらす。
●医知の蔵2.0のILM機能で医療画像管理をさらに効率化
2011年に発表後,埼玉県の深谷赤十字病院で稼働を開始した医知の蔵は,その後導入施設数を増やしてきた。そして,2014年4月には,サービス内容と機能を強化した医知の蔵2.0へと進化した。
医知の蔵2.0で新しくなったものとして,まずサービスラインの拡充が挙げられる。2か所のデータセンターで同等のデータ保管を行っていた従来のサービスを「医知の蔵プレミアム」とし,新たにセカンダリサイトではバックアップ機能だけに絞り込み,安全性を担保しつつコストを低く抑えられる「医知の蔵ベーシック」を設けた。これによって,より多くの医療機関がサービスを利用しやすいようにした。また,医知の蔵2.0では,新しい料金体系も導入された。従来はデータセンターのデータ量に応じた従量課金制だったが,新体系では月ごとに発生したデータに応じた課金となる。データセンターへ送られるデータ量が毎月一定であれば料金も一定化され,医療機関は予算化がしやすいというメリットがある。さらに,課金の単位を従来のTBからGBへと変更したことで,ユーザーはより細かく利用料を算出できるようになり,コスト削減にもつなげられる。
そして,最も大きなトピックなのが,新機能のILMである。ILMは,データセンターにある医用画像の圧縮や削除を医療機関が主体的に設定し管理できる機能である。施設名や検査日,モダリティ,被検者年齢などのDICOMヘッダー情報から,圧縮や削除を行う対象データの条件を設定することが可能である。利用頻度が低い過去画像を高い圧縮率で保管するなど,医療機関の運用に合わせて細かな設定を行うことで,データセンターのデータ量の増大化を防ぎ,ランニングコストを抑えられる。
●ILMによるTCO削減の成果を出している施設も続々
ILMにより,医療機関は参照率の低い過去画像のデータを自動的に圧縮し,診療の質を落とさず,効率的な医用画像管理が行えるようになった。すでに,医知の蔵のユーザーの中には,ILMを積極的に活用し,TCO削減などのメリットを享受している施設がいくつか出てきている。
今回は,医知の蔵のファーストユーザーである深谷赤十字病院と,東北地方で最初に導入した星総合病院のILM活用事例を紹介する。
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ILMによる効率的な医用画像管理でランニングコストを約25%削減
深谷赤十字病院
●BCPの一環として医知の蔵を導入
深谷赤十字病院は,埼玉県の北部保健医療圏の地域中核病院である。地域災害医療センターの指定を受けており,大地震などの災害時には,災害医療の中心施設としての役割を担うことになっている。医知の蔵の導入も,地域中核病院の使命を果たすためであったと,放射線科部の清水文孝技師長は説明する。
「2011年3月の東日本大震災では,被災地の医療機関に大きな被害が出て,津波により診療録やフィルムなどが消失したケースがありました。当院のような地域中核病院は,災害時でも診療を継続する必要があり,診療情報が消失するようなことがあってはなりません。そこで,安全に管理する方法として,医知の蔵の導入を検討しました」
さらに,医用画像管理にかかるコストの観点からも,クラウドサービスを利用するメリットは大きいと考えたと,清水技師長は述べる。
「日常診療の中で発生する医用画像をPACSのストレージで保管し続けると,いずれはストレージの増設と設置スペースの拡張が必要になります。特に,CTの多列化やMRIの高磁場化が進んだことで,1検査で発生するデータ量が増大化しており,ストレージ増設や設置場所の確保,電気料金や管理のための人件費など,TCOの増加は避けられません。この問題を解決する手段として,クラウドサービスは有用だと考えました」
採用に当たっては,施設内でデータを保管し続けた場合とデータセンターで保管した場合のシミュレーションを行い,比較したという。そして,クラウドサービスを利用した方が低コストで運用できるという試算結果が出たことから,医知の蔵の採用を決定した。
●モダリティごとの圧縮率など運用に合わせて設定できるILM
こうして深谷赤十字病院では,2011年9月から医知の蔵の試験運用を開始し,2012年3月からは本格運用へと移行した。医知の蔵の導入により,災害時の診療の継続が担保されたことは,地域災害医療センターとして大きなメリットだと言える。それに加え,自動的に外部データセンターにバックアップがとられることは,放射線科部の医用画像管理業務の負担軽減につながった。
しかし,一方で,医知の蔵の運用開始時に約4TBだったデータセンターのデータ量が,使用年数が増えるとともに増加していった。医用画像管理を担当する放射線科部の富田欣治技師は,「2011年に試験運用を開始した時にはデータセンターのデータ量はおよそ4TBでしたが,毎月約100GB,1年間で1〜1.5TB程度増加しています。これは医知の蔵導入後に,超音波画像を新たに保管したことや,CTのデータ量が大幅に増えていることが原因です」と述べている。その結果,2015年にはデータセンターのデータ量が7.5TBにまで膨れ上がってしまった。
データ量の増加は,医知の蔵の運用コストに跳ね返ることになる。清水技師長は,「今後,ハイエンドクラスのモダリティを導入すればさらにデータ量が増大化し,導入前に行った運用シミュレーションよりも費用がかさむことが予想されます。それを低く抑えることが,長期にわたりクラウドサービスを利用していくためには必要だと考えました」と説明する。
こうした状況の中,医知の蔵が2.0へと進化し,新たにILMの機能が追加された。そこで,同院でもILMを用いて,データセンターの過去画像データを圧縮して使用量を削減し,コストダウンを図ることとした。
同院では,2015年2月ごろから,どの過去画像をどの程度圧縮するかの検討を行った。ガイドラインなどでは医用画像の保管義務は5年となっているが,同院の場合5年以上前の過去画像の参照率が約1%となっており,非常に低いことがわかった。このことから,データセンターにある5年以上前の過去画像をILMで圧縮することとした。さらに,どの程度の圧縮率ならば,診断・参照に適した画質を維持できるのかを検証した。同院の指示にて,GEヘルスケア・ジャパンが検証用のX線一般撮影,CT,MRIなどの画像圧縮データを加工し,各診療科の医師がその画像を見て評価を行った。富田技師は次のように説明する。
「検証のために,頭部,胸部,腹部,四肢の各領域で,X線一般撮影,CT,MRIの画像を用意しました。圧縮は,JPEG2000の非可逆圧縮方式で行い,圧縮率の低い方からR=5:1,10:1,15:1,20:1,30:1,40:1,50:1(編注:ILMの設定に用いる圧縮率は理論値であり,実際にILMを実行した結果の圧縮率は,画像により多少の差異が生じる)の7段階のデータを用意しました。そして,各領域の画像をそれぞれの診療科,例えば,頭部領域のCT,MRIの画像を脳神経外科の医師に検証してもらいました」
この検証では,モニタ上に元画像と圧縮画像を並列表示して,その違いを比較する方式がとられた。ILMではDICOMヘッダー情報により,部位・領域別でも圧縮率を変えて設定できるが,同院では運用効率を考慮し,一律にCTとMRIはR=10:1に,X線一般撮影はR=50:1で統一することとした。
そして,ILMによるデータ圧縮について,院内の医師や診療放射線技師,看護師,事務職員などで構成されるIT委員会において報告。さらに,院長をはじめとする幹部,医局会の承認を得て4月に決定し,5月から本格的な運用を開始した。
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●ILMによりデータ量が約2TB減少し利用料を約25%削減
ILMの運用は,最初に医知の蔵2.0のポータルサイト「蔵Navi」の管理画面上で,対象となるモダリティの圧縮率や検査年月日の設定を行う。この作業を富田技師と小林茂幸技師が行い,飯島秀信第二放射線課長が承認して,処理を実行した。この最初の設定をすれば,後はデータセンターに保管された5年以上前のX線一般撮影,CT,MRIのデータが,自動的に圧縮されるようになる。なお,圧縮率の変更や対象モダリティの追加なども可能で,医療機関の状況に応じた柔軟な運用ができるようになっている。
すでに半年が経過しているが,5年以上前の検査画像を圧縮していることで,データセンターのデータ量は約7.5TBから約5.5TBへと減少した。これにより,利用料を25%程度下げることができ,コスト面でも大きなメリットにつながっている。さらに,TCO削減という観点からも,ILMの効果が出ていると,清水技師長は指摘する。
「耐震設計のサーバ室や別の階にバックアップ用サーバ室を設けるといった災害時でも運用できるPACSを院内に構築した場合と,医知の蔵2.0を利用した場合を比較すると,2011年からの4年間で約60%ものTCO削減効果があります。また,BCP対応を講じない場合では約24%のTCO削減効果になります。特に初期費用や保守費用を抑えることができ,ストレージを増設する必要がなく,最小限の設備投資ですんでいることは,病院経営にも貢献していると思います」
地域災害医療センターである同院にとって,医知の蔵2.0は災害時でも診療を止めないための重要なインフラであるが,ILMを利用することで,より無駄のない,効率的な医用画像管理が可能になったと言える。
●中長期的な視点で考えることでTCO削減のメリットをもたらす
医知の蔵2.0のようなクラウドサービスは,PACSの更新時にもメリットがあるという。施設内でのデータ保管は,PACS更新時のデータ移行に時間とマンパワーがかかり,それがコストに反映される。しかし,医知の蔵2.0では,データ移行が発生することなく,スムーズな更新が実現する。清水技師長は,「医用画像管理は,このようなシステム更新も踏まえた,中長期的な視点で取り組む必要があります」と述べている。長い目で見るほど,医知の蔵2.0,そしてILMでの画像圧縮は,医療機関にTCO削減というメリットをもたらすのである。
(2015年10月13日取材)
ILMの利用によりデータセンターのデータ量を約18%削減しコストダウンを実現
星総合病院
●東日本大震災の経験からBCPの一つとして医知の蔵を導入
1927年に星医院として福島県郡山市に開院した星総合病院は,長年にわたり「オラが病院」として,地域住民の健康を守り続けてきた。現在では,看護学校や介護老人保健施設などを運営する公益財団法人として,地域医療にとどまらず,福祉,保健,介護の分野で重要な役割を果たしている。
その同院が新病院を現在地に新築移転したのは,2013年。新病院では,地域医療を担うために,ヘリポートなどの設備のほか,モダリティの充実化を図っている。その一つが,医知の蔵の導入である。放射線科の続橋順市技師長補佐は,「2011年の東日本大震災では,旧病院の一部が崩落し,PACSのサーバ室の隣室が雨漏りする被害が出ました。この時の経験から,災害時にデータの消失を防ぎ診療を続けるため,BCPの一つとしてクラウドサービスの利用を考え,医知の蔵を導入することに決めました」と述べている。
●放射線部門の全検査の長期保管データをILMで圧縮保存
星総合病院では,2015年5月から医知の蔵2.0に更新して,ILMによるデータセンターの長期保存データの圧縮を行っている。続橋技師長補佐は,「ILMの説明を聞いた時は,非常に良い機能だと思いましたが,まだ実際に長期保管のデータを非可逆圧縮している例がほとんどなく,不安な面もありました。しかし,データセンターのデータ量が増加すればコストも上昇し,病院にとっても負担が増えていきます。幸いにも当院のPACSのストレージに余裕があり,長期保管のデータも保管できていたので,ILMを利用してみようと思いました」と,導入の経緯について述べている。その後,院内の診療情報管理委員会の場で,5年以上前の長期保存データを非可逆圧縮方式で保管する了承を得て,さらに医局会でも説明を行い,ILMの運用が決定した。
同院では,現在,CT,MRI,X線一般撮影,X線透視撮影,血管造影,マンモグラフィ,核医学,超音波といった放射線部門全検査の長期保管データを,ILMで非可逆圧縮している。圧縮率はX線一般撮影,X線透視撮影,マンモグラフィは高圧縮率のR=50:1で,それ以外のモダリティはR=10:1に設定している。この設定は,常勤の放射線科医と診療放射線技師が,モニタ上で元画像との比較を行い,同等の画質を維持できる圧縮率として決定した。
●ILMを利用することでコストを抑えつつ災害からデータを守る
実際にILMを利用したことで,データセンターのデータ量は約4.5TBから約3.7TBへと,約18%減少した。星総合病院における医知の蔵の保管データは,年間20%程度増えており,ILMにより,データ量の過度な上昇を抑え,利用料の安定化にもつながっている。同院の場合,ILMを利用することで,年間130万円程度のコストダウンが見込めると試算が出ている。続橋技師長補佐は,「医知の蔵の導入により,医用画像管理にかかる人件費や電気代などを抑えることができました。さらに,当院では,医知の蔵2.0に更新する際に,利用料を抑えられる医知の蔵ベーシックでの契約にしました。これにより,災害からデータを守るという安全性を維持しつつ,ILMも利用することで,長期にわたり低コストで運用していくことができます」と話す。
東日本大震災という未曾有の災害を経験した同院だからこそ,医用画像などの診療記録を安全に管理し,災害時にも診療を継続していくことの重要性を知っている。いつ起こるかわからない災害に備えるためにも,TCO削減を図りつつ,大切なデータを守ることができる医知の蔵2.0は,同院にとって最良の選択と言えるだろう。
(2015年10月22日取材)
*医知の蔵2.0は,非医療機器です。
本記事はGEヘルスケア・ジャパンの依頼に基づきインタビューを行い作成したものです。
●お問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社 ヘルスケア・デジタル事業本部
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