医知の蔵 × 公益財団法人 星総合病院
「医知の蔵」導入によるクラウド化で医用画像管理の効率化と災害に強い診療環境を実現 ─ 高セキュリティのデータホスティングサービスがもたらす安心・安全なフィルムレス運用
2013-10-1
福島県郡山市に位置する星総合病院は,2013年1月に新築移転による新病院が開院した。ポラリス保健看護学院などが併設された新病院は,ハイスペックのモダリティや電子カルテなどが導入されている。なかでも大きなトピックと言えるのが,GEヘルスケア・ジャパンが提供するデータホスティングサービス「医知の蔵」を東北地方で初めて導入したことである。この医用画像管理のクラウドサービスを利用することにより,同院では災害時のBCP対策として,診療を止めないデータ運用環境を実現。さらに,データ管理の省力化により,業務効率の向上というメリットを放射線科にもたらしている。そこで,同院における「医知の蔵」導入のねらいと実際の運用状況について,星 北斗理事長と放射線科の続橋順市技師長補佐を取材した。
■地域住民の「オラが病院」として新病院が開院
福島県郡山市にある星総合病院は,前身である星医院が1927(大正14)年に市内で開院したことに,その歴史を遡る。創始者である星 一郎氏が霊をも癒すという思いを込めた「醫霊」を理念に掲げ,その後着実に発展してきた。星病院,星第一病院と改称し,1968(昭和43)年には現在の星総合病院へと名称を変更。施設の拡充を図るとともに,周辺地域に附属病院を開設しているほか,現在,三春町立三春病院の指定管理を受託するなど自治体病院の運営も手がけ,「オラが病院」として,地域医療に貢献してきた。
一方で,医療人を育てることにも長年力を注いできた。1960(昭和35)年に附属の准看護師養成所を設立し,1977(昭和52)年には,高等看護学院を開校して,福島県を中心に地域医療にかかわる看護師の育成に取り組んできた。さらに,医療だけでなく介護・福祉分野においても,介護老人保健施設や訪問看護ステーション,地域包括支援センターなどを運営しており,地域包括ケアに取り組む法人として,人口56万人の県中医療圏で,地域医療の重責を担っている。星理事長は,「当院は急性期医療を担う病院ですが,それだけでは高齢者人口の増えるこの地域の医療はうまく機能しません。回復期,さらには介護までをトータルでケアしていくことが私たちの使命だと考えています」と,地域医療への思いを語る。
その星総合病院が2013年1月に新築移転し,新病院を開院した。430床の病床を有し,外来棟の屋上には,ドクターヘリのヘリポートを設置するなど,地域医療を支えるための設備が充実している。また,敷地内には,300人以上を収容できる講堂を備えたポラリス保健看護学院の新校舎が併設されており,診療だけでなく人材育成の場としても条件がそろっている。星理事長は,「新病院では,外来棟と入院棟を分棟し,検査部門を集中的に配置するなどして,入院患者さんが安心して療養生活を過ごせるような設計にしています。また,外来患者さんや入院患者さん,お見舞いの方の動線を考え,入り口を4つ設けるなどの工夫をしています」と,新病院の設計のポイントを述べている。
新病院の開院にあたっては,患者さんだけでなく,職員のための環境についても十分な配慮がなされており,ハイスペックのモダリティや電子カルテなどのIT化による,高度で効率的な診療ができるよう整備が図られた。なかでも,放射線部門では,従来のPACSをさらに発展させ,GEヘルスケア・ジャパンのデータホスティングサービスである「医知の蔵」を導入。外部サーバを用いたクラウド環境下でのデータ運用を開始し,医用画像管理の効率化や災害時のBCPなどの面で,病院経営にも貢献している。
■PACSの安定稼働による高い信頼性で「医知の蔵」を採用
星総合病院では,2008年に64スライスCTの導入に合わせPACSを導入。GEヘルスケア・ジャパンの「Centricity PACS」による医用画像管理を開始した。当初は,フィルム出力を併行する運用としてデータをサーバに蓄積し,フィルムレス化に向けての環境づくりに取り組んだ。そして,その1年後の2009年にビューワを導入。マンモグラフィ以外のCT,MRI,RI,X線撮影装置のフィルムレス運用へと移行した。
こうした中,病院全体としては新病院の建築計画が進んでいたが,放射線部門では問題が起こっていた。それは,新病院が開院する半年前の2012年8月には,PACSサーバのストレージの空き容量が不足してしまうという問題であった。新病院の開院時期とPACSの更新時期に半年のズレがあるため,ストレージの増設も検討されたが,わずか半年の期間のためにコストをかけるには無駄が大きい。新病院建設費用や,それに伴う経費を考慮すると,負担を最小限に抑え旧病院のPACSを運用しつつ,新病院でシステム更新することが求められた。
そこで,続橋技師長補佐は,「医知の蔵」を導入し,旧病院のデータをクラウドサーバに移行して,2012年8月から2013年1月の開院までの6か月間分のストレージ容量をPACSサーバに確保することを提案した。クラウドサービスの利用というアイデアについて,放射線科の続橋技師長補佐は,次のように説明する。
「いろいろと試行錯誤を重ねた結果,将来へとつながる対応策としてこの方法を思いつきました。もともとクラウドサービスにも非常に関心があり,私自身も利用してみたいと思っていました。また,2011年3月の東日本大震災において,旧病院では建屋が一部崩落し,その他使用設備を制限され,診療規模が1/3になるなどの大きな被害が出ました。このことから,災害時にデータの消失を防ぎ診療を継続するという,BCPの観点からもクラウド化は重要だと考えていました」
さらに,続橋技師長補佐は,「医知の蔵」を選定した理由について,「旧病院のCentricity PACSがきわめて安定稼働をしていたことに加え,営業,保守などGEヘルスケア・ジャパンのサポート体制もしっかりして,私たちの要望にも速やかに対応してくれました。システムだけでなく,保守サービスも含めたトータルでの信頼性が非常に高いことから,採用を決定しました」と続ける。
しかし,「医知の蔵」の導入が決まったものの,病院全体での移転業務の繁忙により契約が遅れ,2012年8月に間に合わないという事態が発生した。そこで,急きょ,旧病院のPACSに新病院で運用するサーバの8TB(実効容量24TB)のNAS(Network Attached Storage)を一時的に設置。新病院開院までの期間のデータを保存して,開院に合わせて移設し新しいPACSのストレージとして利用することにした。これに伴い「医知の蔵」の運用も,新病院開院後へと延期することになった。
こうして同院では,2013年3月から本格的に「医知の蔵」の運用を開始。東北地方初の「医知の蔵」ユーザーとして,現在に至っている。
■情報管理のプロによる医用画像管理のクラウド化
「医知の蔵」は,GEヘルスケア・ジャパンが2011年7月に開始した医療機関の画像データを保存,管理するクラウド型のデータホスティングサービスである。料金は初期費用と月額基本料金が無料で,1TBごとの従量課金制となっている。2011年10月から深谷赤十字病院で試験運用を開始し,2012年3月から本格運用を行っており,ユーザー数を着実に伸ばしてきた。ソフトバンクテレコムのデータセンターを用いており,厚生労働省,総務省,経済産業省がそれぞれ示した医療情報システムの安全管理や外部保存に関するガイドラインに準拠している。さらに,GEヘルスケア・ジャパンは,「医知の蔵」の事業にあたって,情報セキュリティ管理のためのISMS(Information Security Management System)認証を取得した。
同社では,PACSの医用画像管理に関し,2tier型という2層構造でのデータ保存を行うことを想定しており,それぞれ3〜5年以内の新しく発生したデータを保存する短期ストレージ(Short Term Storage:STS)と,長期間保存するための長期アーカイバー(Long Term Storage:LTS)と位置づけている。「医知の蔵」は,長期アーカイバーとしての役割を担うほか,短期ストレージのバックアップストレージとしての機能も持つ。一方,短期ストレージは,日常診療で使用する画像を保管することから院内に設置されるので,LAN環境下での高速な画像配信が可能であり,読影や参照のための画像をストレスなく表示することができる。このような2層構造のデータ保存により,従来の読影・参照環境を変えることなく,ストレージにかかるイニシャルコストを抑えたフィルムレス運用を可能にしている。加えて,「医知の蔵」のデータセンターに短期ストレージのバックアップデータを含めて保存していることは,院内のストレージを更新する際にも,短期間でスムーズにデータを移行することにもつながる。さらに,データセンターは,500km以上の距離を確保した国内2か所に二重化して保存されており,災害などに対しても万全の対策がとられている。
一方,データ送受信のためのネットワーク回線は,同社のPACSやモダリティのリモートメンテナンスシステム「InSite」で使用しているIPsec VPNによる回線をそのまま利用することが可能である。これにより,新しい回線を敷設するコストをかけずに,高いセキュリティのネットワーク環境で,安心して運用できる。
こうした「医知の蔵」の特徴は,新病院における医用画像管理のコンセプトにも合致したものだと言える。星理事長は,「自院のサーバだけでデータを保存することは,セキュリティ上決して安全とは言えません。しかも,サーバ室など設置スペースを考慮すると,無駄が多いと言えます。だからこそ,“餅は餅屋”の言葉のとおり,情報管理のプロフェッショナルに任せた方が,安心かつ合理的です」と,医療におけるクラウド活用の重要性について説明している。
■3病院連携を可能にしたネットワークシステム
2013年1月に開院した新病院では,Centricity PACSに加え統合参照ソリューションである「Centricity CDS」も導入して,フィルムレスとペーパーレス環境を進めている。PACSは旧病院に短期間設置したNASを移設し,実効容量計48TBとなったサーバを院内に設置している。このサーバには,星総合病院に加えて,関連病院の星ヶ丘病院,町立三春病院のデータも保存している。さらに,3病院間で患者ID連携を行い,同一画面上で3病院の画像・スキャンデータの参照が可能になっている。このほか,超音波検査の画像もPACSに保存している。なお,3D画像とthin sliceデータは,シンクライアント型画像処理ワークステーション(AWサーバー*)に保存することとし,これにより院内のどこからでも3D画像の参照・作成ができるようになった。また,動画サーバもCentricity CDSと連携し,Webでの参照が可能となっている。
3月からスタートした「医知の蔵」を用いたデータ運用では,まず3病院で撮影された画像が星総合病院内にある検像システムに送信され,担当の診療放射線技師によるデータの確認作業が行われる。その後,院内のサーバに保存され,さらに3日後にバックアップデータが「医知の蔵」へ転送されることになっている。
3日という期間は,画像が追加となる可能性を考慮したためである。一方,旧病院の過去画像は,3月の運用開始とともに,「医知の蔵」への転送を開始。サーバに負荷のかからないよう毎日夜間に処理を行い,半年かけて移行した。これについて続橋技師長補佐は,「『医知の蔵』の管理用ポータルサイトである『蔵Navi』で,データ量を示すグラフが伸びているのを確認していましたが,それ以外特に私たちスタッフの作業が発生することはなく,スムーズに移行できました」と述べている。
実際の診療において,放射線科の読影や各診療科が参照する画像は,院内のPACSサーバのデータを使用している。ストレージの容量が48TBあり,旧病院の画像を含め全データが保存されているため,過去画像を参照する場合もDICOM Q/Rで自動的にPACSサーバにアクセスするようになっている。なお,院内と関連の2病院へは,Centricity PACSの特長であるProgressive Waveletという可逆圧縮技術とダイレクトメモリアクセスによる高速化を生かして,オリジナル画像を配信しており,高精細画像を表示することが可能である。同院のように高画質のオリジナル画像を配信するという運用は,診療の質の向上にも結びつくと考えられる。
このほか,外部保存において最も重要となるセキュリティについて,続橋技師長補佐は,「GEヘルスケア・ジャパンとソフトバンクテレコムという大手企業が手がけるサービスなので信頼して利用しています。私たちが『蔵Navi』にアクセスする際も厳重なパスワード管理がされており,そのために煩雑な面もあるものの,安心につながっています」と述べる。「蔵Navi」の利用には,毎月変更されるパスワードを入力するほか,管理者用に付与されるセキュリティトークンにより一定間隔で変更されるワンタイムパスワードを入力する必要がある。こうした強固なセキュリティ対策が,医知の蔵の信頼性の高さに結びついている。
■BCP対策と業務効率の向上にメリット
「医知の蔵」の運用を開始してから半年が過ぎたが,放射線科の業務においてメリットが生まれている。BCPの観点からのデータ保全対策として,「医知の蔵」のようなクラウドサービスの利用は,重要であると続橋技師長補佐は語る。
「東日本大震災後の建物の雨漏りでは,サーバ室の被害はありませんでしたが,バックアップデータを記録したUDOを避難させました。それが,『医知の蔵』の導入によって,データセンターにバックアップデータがあるため,大切なデータを消失することなく早期に復旧できることは,非常に心強く思います。災害に強いクラウドは,大きな安心につながります」
また,Centricity PACSと「医知の蔵」によってデータ管理業務が簡略化され,効率化が進んだこともメリットに挙げられる。続橋技師長補佐は,「旧病院では定期的にUDOを用いてバックアップ作業を行っていましたが,新病院では
Centricity PACSのバージョンが4.0となり,さらに『医知の蔵』のデータセンターにバックアップデータが保存されるので,その作業が必要なくなりました」と述べている。サーバ室に足を運ぶ機会も大幅に減り,その時間を放射線科内の業務に振り分けることができるようになった。
星理事長も,クラウド化によるデータ管理の省力化が,質の高い検査に結びつくと期待している。
「検査を行う診療放射線技師は,低侵襲で精度の高い画像を得るために苦労しています。クラウドによって,スタッフのいままでの管理業務が軽減されれば,その分,患者さんの負担を少なくする検査に意識を向けることができます」
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■地域医療連携での「医知の蔵」の活用をめざす
「医知の蔵」導入後の星総合病院では,今後,サーバ室の省スペース化やハードウエアの導入,メンテナンス,更新などによるTCO(Total Cost of Ownership)の削減効果が明らかになってくる。このようなコスト面でのメリットを明確にして,「地域のインフラ整備状況に合わせて,院内のサーバを最小限にとどめてクラウド利用を拡充させていくことも,将来的には検討していきたい」と,続橋技師長補佐は述べている。さらに,続橋技師長補佐は,地域医療連携にもクラウドを活用していきたいと考えている。「現在は関連の3病院間で画像を共有していますが,さらに近隣の病院や診療所が画像を参照できる環境をつくっていくことが大事だと考えています」と将来展望を説明する。
地域医療連携については,星理事長も重視しており,今後は在宅医療や介護も強化していくとしている。
「在宅医療のあり方を変えるような事業を展開したいと考えています。これまで私たちは患者さんの“病気”にだけ目を向けてきましたが,今後は患者さんの“生活”全般を支えていくようなサービスが重要です。これを実現するためには,従来の“連携”という枠組みを超えて,各種の事業者のサービスを“統合”していくような事業を展開したいと考えています」
このような星総合病院の将来像の中で,診療情報の共有などのためにも,ツールとしてのITは欠かせない。同院では,これからも「医知の蔵」を活用し,地域医療の充実を図っていくことにしている。
*AW Server
医療機器認証番号:22200BZX00295000
販売名称:AWサーバー
(2013年8月5日取材)
公益財団法人 星総合病院
住所:〒963-8501
福島県郡山市向河原町159-1
TEL:024-983-5511
病床数:430床
診療科目:内科・心療内科・消化器内科・循環器内科・呼吸器内科・神経内科・緩和ケア内科・リウマチ科・小児科・外科・消化器外科・呼吸器外科・乳腺外科・肛門外科・整形外科・形成外科・美容外科・脳神経外科・心臓血管外科・皮膚科・泌尿器科・産婦人科・眼科・耳鼻いんこう科・気管食道外科・精神科・リハビリテーション科・放射線科・病理診断科・麻酔科・歯科・歯科口腔外科
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