AlluraClarity FD10/10 × 倉敷中央病院心臓病センター
PCIの第一人者が評価する高画質と50%の被ばく低減を実現して血管内治療を支援 ─ClarityIQテクノロジーや自由度の高いバイプレーンでCTO(慢性完全閉塞)などの高度な手技に対応
2013-5-1
光藤センター長と心臓カテーテル室スタッフ
倉敷中央病院心臓病センターは,日本におけるPCI(経皮的冠動脈形成術)の第一人者である光藤和明センター長(兼副院長,兼臨床研究センター長)を中心に,年間1400例以上の症例を手掛ける日本でも有数のハートセンターである。同センターでは,フィリップスエレクトロニクスジャパンの血管撮影装置を6部屋に導入して診断,治療を行っているが,2012年9月,同社の最新の血管撮影装置である「AlluraClarity FD10/10」を導入し,CTO(慢性完全閉塞)など高画質が要求される手技を中心に活用している。ClarityIQテクノロジーによって高画質と被ばく低減を両立したAlluraClarityでの診療の現況を光藤センター長に取材した。
■心臓病にチームで対応する施設として,2005年に心臓病センターを設立
岡山県倉敷市の倉敷中央病院では,2000年以降,急性期医療に特化した診療科の専門分化とセンター化に取り組み,高度で質の高い医療を提供する体制を整えてきた。心臓病に対しては,循環器内科と心臓血管外科が1つのチームとして診療にあたる体制を組み,1987年から“心臓病センター”として運営されてきたが,2005年にその診療体制を実体化する施設が建設された。心臓病センターにおける診療のポリシーについて,光藤センター長は次のように説明する。
「センターの目的は,心臓病の治療に対して1つのチームとして対応することです。循環器内科と心臓血管外科が連携することはもちろんですが,看護師や検査技師を含めて,スタッフ全員が一人ひとりの患者さんに対して,最もよい形で医療を提供できる体制を整えました。施設としては外来,検査,治療,病棟をコンパクトにまとめ,患者さんの近くにスタッフが集まれるようにし,スタッフ間のコミュニケーションを密にして,チーム全体が連携して質の高い医療を提供できるようにしています」
心臓病センターは,病院の北東側の第9棟の一角にあり,外来は循環器内科4診,心臓血管外科2診の一般外来のほか,緊急の治療が必要な患者に24時間体制で対応する救急外来を設けている。地下1階には,心臓血管撮影装置が6室と心臓用X線CTを設置,2階には循環器内科系のCCU-C(20床),心臓外科系のCCU-S(10床),隣接して心臓血管外科の手術室2室を配置する。外来と救急入口のある1階,地下と2階は患者搬送専用の直通エレベーターで結ばれており,適切な治療が迅速かつ安全に行えるように設計されている。また,同じ第9棟3〜7階に114床の病棟がある。
循環器内科では,「モービルCCU(mobile Coronary Care Unit)」を1982年から運用している。防振機能付ベッドやモニタリング機器などを搭載した高規格救急車に,同科の専門医,看護師が同乗して,搬送中から処置を開始する。モービルCCUは心臓病センターの外来横付けが可能で,患者を専用エレベーターで地下の血管撮影室や2階の手術室に直接搬送することができる。モービルCCUの2011年の出動件数は437件となっている。そのほか,フォローアップなどの目的で,年間1500件近い日帰り(外来)カテーテル検査を行っており,地下1階に日帰りカテ用の30床のベッドを用意している。
循環器内科の医師は現在32名。心血管カテーテル(PCI),不整脈・電気生理,超音波などの領域ごとに責任者をおいて診療にあたっている。心臓血管外科との連携については,「チーム医療を円滑に行うためには,信頼関係を築くことが大切です。患者さんの病気を治すと言うことを第一に考え,お互いがもたれ合うのではなく,まず自分たちが質の高い医療を実践して,その上で互いに敬意を持って連携することが重要です」と光藤センター長は語る。
■心臓病センターの血管撮影装置をオールフィリップスで構成
心臓病センター地下1階の血管撮影室は,心臓血管用の5室と小児科・脳神経外科用の1室で構成されている。心臓血管用はAllura Xper FD10/10が4台,小児科・脳神経外科用にはAllura XperFD 20/20など,すべてフィリップス社製の装置が導入されている。以前は他社の血管撮影装置が導入されていたが,フィリップスの装置を選択した理由を,光藤センター長は次のように述べる。
「血管撮影装置がアナログからデジタルに移行する時に,それまでの装置からフィリップスに変わりました。その時に重視したのは透視画像です。インターベンションのためには,撮影画像ではなく透視画像の画質が良いことが第一です。デジタル画像を評価した時に,アナログと変わらない自然な画像処理や,肺野など重なる部分でも血管やガイドワイヤが見えるダイナミックレンジの広さなどを評価してフィリップスを選びました」
■ClarityIQテクノロジーで高画質と低被ばくを同時に実現
2012年9月,同センターにフィリップスの血管撮影装置「AlluraClarity FD10/10」が導入された。AlluraClarityシリーズは,同社の新しい血管撮影装置で,ClarityIQテクノロジーによってX線管から画像表示まで最適化した画像処理をリアルタイムに行うことで,透視から撮影画像までの高画質と大幅な被ばく低減を両立させている。ClarityIQテクノロジーは,ノイズ除去や画像強調など,さまざまなパラメータをリアルタイムで調整するパワフルな画像処理技術,各領域のアプリケーションごとに最適な処理を提供するデジタルイメージングパイプライン,独自のノウハウによるシステムパラメータを最適化したチューニングなどを特長とする。
●CTOなどの高度な手技を可能にする高画質
AlluraClarity FD10/10(以下AlluraClarity)では,X線画像の画質を維持したままで,50%の被ばく線量の低減を可能にしている。光藤センター長は,AlluraClarityにおける画質の考え方について,「PCIを行う血管撮影装置に求められるのは画質であり,特に治療の際のガイドワイヤーやステント,わずかな石灰化などがしっかりと見えることが重要です。AlluraClarityでは,横隔膜に重なる部分も明瞭で,ハレーションでガイドワイヤーが見えなくなることもありません。また,反対にエッジが強調されすぎてざらついて見えにくいこともなく,自然なテイストの画像になっていることも,安心して治療ができる大きなポイントです」と述べる。
光藤センター長が数多く手掛けるCTOでは,末梢の細い血管や側副血行路,血管内腔の描出など,複雑で繊細な血管形状の把握が求められる。光藤センター長は,CTOなどPCIの手技の本質は,治療する血管の状態をいかに透視画像で見えるようにするかにあると言う。
「CTOのテクニックを云々する前に,まず治療対象の血管が見えるようにすることが条件です。最近のCTOでは“レトログレードアプローチ”という,側副血行路側から逆方向にガイドワイヤーを通して,そこに留置しておくという方法があります。ターゲットとなるガイドワイヤーが常に見えているため,より正確で確実なアプローチが可能です。この方法が有効なのは,ターゲットが見えているからで,見えるものをねらう,そのために見えるようにするというのはPCIの本質です。その意味で血管撮影装置の画質が治療に果たす役割は重要であり,要求するレベルは高くなります。CTOの際の血管撮影装置には,末梢血管が横隔膜の中に入っても十分視認できるコントラスト分解能や,ガイドワイヤーの2mm前後の微妙なズレまで把握できる解像度が求められます。手技では,ガイドワイヤーが真腔に入っているのか,それとも内膜下なのかを把握し,画像や留置したガイドワイヤーを目安に1mm以下のズレをも修正しながら進める細かいテクニックが必要です。その違いがわかる画像をAlluraClarityには期待しています」
●PCIを支援する自由度の高い2軸のダブルCアーム
光藤センター長が,フィリップスの血管撮影装置を評価するもうひとつのポイントは,Cアームの自由度の高さである。CTOに対するPCIにおいては,バイプレーンタイプが用いられるが,正面と側面の2つのアームが交差するバイプレーンでは,アームの移動に制限が生じる。フィリップスのAlluraシリーズでは,側面用がダブルCアームになっており,2軸の回転によって,より深い角度の位置までアームを振ることができ,PCIに最適な方向から視野を確保できる。PCIでは,一方のアーム(正面)を頭側方向(AP-cranial)から,もう一方を尾側方向(AP-caudal)から透視して血管を見ることが必要となることがあるが,バイプレーンのアームの構造上,2つのアームを同時にこの位置にセットすることが難しかったと,光藤センター長は言う。
「フィリップスの血管撮影装置では,側面のアームをAP-caudalまでギリギリ近づけることができます。完全に正対はできませんが,ここまで動かせるのはフィリップスだけです」
同時に,Cアームの可動性の高さは,PCIの治療においても大きなアドバンテージになると光藤センター長は言う。
「CTOにおいてガイドワイヤーを進める際,真腔かどうかを画像から判断する時に,血管の長軸に対して直角方向が取れれば死角がなく,それを2方向から見ることができれば,より確実に手技を進められます」
また,フィリップスの血管撮影装置では,非接触式センサーによる安全機能「ボディガード」によって,患者への安全を確保しながらアームの操作を可能にしているが,光藤センター長は,それ以外の場面でのアーム制御機構の“自由度の高さ”をポイントとして挙げる。「他社の装置では,アーム同士の干渉やベッドに近づき過ぎた時に,制御機構が働いてまったく動かなくなってしまいます。フィリップスの装置では,自由度が高い上に,患者さんへの接触以外の部分では完全にストップすることがありません。手技中に,患者さんと関係ない干渉で余計な時間をかけることがなく,また,透視のやり直しによる無駄な被ばくをなくすことができるメリットは大きいですね」
●高画質を維持したまま50%の被ばく低減を実現
AlluraClarityでは,ClarityIQテクノロジーによって,高画質の実現と同時に従来と同等の画質を維持しながら,大幅なX線量の低減が図られている。同センターのAlluraClarityの設定でも,画質を従来同等にして,X線量を50%削減する設定で稼働している。光藤センター長は,AlluraClarityの大幅な被ばく線量の低減効果を実感していると語る。「被ばく線量に関しては,個々の患者さんの治療内容によって異なるので一概に比較はできませんが,総体として被ばく線量が減っていることは実感しています。CTOでは,どうしても手技に時間がかかるので,患者さんの被ばくについて配慮が必要です。治療時の線量管理は装置の線量レポートで行っていますが,それを見ても,被ばく線量が明らかに削減されていることがわかります。AlluraClarityでは,画質は以前と変わらずに大幅な被ばく低減ができているのではないでしょうか」
光藤センター長は,CTOの治療を同センターで年間180例(他施設での治療を含めれば400例)を行っているが,CTOや多枝病変の症例では,AlluraClarityをメインに使用している。
●ハイブリッドカテ室として外科手術にまで対応
AlluraClarityが設置された部屋は,清潔度を高めた“ハイブリッドカテ室”として,緊急時には外科手術にも対応できるようになっている。光藤センター長は,「血管内治療は,そもそも開胸手術をせずにすむ治療法として発展したものですから,循環器内科での対応を基本として,何かあった時には心臓血管外科の協力を得るようなスタイルとして,カテ室を緊急手術に対応できる設備にしました」と説明する。また,AlluraClarityのカテ室内には,大型のマルチモニタである「FlexVision XL」も設置され,ライブ画像はもちろん,過去画像や生体情報のフレキシブルなレイアウト表示によってPCIを支援している。
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■AlluraClarity FD10/10による症例画像
■迅速な診断と早期治療を可能にする体制を充実させ血管内治療を展開
心臓病センターでは,2011年に心臓用CTを導入して緊急検査に対応する体制を整えた。光藤センター長は,今後の循環器の画像診断の方向性について,次のように語る。
「心臓病センターでは,心臓病の患者さんに対する迅速な診断と早期の治療によって,1日も早く社会復帰してもらうことをめざしています。そのためには,予約枠にとらわれずに緊急検査にも対応できる診断機器が必要で,心臓撮影用CTをセンター内に設置しました。患者さんの治療に対して最善の方法をとるために,将来的にはそのほかにもさまざまな診断機器の整備が必要になってくると思います。さらに,今後は画像診断医もチームに加えて,迅速で的確な診断を治療に生かす体制も必要だと考えています」
光藤センター長は今後,“血管内治療センター”として,循環器だけでなく全身の血管内治療に総合的に対応する体制への発展も視野に入れる。「循環器を中心にした対応を考えていましたが,センターのカテ室では小児科,脳神経外科の血管内治療も数多く行われており,実際には全身の“血管内治療センター”となっています。今後は,その役割を十分果たせるように,センターとして体制を充実させていくことも必要でしょう」。
倉敷中央病院の心臓病センターは,光藤センター長を中心に理想の“チーム医療”を提供するため進化を続けていく。
(2013年3月11日取材)
倉敷中央病院
住所:〒710-8602 岡山県倉敷市美和1-1-1
TEL:086-422-02101
病床数:1161床
URL:http://www.kchnet.or.jp/hdc/index.html
(心臓病センター)