Infinix Celeve-i INFX-8000C × 医療法人徳洲会 松原徳洲会病院
血管内治療をベースにしたハイブリッド手術室でステントグラフト治療に取り組む—新たなステントグラフト治療法により適応範囲を拡大
2011-9-1
Infinix Celeve-i INFX-8000Cと高機能チルト寝台を
導入したハイブリッド手術室での術中風景
医療法人徳洲会松原徳洲会病院は,1998年に,循環器や心臓病に対応する高機能型病院として現在地に新築移転し,「命だけは平等だ」という徳洲会グループの理念実践のため,救急医療の提供や日帰り手術センターなど,高度で質の高い医療を24時間提供する体制を整えている。 同院に2010年12月,ステントグラフト内挿術をはじめとする血管内治療から開胸手術まで対応するハイブリッド手術室が構築された。その中核となる東芝社製FPD搭載のX線循環器診断システム「Infinix Celeve-i INFX-8000C」と外科手技に対応するチルト寝台「CAT-880B」を組み合わせたハイブリッドシステムの運用について,佐野憲院長,大動脈ステントグラフト・血管内治療科の阪口昇二部長,吉田毅副院長/心臓血管外科部長およびスタッフに取材した。
■徳洲会の理念に根ざして地域に最善の医療を提供
松原徳洲会病院は,大阪府の中南部,大阪市と堺市に隣接する松原市にある。近鉄・河内天美駅から徒歩3分の商店街,住宅街に立地する同院は,地上9階地下2階建てで,6~8階には介護老人保健施設「松原徳洲苑」などを併設し,地域の医療を支える中核病院としての役割を担っている。佐野憲院長は,「的確な診断に基づいた質の高い治療を提供するため,最先端の診断機器や治療装置などを導入し,徳洲会の特長でもある“断らない救急医療"の実践も含めて,常に最善の医療を地域に提供してきました」と語る。
ハイブリッド手術室導入の経緯について,佐野院長は「当院では,心臓や循環器など外科系の疾患に対する高度医療の提供を積極的に進めてきましたが,技術の進歩や疾患の多様化に柔軟に対応するために,松原大動脈センターを2010年に開設しました。開設にあたり,これからは外科と内科が連携してステントグラフト内挿術をはじめとする低侵襲治療など,さまざまな手技に対応できるハイブリッド手術が欠かせないと判断し,ハイブリッド手術室を整備しました」と述べる。また,同院では臨床研修指定病院として多くの研修医を受け入れているが,「ステントグラフト治療などで豊富な症例があり,ハイブリッド手術室をはじめとする最新の設備で研修医に学んでもらえるので好評です」と,佐野院長は語る。
■血管内治療と開胸手術に対応するハイブリッド手術室で多様な治療を展開
松原大動脈センター開設にあたり,大動脈ステントグラフト・血管内治療科(以下,血管内治療科)と心臓血管外科が連携して診療に当たる体制を整えた。血管内治療科には,ステントグラフトの第一人者である阪口昇二部長を迎えた。阪口部長は,ハイブリッド手術室構築のコンセプトを次のように説明する。
「血管造影室でステントグラフト治療に取り組んできたのですが,手技が高度化かつ複雑化してきたことで従来の設備では限界を感じていました。血管内治療にバイパス術など外科的な治療との組み合わせが行える環境が必要であり,そのためには高精細な画像を自在に扱える血管撮影装置を備えながら,手術まで対応可能なハイブリッド手術室が必要になってきました」
副院長で心臓血管外科の吉田毅部長は,両科が連携した大動脈センターの取り組みを次のように語る。
「血管内治療科に阪口部長が来られたことで,これまで大動脈瘤と診断されても高齢や全身状態の悪さから手術の適応がなくあきらめていた患者さんにも対応できます。新たな治療の選択肢が広がったことは大きな意味があります。ステントグラフト治療の際は,心臓血管外科医はチームの一員として必ず立ち会い,ステントの挿入のためのルートの確保や術式の変更などにも対応できるようにしています。また,これからは,バイパス術とステントグラフト留置を組み合わせた高度な術式にも対応していく予定です。これからも,血管内治療科と連携して進めていきたいと考えています」
ステントグラフト治療をはじめとする血管内治療から開胸手術まで対応可能な設備として,手術室の一部を改装して構築したハイブリッド手術室に導入されたのが,東芝社製X線循環器診断システム「Infinix Celeve-i INFX-8000C」(以下,INFX-8000C)と外科手技に対応するチルト寝台「CAT-880B」を組み合わせたハイブリッドシステムである。
阪口部長は,2010 年7月に同院に赴任し,ハイブリッド手術室の設計からかかわり,12月1日から同手術室での治療を開始した。ハイブリッド手術室の構築にあたっては,看護師,診療放射線技師,臨床工学技士など治療にかかわるスタッフ全員が集まり,最適な環境作りに取り組んだと阪口部長は言う。
「ステントグラフト治療では,内科,外科という医師の連携だけでなく,コ・メディカルスタッフを含めた三位一体のチーム医療が重要です。手術室のスタッフには,設計段階から積極的にかかわってもらいました。スタッフのチームワークの良さが治療の質を確実に高めていると感じています」(下記コラム参照
)
■ハイブリッド手術室での高度な要求に応えるINFX-8000C
天井走行式Cアームと外科手技に対応するチルト寝台により,ハイブリッド手術に求められる機能を実現したINFX-8000C。阪口部長はINFX-8000Cの選定の理由を次のように述べる。
「当院のハイブリッド手術室は,カテーテル治療をはじめとする血管造影の手技が多いので,血管造影がやりやすい環境を考えました。患者寝台は,手動で天板が移動できるタイプでありながら,手術に必要なチルト機能を持っています。また,Cアームは天井走行式で,必要な場面で必要な位置に移動できます」
血管造影の際は,天板の自由度の高い動作が必要で,手動によるフローティング動作が求められる。一方,患者が挿管された外科手術では,天板の移動よりCアームが患者のあらゆる部分に到達できる自由度の高い動作が求められる。
●長手,横手の両方向の走行を可能にしたCアーム
ハイブリッド手術室には,天井から吊下げられた無影灯やモニタ台などの器材があり,術中に最適な位置に移動させることになるが,天井走行式Cアームの天井レールの幅が広すぎると,これらの器材の位置が術野から離れることになる。INFX-8000Cではレール幅が2m程であり,無影灯などの器材を最適な位置に移動できる。レールの間にヘパフィルタを設置することも可能だ。
また,Cアームにも柔軟な動作が求められる。外科的な処置の時は寝台から離れた位置に退避でき,X線を利用するタイミングには素早くセッティングできなければならない。INFX-8000Cは長手方向(体軸)に2m以上の移動が可能になっているほか,横手方向(左右)にも約1m移動でき,器材を避けて自由に動かすことができる。阪口部長は,「ステントグラフト治療の場合には,多くのスタッフが寝台の回りに立ちますので,アームがフレキシブルに動くことは重要です。設計の際には,無影灯やヘパフィルタなどの設置位置なども含めて検討して,できるだけ干渉しないレイアウトにしました。使わない時のアームの退避から,透視や撮影のポジションまでスムーズに移動でき,ストレスのない手技が可能になっています」と評価する。
●開胸手術にも対応する高機能チルト寝台
同院では,東芝製の外科手技に対応するチルト寝台「CAT-880B」を採用した。CAT-880Bは,上下左右方向にそれぞれ16°のチルトが可能で,カテーテル治療はもちろん,開胸手術にも対応可能だ。さらに,CAT-880Bは荷重についても250kgまで対応し,サイドレールなど手術器具の装着にも対応できる。
吉田部長は,ハイブリッド手術室での開胸手術について次のように説明する。
「開胸手術の際には,体位の変更や視野の確保のために寝台を傾けることが必要です。先日,心房中隔欠損症の手術を行いましたが,まったく問題なく進めることができました。今後は,ステントグラフトの際にも開胸手術への移行や,ステントグラフトとバイパス手術を合わせた術式など,開胸手術が必要なケースが出てくると考えられますが,十分対応できると感じています」
●“PureBrain"の高画質で手技をサポート
INFX-8000Cは,東芝の画像処理テクノロジーである“PureBrain"によって,透視および撮影画像の高画質化を図っている。また,“MultiTask"機能によって,透視画像を表示したままで,DSA などほかの画像を同時に動画再生することが可能だ。参照画像を別の画像に変更する際も,透視を切らずに行える。
阪口部長は「透視の画像はクリアで,ステントの状態をはっきりと確認できます。透視と参照画像の動画再生は,他社の製品ではできないことが多く,治療の際には助かりますね」と評価する。ハイブリッド手術室を担当する診療放射線技師の貝本篤司技師は,INFX-8000 Cの画質について,「複数のグラフトが重なったところでも,カテ先の細かい画像がきれいに描出されます」と言う。
INFX-8000Cでは,Cアームの高速回転収集によるCTライクイメージング(Low Contrast Imaging:LCI)や3D-Angioなどのアプリケーションが利用できる。貝本技師は,検査室で治療をしている最中にも操作室での作業に制限がかからず,DSA画像のリマスク処理や3D画像の操作などの作業が進められることを評価する。また,日本語によるメッセージが表示されることなどから,使い勝手が向上しているという。
●画像の視認性が向上する画面レイアウト
手術室内には,6面構成の液晶モニタのほかに,52インチの大画面カラー液晶モニタを設置した。阪口部長は,「治療の際には,大画面で手術場のスタッフ全員が情報を共有できますので,治療の進行状況を把握した上で皆が行動してくれています」と述べる。
■新しい技術開発に伴い進化するステントグラフト治療
ハイブリッド手術室では,ステントグラフト治療のほか,急性下肢動脈閉塞症例に対して,外科的なフォガティ血栓除去術とカテーテルによるステント留置,あるいは血栓溶解術などの血管内治療と組み合わせて効果を上げている。そのほか,経皮的血管形成術(PTA),経皮的腎動脈形成術(PTRA),血栓除去術などの血管内治療を行っている。
ハイブリッド手術室は,稼働から半年以上経過した今も進化を続けている。阪口部長は,「ハイブリッド手術室は,設備の面から見ても,画像診断機器と手術室のノウハウの,まさに"ハイブリッド"な連携が必要です。その意味では,東芝には,この施設での構築の経験や,運用後の改善点などを生かして,これからのハイブリッド手術室のスタンダードを作り上げてもらいたいと思います」と言う。
ハイブリッド手術室での今後の展望については,阪口部長は次のように語る。
「われわれも,今までできなかった症例に対して手術とIVRの両方で対応できる利点を生かして,ワンステップ上の取り組みにチャレンジしていきたいですね。そのひとつとして,窓付きのステントグラフトを使った治療に取り組んでいます。従来は,腎動脈や上腸間膜動脈,腹腔動脈などの分枝が瘤から15mm以上離れていないとステントグラフトを留置できなかったのですが,腎動脈などへの血流を確保する窓付きのステントグラフトでは血管口に窓の部分を合わせていくことで留置が可能です。少しでもずれると血管が塞がってしまいますので,緊急手術が必要でハイブリッド手術室での手技が不可欠です。現在は,日本では認可されていませんので,個人輸入での対応になりますが,こういった新しい治療法に対応できることは,患者さんに対しての希望になりますので,いろいろと適応を拡大していきたいですね」
この窓付きステントグラフトを使用したのは国内で6施設目であり,その中でも最も難易度の高い今回のデバイスで成功したのは同施設が3施設目となる。複雑化,高度化する治療を可能にするハイブリッド手術室のニーズは,今後もますます高まると予想される。進化する治療をサポートするハイブリッドシステムに期待が集まる。
Column
チーム医療でハイブリッド手術室のステントグラフト治療を支える
ハイブリッド手術室では,多くのスタッフのチームによる対応が重要になる。実際の手術では,手技を行う放射線科医,心臓外科医,麻酔科医などの医師のほか,看護師2名,診療放射線技師2名,臨床工学技士1名が担当する。
ハイブリッド手術室の構築にあたっては,ステントグラフトチームが中心となって,機種の選定や手術室内の設計,運用などを検討した。手術室の看護師を統括する藤澤典子看護師長は,「手術の際の器具の位置やスタッフの配置をもとに,アームのセッティングなどのレイアウトを考えて,実際に東芝の本社まで研修に行き,実機のある部屋で手術に必要な器材のモデルを持ち込みシミュレーションを行いました。INFX-8000Cは,アームの動きが自在で撮影時にもスムーズに動かすことができます。東芝には,手術室の稼働後も運用に合わせて改良をお願いしていますが,迅速に対応していただいています」と語る。
貝本技師は,「構築にあたっては,阪口部長が所属されていた奈良県立医科大学の血管造影室を参考にしました。手技の際には,常に今どういう状況か,どんな画像が必要とされているかを判断して,最適な画像を提供するように心がけています」と述べる。
臨床工学技士の松浪可織技士は,主にカテーテルやステントグラフト関係の器具出しを担当する。「ハイブリッド手術室では,患者さんに急変があった場合でも,すぐに対応できる設備,体制がそろっているので安心して業務にあたれます。MEとしても,緊急時に対応できるように,機器などの準備を常に考えています」と,ハイブリッド手術室のメリットを語っている。
(2011年6月24日取材)
医療法人徳洲会 松原徳洲会病院
住所:〒580-0032 大阪府松原市天美東7-13-26
TEL:072-334-3400
病床数:170床
診 療科目:内科,小児科,循環器内科,消化器内科,神経内科,心療内科,呼吸器内科,心臓血管外科,外科,呼吸器外科,肛門科,眼科, 気管食道科,整形外科,耳鼻咽喉科,形成外科,歯科,歯科口腔外科,リハビリテーション科,放射線科,皮膚科,泌尿器科,アレルギー科,婦人科,麻酔科
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