Philips Allura Xper FD20/20 × 国家公務員共済組合連合 虎の門病院
高解像度のCTライクイメージングが脳動脈瘤治療でのステント併用コイル塞栓術をサポート—信頼性の高い血管撮影装置が脳卒中センターの急性期治療を支える
2011-4-1
虎の門病院では,2009年に脳卒中センターを立ち上げ,急性期脳血管疾患への対応を充実させた。内科,外科の枠組みを超えて,24時間の緊急医療に対応する体制を提供するもので,同センターでは,24時間対応のMRI撮像,血管撮影装置の稼働を行い,薬物療法,血行再建術など最適な治療を行う。
脳卒中センターのセンター長を兼務する脳神経血管内治療科の松丸祐司部長は,血管内治療の第一人者として数多くの症例を手掛けている。同院では2008年に,血管撮影装置「Allura Xper FD20/20」(フィリップス社製)を導入し,脳血管内治療を行ってきたが,最近では,脳動脈瘤治療のステントを併用したコイル塞栓術で,XperCTを活用し成果を上げている。
2010年7月から臨床適用されたステント併用コイル塞栓術におけるXperCTの有用性を中心に,脳血管内治療における血管撮影装置の運用について松丸部長と,放射線部の多賀谷 靖科長,濱田祐介技師に取材した。
●脳卒中センターの現況
診療科を超えた体制を構築し,急性期の脳卒中患者に24時間対応
虎の門病院では,2009年に脳卒中センターを開設し,脳神経外科,神経内科,脳神経血管内治療科が協力して,急性期の脳卒中患者の積極的な受け入れと,診療科を横断した包括的な診療を提供する体制を整えた。脳卒中センター設立のねらいについて,センター長を兼務する松丸部長は次のように語る。
「脳卒中は,発症から数時間以内の治療が,患者の予後に大きな影響を与えます。診療には,脳卒中治療に関連する診療科の医師が協力して対応することはもちろん,看護師や診療放射線技師,臨床検査技師などスタッフのチームワークが欠かせません。脳卒中センターでは,24時間対応でMRIや血管撮影装置の稼働などを行い,専門的な技術を持ったスタッフが連携して対応し,最適な治療を提供することをめざしました」
脳卒中の急性期治療は,2005年にrt-PAの静注による血栓溶解療法が認可され大きな効果を上げているが,2010年にはカテーテルを使った血行再建治療のためのデバイス(商品名:Merci)が認可され適応が広がっている。適応の判断は,発症から3時間以内であれば血栓溶解療法を行い,rt-PAの適応外や無効の場合で,発症8時間以内の患者には血行再建治療を行う。急性期の脳梗塞への対応について,松丸部長は次のように説明する。
「血行再建治療は,血栓溶解療法に比べ適応の時間が長く,治療可能な患者の範囲も広いので,治療件数は増えています。ただ,血管内治療は,投薬だけの血栓溶解療法に比べて高度な技術やそれに対応した体制が必要です。当院の脳卒中センターは,そのための体制を確立したことで扱う件数も増えています」
虎の門病院の急性期脳卒中症例数の推移は表1のとおりだが,センター開設以降,脳卒中患者数が大幅に増加している。
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●ステント併用コイル塞栓術
ワイドネック型の未破裂脳動脈瘤のコイル治療を可能にする新デバイス
虎の門病院では,脳動脈瘤の血管内治療にステント併用コイル塞栓術を行っている。ステント併用コイル塞栓術は,2010年1月に薬事承認され7月から発売されたステント“CODMAN ENTERPRISETM VRD”(ジョンソン・エンド・ジョンソン社,以下エンタープライズVRD)を使用した新しい手技で,全国でも実施できる施設は限られている。
脳動脈瘤は,破裂するとクモ膜下出血を発症するが,未破裂脳動脈瘤に対する治療には,開頭によるクリッピング術とカテーテルを使った血管内治療であるコイル塞栓術が行われる。コイル塞栓術は,患者の負担が少なく,実施数も増えており,良好な治療成績を上げている。しかし,動脈瘤の中にコイルを留置する治療のため,動脈瘤の入り口が広い“ワイドネック型”では治療できないという弱点があった。この問題を解決するために開発されたのが,頭蓋内ステントのエンタープライズVRDである。
「ステント併用コイル塞栓術は,動脈瘤用のステントをネック部の血管に留置して,それを支えにしてコイルを動脈瘤に留置する新しい治療法です。ステントを併用することで瘤内のコイルが血管に出てこないようになり,今まで治療が難しかったワイドネック型動脈瘤でも治療が可能になりました」
ステント併用の適応としては,ワイドネック型動脈瘤のうち,2.5~4mmの血管径で,瘤の最大径7mm以上のものが対象となる。
ステント併用によって,従来は開頭手術か経過観察をするしかなかった動脈瘤に対しても,新たにコイル塞栓術の適応になる患者が増えたことが大きなメリットだ。さらに松丸部長は,「ステントを使うことで従来よりも多くのコイルを入れることができ,動脈瘤を完全に閉塞できます。それによって動脈瘤の中に入る血液を減らす“整流効果”が期待でき,閉塞状態を長く保てることで再発を防ぎ,長期的な成績が向上するのではと期待しています」と述べる。
虎の門病院ではこれまで,27例にステント併用コイル塞栓術を施行し,全例で良好な成績を上げている。未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術のうち,約3割でステントが併用されているという。
「ステント併用術には,内部に血栓が付着する虚血性合併症や,それを防ぐために抗血小板薬を服用することから出血性合併症の問題があります。脳卒中センターには,脳神経外科医と血管内治療医がおりますので,病態を見極めて,患者さんに適した治療法を選択するようにしています」
●XperCT
血管内のステントを描出する高解像度3Dデータを提供
同院では,手術室に血管撮影装置「Allura Xper FD20/20」(フィリップス社製,以下FD20/20)を導入して血管内治療を行っている。FD20/20に搭載されたXperCTによって,ステント併用コイル塞栓術で,血管内に留置されたステントを高精細な3D再構成画像で描出することが可能になった。
「エンタープライズVRDは,非常に細くて軟らかく,普通の透視撮影や回転撮影では描出できませんでした。通常は,ステントの両端につけられたマーカーを目安にして見当をつけながら治療を進めますが,XperCTでは,血管内に留置したステントを明瞭に描出することができます。ステントのストラットまで観察できるのは,XperCTしかありません。留置したステントが折れていたり血管に密着していないケースがあるため,ステントの状態を画像で確認しながら手技を進めることは,安全な治療のためには必須になると考えています」
ステント併用コイル塞栓術の際のXperCTは,80kVで210°の回転撮影を20秒間行い,60秒以内で高精細3D画像再構成画像を作成する。解像度は120kVのXperCTに比べて約2倍となり,エンタープライズVRDの直径0.042mmのストラットを表示することができる。
濱田技師は,XperCTの撮影のポイントを次のように説明する。
「当院では,動脈瘤と血管とステントの位置関係を同時に把握するために,3ccの造影剤を7倍に希釈して造影を行っています。この7倍希釈の濃度によって,血管とステント,動脈瘤とステント,動脈瘤内のマイクロカテーテルとステントとの関係など,あらゆる情報を一度に収集できるようになりました」
■XperCTによる症例画像
●Allura Xper FD20/20
24時間の血管内治療を可能にする操作性と高い信頼性,安定性を評価
FD20/20を使った血管撮影のメリットを松丸部長は次のように語る。
「診断のための情報はCTやMRIで得られるようになり,血管撮影装置はインターベンションのための装置になっています。治療が中心であっても画質は重要なポイントであり,特に動脈瘤のインターベンションに関しては3D-RA(回転撮影の三次元再構成画像)が必須になっています。画質はもちろん,インターベンションのツールとしての操作性,治療機器に要求される信頼性や安定性の面でも高く評価しています」
濱田技師は,「FD20/20は導入から3年が経過しますが,装置が動かなくなったことは1回もありません。脳卒中センターでは急性期の患者に対応することが多いですから,安定性や信頼性の高さは重要なポイントです」と高く評価する。また,操作性についても,「テーブルサイドのXperモジュールはタッチパネル操作で使いやすく,ボタンの配置なども直感的で初心者でもわかりやすく,操作をする時にも迷わずに使うことができます」(濱田技師)と述べる。
血管内治療における被ばくの管理について多賀谷科長は,「必要のないX線を出さないことと,必要最小限の領域に視野を絞るようにしています。治療では手技を終わらせることが第一で,途中でやめることはできませんが,FD20/20では被ばく線量がモニタに表示されるようになっていますので,常に線量を考慮しながら進めています。また,1回の治療や撮影だけでなく,患者ごとの被ばく線量のデータベース化を行って,診断から治療までトータルで管理し,フォローするように心がけています」と語る。
血管撮影装置でCTライクイメージの撮影が可能なXperCTによるメリットについて,松丸部長は次のように言う。
「急性期の脳卒中の血行再建治療で,一番大きな問題は治療中の出血性合併症です。急変した場合には,その場でXperCTを撮影して状態をチェックし,治療を継続するか中断するかの判断がすぐに行えます。患者を動かすことなく,血管撮影装置でCTライクイメージの撮影ができることは大きなメリットです」
同院では,血管内治療の手技終了後,120kVのXperCTをルーチンで撮影し,出血や梗塞の有無を確認して治療を終了している。
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●今後の展開
FPDによるデジタル撮影が可能にするアプリケーションを臨床に活用
これからの血管撮影装置に期待することについて松丸部長は,「ひとつは,脳血流の灌流画像(パーフュージョンイメージング)に期待しています。従来はSPECTやPETなど大がかりな装置が必要でしたが,FD20/20に搭載されたアプリケーションを使えば急性期の血行再建治療の適応の決定や,治療中に脳の血流状態をリアルタイムで観察して治療方針を判断できるのではと期待しています。もうひとつは,マルチモダリティのフュージョン画像で,CTやMRI,3D-RAやXperCT画像の融合によって,新たな情報が得られるのではないかと考えています」と述べる。
最後に,今後の診療の展望を松丸部長は次のように語る。
「私は脳神経外科医として開頭手術を行っていたのですが,10年以上前から低侵襲な血管内治療に取り組みました。血管内治療は,この10年で大きく進歩し,安全な治療になってきました。それを可能にしたのは,術者の知識や技術の向上と,デバイスや撮影装置の進歩です。術者の技量とデバイスや装置の進歩は,安全な治療を行うための車の両輪であり,その両方がバランス良く発展することが理想です。今後も双方が協力することで血管内治療を発展させ,患者さんの健康に寄与していきたいと考えています」
XperCTは,新たなデバイスによる治療を,より安全で確実な手技にするために不可欠と言えるだろう。血管撮影装置の新しい技術が,血管内治療の可能性をさらに広げていくことが期待される。
(2011年1月26日取材)
放射線部
血管内治療に対応した体制
当直に加えてオンコール体制で脳卒中の緊急治療に対応する
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虎の門病院の放射線部のスタッフは,本院と分院(神奈川県川崎市)をあわせて53名(本院は47名)。治療を含めた血管撮影装置に携わるのは,CT・アンギオグループの8名で,CT3台,血管撮影装置3台を担当する。脳卒中センターの業務には,専任ではなくCT・アンギオグループが業務の一部として対応している。
当直業務には,47名の技師が交代で対応するが,脳卒中の急患で血管内治療の依頼があった時には,治療に対応できる技術を持った技師を呼び出すオンコール体制をとっている。スタッフの教育を含めた組織の運営について多賀谷科長は次のように語る。
「当直の技師が血管撮影に対応できるスタッフでない場合は,対応可能な技師を呼び出します。オペ室に設置されたFD20/20が扱えるスタッフは,7~8名いますので緊急の場合にも対応できる体制になっています。ただ,脳卒中センターが立ち上がってから緊急の血管内治療の件数も増えており,インターベンションまで含めた技能を習得するにはある程度の時間と経験が必要ですので,育成が追いつかないというのが課題です。アンギオのチーフである濱田技師を中心に,現場でマンツーマンでトレーニングを行っています」
国家公務員共済組合連合 虎の門病院
住所:〒105-8470 東京都港区虎ノ門2-2-2
TEL:03-3588-1111
病床数:890床
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