早いもので,やっと年を越したと思ったら,松の内もあっという間に過ぎ去り,何もしないままいつもどおりの生活です。2008年は,診療報酬改定以降,モニタ分野にとっても激動の一年でした。景気の後退が叫ばれる中,2009年がどんな一年になるのかは,まったく予想もつきませんが,フィルムからモニタへと業務モデルをシフトした医療機関も多いと思われますので,新規導入と定期更新により,診断目的のモニタ需要はまだまだ拡大するものと思われます。
今回のテーマはこれまでの総括として, “「モニタ」の常識・非常識について” 考えてみます……と言っても,「モニタ」という言葉自体に関する話題です。みなさまは,この「モニタ」という言葉をどのように感じられていますか?
「コンピュータの画面を表示する装置の総称」で,「モニタ」と言ったら疑いの余地もなくモニタですよね。しかし,特定の職域や日本以外では,「モニタ」と言ってもモニタとは限らないことがままあります。そもそも一般的に「モニタ」という言葉は,心電図モニタや消費生活モニタなど「監視する」や「意識調査や試用で感想を述べる人」という別の概念で用いられることも多く,単語のみから正解を類推するのはなかなか難しい言葉です。
以前筆者は,米国の医療系技術者とモニタの話題になりましたが,当初こちらが「モニタ」と話しても,いわゆるモニタとしては理解してもらえず,話がまったくかみ合わなかった苦い経験があります(もちろん私の英語の発音がいい加減であったことも相応の原因だと思います)。それどころか国内でも,「そちらの救命救急にあるモニタはどこ製?」と聞かれて,当惑した経験があります。このとき,先方の関心は「ベッドサイドモニタ(患者監視装置)のメーカーがどこか」にあったようですが,筆者が液晶モニタしか思い浮かべなかったため,しばらく話がかみ合いませんでした。
では,表示装置を総じて呼ぶ場合,なんと呼べばいいかと言うと,どうやら「ディスプレイ」と呼ぶのが正解……という意見が多いようです。ただし,民生用の電子機器も含め,液晶ディスプレイを液晶モニタと呼ぶケースは相当多いと思われますし,違和感もありません(ただし,プラズマディスプレイをプラズマモニタと呼ぶことは少ないようで,この辺りが不思議なところです)。
もう一つ,国内外での「モニタ」という言葉にまつわる話題としては,「モニタ診断」と「ソフトコピー診断(softcopy diagnosis)」も興味深いと思われます。そもそも「ソフトコピー診断」という言葉自体に馴染みがない方も多いかもしれません。ソフトコピー診断は,画像を実媒体(フィルムなど)にハードコピーして読影するのではなく,電子的にソフトコピーして「モニタ」上で読影することからこのように呼ばれており,国内で言うところのモニタ診断と同義と思われます。実は,インターネット上でドキュメントの検索をする場合,"monitor diagnosis"と入力すると,テレビなどモニタ機器の調整や監視ソフトの故障診断が上位にヒットしてしまい,圧倒的に"softcopy diagnosis"の方がいわゆる「モニタ診断」に関する文章が見つかります。一方,「モニタ診断」と日本語入力すると,ほぼすべて意図する「モニタ診断」がヒットしますので,国内では「モニタ診断」という言葉の方が市民権を得ている印象が強くあります。ただ実際は,前述した「モニタ」の使い方とも相まって,かなりドメスティックな言い回しであることも否めないような気がします。はたして読者のみなさんは,どちらの呼称がお好みでしょうか?
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長らくお付き合いいただきました「モニタの常識・非常識」も今回が最終回です。これまで,私が不思議に思ったことや周囲から尋ねられたことを中心に,マイナーな情報(?)をお届けして参りましたが,いかがでしたでしょうか? このコラムシリーズにご寄稿いただきました,岡崎市民病院の奥田保男先生やお読みいただいたみなさまに,この場をお借りして心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
松田恵雄 埼玉医科大学総合医療センター中央放射線部 |