2007年4月に,大学病院として初めて地域医療支援病院の承認を受けた福岡大学筑紫病院は,地域医療の中核病院と大学病院という2つの使命を担っている。1985年の開設以来,福岡大学の付属病院として質の高い医療の提供に努めるとともに,職員が一丸となって,基本理念である"あたたかい医療"の提供に取り組んできた。
「明るく,公平かつ透明性のある職場をモットーとしている。職員が気持ちに余裕がなければ,患者さんに"あたたかい医療"は提供できない。そのためにIT化によって業務の効率化や安全性の向上を図り,職員にとって働きやすい環境を整えることは重要なことだろう」と岩下明桾a院長は話す。
同院の放射線部門のIT化は,2000年にCRを導入してデジタル化を図り,CD-Rに画像の一部保存を開始したことから始まる。2004年には,病院全体で電子カルテシステムの稼働を開始したことに伴い,CRを追加導入。その時点で,将来のフィルムレス運用を見据え,一般撮影装置の全画像について,CD-Rへの保存を始めた。さらに2006年,CT装置をシングルスライスCTから64列MSCTに更新し,CTとMRIの画像について,3D画像処理用のサーバを導入した。段階的に画像のデジタル化を進めてきた放射線部では,PACSとRISの導入についても検討をし始めた。また,院内には電子カルテシステムと連携し,画像を配信することへの要望が強くあった。それに加え,フィルム保管庫のスペースの確保が難しいという問題も起こってきた。このような理由から同院ではフィルムレス運用を目的としたPACSおよびRISの導入を決定。2008年5月に,コニカミノルタヘルスケアのPACS,NEOVISTA I-PACS VRと放射線情報システムNEOVISTA S-RISを導入し,6月からフィルムレス運用へ移行した。 |
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岩下明桾a院長。地域医療支援病院と大学病院としての使命を果たす上でITの役割は大きいと考えている。また,IT化により職員が働きやすい環境を整えることが,結果として患者さんへのより良い医療の提供につながると話す。 |
PACSの導入に向けての準備は,2006年7月から開始された。消化器科部長と医療情報部部長を兼任する松井敏幸副院長は,福岡大学筑紫病院のPACS導入のコンセプトを,“いつでも・どこでも・誰でも”,カルテとともに画像が参照できる環境を構築することであると説明する。同院には約140名と多くの臨床医が勤務するため,このコンセプトの実現のためには,各診療科の医師が使いやすいシステムであることが求められた。
PACSの選定にあたり,同院では診療科の医師の意見を反映できるように,放射線部と各診療科の医師で構成される委員会を立ち上げた。そして,候補に挙がった3社の製品のデモンストレーションが数日間行われ,仕様書の内容や委員会でまとめた要求項目について委員会のメンバーが採点方式で評価。その結果,最も合計点数が高かったのが,レポート一体型PACSのNEOVISTA I-PACS VRだった。
NEOVISTA I-PACS VRは,画像とレポートデータを同一のデータベース上で管理することにより,画像とレポートのシームレスな連携を実現したシステムである。選定では,診療科の医師から,NEOVISTA I-PACS VRの操作性の良さと画面の見やすさが高く評価された。操作性に関しては,特にレポートに貼付されたキー画像を,画面上にドラッグ・アンド・ドロップするだけで,スライス位置や拡大率などを読影時の状態のまま,全シリーズ画像の表示や操作ができる機能などが高い評価を受けた。さらに,放射線部の山内成身技師長が,「冗長化構成に対応できることと,データストレージにRAID5よりも信頼性の高いRAID6を採用していることも評価した」と話すように,トラブルの許されないフィルムレス運用だけに "止まらないシステム"であることが決め手となり,NEOVISTA I-PACS VRの採用が決定した。
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松井敏幸副院長。症例の長期的な追跡や,臨床研究を行っていく上で,症例画像は重要なデータであるため,PACSにより劣化のない保存ができる意義は非常に大きいとフィルムレス運用のメリットを述べている。
山内成身技師長。冗長化構成やRAID6を採用するNEOVISTA I-PACS VRに大きな信頼を寄せている。これからPACSを導入する施設に向けて,安定して運用していけるシステムを選ぶべきだとアドバイスする。
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福岡大学筑紫病院では,NEOVISTA I-PACS VRを電子カルテシステムと連携させ,6月からフィルムレス運用に移行した。院内に約300台設置されている電子カルテシステム端末からPACSの画像が参照できる。また,放射線科には,読影室とMRI室に読影医用の2Mの高精細カラーモニタ2面の読影端末が4セット設置されている。高精細モニタは,このほか,乳房撮影室に3M,手術室に2Mのカラーモニタ1面を設置。透視・撮影操作室には,3Mモノクロモニタ1面とI-PACS QAの端末が合わせて2セット設置されている。さらに,各診療科の外来に2Mもしくは3Mのカラーモニタ1面が設置されているほか,各病棟やカンファレンス室などにも2Mカラーモニタがある。これら院内に画像を配信するサーバ容量は7.8TB。CR,CT,MRI,X線透視撮影装置の画像が,1/2の可逆圧縮で保存される。同院にある3台のX線透視撮影装置のうち,1台はアナログ装置であるが,これについてもデジタイザでPACSに取り込み,モニタで参照できるようにしている。このほか,PACS導入前にCD-Rに保存していた一般撮影装置の画像もPACSのサーバにデータ移行し,過去検査の画像としてPACSにて参照可能となっている。さらに,血管造影の動画は専用サーバに保存されるが,キーとなる画面の静止画をPACSサーバに送信することで,各端末で参照できる。
実際の検査では,まず,診療科から電子カルテシステムを通じて出されたオーダはRISを経由して,各モダリティに送信され,実施情報は,RISを介して電子カルテシステムに返信される。検査画像はPACSに送信されるが,その際,一般撮影装置とX線透視撮影装置の画像に関しては,検像システムI-PACS QAを介して画像の状態やオーダ情報との整合性を確認した上で,PACSに送られている。
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放射線科読影室。2Mのカラーモニタ2面と電子カルテシステム端末のセットが3台設置されている。
福岡大学筑紫病院の導入したNEOVISTA I-PACS VRは,画像とレポートが一体化したシステムであるため,迅速な情報抽出と画面表示が可能である。 |
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透視・撮影操作室。検像システムI-PACS QAが設置されている。一番右から,検像用の3Mモノクロモニタ,I-PACS QA,RISの端末となっている。フィルムをデジタル化するデジタイザや地域医療連携用のCD-Rを出力する装置も設置されている。 |
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整形外科と脳神経外科共用の外来診察室。2Mカラーモニタ1面と電子カルテシステム端末のセットが設置されている。
予備室。3Mモノクロモニタと3Mカラーモニタのセットと電子カルテシステム端末を設置。主に消化器科の医師が使用している。
会議室。2Mカラー2面と電子カルテシステム端末を設置。整形外科のカンファレンスなどで使用される。端末は可動式のキャスターに設置されているため,必要に応じて移動させることも可能。
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PACS運用から半年が過ぎた同院では,すでにフィルムレス運用のメリットが院内のさまざまな部分に表れている。放射線科の中島力哉科長は,「フィルムと比較して,モニタでの読影は圧倒的に情報量が多い。3Dワークステーションを使い,3D画像も比較しながら読影することも多く,フィルムよりもモニタ読影の方が良い」と,話す。また,放射線部の業務への効果として,山内技師長は「多大な労力を必要としたフィルミングやフィルムの整理などの作業が削減され,その分患者さんのために使える時間が増えた」と説明する。これを受けて,放射線部の平島裕之主任は,「膨大なフィルムが発生するCTやMRIの検査に関して言えば,業務の30%程度を占めていたフィルミング関連の作業がなくなった効果は大きい」と述べており,フィルムレス化により,大幅に業務の効率化が図られた。
一方,診療科では,院内の電子カルテシステム端末で必要な時に,複数の端末で同じ画像を参照できることで,カンファレンスや回診でも迅速な画像参照が可能となるなど,情報の共有が容易になった。これに関連して医療情報部事務室の柴田憲司室長は,「フィルムレス化によって,電子カルテシステムに情報が集約され,一元的に扱えるようになった」と述べている。さらに,画像を見せながら患者さんによりわかりやすい説明が行えているとの声もあり,確実なインフォームド・コンセントにも結びついている。また,松井副院長は,消化器科部長の立場から,フィルムレスのメリットを次のように説明する。
「消化管の検査はフィルムが非常に多く,それらの保存や保管庫から探し出すために場所も時間も労力も必要だった。フィルムレス運用になり,画像をすぐに呼び出せ,フィルムの搬送が不要な上,紛失の心配もないなど,多くのメリットが得られている」
経営面の効果としては,フィルム代がなくなりコスト削減が図られた。また,2008年度の診療報酬改定で新設された電子画像管理加算により,増収に結びついたことが挙げられる。
このほか,地域医療支援病院である同院は,NEOVISTA I-PACS VRに搭載されているPDIメディア出力の機能を地域連携に活用し,効果を生んでいる。PDIメディアはIHEの統合プロファイルのPDIに基づいた形で,画像やレポートとDICOM-Viewerをメディアに出力することが可能で,CD-Rに出力し,連携先施設に提供される。現在,連携登録医の52の施設のうち,すでにほとんどの施設との間で,PDIメディアを用いた情報共有が図られている。山内技師長は,「PDIメディア内のDICOM-Viewerは,操作が容易で,初めてでも問題なく扱うことができる。連携先で当院と遜色ない画像が容易に参照できるメリットは大きい」と話している。
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PDI-Viewer を用いた画像(写真左)とレポート(写真右)の表示画面。Windows OS (Windows 2000以降)が搭載されているPCであれば,DICOM画像を表示,操作できる。PDI-Viewer上で,複数の検査画像やレポートの比較読影が可能なほか,読影レポートを画像と連携して表示させることが可能。福岡大学筑紫病院は,PDIメディアとして画像・レポートデータを出力したCD-Rで連携先施設に提供し,地域連携に役立てている。 |
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中島力哉科長。フィルムと比較して読影時に無駄な動きがなくなったと話す。フィルムレス化により読影業務のスピードアップが図られたことで,読影件数が増加しているという。
平島裕之主任。画像をレポートと合わせていつでも確認でき,自分が担当した患者さんの検査結果を知ることができるようになったことが,より良い画像を提供するための糧になっていると述べている。
柴田憲司室長。電子カルテシステムの端末からすべての診療情報が確認できるようになったことがPACS導入の一番のメリットだと話す。
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