●放射線部門のPACS構築に合わせて読影システムを導入 |
東北大学病院の歴史は古く,1817年に創設された仙台藩医学校施薬所から始まる。1911年に現在の星陵地区である北四番丁に新病棟が開設され,1949年に東北大学医学部附属病院に改称。2003年10月には東北大学歯学部附属病院と統合し,現在の名称に変更された。病床数は1308床で,1日の外来患者数は2000人を超える。
「患者さんに優しい医療と先進医療との調和を目指した病院」を基本理念に掲げ,最新の研究成果と医療技術を患者さんに提供する同院には,64列マルチスライスCTが2台,3T MRIが2台など,高度なモダリティが多数導入されている。これらのモダリティから発生する画像データを保存するため,同院は,画像サーバ,オーダリングシステム,RISの導入や更新などを行い,院内のシステム構築を段階的に行ってきた。放射線科の山田隆之医局長は,「データ量の増大に伴い,放射線部門では研究費でサーバを増設していくなど,システムの環境は常に発展途上といった印象だった」とその過程を振り返る。
放射線部門のIT化の取り組みは1995年ごろに画像データの保存を開始したことからスタートしている。その後,1997年に日立メディコのOPEN-PACSをDICOM画像サーバとして導入。長期保存にはCD-Rチェンジャーを使用していた。画像データの運用は放射線部門内のみで行っていたが,検査件数の増加などがきっかけとなり,各モダリティから発生するデータを1つのサーバで管理する共有ストレージ&共有DICOMファイルという運用方法へと移行することになった。その目的を,放射線部門のシステム構築の中心的な役割を担い,メディカルITセンターの業務を兼任する坂本博主任診療放射線技師は,「当院は,大学病院として,診療と研究という2つの大きな役割を担っている。研究をしている過程で,20年,30年前の画像を確認しなければならないこともあるので,過去のデータを管理できる環境を整えなければいけない。そのためには,PACSや3Dワークステーションなど個々のシステムで画像を保存するのではなく,一元的に管理できるサーバを設け,将来にわたって運用することを考えた」と説明している。
このコンセプトに基づき,2002年に,OPEN-PACSを増設,DVDチェンジャーによる長期保存を開始した。さらに,複数のDICOM画像サーバに保存・管理されている画像データを一元管理するための統合画像サーバ(共有ストレージ)を導入。個別のシステムのサーバでは画像データは保有せず,中心となる共有ストレージにアクセスして画像を取得する運用にした。
さらに,同院では2009年の電子カルテシステムの稼働を計画しており,併せて院内全体のフィルムレス化を図る予定となっている。そのため,従来システムを更新することとなり,2007年にIHE-Jガイドラインに対応し,読影業務の効率化を図ることができるPACSとして,日立Web画像システムWeVIEW,読影環境として,画像診断ワークステーションNV-1000および読影レポートシステムNatural Reportを導入した。
このNV-1000とNatural Reportを組み合わせた“統合読影環境”により,放射線科では膨大な検査画像を効率良く読影している。 |
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山田隆之医局長。
要望したキーイメージの添付などにショートカットキーが設定されており,放射線科医にとって使いやすくなっているという。ショートカットを覚えることで,より効率的に読影できると評価している。
坂本博主任。
PACSの構築には,現状の業務フローを把握し,改善点を洗い出すことが必要だと述べている。また,今回のシステムにはIHE-Jのガイドラインを採用しており,特にPIRは患者情報の一貫性を保つ上で,非常に役に立っていると評価している。
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●読影のスピードアップにつながる自由度の高いシステムを選定 |
PACSのビューワとレポートシステムの選定に当たって,同院では,数社によりデモンストレーションが行われ,放射線部門のスタッフが操作性などに関して投票を行った結果,3社にまで絞り込まれた。山田医局長はこの中から,システムを選定したポイントを次のように話す。
「読影のスピードアップに直結する操作性の良さを重要視した。日立メディコのシステムは,画面レイアウトやボタンなどの設定をカスタマイズできるという自由度の高さが魅力だった」
ほかの放射線科医からも同様に,柔軟性の高いシステムであることが高い評価を得て,2006年11月にNV-1000の導入が決定した。デモンストレーション時は,NV-1000旧システムからの移行期であったため,同院のスタッフからの意見を取り入れながら開発が進められた。また,レポートシステムに関しても,NV-1000と同様に開発を進めていくことで,Natural Reportの採用が決定した。
システムの開発に当たり,日立メディコからユーザビリティデザイナーも加えた担当者が定期的に同院を訪問し,改善点を調査して,要望を反映したシステムの動作確認を病院で行う作業が繰り返し行われた。山田医局長は,「画面の色彩やショートカットの設定など,さまざまな要求を出したが,その都度柔軟に対応してもらえた」と述べている。 |
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X線テレビ装置。画像は共有ストレージに保存され,NV-1000のモニタで読影されている。
サーバ室。右側のラックの上段に冗長化構成のWeVIEWサーバが12台,左側のラックの下段にはNatural Reportサーバを設置している。また,向かい側に30TBの容量を持つ共有ストレージが設置されており, thin slice画像もすべて保存している。
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●画面の配色から操作性まで使いやすさが追求された統合読影環境 |
東北大学病院が導入したNV-1000とNatural Reportは,ユーザーごとに快適な読影環境を設定できる優れたユーザビリティが特長である。それが認められこの2つのシステムの組み合わせは,“統合読影環境”として2007年度グッドデザイン賞を受賞している。
NV-1000は,画像配置,レイアウト,ソート条件などを,ユーザーごとに設定できるだけでなく,モダリティごとに自由に画面構成を設定できる柔軟性の高いシステムである。Natural Reportは,過去と作成中のレポートを上下に配置し,比較読影のしやすさが追求されたレポート作成画面や,レポートデータから患者の個人情報を削除し,容易にティーチングファイルを作成するなどの機能を備えている。
“統合読影環境”としては,2つのシステム間でスムーズな連携が図られていることが特徴である。例えば,Natural Reportで目的のレポートを表示すると,連動してNV-1000のモニタで該当画像が表示され,関連する画像や過去のレポートを参照しながら,レポート入力や画像編集が可能であるほか,画面からマウス操作で画像をレポートに容易に貼付することができる。
さらに,読影者の負担を軽減するための工夫として,画面の配色にも配慮がされている。NV-1000,Natural Reportともに,暗所での長時間読影における目の負担を軽減するために,画面は黒を中心とした配色で統一され,目に優しく,読影に集中しやすいデザインとなっている。 |
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MRI読影室(写真上,下)。読影用のNV-1000が,2Mカラーモニタ2面構成が10台,3Mモノクロモニタ2面構成が2台設置されており,それぞれに1MのNatural Reportのカラーモニタ1面が設置されている。 |
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●既存システムと操作性を統一し快適な読影環境を構築 |
同院では,モダリティから発生する画像データは,検像システムを介して共有ストレージに一元管理される。NV-1000で画像を読影する際には,WeVIEWを介して画像が配信される。院内に7か所ある読影室には,NV-1000とNatural Reportを組み合わせたセットとして,2Mカラーモニタ2面と1Mカラーモニタ1面の構成が22台,3Mモノクロモニタ2面と1Mカラーモニタ1面の構成が5台の合計27台が設置されている。これらの読影端末は放射線科医が共有で使用しているが,自分のIDを入力すると各自が設定した画面を展開することができる。
また,現在のシステムに移行する以前から,他社製の3D画像処理ワークステーションが導入されていた同院にとって,NV-1000の画面のレイアウトやマウスの操作性が自由に設計できる機能は,快適な読影業務を行う上で大きなメリットとなっている。山田医局長は,「各メーカーによってシステムの操作性が異なるのは当然だが,NV-1000は自由に操作環境を設定することができるため,他社のシステムに合わせることができる。マウス操作に各自が好きな機能を割り当てることも可能なため,ソフトウエアの違いを感じることなく操作できる環境は大変快適だ」と評価している。
このほか,同院には,複数の検査を必要とする重篤な患者さんも多く訪れるため,モダリティごとに画面レイアウトを変更ができることも読影の効率化に貢献していると山田医局長は次のように説明する。
「読影時に1画面に表示する画像の数や大きさが設定できることは便利だと思う。X線画像の場合は1面に大きく表示させたり,シリーズ数の多いMRIでは1画面の分割数を増やしたり,モダリティごとに見やすい表示を設定できる。また,モダリティごとに使いたい機能も異なるため,例えばMRIでは白黒反転表示のボタンを設置するなど,画面の設定が変えられることが効率の良い読影に直結している。さらに,自分の使いやすい位置にボタンを配置できるため,無駄な動きをしなくてすむことも良い点である」と述べている。
一方,Natural Reportによって,レポート作成の効率化も図られている。AmiVoiceを用いた音声入力により,画面から目を離さずに快適に所見入力を行うことができるため,多くの放射線科医が音声入力を使用しており,キーボードよりも速く入力できるとの評価を得ている。また,山田医局長は,「複数疾患が合併している複雑な症例が多く,過去のレポートを参照する機会も多い。Natural Reportは,過去と現在のレポートがそれぞれ画面の半分の大きさで1画面に並べて表示されるため,レポート内容が確認しやすい」と比較読影に適した設定に満足している。このほかにも,読影リストの表示画面で,未読は黄色,一次読影済は水色,確定は紫色と色分けされて表示されるため,進捗状況が一目でわかる点もメリットとして挙げている。 |
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Natural Reportの画面。上に過去レポート,下に今回のレポートが表示されている。モニタの基本的な色調は黒色に統一されているが,レポート入力部分の画面配色を少し明るくすることによって,入力可能エリアが直感的にわかるように配慮されている。
NV-1000の画面。モダリティごとにレイアウトやボタンを設定できるため,比較読影も効率的に行うことができる。左のモニタには今回のCT画像,右のモニタには過去のMRI画像を表示している。 |
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●読影件数とレポート作成数が増加し業務効率向上を実現 |
NV-1000とNatural Reportが提供する“統合読影環境”は,ユーザビリティの追求により,放射線科医の読影効率の向上を実現した。放射線科では,システム導入以後,読影件数が増加し,それに伴いレポート数も増えている。しかし,レポートシステムについてはまだすべての要望が反映された状態ではないとして,現在も改良中である。今後はさらに快適な読影環境をめざして,過去レポートの検索機能の充実などを図っていく予定である。
このように,放射線部門内のシステム環境については順調に整えられている東北大学病院だが,院内全体のシステム環境の構築はまだ途上段階にある。2008年度内のオーダリングシステムとRISの更新,2009年度には電子カルテシステムの導入が予定されており,電子カルテシステムとPACSの連携を図り,フィルムレス化を計画している。また坂本主任はこれにより,画像データを院内共有のデータとして活用できるシステムを構築したいと考えている。
すでに放射線科内ではフィルムレス化されたが山田医局長は,「以前では,CT,MRI,血管造影の画像のみだったモニタ読影が,新システムではすべてのモダリティの画像で可能になった。これにより,フィルムの搬送を待つこともなくなった」とメリットを述べている。今後はこのようなメリットが病院全体で得られるようシステムを拡張し,さらに効率化が進められることが期待される。 |
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CT読影室。読影用のNV-1000が,2Mカラーモニタ2面構成が5台,3Mモノクロモニタ2面構成が1台設置されており,それぞれに1MのNatural Reportのカラーモニタ1面が設置されている。
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●東北大学病院の放射線科の統合読影環境 |
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