inNavi IT最前線リポート
大阪市立大学医学部附属病院 大阪市立大学医学部附属病院
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業務の効率化や標準化を図る内視鏡部門システムを構築
- 電子カルテや病理システムとの連携により,業務フローを改善

大阪市立大学医学部附属病院内視鏡センターは,1993年の設立時から画像ファイリングシステムを運用してきた。2007年5月の電子カルテシステム導入に伴い,センター内のシステムを更新し,内視鏡部門の業務を一元管理できるシステムを構築。他システムと連携させたことで業務効率が改善し,安全性の向上にもつながっている。

(インナービジョン2008年7月号 別冊付録 ITvision No16より転載)

●地域の中核病院として市民の医療ニーズに応える

 大阪市立大学医学部附属病院は,1925年に市立市民病院として開院した。その後,市立医学専門学校の附属病院となって発展を続け,1997年に特定機能病院の認可を受けた。2006年4月には公立大学法人に移行。新たなスタートを切った同院は,病院経営の効率化を図る一方,患者さんにとって親しみやすい病院づくりにも努めている。患者サービスの向上,業務プロセスの見直しと改善,さらに,院内の改修に取り組むなど,病院環境の整備に務めてきた結果,2007年3月に,日本医療機能評価機構より病院機能評価(Ver. 5.0)の施設認定を受けた。また,がん診療連携拠点病院の早期の指定をめざし病院を挙げて取り組んでいるほか,がん医療を担う医療人の育成を推進している。

 このように地域における中核病院として,市民の医療ニーズに応えて,より良い医療の提供に努めてきた同院は, 2007年5月に電子カルテシステムを中心とした病院情報システムを構築。ペーパーレス,フィルムレス環境となった。これに併せ同院の内視鏡センターでは,業務の効率化,省力化を図るために,部門システムをリプレイス。富士フイルムの内視鏡画像管理システムnexus sifを電子カルテシステムと連携させて運用している。

●内視鏡部門に特化した環境を構築できるシステムを選定

 内視鏡センターは,新病院に建て替えられた1993年に設立された。消化管,膵臓,胆管などに対する内視鏡検査と治療を行っており,その数は年間約1万1000件に上る。最先端の機器を使用した食道静脈瘤硬化療法や,胃静脈瘤治療,消化管腫瘍に対する粘膜切除術などの治療を行っている。このほか,ダブルバルーン小腸内視鏡による診断,治療やカプセル内視鏡による小腸検査なども行われている。

 このように,多くの検査と治療が行われる同センターは,設立時から当時住商情報システムの製品であったnexus sif(2007年5月に富士フイルムメディカルに事業譲受)を画像ファイリングシステムとして運用していた。また,2001年からはレポートシステムも導入し,内視鏡検査の所見作成をシステム上で行っていた。しかし,センター内に限られた運用だったため,課題も多くあった。システム構築の中心的な役割を担った前・同院内視鏡センター・医療情報部講師の斯波将次氏(現・大阪市立総合医療センター消化器内科副部長・医療情報部副部長)は,「内視鏡センターから病理部へ検査をオーダする際,病理部から内視鏡画像を確認したいという声が挙がっていた。また,内視鏡センターからは,病理結果と合わせて病理画像が見たいという要望があった。これらを可能にする方法を検討したが,なかなかうまくいかなかった」と当時を振り返る。

 このような状況の中,2005年11月ごろから電子カルテシステムの導入に向けて動き出したことがきっかけとなり,内視鏡センターの部門システムの更新も検討されることとなった。斯波氏は,「電子カルテシステムにより,これまでの内視鏡センター内だけの独立したシステムを,ほかの部門システムと連携させるなど,より良い運用ができるのではないかと考えた」と説明する。

 内視鏡センターではシステム更新に当たり,新システムでは他システムとの連携のほか,所見入力の用語を統一して所見に記述する用語・表記の標準化を図ることや,データを二次利用し,業務を効率化するといった運用方法を具体的に検討した。

 更新するシステムについては,所見レポートの標準化を実現するという目的から,世界消化器内視鏡学会(OMED)が作成した,データの電子記録に必要な用語のデータベースであるMST(Minimal Standard Terminology)に対応しているメーカー数社のシステムを候補に挙げた。斯波氏は,その中からnexus sifを選定した理由を「当センターの運用に合ったシステムを一からつくり上げたいと考え,われわれの要望に迅速に対応してもらえることを重要視した」と述べている。

  斯波将次氏
斯波将次氏。
電子カルテシステム端末から画像とレポートが参照できる環境は,他科の医師からの評判も良いという。システムの改良にも迅速に対応してくれると富士フイルムのサポートを評価している。

●電子カルテ端末から各部門の画像とレポートを参照可能

 富士フイルムのnexus sifには,内視鏡画像管理システムのほか,超音波検査画像管理システムがあり,大阪市立大学医学部附属病院ではこの2つのシステムを導入している。また,病理部門には病理検査支援システムnexus Path-Linkを導入した。

 内視鏡画像管理システムは,内視鏡部門における,受付,前処置室,検査室,洗浄室,カンファレンス室で発生する情報を一元管理する。受付や検査室でのオーダ内容の確認や,問診,実施入力,検査後には端末で画像を参照しながら所見を作成するなどの機能を備えている。現在,システム上では洗浄室でのスコープ管理を行っていない。しかし,将来的には洗浄室に端末を設置し,スコープの洗浄や使用情報をバーコードで管理できるようにする予定である。

 内視鏡センターでは,新システム稼働前に業務フローを繰り返し確認し,念入りに運用方法を決定した。現在では,nexus sifを電子カルテシステムや医事システムと連携させたことで,診療科からのオーダの受け付けから,会計終了までの情報を管理することができる環境となっている。ほかの部門との連携については,nexus sifから,病理部へ病理検査のオーダを送信できるようにもなっている。

 内視鏡センターの診療は次のような流れで行われる。診療科の医師が電子カルテシステムに入力したオーダは,nexus sifに送信される。受付に来た患者さんの情報は,外来患者の場合,診察券からIDを読み取り,入院患者ならばリストバンドのバーコードを読み取ることで確認が取られる。続いて,当日行われる検査内容に従って,前処置の前に看護師による問診が行われる。これは,外来の診察で患者さんが医師に伝え忘れていた既往歴や禁忌薬などがないか,また,検査前の注意事項を守ってきたかなどの最終確認をするためである。この問診結果を看護師が入力後,前処置が行われる。

 内視鏡検査室には,タッチパネル端末nexusSIF321 TPが設置されている。医師がオーダ内容や直前の問診結果,前回検査の内視鏡画像やレポートを参照できるようになっており,検査実施前に必要な情報を確認する。また,検査の実施入力もタッチパネル端末で行うようになっており,その結果は医事システムに送信される。このほか,生検を行った際はタッチパネル端末から検体ラベルの発行ができる。ラベル発行用のプリンタは内視鏡装置のカートに設置されているため,検体を採取したその場でラベルを貼付できる。これにより,検体の取り違えなどのミスを起こらないようにしている。

 内視鏡センターには,内視鏡装置が7台,X線撮影装置が2台設置されている。内視鏡画像はJPEG形式で,X線画像は放射線科のPACSにDICOM形式で保存されている。電子カルテシステム,内視鏡,病理,超音波の部門システムは,共通の端末を使用しており,電子カルテシステム画面の「部門業務」から各システムを立ち上げることが可能だ。内視鏡,病理,超音波画像のほか,PACSに保存された放射線科の検査画像も含め,院内で発生する画像を電子カルテシステムの画面から参照することができる。

 内視鏡センターのカンファレンス室には,電子カルテシステムの端末が 10台設置されており,必要に応じて内視鏡検査の前や所見作成時にカルテを参照している。また,同院は,各部門のサーバとは別に,院内で発生する画像やレポートデータを統合管理するシステムを導入しており,そこからも患者ごとの画像やレポートデータを一覧で参照できるようになっている。

  内視鏡センターの受付。診療科で電子カルテシステムに入力されたオーダは,nexus sifに送信されるため,受付で患者の診察券のIDかリストバンドのバーコードを読み取り,患者さんのオーダ内容を確認する。
内視鏡センターの受付。診療科で電子カルテシステムに入力されたオーダは,nexus sifに送信されるため,受付で患者の診察券のIDかリストバンドのバーコードを読み取り,患者さんのオーダ内容を確認する。


看護師が問診結果を入力する端末は3台設置されている。内視鏡センターでは,検査に来た患者さんに対して,看護師が前処置前に問診を行う。
看護師が問診結果を入力する端末は3台設置されている。内視鏡センターでは,検査に来た患者さんに対して,看護師が前処置前に問診を行う。


内視鏡検査室
内視鏡検査室

タッチパネル端末nexusSIF321 TP
内視鏡装置の右にあるのがタッチパネル端末nexusSIF321 TP。

プリンタ
生検を行った際,タッチパネル端末に生検施行部位や生検数の入力をすると,内視鏡装置の下に設置してあるプリンタから,検体ラベルが発行される。

●病理部門との連携を強化し,診断の質を向上

 以前のシステムでは,内視鏡検査終了後に,医師が所見作成,病理オーダの文書作成,会計記入などの業務を行っていた。新システムでは,所見入力の用語を統一したことで記入内容の表現の標準化が図られたと医師から評価されている。また,内視鏡検査の所見を病理オーダの文書にそのまま利用できるようになったため,入力作業の省力化,業務の効率化が図られている。さらに,安全性も向上したと斯波氏は次のように説明する。

 「手書きで記入する回数が多くなると必要な事項が抜け落ちたり,書き間違えたりする可能性が高くなる。新システムは,受付から会計まで,情報が自動的に伝わるようになっているため,例えば,『会計はすんだが,病理のオーダをし忘れていた』というミスも起こらない」

 石川貴美代看護師長も,「伝達事項を書いた紙をカルテに挟んで受け渡しをしていた時は,その紙を入れ忘れたり,紛失する可能性があった。手書きの時には,内容を簡略化してしまうこともあり,情報が十分伝わらないこともあった。新しいシステムでは,必須項目を入力しないと次画面に切り替わらない運用にしたため,必要な情報が得られている。また,病理検体のラベルも以前は手書きだったが,システムからプリントしたラベルを貼り付けられるようにしたことで,正確な情報が,確実に伝わるようになった」と,メリットを挙げている。

 病理部との連携については,これ以外にも臨床上の効果が表れている。斯波氏は,「システム更新前は,病理部へ検査オーダをする際,内視鏡画像の情報を手書きで描いた絵で渡していたが,内視鏡検査の画像を見ながら病理検査ができるようになったことで,病理部では精度の高い診断ができるようになっている。また,内視鏡センターでも,検査結果とともに病理の画像が見られるようになった。このように,システムの導入により,容易に多くの情報が得られる環境が整ったことが診断の質の向上につながっている」と評価している。

 斯波氏は,このほかにも「もともとは,センター内だけのシステムだったものが,電子カルテシステムから患者さんの画像やレポートを参照可能になり,ほかの診療科の医師との情報共有ができている」と述べている。

 また,nexus sifと医事システムが連携していることは,患者さんとスタッフの双方にメリットをもたらしている。nexus sifに入力した情報が医事システムに反映されるため,患者さんは,検査終了後に会計を待つ必要がない。一方,スタッフにとっては,会計用紙への記入,用紙を受付へ運ぶ手間がなくなるなど,業務の負担が軽減した。

  nexus sifの所見入力画面
nexus sifの所見入力画面

nexus sifの病理検査依頼画面
nexus sifの病理検査依頼画面

●内視鏡部門業務全般を管理するシステムをめざす

 内視鏡センターでは現在,問診表のデータを看護記録として保存している。これは,システム更新当初,内視鏡センターの看護記録についても,院内全体の看護部門システムで管理する運用が考えられていたためである。しかし,内視鏡部門に適した看護記 録の管理方法があるとの考えから, 2008年1月に,内視鏡センターの看護記録についても,nexus sifで管理するよう運用を変更した。

 斯波氏は,「看護記録やSPD(Supply Processing and Distribution)をはじめとして,内視鏡センター内で行われる業務全般を管理できるシステムへと発展させていくことで,“人”と“物”のトレーサビリティを確保できる」と述べている。内視鏡センターは今後,さらにシステムの機能を強化,拡充することで,コスト管理と,より高い安全性の確保をめざしていく。

  カンファレンスルーム。電子カルテシステム端末が設置されているほか,部屋の奥にカンファレンスなどに使用するプラズマ液晶モニタが2面設置されている。
カンファレンスルーム。電子カルテシステム端末が設置されているほか,部屋の奥にカンファレンスなどに使用するプラズマ液晶モニタが2面設置されている。

●大阪市立大学医学部附属病院の内視鏡・超音波・病理の部門システム構成図

大阪市立大学医学部附属病院の内視鏡・超音波・病理の部門システム構成図

〈問い合わせ先〉
富士フイルムメディカル株式会社
TEL 03-6419-8033
http://fms.fujifilm.co.jp/

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