●埼玉県全域を対象とする急性期病院として高度な医療を提供 |
埼玉医科大学国際医療センターは,埼玉県内におけるがん,心臓病の高度専門医療と救命救急医療を提供することを目的に,2007年4月に開院した。埼玉医科大学病院から3km離れた日高キャンパスにある同センターは,大学病院と協調して2施設合わせて1つのメディカルセンターとして機能する。包括的がんセンター,心臓病センター,救命救急センターから構成され,2008年度中に予定されているフルオープンでは,それぞれ300床,200床,100床の計600床が稼働することになる。包括的がんセンターでは,腫瘍内科医,腫瘍外科医,放射線腫瘍医,精神腫瘍医,緩和医療医が共同して方針を決定した上で治療に当たっている。心臓病センターでは,急性心筋梗塞,急性大動脈解離,先天性心疾患などの重症例に対しての治療が行われている。また,救命救急センターでは,急性脳卒中症例はサブセンターの脳卒中センターで,急性心筋梗塞症例は心臓病センターで治療される。このほか,埼玉医科大学病院神経精神科センターの協力のもと,精神科医が救急医療チームに参加する体制の確保や高度救命救急センターとして指定を受けている埼玉医科大学総合医療センターとの緊密な連携が図られているなど,関連施設との強固な協力体制が整えられている。
同センターは基本理念や基本方針の中に“患者中心主義”を掲げ,必要に応じて複数の診療科による併診が行われるといった診療体制が開設当初より確立されている。松谷雅生病院長は,「当センターが扱う領域の治療方法は日進月歩で進歩している。これに対応し,急性期病院としての役割を果たすために,最新のモダリティの導入だけでなく優れた人材を確保した」と話す。
放射線部門では64列マルチスライスCTが2台,16列マルチスライスCTが1台,1.5T MRI が2台のほかPET/CT装置,SPECT/CT装置,血管撮影装置や放射線治療装置をはじめとした高度なモダリティを導入した。これらのモダリティから発生する膨大な画像データを有効に活用し,さらにはセンター内で発生するすべての画像,動画,波形データを一元管理するため,富士フイルムのPACS,SYNAPSEを中心とした統合画像システムを構築。電子カルテシステムとの連携によりフィルムレス運用を行っている。 |
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松谷雅生病院長。
フィルムのように劣化の心配がなく,必要な画像の迅速な検索と表示が可能なため,将来にわたって高画質で効率的に画像参照ができると,フィルムレス運用のメリットを述べている。 |
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●要望への柔軟な対応と画像表示スピードを重視したPACS 選定 |
センターの開院を決定した埼玉医科大学では,2004年から電子カルテシステムやPACS導入のためのWGを立ち上げ,フィルムレス運用方法について検討を始めた。WGのリーダーである不整脈治療部門長兼診療情報管理部長の松本万夫教授は,「画像やレポートなどのデータを患者のために最大限に活用するために,各診療科の医師がデータを扱いやすい環境をめざした」と話す。中央放射線部の伊勢谷修技師長代行は,「当システムの予算化には,PACSの導入メリットを明確に示して,各科の理解と協力を得なければ計画が進まないと考えた」と初期プランの作成時を振り返った。このような考えから,各診療科の医師も参加するPACS検討WGが別途設置された。それぞれの意見を調整し反映した要求仕様書の作成は,情報システム部情報システム課の松井裕行課長が中心となり取りまとめられた。松井課長は,「各診療科から,患者さんのデータを一覧で,かつ時系列で参照したいという要求があった」と説明する。
PACSの選定に当たっては,パッケージではなく,同センターの要求仕様書への対応が可能であると返答した4社のシステムが候補に上がった。核医学科と画像診断科では各メーカーによるデモンストレーションが行われ,画像表示のスピードや操作性などで高い評価を得た富士フイルムのSYNAPSEを放射線科の総意として大学に提案。これを踏まえて,ほかの診療科を含めさらにシステムの検討が行われた結果,導入が決定した。中央放射線部長兼画像診断科診療科長の木村文子教授は,「膨大な画像を読影することを考え,画像の表示スピードを最も重視した。また,大学病院からの紹介患者を受けることも想定していたので,大学病院側のPACSにある画像をセンター側で見られる環境を構築したいという要望が強かった。富士フイルムの提案したシステムは,まさにわれわれの要求に合致したものだった」と選定理由を説明する。
さらにシステム構築のコンセプトとして,同センター内で発生する画像,動画,波形データを一元的に扱える環境が掲げられた。このコンセプトに基づいてPACSを中心に各部門システムをシームレスに連携させた統合画像システムが構築され,そのデータを参照するためのユーザーインターフェイス「SCOPE」が開発された。
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伊勢谷修中央放射線部技師長代行。
PACSに各部門の画像が一元的に管理されていれば将来他院とのネットワーク構築が必要になった際にも低コストに抑えられると述べている。
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吉村保幸中央放射線部技師長補佐。
富士フイルムとモダリティメーカーの協力を得て,導入システムが決定してから開院までの期間が約3か月という短いスケジュールでシステム構築を実現できたと説明する。 |
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松井裕行情報システム課長。
新規開設という環境のもと,各部門の医用画像とレポートを一元的に管理する統合画像システムが構築できたと話す。電子カルテシステムともシームレスに利用でき,スタッフからも不満は出ていないという。 |
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松本万夫教授。
フィルムレス運用の目的はこれまでの診療スタイルを変えることではなく,業務をスムーズにするということだと言う。システムを導入しても患者と向き合い,患者の要望に応えていくという基本的な診療の姿勢は同じだと述べている。
木村文子教授。
富士フイルムの柔軟なサポートを評価している。専門の循環器系検査の読影レポートについても,入力データを二次利用できるように構造化を持たせる要求に対してもていねいに対応してくれていると話す。 |
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●大学病院のデータをセンターに転送し同一環境での読影を実現 |
統合画像システムは,放射線部門以外に,生理機能,超音波,内視鏡,脳卒中,循環器の各部門の画像システムとレポートシステムの情報を一元的に管理, 運用する。静止画に関しては, 院内に約1000台設置された電子カルテシステムの端末へDICOMのオリジナル画像を配信。SCOPE画面からSYNAPSEで表示される。また,アンギオ装置や超音波装置の画像は,動画用の専用サーバに送られるほか,SYNAPSEサーバにもWavelet圧縮したマルチフレーム画像を保存。電子カルテシステム端末や読影端末でシネ再生による動画も参照できるようになっている。さらに,SYNAPSEと各部門システムはWeb連携を実現しており,SCOPE画面に配置されたWebリンクボタンをクリックして,各部門システムのWebツールを呼び出して利用することも可能だ。
SCOPEは,統合画像システムの画像,レポートなどを参照することができ,患者ごとの検査履歴を一覧で表示するだけでなく時系列表示が可能。電子カルテシステムには統合画像システムのリンクボタンがあり,これをクリックするとSCOPEの画面が立ち上がるようになっている。SCOPE画面の各検査の欄に設置されたボタンをクリックすると,該当検査の画像,レポート,所見を表示することができる。
このほか,センターではフィルムレス環境下のカンファレンス業務の効率化を目的に「カンファレンス支援システム」を導入した。カンファレンスに用いる画像データを任意に統合画像システムから選択し,リスト化しておくことができるもので,SCOPE画面のカンファレンスボタンから起動するようになっている。カンファレンス室で各自のIDとパスワードを入力すると各医師が作成したリストが呼び出せる。
また,大学病院のPACSとの連携については,同センターに別途小規模なSYNAPSEを施設間連携システムとして導入することで実現している。大学病院に既往歴のある患者さんがセンターに来院した場合,センターと大学病院のIDを紐づけて放射線科で登録する。予約患者の場合は翌日の午前0時に大学病院の他社製PACSサーバにアクセスして画像を取得する設定になっている。また,救急の場合は,受け付けをした時点でIDを入力すると大学病院のPACSから画像が転送されてくるようになっている。転送されてきた過去1年分の全画像が,施設間連携用のSYNAPSEにWavelet圧縮され,一定期間保存される。この画像は,センターで撮影された画像と同一の環境下で比較読影することが可能となっている。
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3Mモノクロモニタ2面,2Mカラーモニタ2面,1.3Mカラーモニタ2面をそれぞれの現場に合わせて構成し,電子カルテシステム端末と組み合わせて設置している。 |
診察室 |
スタッフステーション |
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手術室 |
手術室 |
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放射線部の透視撮影装置コンソール。右が3Mモノクロモニタ。その左にあるモニタはSYNAPSE専用の検索画面。選択した1日の検査リストが表示され,画像をモノクロモニタに呼び出すことが可能。
SCOPE画面。1画面に患者ごとの検査履歴を時系列で表示する。カレンダー表記では放射線科検査と生理機能検査を異なる期間で表示できる
各検査の画像やレポートボタンをクリックすることで該当検査の詳細情報を確認できる。SCOPE上の検査履歴をアクティブにして,詳細ビューを立ち上げることも可能 |
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●SCOPEの機能を各診療科がカンファレンスで有効に活用 |
開院してから間もなく1年を迎える同センターだが,スピーディな画像表示により,ストレスのないフィルムレス運用が実現している。木村教授は,「ほぼリアルタイムに読影を行えている。特別な症例を除いて,検査終了後30分以内には読影レポートが作成できているため,検査を受けた患者さんが外来に戻った時には参照できるようになっている」と述べている。また,統合画像システムは診断の精度を高める意味でも大きな役割を果たしていると,木村教授は次のように説明する。
「例えば大学病院では,心臓CTを撮影した患者さんで,前回のシネアンギオグラフィの結果を確認するときなど,これまで担当者に電話をかけてから,そこに行って見せてもらうなど時間と手間がかかっていたが,SYNAPSEですぐに確認できるようになった。多くの情報を迅速,正確に把握できるようになったことは,医師だけでなく患者さんにとってのメリットにもつながっている」
また,放射線科以外の診療科の医師からは,患者さんの状態を多角的に把握できるSCOPEが評価されている。特に各診療科のカンファレンスでは,患者データを一元的に扱え,好評である。松本教授はカンファレンス支援システムの機能について,「画像やコメントをあらかじめ準備しておくことができ,それを迅速に表示することができる」とメリットを挙げている。カンファレンス支援システムの機能は,簡便性などの点で改善の余地が残されているというが,より快適な環境をめざして現在も運用についての検討が行われている。
このほか,放射線部門におけるフィルムレスによるメリットについて,中央放射線部の吉村保幸技師長補佐は,「フィルムの管理や運用が必要なくなり,業務の効率化が図れた」と述べている。 |
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放射線科読影室(写真上,下)。
3Mモノクロモニタ2面と電子カルテシステム端末が設置されている。放射線科の読影室は院内に2か所用意されている。 |
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●他施設との連携のためのさらなるシステム拡張も目標 |
統合画像システムを構築し,開院と同時に運用し始めた国際医療センターであるが,松谷病院長は,「院内のIT化により,診療の効率化やコストダウンが図れる」と述べた上で,「そのためには,現場の要望を取り入れ,“使われるシステム”を導入することが重要だ」と指摘している。同センターでは,PACSの導入に当たって,放射線科だけでなく他の診療科の意見を十分に反映させたことが,診療や放射線部門の業務へのメリットをもたらすシステムを構築することにつながった。
木村教授が,「これまで放射線科内のシステムだったPACSが,診療科の垣根なく利用できるシステムへと進化し,センター全体として患者さんの情報を把握できるようになった」と述べるように,同センターでは,統合画像システムを最大限に活用しながら,“患者中心主義”という理念に基づいた医療の提供に取り組んでいる。今後は埼玉医科大学の各施設とより強い連携を図るべく,さらにシステムを拡張させていくことも視野に入れている。 |
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●埼玉医科大学国際医療センターの統合画像システムの概念図 |
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