● 4月1日にAMDDが設立されましたが,その目的についてお聞かせください。 |
われわれはこれまで,ACCJの医療機器・IVD小委員会として活動してきましたが,AMDDには,そこに参加していた企業など計62社(2009年4月設立時点)が加盟しています。新たにAMDDを設立した理由は,いままで以上に業界団体としての活動にフォーカスしていくためです。特に厚生労働省やそのほかの団体と交渉していく中で,医療技術産業の立場を明確にして提言することが重要です。また,物事を決めるにはスピードが大事ですので,より迅速に活動していく必要があるからです。
医療には,いろいろな人や業界がかかわっています。医療を提供するドクターや看護師もいれば,われわれのような医療機器企業や体外診断医薬品(In Vitro Diagnostics:IVD)企業もありますし,ソフトウエアを提供するところもあります。AMDDを設立したことで,そういった方々と協力して,政策への提言を行っていくことができると思います。 |
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● 前身のACCJ医療機器・IVD小委員会では,「先進医療技術の役割」啓発キャンペーンなどを行ってきました。AMDDではどのような活動をしていくのでしょうか。 |
基本的にはいままでやってきたことと同じですが,むしろもっとフォーカスして続けていきたいと考えています。われわれはこの数年間,日本の医療の問題点として繰り返し指摘していることがあります。その1つは,日本では医療機器の薬事承認のプロセスが長く,世界で一番時間がかかっていることです。多くの新しい技術が日本に最後に入ってくるようになっています。もう1つの問題点は,先進医療技術の保険償還価格の問題です。この2点について,これまで啓発活動を行ってきたほか,行政と対話してきましたが,今後はその密度を上げていかなければいけないと思います。なお,最近の活動としては,キャンペーンの一環として,7月末に報道関係者向けにメディアフォーラムを予定しています。 |
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● AMDDのメンバーはどのような企業なのでしょうか。 |
米国に本社がある企業の日本法人62社が現在のメンバーで,大きなグループとしては,IVDグループがあります。このメンバー企業は,試薬とそれを測定する装置をつくっています。また,手術に使われる医療機器のグループもありますし,イメージングのグループもあります。
イメージングとIVDのグループの共通点は,技術の評価が診療報酬ではドクターの技術料の中に含まれていることです。その点が医療材料と異なっており,問題点も違ってきます。そこで,IVDのグループは行政に対してもいろいろな勉強会を通じて,医療材料とは違うことなどを訴える活動をしています。イメージングのグループも同様の活動を行っています。
このように,それぞれのグループによって異なる問題もありますが,共通するものもあるので,その点に関しては意見を集約して活動していくことが重要だと考えています。 |
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● AMDD設立前を含めて,これまでの活動の成果をどのようにとらえていますか。 |
かなりの成果を上げていると思います。例えば,「デバイスラグ」という言葉を多くの人が理解している状況になってきました。オピニオンリーダーや政治家の方々と話していても,デバイスラグの話題が先に出てくるようになりました。そういう意味では,成果は表れていますが,まだまだ世間はデバイスラグの現状をご存じないと思います。イメージングでも3T MRIやPET/CTなどの承認が遅れましたし,IVDに関してもかなりのラグがあり,日本では使用できないものがまだたくさんあります。 |
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● 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が設立されたことなどにより,承認が速くなりつつあるようですが,いままでの活動が影響を与えているとお考えですか。 |
われわれがやってきたことはそれなりにインパクトを与えていると思いたいですね。われわれは,日本医療機器産業連合会(JFMDA,医機連)や欧州ビジネス協会(EBC)などとともに,厚生労働省とのワーキンググループを設け,意見交換を行ったほか,提言をしてきましたが,こうした取り組みが受け入れられたのだと思います。
実際にどの程度まで承認がスピードアップされたのかどうかは,感覚的な話になってしまいますが,医療機器のクラス分類中,リスクの低い製品はいままでよりもスピードが速くなったと感じています。反対に,例えば体内植え込み型のようなリスクの高い医療機器の属するクラス3,4については,むしろ遅くなっているような印象があります。ただし,これは感覚の話なので,今後われわれは毎年データを集めてご報告したいと思います。 |
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● 日本の薬事承認が遅い原因をどのようにお考えですか。 |
要因はいろいろとあります。この問題が難しいのは,1つの問題を解決すれば全部がうまくいくというものではないことです。
なかでも大きな問題点は,審査をする人員が不足していることです。例えばPMDAと米国食品医薬品局(FDA)の審査官の数を比較すると1対10ぐらいになります。これではどうしても遅くなってしまいます。さらに,審査官の専門性という問題もあります。専門的な知識,例えば電気,プラスチックなどの素材,化学や物理のこともわかっていなくてはいけません。少ない人数でその専門性をどのように確保するのか,考える必要があります。また,日本に持ち込むときには要求事項が異なるので,改めて試験をやり直さなければならなかったり,治験を求められることもあります。しかし,治験はそう簡単にはできないので,どうしても時間がかかってしまいます。
ACCJ医療機器・IVD小委員会が2008年10月にまとめた「2008年デバイスラグ調査」においても,申請前の準備に時間がかかってしまっていることが明らかになりました。米国ではPMA(Premarket Approval)と510(k)という医療機器申請があり,510(k)は一部変更などの場合の届け出となります。このうちPMA相当製品においては,米国との間に35か月の差があり(調査期間:2005年4月〜2008年3月),PMDAの調査でも34か月だったので(2003年4月〜2006年3月),近い数字が出ています。申請前の流れと申請後の流れを見てみると,申請後の流れでは,PMDAの調査では16.8か月でしたが,われわれの調査では11か月となり,大きく短縮されているという結果が出ました。しかし,申請前の流れでは,PMDAの調査で17.4か月だったのですが,われわれの調査では24か月となっており,長くなってしまっていて,トータルのデバイスラグが大きく変わっていないという結果になっています。残念ながら企業にとっては,審査期間が短くなっても,そこに行くまでに苦労しているというのが現状です。最終的に不利益を被るのは患者さんのわけですから,世間の皆さんに判断していただきたいですね。最終的に利益を享受される方々から「私たちはこれを使いたい」という声が挙がってくれば,世の中が動いていくと思います。 |
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● デバイスラグと日本の医療保険制度の関係をどのようにお考えですか。 |
治療で使われる医療機器の場合は,すでに似たような材料がある場合,2つの方法で保険適用を図ることになります。1つは,いままでと同じ材料として保険が適用される方法で,承認さえとれてしまえば事務的な手続きだけで1か月もあれば実際に病院で使って材料費として請求できます。しかし,マイナス面として,これまでと同じ保険償還価格になってしまい,せっかく良いものをつくっても,何のプレミアムもつかないことになります。
もう1つの方法としては,新しい材料として,プレミアムをつけてくださいという場合があります。これはCカテゴリーとして申請するのですが,専門の委員会で検討が行われるなど,決定が下されるまでには平均で100日以上かかっていると思います。企業にとっては時間がかかる上に,申請が通らないこともあるので,リスクを負うことになります。医療機器は製品のサイクルが速いことが大切なので,われわれとしては早い時期に出したいのですが,非常に時間がかかる状況になっています。
さらに,保険適用されなければ,混合診療になるので,医療機関としては使いにくくなってしまいます。また,保険適用されても価格の面で,われわれとしては「その価格ではとても無理」ということもあります。 |
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● 日本は,世界的に見て医療ビジネスがやりにくい国なのでしょうか。 |
どんどんそうなっていると思います。例えばヨーロッパの市場は,日本や米国と違い,承認ではなく自己認証となっています。これは医療だけでなく電化製品もそうなのですが,企業が各種のテストを責任をもって行うだけですむので,非常にスピードが速いです。
医療機器は医薬品と違い,臨床の場で使用してみて初めて有効性や改良点などがわかります。医薬品の場合,体内に入ったら代謝されて取り出すことはできず,副作用があったら大変ですから,事前に動物実験や治験を行いますが,医療機器の場合は,例えば腕の良いドクターが治験を行ってうまくいっても,普通のドクターが使ったとたんに問題が出てくることがあり,治験を行いにくい面があります。しかし,医療機器は,問題が出てきたときに改良できます。どんどん改良していけることが医療機器の発展にもなりますので,それを承認のシステムに入れていかなければいけないのですが,日本では改良が非常に難しいです。ヨーロッパも米国も非常に速く改良ができるのですが,日本の薬事承認は医薬品が基本になっているので,初めから全部検査をやり直すという考え方になっており,大きな問題です。
その点,ヨーロッパはすぐに現場で使ってもらえて,フィードバックがありますので,どの企業もこぞってヨーロッパで早く出そうということになります。それから米国は日本の倍近い人口があり,医療経済的にも魅力があり,米国でFDAの認可をとって製品を出すことは,その機器に箔をつけることにもなります。ですからヨーロッパで出したものは米国でも出すということになります。以前は,その次に日本へという考えがあったのですが,最近は,承認に時間がかかったり,保険適用の交渉なども負担になることから,「中国,インドへ」という流れになってきています。 |
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● 高齢化社会をむかえて医療費を抑えることは仕方のないことではありますが,一方で新しい技術を患者さんに提供し,医療産業を育成することも大事だと思います。それを両立するためにはどのようにすればよいのでしょうか。 |
その正解を出している国は,世界中どこにもないと思います。この問題について最初に議論されるべきことは,「いったいどういう医療制度をつくりたいのか」ということです。国民や患者さんにとって良い医療というのはどのようなものなのか,コスト,クオリティ,アクセスの3つをどのようにバランスさせるか,ということを考えることが重要です。
日本の場合を考えてみると,非常に病院数が多いですが,それが良いことなのか悪いことなのかを議論すべきです。例えば,心臓手術を行う施設数を絞り込んで集中させるようにしたとします。手術を集中させることによって,コストを下げることができ,アウトカムも良くなるかもしれませんが,その代わり自分の住む地域に心臓手術を行う施設がなくアクセスが悪くなることが考えられます。反対に症例数が少なくても,近所で手術を受けられるようにすれば,アクセスは良くなるけれどコストは高くなってしまいますし,クオリティにも問題が出てきます。そういうバランスのとり方を議論していかなければいけないと思います。
われわれが医療機器の価格の話をするときにいつもフラストレーションを感じるのは,日本の医療制度は世界とずいぶんと違い,病院数も多く,高度医療を行っている施設も多いのにもかかわらず,価格は抑えてほしいという点です。これは非常に難しいことです。現状のままでは,医療機器産業を育てていくのは厳しいと思います。日本の医療制度,医療提供システムを考えた場合,どうしてもコストがかかってしまいますが,国民がそれを受け入れられるかが重要になってきます。今後,ますます高齢者が増えていく中で,医療費を抑えようとしたら,医療崩壊になるのは当たり前ではないでしょうか。ですから,日本の皆さん自身に,今後のあり方を考えていってほしいと思います。 |
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● ところで,ご自身は医師から実業家へと転身されましたが,その理由は何でしょうか。 |
ちょっと足を踏み外しただけなのですよ(笑)。実はもともと医学部にいく前からビジネスに興味がありました。5年間麻酔医としてのトレーニングプログラムを終え,チーフレジデントもやって,ひととおり経験した上で違う分野のことも勉強しようと思ったとき,米国にはビジネススクールがあり,エンジニアやミュージシャンなど職種を問わず学べると聞いて,MBAをとることにしました。ビジネスの世界が面白くなければまた医師に戻ろうと気楽な気持ちで行ったら,そのままハマってしまったのですね。
医療にかかわる方法はいろいろあります。医師として患者さんと濃厚な1対1の関係を築き,1人の運命にかかわるという方法もありますが,例えば,厚生労働省でも医系の技官がいて,その立場から医療を良くしようとし,何十万人,何百万人にかかわる方法もあります。そういう意味で私の場合は,ビジネスから医療にかかわることで,貢献していきたいと思います。
(2009年6月24日(水)取材:文責inNavi.NET) |
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