● 欧米での活動状況や普及状況など,また,最近のIHEの国際的な動向について,お聞かせください。 |
- 安藤: 分野としては現在,10の領域で展開しています。すなわち,ITインフラストラクチャ,放射線,放射線治療,臨床検査,病理検査,眼科,循環器,PCC(Patient Care Coordination),PCD(Patient Care Devices),QRPH(Quality, Research and Public Health)です(表2)。IHEの活動当初は放射線部門をメインターゲットとしていましたが,現在ではその範囲を広げ,電子カルテシステムやオーダリングシステム,部門システムなど,ほとんどの領域をカバーしています。さらに,施設内にとどまらず,統合プロファイル*1XDS*2のように,病院と診療所などの施設間連携や米国のRHIO(Regional Health Information Organization)*3のような地域医療ネットワークにも対象が広がっています。
- 細羽: 日本ではさらに,内視鏡分野にも取り組んでいます。
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Radiology(放射線)
Laboratory(臨床検査)
Cardiology(循環器)
IT Infrastructure(ITインフラストラクチャ)
Eye Care(眼科)
Radiation Oncology(放射線治療)
Pathology(病理)
Patient Care Coordination
Patient Care Devices
Quality, Research and Public Health
Endoscopy(内視鏡) |
- *1: Integration Profiles。多くの医療機関が利用できるように共通化したシステムの統合モデル。機能を表すアクタ(Actor)と通信仕様を表すトランザクション(Transaction)で,業務シナリオが示される。
- *2: Cross-Enterprise Document Sharingのこと。施設間で診療情報の文書を共有するためのITインフラストラクチャの統合プロファイル。
- *3: 地域医療情報組織のことで,地域,州などの単位で医療機関や保険会社といった団体で構成され,医療IT基盤を構築する。米国が推進するNHIN(National Health Information Network)は,RHIO間をネットワークで結ぶことになる。
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● 国際的な活動はどのようなスケジュールで行われているのでしょうか。 |
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石垣武男 代表理事 |
- 安藤: Face-to-Face Meetingが年に3回あり,RSNAやHIMSS(Healthcare Information and Management Systems Society)の開催に合わせて実施しています。また,電話会議を2か月に1回の割合で行っています。
- 細羽: 本格的に国際的な組織として会合を持つようになったのは昨年(2008年)からです。それ以前もRSNAなどで意見交換的な会議を行ってはいたのですが,昨年より組織が整備されてきました。
- 安藤: アジア・オセアニアの中では日本のIHE活動は進んでいると思います。今年度からは,International Board Meetingには必ず参加するように準備しています。
- 石垣: 日本は現時点で社団法人 日本医学放射線学会(JRS)と有限責任中間法人 日本医療情報学会(JAMI)がスポンサーとなって,International Boardに正式加盟手続きしています。
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● RSNA 2008(2008年11月30日〜12月5日)の会期中に行われたFace-to-Face Meetingでは,どのようなことが話し合われたのでしょうか。 |
- 安藤: RSNAでは,International Boardとアジア・オセアニア地域のミーティングがありました。International Boardでは,米国,ヨーロッパの活動状況などが報告されたほか,組織固めをすることが大きなテーマとなりました。また,アジア・オセアニア地域のミーティングでは,日本以外にInternational Boardに正式加盟している国はなく,独自でコネクタソン*4をやっている状況であることから,各国に正式加盟を訴えるものとなりました。そのためには,それぞれの国の学会がスポンサーとなる必要があることから,そこに対してのPR活動をしていくことが議題として上りました。
このほかにもRSNAではIHEに関するセッションがあり,木村通男理事(浜松医科大学医療情報部教授)が日本の活動状況について発表したほか,米国,カナダ,ヨーロッパ,中国からIHEの現状についてのショートプレゼンテーションがありました。この中で特に関心を集めていたのが,米国やカナダからの発表にあったXDSによる施設間連携です。院内の部門間でのシステム接続はほぼ完成し,今後はEHR*5やRHIOなどの地域医療連携が注目を集めるようになっていくでしょう。
- 細羽: 米国では,EHRのための基盤をHIE(Health Information Exchange)*6と呼んでいるのですが,IHEの仕組みで,HIEをつくるという考えがあります。
- 石垣: 日本でもe-Japan戦略*7で,健康情報基盤の構築が記されていますが,それと同様に米国でもHIEに取り組んでいて,そこにIHEを用いようということです。
- *4: 医療情報システムの相互接続性の確認試験のこと。ConnectivityとMarathonを掛け合わせた造語。日本IHE協会では,年度ごとにコネクタソンを実施し,その結果をホームページ上で公開している。
- *5: Electronic Health Record。電子カルテ(EMR:Electronic Medical Record)のように診療情報だけでなく,個人の医療・健康情報をネットワークなどで共有できるようにする。
- *6: RHIOなど異なるネットワーク,システム間で診療情報などを共有化するための医療情報交換のこと。
- *7: 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が示す日本のIT基盤整備の政策をまとめたもの。2001年に発表された後,毎年,重点計画などが示されており,2008年8月には「重点計画-2008」が公表された。
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● 1999年に米国でIHEが始まってから10年目を迎えましたが,米国とヨーロッパでの普及状況はいかがでしょうか。 |
- 安藤: 米国では,放射線部門の知名度は高いものがあり,RSNA 2008の大会長講演でもIHEについて触れられているなど,ほとんどの放射線科医が知っています。また,ヨーロッパについては,臨床検査やPCDの分野が盛んです。
- 細羽: ヨーロッパでは,デンマーク,フランス,ドイツ,イタリア,ノルウェイ,スペイン,オランダ,イギリス,イスラエルの9か国が取り組んでいます。
- 安藤: ヨーロッパのコネクタソンは毎年2月か3月に行われていますが,参加するベンダーやシステムの数は米国よりも多く,毎年開催する国を変えて実施しています。
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● 日本におけるIHEの認知度や普及状況はいかがでしょうか。 |
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安藤 裕 副理事長 |
- 石垣: 例えば,眼科については熱心な女医さんがいて,日本眼科学会も会員になっています。眼科の場合,検査などで診療時間がかかるという問題があることから,IHEを用いてそれを解決していこうという動きが出てきています。しかし,日本の医療界ではIHEへの理解はまだまだ進んでいないというのが現状だと思います。IHEという言葉を知っていても,標準化規格や標準規約だと考えている人が多いので,啓発活動をもっとしていくことが重要だと考えています。
- 安藤: 放射線科医でIHEという言葉を初めて聞いたという人はいないと思いますが,正しく説明できる人は少ないと思います。一方で,当初放射線部門だけであった分野が,放射線治療や循環器,内視鏡,病理,眼科などにも広がっていったことで,多くの人に理解されるようにもなってきました。まだ,中小規模の医療機関にまで理解が進んでいるかという点では難しい面もありますが,2001年に前身のIHE-Jができてから8年間の活動で,着実に前進できているのではないかと思います(表3)。
- 石垣: 中小の医療機関にまで浸透していくのはなかなか難しいですが,経済産業省や厚生労働省といった行政機関が,IHEを医療情報の重要な基盤として認識するようになっています。これは非常に意義のあることです。
また,ベンダーについても,IHEの活動を始めたばかりの時は,あまり熱心に取り組んでいないところもありましたが,近年の普及状況を見て,積極的にIHEへの対応を進めるようになっています。
- 細羽: 現在,日本IHE協会の会員は76団体で,そのうちベンダーは69社あります。その数から言っても,ベンダーのIHEへの理解は進んでいると思います。
- 石垣: 施設内のシステムや施設間連携でも,特定のベンダーが囲い込むというのはもはや無理があります。それを各ベンダーが理解し,マルチベンダーでシステムを構築していくという考えが,もっと芽生えていかなければいけません。
例えば,電子カルテシステムの更新を迎えた際,現行のベンダーのシステムしか選択肢がないというのでは,ユーザー側は困ってしまいます。ベンダーに縛られてしまうことのないよう,私たちとしてもユーザーへの啓発活動をいっそう活発に行っていく必要があります。そうして,日本全体のユーザーとベンダーの底上げを効率良く行っていくことはとても大事なことです。そういう理想を持って活動していきます。
- 細羽: 今後,既存のシステムの更新を迎える施設が多く出てくると思いますが,そのときに機器やシステム同士が接続できるかどうか,大きな問題になるケースも出てきます。そうなったときに,大手ベンダーであっても,すべてに対応することは難しいでしょう。
- 安藤: 日本IHE協会としては,1社のシステムに偏ることなく,IHEを用いたシステムが広く医療機関に普及していくことで,そこで働く医師や看護師,技師,事務職員がハッピーになれることが重要だと思います。
そこで,IHE協会としては,一般の医療従事者にIHEの概念を覚えていただき,システムや機器の更新時には仕様書に,「IHEに準拠したシステムであること」というキーフレーズを入れてもらうよう,お願いしていきたいと考えています。そうすることで,ベンダーもIHEを重視するようになり,コネクタソンの星取り表にもより関心を持つようになってきます。星取り表に●印のないベンダーならば,翌年接続をめざすようになるでしょうし,星取り表に●印があるベンダーはそれをセールスポイントして活動できます。この流れがIHEの最終的にめざすところであって,ポジティブなサイクルにつながっていくと思います。
このサイクルは,例えば放射線などの分野の中の統合プロファイルでは,1年半から2年くらいで回っていきます。あるシステムが問題を抱えている場合,それを解決するためにベンダーと協議してインテグレーションプロファイルをつくり,それをHL7*8やDICOM*9の規格を使って実装し,さらにコネクタソンで接続テストを行い,その星取り表に基づいてユーザーが導入するという流れになります。
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業務行程モデル(ワークフロー)の作成
ワークフローに基づいた技術文書(テクニカルフレームワーク)の作成
テクニカルフレームワークに基づいた接続試験(コネクタソン)の実施
広報活動
国際的な活動との協調
医療機関への導入のための普及活動
*IHEサイクル:上記を1.5〜2年で一回りする。 |
- *8: Health Level 7の略。医療情報交換の標準規約。患者管理,オーダ,照会,財務,検査報告,マスタファイル,情報管理,予約,患者紹介,患者ケア,ラボラトリオートメーション,アプリケーション管理,人事管理などを規定している。
- *9: Digital Imaging and Communications in Medicineの略。医用画像をメディアやネットワークで送受信するための規格。画像フォーマットや通信プロトコールなどが規定されている。(参照:http://www.jfcr.or.jp/DICOM/)
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● これまでIHEでのシステム導入を成功させた施設を紹介するサクセスストーリーを公開してきましたが,事例は増えているのでしょうか。 |
- 安藤: JRC 2008のCyberRadでは,8施設のサクセスストーリーのパネル展示を行いましたが,そこから現在は3施設増えています。また,それ以外にも統合プロファイルのPDI*10(可搬型媒体)による施設間連携についても,CDのライティングソフトウエアやビューワなどを導入している施設は多くあります。
- 石垣: サクセスストーリーは,IHEが普及する前に取り上げていたのですが,もうそういう紹介をするフェーズではなくなったのかもしれません。
- 安藤: サクセスストーリーはPRの一環として紹介してきましたが,そこで取り上げなくてもIHEの何らかのインテグレーションプロファイルを用いたシステムが入ってきている例は,非常にたくさんあると思います。
- 石垣: IHEに準拠しているということを意識しなくても,IHEのシステムを導入できるようになってきたということであり,われわれとしてもこのような状況になることをめざしてきました。
- *10:Portable Data for Imaging。放射線の統合プロファイルで,CD-Rなどの可搬型媒体によるデータ交換を規定している。
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● 毎年実施しているコネクタソンについてお聞かせください。 |
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細羽 実 副理事長 |
- 細羽: 2007年度のコネクタソンは2008年2月に行ったのですが,参加ベンダー数が41社,システム数は84と大幅に増えました(表4)。これは2007年3月に有限責任中間法人となったことで,会員数が増えたことが要因と考えられます。2008年度のコネクタソンは2008年の10月に行われましたが,こちらは前回との期間が短かったため2007年度より若干減少しました。2009年度は10月に実施しますが,また増加すると思います。
コネクタソンの星取り表は,ベンダーにとってステータスであり,ほかのベンダーと接続した実績というのは大きな意味を持ちます。実際のシステム構築では,接続の工程を大幅に短くし,時間や開発技術者などのコストも削減できるというメリットがあります。
- 安藤: 2008年10月に実施したコネクタソンの結果を近々IHE協会のWeb上で公開しますが,星取り表の印に,ベンダーの日本語のインテグレーションステートメントとして適合宣言書にリンクさせるようにする予定です。コネクタソンの星取り表を見れば,より詳細な情報にアクセスできるという仕組みにします。
- 細羽: ベンダーの製品の適合状況が出ていて,インテグレーションステートメントが調べられるので,ユーザーにすれば,求めるべきものがすぐにわかるようになると思います。
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2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年 |
11社
17社
20社
23社
28社
41社
40社 |
11システム
17システム
32システム
48システム
67システム
84システム
72システム |
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● 2007年に有限責任中間法人となってからまもなく2年になりますが活動状況はいかがでしょうか。 |
- 石垣: 初年度は事務処理などに手間どり,思うような活動ができなかったのですが,2年目に入り組織体制もきちんとしてきて,ワークショップなどの活動についても実績を上げています。理事や委員はみなボランティア精神を持って,IHEの普及を通じ,社会貢献をしていくという考えで取り組んでいます。
- 細羽: 有限責任中間法人になって,厚生労働省から「医療情報システムの相互運用性確保のための対向試験ツール開発事業」を受託しましたが,それとともにIHEの推進事業を行ってきました。
- 安藤:
今後,厚生労働省の委託事業が終了した場合,より自立した協会運営が必要になってきますが,われわれの活動は公共性の高いものなので,永続性が重要です。そのためにも,新たな事業も含めた将来的な活動内容についても現在検討しているところです。
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● 今後,IHEのめざす方向をどのようにお考えですか。また,IHEが医療ITをどのように牽引していくのか展望をお聞かせください。 |
- 石垣: 日本IHE協会は,医療のIT化を牽引していくというよりは縁の下の力持ちとなって,IHEの普及を推進していきます。われわれは,IHEによって日本の医療ITの基盤を構築するという目的を持って,それに向かって頑張っていますので,皆さんの理解と支援をいただけるようお願いします。
- 細羽: IHEの活動は医療情報をつなぐためのインフラづくりであり,シナリオにもとづいてシステムを接続するという,いままでにないものです。それが今後,日本の医療機関に浸透していくことを期待しています。
- 安藤: 先ほどIHEは医師や看護師,技師,事務職員,そしてベンダーをハッピーにすると述べましたが,さらに突き詰めると,患者さんや国民にもメリットを訴求していくことが今後必要だと思います。患者さんや国民にIHEを用いたシステムのメリットをPRしていければ,IHEはもっと普及していくはずです。いまわれわれが一生懸命旗振りをしていますが,それをしなくてもいい日が来ることを願っています。
(2009年1月20日(火)取材:文責inNavi.NET) |
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