● 社長就任から2か月が経ちましたが,日本について,また日本の医療やユーザーについて,どのような印象を持っていますか。 |
まず,日本についてですが,住み心地が良く,食べ物もおいしくて非常にすばらしい国だと思っています。日本人の方々もフレンドリーで,親切だと感じました。東京のほかにも,北海道,京都,大阪,新潟などに行きましたが,治安も良く,町が清潔で,その点からはトップレベルの国だと思います。しかし,2つの問題があります(笑)。その1つは湿度の高さで,気温はポルトガルとあまり変わらないものの,慣れるのが大変です。もう1つの問題は,自分自身の努力次第なのですが,日本語がまだ不得手で,小さな飲食店に行くと,英語表記のメニューがないことがあり,注文するのに苦労します。
日本の医療やお客様についてですが,これもまた大変すばらしいです。医療従事者のレベルも高く,海外の学会で日本人研究者の発表を数多く目にします。もちろん実際の医療行為,技術も優れており,質の高い医療を提供できていると思います。一方で,日本の医療が抱える課題としては,平均在院日数が長いといったことが挙げられます。もっとも,これについては,DPCの参加病院が増えるなど,医療制度改革の中で改善されていくでしょう。そうした点を踏まえると,日本の医療は,質の高い医療を提供するという正しい方向に進んでいると思います。 |
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● 前任のシーメンスポルトガルでは,大きな成果を収め,その手腕が日本でも発揮されることが期待されていますが,成功の理由は何でしょうか。 |
国が異なれば事情も異なるので,ポルトガルでの成功をそのまま日本で,というわけにはいきません。ヨーロッパはシーメンスのホームグラウンドであり,ポルトガルには強力な競合他社がない状況でした。その点が日本と大きく違います。
そうした状況の中で,私は人材の能力やスキルを上げ,組織力を高めていくことに力を注ぎました。ビジネスを行っていく上で,さまざまな課題に直面しますが,そこでやるべきことを判断できるようチームを作り上げていくことが大事だと思います。また,市場の動向に敏感になり,柔軟に対応して,今後の動きを予測できるような組織にすること。そして,お客様のニーズや期待を的確に把握し,それを提供していけるような組織を作ることが重要だと思います。 |
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● シーメンス旭メディテックの社長として,ご自身に与えられたミッションについてどのように考えていますか。 |
私に与えられたミッションは,非常に明確です。それは,日本におけるシーメンスのシェアや認知度を引き上げて,アメリカやヨーロッパの国と同じくらいの存在感を示せるようにすることです。
残念ながら,私は,日本におけるシーメンスの存在感が,まだ弱いと思っています。JIRA(社団法人日本画像医療システム工業会)のデータでは2007年度の国内の画像診断機器市場が前年の-6.5%となっており,縮小傾向にありますが,それを考慮しても,シーメンスの現在の位置づけや認知度は今のままでは不十分であり,もっと上げていくことができるはずです。そのためにやらなければいけないことは,日本のお客様のニーズを把握し,それに見合った製品・ソリューションを提供していくことです。
ですから私が取り組むこととしては,1つには日本からのニーズを早い段階から製品開発に取り入れる仕組みづくりをすることがあります。また,もう1つ取り組まなくてはならないことは,日本のお客様の期待に応えるような製品・サービスを提供していけるよう,国内の組織を強化することです。顧客満足度を上げ,納期を短くし,サポートもスピーディに対応できるような体制にしていかなければなりません。もちろん,現時点でもシーメンス旭メディテックはプロ集団のすばらしい組織であり,グローバルなシーメンスグループの中でも,ベンチマークとされるところもあります。しかし,そこからさらに上をめざしていく必要があると思います。 |
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● 顧客満足度を上げるという点では,前任のスティーヴン・ファインバーグ氏が“Customer Focus”というプロジェクトを進めましたが,それをさらに推し進めるということでしょうか。 |
現在,シーメンスでは,“Answers for Life”というスローガンを掲げています。これは命に携わる医療業界をとりまく問題に、真摯に向き合い解決していくことこそが私たちの使命である、という意味が込められています。シーメンスならではの革新的で高度なテクノロジー、また幅広いポートフォリオによるプロセスの効率化などを通じて、こうした問題に答えを示していくことができると考えています。ですから,日本のお客様には,私たちの技術力をもっと知っていただけるようにしていく必要があると思っています。
その一環として、シーメンスでは,最近CRM(Customer Relationship Management)を推進しており,日本でも“Customer Focus”の路線をさらに発展させた“Customer Excellence”を新たに掲げました。これは,ヘルスケアにとどまらず,エネルギーやインダストリーというシーメンスの3セクターすべてに共通するものです。また,日本国内では,ヘルスケアのセクターに属する企業が5社ありますが,すべての企業で,この言葉をキャッチフレーズにしています。
先ほど述べたとおり,日本国内におけるシーメンスの存在感は海外に比べ,強いものではありません。今後,存在感を上げていくためにも,お客様を重視した取り組みが重要になります。すでに社内では,改善のための検証を行うチームが活動しています。 |
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● グローバルでのヘルスケアセクターにおける業績,あるいは事業展開はどのようになっていますか。 |
グローバルレベルで見た場合,業績は堅調です。シーメンスは,2年前から体外診断薬事業に参入し,世界最大の体外診断薬企業となるなど,積極的な事業展開をしており,米国市場全体が低迷する状況の中でも,成果を上げることができています。
しかし,業績は堅調なものの,今後の市場動向や事業展開を考え,常に最適化を図っていかなくてはいけません。経営効率を上げて,ベンチマークとなるような企業にならなければいけないので,製品のポートフォリオの見直しなどに取り組んでいます。
また,シーメンスでは,グローバルでのマネジメント体制を変更しました。従来は,本社から各国のマネジメントを行っていましたが,それを改め,世界各国を20のクラスターに分けて,マネジメントする形にしました。通常,1つのクラスターは複数の国で構成されますが,日本の場合は1か国で1クラスターとなっています。これはシーメンスが日本市場を重要視していることの表れとも言えます。今後2年間で,クラスターの再編を行い,それに合わせる形で,組織やリソースの適正化などにも取り組んでいきます。 |
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● 日本市場は,昨年非常に厳しい状況でしたが,シーメンス旭メディテックの業績はいかがでしたでしょうか。 |
確かに厳しい状況でしたが,その中でも私たちは良い結果を出すことができたと思います。もちろん私たちがめざしていたラインまでには届きませんでしたが,事業全体で成長することができ,市場でのシェアも上げることができました。特に放射線治療は,新しく参入した分野ですが好調です。今後も,良い結果を出せるようにしていきたいと思っています。 |
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● 日本のユーザーがシーメンスに対して抱いている印象をどのように感じていますか。 |
正直に言えば,私が喜ぶような印象ばかりではありません。実際に装置を扱う放射線科の方々などは良い印象を持ってくださっていますが,経営者層の方々の認知度は低いように感じています。シーメンスが画像診断機器だけを扱っているという認識があるようで,今後はそれを覆し,病院経営に役立つソリューションを提供できることを知っていただくようにしたいと思います。
もちろんシーメンスは高い技術力を持っていますが,私たちの提供するテクノロジーは,難しいものではなく,お客様が求めている結果を実現するためのものです。私たちのテクノロジーを使うことで,業務プロセスを改善でき,コストを削減しつつ質の高い医療を提供していくことができます。例えば,モダリティを操作するユーザーインターフェイスであるsyngoを7年前に採用していますが,シーメンスのモダリティ間で,統一した操作環境を実現しています。これにより,操作の習熟が容易になり,検査効率を上げることが可能になります。 |
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● 今後のシーメンス旭メディテックの事業展開についてお聞かせください。 |
病院の規模にかかわらず,小規模から大規模まですべての病院を対象に取り組んでいきたいと思っています。もちろん,大学病院のように,高度なテクノロジーを求めている施設には,いままでどおりそのニーズに応えていきますが,中小規模の病院にも積極的に事業を展開していきたいと考えています。繰り返しになりますが,日本におけるシーメンスの存在感はまだ不足していると思っています。存在感を高めていくためには,中小規模の医療機関の市場は非常に重要であると認識しています。
シーメンスは,グローバルカンパニーですが,この「グローバル」というのは,国レベルだけでなく,例えば日本ならば北海道から沖縄県まで津々浦々という意味も含まれています。大学病院などに高度なテクノロジーを提供しつつ,全国の中小規模病院への私たちの製品の導入も進めていきたいと考えています。国内企業のようなマンパワーがないので,時間がかかる可能性を考慮すると,ほかの販売チャネルの活用なども考えていく必要があると思います。 |
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● 2007年に亀田医療情報研究所との合弁企業であるシーメンス亀田医療情報システムを設立していますが,ヘルスケアITへの取り組みについてお聞かせください。 |
ヘルスケアIT事業はワークフローの結合には「外せない分野」であり,今後の成長が見込まれる市場ですので,力を入れていきます。まだ,事業の規模は小さいですが,提供するシステムはすばらしいですし,組織もしっかりしているので,成長の余地は大いにあるでしょう。 |
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● シーメンス旭メディテックをはじめとした5つの事業会社の本社機能を集中させるとの報道がありましたが,そのねらいは何でしょうか。 |
理にかなっているというのが一番の理由です。事業を推進していく上で,各社に戦略の整合性を持たせることができ,また,ITインフラなどの共有化も行えます。そして,組織間のコミュニケーションがより円滑になるという点からも,機能を集中させた方がよいと判断しました。今後は,各社間での情報共有やコミュニケーション強化により,より良い提案をお客様にできるようにしていきたいと思います。 |
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● 初めに日本についての印象をうかがいましたが,好きな日本食などはありますか。 |
寿司と刺身,焼き鳥,鉄板焼き,トンカツ,手羽先,すき焼きなどを食べましたが,全部好きです。一人で出かけて,隣の方が食べているものと同じものを注文したり,当てずっぽうにメニューを指差して頼んだりして,何が出てくるかわくわくしています。 |
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● ご家族も日本にいらっしゃるのですか。 |
妻と3人の子供がいますが,大学生の一番上の子をのぞいてみんな日本に来ています。私にとって,日本行きは,ビジネス上のチャンスだったのですが,家族のことが気がかりでした。しかし,2007年の12月に来日した際,家族も同行させたところ,日本が気に入って住んでもいいという返事をもらいました。特に10歳になる一番下の子は,ディズニーランドがあるので,非常に喜んでいます。 |
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● 最後に日本のユーザーに対してメッセージをお願いします。 |
シーメンスは,“Partner of Choice”,お客様に選ばれるパートナーとして発展します。医師や診療放射線技師の皆さんが職務を果たせるよう,テクノロジーを提供していきます。さらに,テクノロジーだけではなく,病院経営や人事などのノウハウなどをソリューションとして提供していくことで,お客様から選ばれる企業となります。そして,モダリティメーカーのベンチマークとなるような存在をめざしていきたいと思います。
(2008年8月8日(金)取材:文責inNavi.NET) |
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