● 4月1日に社長に就任されてから3か月がたちましたが,まず何をめざし,どんなことに取り組んでこられましたか。 |
社長への就任が決まってから4月1日の就任に向けて人事などの社内体制の整理を急ピッチで進めていきました。特に海外メーカーと比べた場合,開発力に大きな差があるという認識があったので,開発体制の強化を主題にしてまいりました。1か月間,あわただしく活動してきましたが,4月1日には,開発拠点となる医療システム開発センタを設置しました。併せて日立製作所の協力のもと,米国で販売を開始した1.2TオープンMRI(国内薬事未承認)などに搭載する超電導磁石の開発,生産体制を強化しました。
このようにして4月1日からスタートできる体制を構築してまいりましたが,同時に当社は2期続けて厳しい経営状況にあることから,海外市場での販売強化なども含めた業績再建戦略の策定も行いました。4月のITEM2008(国際医用画像総合展)後には,国内の支店,海外の販売会社などに出向いてこの戦略の説明に回っており,ほとんど休みなく,駆け足で定時株主総会(6月24日)までやってきました。幸いにも日立グループ全体として,徹底的に医療分野に力を入れていく開発体制を整えることができ,また,ユーザーの皆さまからも「日立,頑張れよ」という声をかけていただくなど,手応えは感じています。 |
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● 売上高が前期比6.7%減という厳しい数字が出ていますが, その原因や国内外の市場動向などをどのように分析していますか。 |
売り上げ減の要因は大きく2つあると考えています。
1つは2007年度の国内市場が大幅に縮小した影響を受けているということです。市場規模が大きく変わっていない超音波診断装置や新製品を出したCTなどの販売は伸びましたが,MRIとX線装置は影響を受けました。特にMRIについては,JIRA(日本画像医療システム工業会)の市場統計でも前年度比7割にまで市場全体が縮小しており,永久磁石型オープンMRIの販売などに影響が出ました。また,X線装置についても市場が縮小したことで影響を受けています。
もう1つの要因としては,米国市場の低迷があります。米国市場では,2005年の財政赤字削減法(The Deficit Reduction. Act of 2005:DRA)による医療費削減の影響が出ており,他のメーカーも打撃を受けたと聞いています。しかし,国内,米国市場が落ち込む一方で欧州,中国,アジア市場は販売が好調で,売上高も前年度から大きく伸びています。 |
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● 早期退職制度を実行するなど,業務体制改革にも取り組んでいますがどのような状況でしょうか。 |
業績再建ビジョンでは,開発力の強化だけでなく,どの分野にプライオリティを置いてビジネスを展開していくかについてや,生産の効率化,原価低減などの取り組みについて掲げており,さらに目標となる数字を決めて,アクションプランを基に進めています。売上高の回復はもちろんですが,開発のスピードアップ,品質・生産性の向上,コスト競争力の強化など,やらなければならないことは多くあり,それを事業計画に落とし込んで,当社内や海外の販売会社などに説明しながら,改革に取り組んでいます。 |
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● プライオリティを置く製品はなんでしょうか。 |
現在の市場の状況から判断して,当社としては,MRIと超音波診断装置に力を入れていきたいと考えています。特にMRIについては,永久磁石型オープンMRIが世界全体での出荷台数も多いのですが,それに加えて新たに1.2TオープンMRIの出荷が米国でスタートしました。オープンタイプとしては世界最高の磁場強度ですから,ほかのメーカーにはない強みとして強化していきたいと思っています。
4月1日に発足した医療システム開発センタでは,日立グループの各研究所からスタッフを集め,MRIだけでなく,超音波診断装置やCTの次世代機についての研究・開発に取り組んでいます。 |
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● 1.2TオープンMRIの日本をはじめとする米国、欧州以外での販売の見通しはいかがでしょうか。 |
1.2TオープンMRIはRSNA 2007(北米放射線学会)で発表し,その後ECR 2008(欧州放射線学会)でも展示させて頂きました。日本国内でも薬事申請に向けて準備している段階です。このほか,欧州市場への展開も計画しています。
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● 医療IT分野での展開は,どのように考えていますか。 |
特定健診・保健指導の義務化により,健診システムなどに注目が集まっています。当社は健診システムのシェアがナンバーワンですから,その強みを生かして,研究開発を進めています。その1つが「生活習慣病リスクシミュレーション」で,過去の多くのデータをもとに,生活習慣病が発症するリスク,生活習慣の改善によるリスク軽減をシミュレーションできるものです。また,日立製作所では減量プログラム「はらすまダイエット」を開発しています。これらのシステムと業務系のパッケージを組み合わせたシステムをできるだけ早い時期に発表したいと考えています。 |
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● 業績再建ビジョンでは,ボリュームゾーンに向けて特長ある製品を提供していくという目標がありますが,これはどのような理由でしょうか。 |
海外メーカーとの体力差は大きいため,すべて手がけるのではなく,自分たちの強みを生かした特長ある製品づくりをすることが重要だと考えています。ハイエンドの製品があることは理想的ですし,研究的な意味合いからも価値があることですが,ビジネスとして考えた場合,ミドルクラスが一番のボリュームゾーンだと考えています。例えばCTならば,列数をカスタマイズできる「ECLOS」のような製品やアップグレードできる装置を提供することが大事だと思います。また,低磁場のオープンMRIは東欧や中東,アジアなど成長市場でのニーズが非常に高く,販売拡大が期待できる製品です。当社は,日本,米国,欧州などの成熟市場とアジアなどの成長市場の両方に向けたボリュームゾーンの製品に対応できるので,そこに力を注いでいきたいです。 |
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● お話にあった海外市場ですが,今後特に力を入れていきたい,国・地域はありますか。 |
どの国においても,経済力が上がって,GDPも上がると医療に力を入れるという流れになっているので,世界中にビジネスチャンスがあると思います。今後の海外展開を図る上でも,新たな市場開拓をするための特別チームを編成して活動させています。新たな市場というのは,超音波診断装置や小型のX線装置などの低価格の製品からだんだんと大きくなり,MRIなどが普及していくというステップがあります。その意味でも,超音波診断装置の開発を進め,ラインナップを拡充していくことが重要です。また,MRIについても,初期段階は永久磁石型の導入が進み,その後超電導型が広まっていくという流れになっていますので,それに合った製品展開をしていきます。市場として注目しているのは,ASEANや旧ソビエト連邦のCIS地域(独立国家共同体),中東です。そのほかにアフリカや中南米からの引き合いも多く,力を入れたいと考えています。 |
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● 2010年度の連結売上高1600億円などを目標とした中期経営計画を2006年に策定しましたが,その進捗状況はいかがでしょうか。 |
2期連続で赤字となったことから,そこから脱却することが重要です。まずは業績再建ビジョンをもとに,この1年間全力をつくし,その上で計画を見直して提示したいと思います。 |
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● 前身の日立レントゲン時代から日立メディコ一筋の浜松社長ですが,会社に対する思い入れをお聞かせください。 |
当社は,設立が1949年で,来年60周年を迎えることになります。その間,「世界初」という製品を数多く市場に送り出してきました。私自身,国内初の頭部用CTの販売に携わったことなどが,非常に印象に残っています。日立グループは技術力があり,それを結集すればものすごい力を発揮できると思っています。医療システム開発センタなど日立グループの総力を結集して世界に冠たる製品をつくっていきたいですね。業績再建ビジョンで掲げている開発体制の強化というのも,そのためのものです。
私は,当社の社風を,まじめな技術者集団だと感じています。しかし,今後はそこからブレイクしなくてはいけません。最近は工場に行っても,みんなが元気で活発になってきたと思いますが,さらに活性化させて,開発や生産のスピードを上げていくようにしたいと思っています。 |
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● 大事な局面での社長就任ということで,プレッシャーも多いと思いますが,息抜きや趣味はありますか。 |
高校ではヨット,大学では登山をしていたのですが,いまはほとんどできませんね。ただし,家が海に近く,ヨットハーバーもあるので,休日には1時間半ほどかけて,そこまで散歩やジョギングしています。これがストレス解消になっていますね。
ただ,登山がなかなかできないのは残念です。実はこの前も別のところで話したことですが,登山と経営はよく似ています。登山は,まずルートを決定し,メンバー編成,装備,補給を決めなくてはいけません。これを経営に置き換えるとルートは方針であり,メンバー編成は人事や組織体制,装備は設備で,補給は生産です。こうした点で,登山は経営に通じているのだと思います。 |
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● 最後に視聴者に対して日立メディコのこれからについてメッセージをお願いします。 |
当社は2006年に超電導型の1.5T MRI「ECHELON Vega」を発表しましたが,その後大学病院3施設に加え,数名のユーザーにご協力いただき,非常に良い製品に仕上げることができました。また,超音波診断装置についても世界中のユーザーにご協力いただき,エラストグラフィなどのアプリケーションの開発に取り組んでいます。画像診断機器は,臨床側の評価を受けて,そのアイデアをもとにアプリケーションの開発を行うことで,技術が進歩していきます。私たちの手がけるハードウエアだけでは意味がありません。ユーザーの皆さまには,私たちとともに,アプリケーションを開発したり,さらには新しい臨床的な価値を一緒に見つけ,それを製品に取り込んでいけるよう,これからもご協力をいただければありがたいと思います。
(2008年6月26日(木)取材:文責inNavi.NET) |
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