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第19回 進まない改定論議

●「事項要求予算」となった診療報酬

 自民党から民主党への政権交代が実現して以降は,これまでにない事柄が次々と発生している。平成22年4月に実施される予定の診療報酬改定も,その一つだ。前回の20年改定では,10月3日に中医協診療報酬基本問題小委員会が開催され,改定の論点が公表された。つまり,改定論議の“キックオフ”は10月早々に行われていたことになる。診療報酬の検討を妨げている要因は2つ。1つは改定に関わる厚生労働省予算が不明であること。もう1つは,中医協の委員選定が難航していることが挙げられる。

 厚生労働省の来年度予算については,すでにマスコミでも「厳しさ」が報じられているところである。民主党の選挙公約である「子ども手当の創設」を含めて,10月15日には28兆8894億円が概算予算として見積もられた。この額は8月に概算予算請求(シーリング)で提出された26兆4133億円を2兆5000億円近く上回る。“無駄を排除する”と言い続けた民主党政権の考え方からすれば,あり得ない予算要求となる。しかもこの金額には,診療報酬改定分は含まれていない。改定の財源は「事項要求」となり,財務省との折衝によっては“実現しない”可能性もあるのだ。産科・小児科・救急医療をはじめとする入院医療の領域はプラス改定とする,という公約を掲げていた民主党。医療崩壊を防ぎ,地域医療を再建すると誓った民主党。その訴えが,はやくも窮地に陥っているのである。

 他の予算と異なり,診療報酬は「集中と選択」に基づいて,“増やすべき点数と減らす点数を区分する”ことが可能なものであろう。つまり,“入院に関してはプラスにしても,トータルではトントン(あるいはマイナス改定)”とすることができる。とは言え医療関係者は,そんなことは望んでいない。そのため診療報酬改定論議に踏み込めないというのが,改定のための討議を遅らせている原因の一つであろう。「事項要求予算」の内容が明らかとなり,改定にどれだけ財源が必要なのか,その財源は確保されるのかが分からなければ,中医協委員も論議に身が入らないに違いない。

●交代する中医協委員の人選

 もう1点が,日本医師会を代表する3名の中医協委員の交代と人選の問題であろう。長妻厚労相は10月6日の閣議後の記者会見で「(中医協は)非常に大切な仕組みであるとともに医療政策というものにも大きな影響を及ぼす仕組みでもあるため,慎重に,しかしスピーディーに決めなくてはならない」と発言し,委員決定の重要性について語った。同時に日本医師会推薦(選出)の委員ということに関しては「診療報酬というのは医療政策を進める上でも一つの仕組みだと思っており,そういう意味では鳩山内閣として進むべき医療改革の考え方に沿うようなお考え(当然いろいろな御意見があるが),そういう信念も持っておられる方というのが,中医協で活躍していただければありがたいという思いもあるのは事実」と,意見を表明している。まとめて言うと“民主党の政策に同調できる人に委員を任せたい”ということなのだ。

 これまでの診療報酬改定,あるいは中医協のあり方について,政権党なりの考え方を持つのは間違いではないだろう。ただし,そのことが改定論議を遅らせ,あまつさえ「中途半端」にしてしまう危険性もはらんでいるのだ。多くの医療機関・医療関連団体・患者が注目している改定論議を,このような形で終始させてしまうのは大問題である。たとえば中医協という厚労相の諮問機関の他に別途検討会を設置する,また4月改定を10月改定に変更するなどの方策は,選択できないものかと思う。むしろ従来の「2月答申・3月官報告示・4月改定」というスケジュールは,医療機関への徹底や経営戦略の再構築を考えると,あまりに無理があると思われる。それを見直す,いいチャンスではないだろうか。

●医療機関側も,考えた対応を

 後期高齢者医療制度について,長妻厚労相は「拙速に物事を進め,患者さん,保険者,利用者,地方自治体が混乱すると元も子もない話になる」と語った(10月9日記者会見)。診療報酬改定も,まったく同じことが言える。同時に医療機関側も,改定内容に一喜一憂するのではなく,地域の期待と果たすべき役割を考えた上で,対応していくことが求められるだろう。目の前にある収入の増減は,確かに気になるだろう。しかし医療機関の役目や存在意義というものは,決して単年度のものではない。改定に際して,医療機関には中長期的視野に立った戦略が必要とされるのである。