自民党から民主党への政権交代が実現して以降は,これまでにない事柄が次々と発生している。平成22年4月に実施される予定の診療報酬改定も,その一つだ。前回の20年改定では,10月3日に中医協診療報酬基本問題小委員会が開催され,改定の論点が公表された。つまり,改定論議の“キックオフ”は10月早々に行われていたことになる。診療報酬の検討を妨げている要因は2つ。1つは改定に関わる厚生労働省予算が不明であること。もう1つは,中医協の委員選定が難航していることが挙げられる。
厚生労働省の来年度予算については,すでにマスコミでも「厳しさ」が報じられているところである。民主党の選挙公約である「子ども手当の創設」を含めて,10月15日には28兆8894億円が概算予算として見積もられた。この額は8月に概算予算請求(シーリング)で提出された26兆4133億円を2兆5000億円近く上回る。“無駄を排除する”と言い続けた民主党政権の考え方からすれば,あり得ない予算要求となる。しかもこの金額には,診療報酬改定分は含まれていない。改定の財源は「事項要求」となり,財務省との折衝によっては“実現しない”可能性もあるのだ。産科・小児科・救急医療をはじめとする入院医療の領域はプラス改定とする,という公約を掲げていた民主党。医療崩壊を防ぎ,地域医療を再建すると誓った民主党。その訴えが,はやくも窮地に陥っているのである。
他の予算と異なり,診療報酬は「集中と選択」に基づいて,“増やすべき点数と減らす点数を区分する”ことが可能なものであろう。つまり,“入院に関してはプラスにしても,トータルではトントン(あるいはマイナス改定)”とすることができる。とは言え医療関係者は,そんなことは望んでいない。そのため診療報酬改定論議に踏み込めないというのが,改定のための討議を遅らせている原因の一つであろう。「事項要求予算」の内容が明らかとなり,改定にどれだけ財源が必要なのか,その財源は確保されるのかが分からなければ,中医協委員も論議に身が入らないに違いない。 |