「機能係数のポイント」について,いくつか注目が必要な項目を解説しておきたい。
(1) 透明化・効率化・標準化・医療の質の向上
第一に挙げられるのが「医療提供プロセスに関わる評価」との関係でとらえるべき,"透明化・効率化・標準化・医療の質の向上"である。厚生労働省がDPCによって目指していたことを,評価の視点として掲げたのだ。現時点では症例数や治療数,あるいは連携可能な医療機関や福祉施設の件数などの「地域格差」について,評価基準をどのようにすべきかを検討中である。つまり,"単純に件数だけを指標にしてもいいのか"という疑問が,未だ払拭していないのである。また,診療ガイドラインに該当しない高度な医療の提供や,がん化学療法の標準レジメンになっていない高度療法についても「標準化」では評価されない恐れもある。こうした点の評価方法についても,解決を急がなければならない。
これまでの調査協力事業によって,DPC対象病院・準備病院のデータは厚生労働省に蓄積されている。次の段階では「何のデータを,どのように指標とするか」が必要とされる。DPC対象病院ではそれが係数化され,同時にDPC以外の医療機関では「指標」として設定されるものと思われる。たとえば「重症度・看護必要度による改善率」については,現在「7対1入院基本料」にのみ,算定要件として導入されているが,今後,指標が設定された時点で,急性期医療を提供するのであれば,他の看護配置体系においても重症度・看護必要度の評価が求められることも予想されるのである。このような点は2010年の診療報酬改定でも議論されていくであろう。
(2) 社会的役割と病院機能
重症患者の入院医療提供や高度機能を有する特定機能病院などを評価する項目である。この項目に関わっては,特定機能病院をはじめとした"入院診療に重点化した診療報酬体系"の実現につながる係数と言える。これまで厚生労働省は「医療機能の分化と連携強化」という観点から,"規模の大きな病院での,一般外来の縮小・廃止"を推し進める議論を行ってきた。08年診療報酬改定では,勤務医の負担軽減を実現するために,「入院時医学管理加算」「ハイリスク分娩管理加算」の算定要件として"外来縮小の計画策定"などを導入している。こうした傾向が,今後急性期病院に拡大されていくことは,明白であると思われる。"大規模急性期病院で一般外来を縮小・廃止させる"ことを徹底するためには,新しく設定される機能係数などにより,「入院の収入のみで経営可能なDPCの体系を作り上げる」ことが求められるのである。
(3) 地域医療への貢献
地域医療計画の柱となった「4疾病・5事業」における,主として「5事業」に関連する医療について評価した項目である。これらの内容に焦点を当てるということは,DPC以外の急性期医療機関に対しても,"「5事業」において,何らかの役割を担うように"という,厚生労働省のアピールではないだろうか。たとえば地域の中核病院に関して考えると,必ずしもDPC対象病院とは限らないケースもあるだろう。そのような場合に,どう診療報酬上の評価を行うのかも大切な視点となる。その際,評価の基軸となる「指標」を明確にするという意味合いとして,係数をとらえておくことがポイントである。
この項目の係数も,"地域差"が大きいという点に着目しなければならない。小児や産科などの「地域センター」としての役割を担っていても,周辺の医療機関の状況から,その役割を果たし切れない状況もある。ある地域の総合周産期母子医療センターでは,医療圏に分娩可能な施設がないため,正常分娩が集中することでハイリスクの妊産婦が入院できないという事態が発生しているという。こうした状況をどのように評価し,解決していくのかが,これからの医療提供体制の構築において重要な点と考えられる。
厚生労働省は「急性期病院やDPC対象病院の階層化」についても検討を行っており,今後は高度医療や「5事業」実施の状況,さらには地域の中核病院などを対象にした"急性期医療のカテゴリー分け"が始まるものと想定される。単なる「急性期」というジャンルではなく,"急性期病院としての位置付け"がより明示されることになるのだ。2012年の診療報酬改定は介護報酬と同時改定であり,なおかつ第1期地域医療計画の最終年にあたる年である。そこで「医療と介護の役割分担の総決算」を図るためには,2010年の診療報酬改定は重要な意味を持つ。その年に実施される「機能係数の導入」であることを,特に急性期病院では忘れてはいけない。 |