すでに述べたとおり,産婦人科や小児科・麻酔・救急などの分野において,医師不足は顕著となっている。そこに「へき地医療」を加えて,厚生労働省は財政支援を行うという方針が継続される見込みだ。新規の予算として「救急医療を担う医師の支援(20.5億円)」「産科医療を担う医師の支援(28.4億円)」が計上された。
まず,我が国の標榜診療科に関する状況を見てみたい。「図表2」によれば,8年間で大きく減少したのが外科・内科・産婦人科である。そのうち外科と内科は“部位別・臓器別”に見ると増加したことになる。必ずしも広い範囲を診療することは難しくても,専門領域を限定すれば決して「減った」とは言い切れないのである。この点は,医療機関(医師)の標榜方法や広報宣伝の能力不足が,患者や住民に誤解を与えたり,あるいは集患に結び付いていなかったりする要因と考えられる。
産婦人科の医師数減少は,危機的な状況と言える。特に分娩を取り扱う医療機関が,ここ数年の間で大きく減少したことは周知のとおりである。厚生労働省は産科医の集中を図り,地域における総合周産期母子医療センターの設置と,それ以外の施設の“サテライト化”をすすめている。一方で「無過失保障制度」を実施するなど,出産時のリスク対応にも着手し始めた。いづれにしても産婦人科医のなり手は,少なくなっているのである。
こうした状況に“待った”をかけようというのが,09年度予算であるが,残念ながら医師の診療科偏在にはつながらないであろう。予算のあり方は「医療機関への援助」であって,医師個人に行われるのではない。救急や産婦人科を担当する医師の給与を決めるのは,あくまでも施設側である。支援金をどう使うかは,医療機関が決定することなのだ。09年介護報酬改定は3%プラスという結果になった。これさえも「介護職の給与に全額割り当てられるものではない」という見解を,厚生労働省は示してはいない。この点は,注意が必要なところである。
結局,“魅力のある医療機関”に医師が多く集まるという従来のスタイルは,大きく変化しないと思われる。厚生労働省の予算は悪い話ではないが,やや「的外れ」的な印象を持たざるを得ない。医療機関にとって重要なのは,自院の魅力(専門性・医療機能など)を外部にアピールするための戦略・戦術を持ち,積極的な広報を実現することなのである。 |