inNavi インナビ・アイズ
第10回 介護報酬改定と医療に及ぼす影響

●介護報酬改定のポイント

 昨年末の12月26日,社会保障審議会介護給付費分科会が開催され,09年介護報酬改定の内容がほぼ明らかになった。全国の介護施設・事業所では,年明け早々から対応や戦略の練り直しに追われているのではないだろうか。

 今回の介護報酬改定のコンセプトは,大きく2点に集約されている。1点目は「人材への対応(=確保と定着)」である。介護事業に関わる離職率は約30%と言われている。また産業別平均賃金においても,全産業の半分程度の水準となっており,募集を行っても人材が集まらないというのが,各施設の現状だ。このままでは介護サービスは破綻してしまうという"危機感"が,厚生労働省にもあったに違いない。すでに10月には「3%の報酬アップ」が決定し,改定内容が早期に発表されたのも,前述のような背景があったからと言ってもいいだろう(「図表」参照)。

 改定では人材確保や処遇の改善,専門性に対する評価の見直しなどが行われた。そして負担の大きな業務として,「夜間業務」「集中業務」「看取り業務」などの再評価を実施している。さらにキャリアアップなどを事業所に対して求めるなど,今後の介護職の方向付けを行ったことが特徴と思われる。

 2つ目のコンセプトは「医療との連携」である。08年4月からスタートした地域医療計画と同様に,介護においても"住み慣れた地域で自立した生活ができるよう,医療と介護の継ぎ目のないサービスを効果的に実施する"ことが社会保障審議会でも課題とされた。具体的には「通所リハビリテーション」や「訪問看護」「居宅療養管理指導」などの項目が見直されており,今後は"医療との役割分担をどう進めるか"が各地で議論されるものと考えられる。特筆すべき内容は「認知症ケア」である。医療分野における診断と治療,その後に続く介護分野でのケアや短期的リハビリテーションなど,厚生労働省は医療・介護の両分野で,その役割を明確にしたのである。

図

●介護報酬改定が医療機関に及ぼす影響とは

 今回の改定項目の中で,医療機関が着目しなければならないものとして「継続したリハビリテーションのあり方」「認知症ケアと連携」「医療・介護の情報共有」の3点を挙げることができる。リハビリテーションに関しては,通所リハビリテーションの一環として「短時間」「個別」の評価に関連する項目が新設された。従来,医療保険で実施していた「維持期リハビリテーション」を介護保険で実施すべく,大きな改定となっている。ポイントと思われるのは「脳血管疾患リハビリテーション料などを算定できる医療機関は,通所リハビリテーション事業所とみなされる点」である。つまり医療機関で医療・介護両方の報酬が算定可能となったのである。これは医療機関にとって福音であると同時に,介護報酬の算定・請求について,医療機関は整備を求められるということでもある。

  認知症ケアについては先に述べたとおり,地域全体での取り組みが必要とされる。この点については,2010年に予定されている次期診療報酬改定にもつながっていくであろう。特に今回の介護報酬改定で"重度化""在宅生活が困難になった者"という表現が,各項目に見られる点はチェックしておかなければならない。すなわち,今後の医療においても「重度の認知症に対する治療」は,重点となることが予想されるのである。

 情報共有に関する項目として,介護報酬改定では「退院・退所加算(2区分)」が新設された。区分内容は「30日未満・以上」となっているが,入院・入所期間の長い方を高い報酬とした点は,厚生労働省が意図する "医療機関の在院日数短縮"に通じるところであろう。長期入院患者に対する連携・情報共有にインセンティブを与えるという考え方は,これからの診療報酬改定でも継続していくであろう。

●医療と介護の一本化と“先を見据えた経営”

 現在の厚生労働省のスタンスは"医療と介護を区分するのではなく,その時々に応じて最適なサービスを提供する"というものである。そのため医療(診療報酬)と介護(介護報酬)の内容をすり合わせ,「社会保障サービス」という一貫した流れを作り出している。この"流れ"を知った上で改定を読んでいくと,"診療報酬改定を見れば,介護報酬のゆくえが分かる""介護報酬改定を見れば,次の診療報酬改定が予測できる"という重要なポイントに着き当たるのである。

 それぞれを別の物として考えるのではなく,重要視される部分や効率化される点は共通しているのだ。そこから「先読みする経営・運営」を行っていくことは,十分可能だということを,経営者・管理者は認識しなければならない。