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第6回 形を変えるDPC

●調整係数廃止論議が進む

 この4月のDPC対象病院の拡大は,従来からの360施設に加えて,4月開始が174施設,7月開始が184施設であった。合計718施設が,現在は対象病院として運用されていることになる。経済財政諮問会議は2012年に包括支払対象病院を1000施設まで増加させることを目標としているが,準備病院も約700施設ほど存在していることを考えると,厚生労働省の「急性期病院=DPC」の戦略は着々と進行中であると言っていいだろう。

 着目すべきポイントは“対象病院における調整係数の差”である。08年度以前の360施設の平均が1.0987であるのに対し,新規追加の358施設のそれは1.0437となっている。さらに調整係数が1.0を下回る病院は,前者が360施設中14施設であるのに対し,後者は358施設中50施設にも上っているのである。対象病院は診療報酬改定の反映のため,調整係数を一律0.82引き下げている。診療報酬本体0.38%のプラス改定が享受できなかった病院も多数あったに違いない。前回のマイナス3.16%改定の時には,あちこちで“DPCに移行したお陰で,減収を食い止めることができた”という声が聞かれた。本体プラスであった今回改定においては,「DPCによる収益逆転現象」が発生しているということも見逃せない点である。

 そして今,懸案事項であった「調整係数の廃止」論議が進んでいる。そもそも調整係数は「DPC制度開始から5年間」という,期間限定のものとして導入されたものであった。今年度はその最終年にあたるため,次回改定となる2010年は調整係数が廃止され,運用の変更が行われる。去る7月30日に開催された診療報酬調査専門組織・DPC評価分科会では,研究班から「見直しの考え方(研究状況)」が報告された。そのポイントは“調整係数に代わる新しい係数の内容”である。「図1」のとおり,4つのカテゴリーに分類され,それぞれの考え方と内容が提示されている。特筆すべき点は「診療プロセスの妥当性評価」や「効率性指数」といった,“Pay for Performance”的要素が盛り込まれていることだろう。実際にこれらが採用されるか否かは決定されているわけではないものの,確実に病院経営は「質の時代」が到来することは間違いないと思われる。また,「4疾病・5事業への対応」を係数として評価しようとしている点にも着目したい。今年度からの地域医療計画の柱となっている「4疾病・5事業」であるが,仮に係数に用いることになれば,“脳卒中よりも糖尿病の方が,係数が高い”など,数値によって各項目の“優先順位”が明確になることも予見できるのである。

図1
図1

●「望ましい5基準」はどこへ向かうのか

 新しい係数について注目しなければならないもう1つの点は「望ましい5基準の状況」である。厚生労働省は“急性期病院に必要な機能”として,これらの施設基準を定義した上で,“DPC対象病院に望ましい基準”とした。しかし「図2」で示すように,DPC関連病院において各基準を届出している施設数はバラつきが生じている。現在の届出病院数は,当時よりも増加しているだろう。しかしDPC評価分科会のデータ当時,5基準をすべてクリアしていた施設は,全体の8%程度であった。もしも「望ましい基準」ではなく「必須条件」であったならば,DPC対象病院は100施設ほどになってしまうのである。これでは厚生労働省の計画が根底から覆されてしまう。逆に病院側から見れば,これらの基準整備には人件費をはじめとした多大なコストを必要とする。何らかの“見返り”がなければ,おいそれと整備に向かうわけにはいかないのが実情であろう。

図2
図2

 厚生労働省では07年度から「大規模病院での一般外来縮小・廃止」の検討が始まっている。裏返せば“外来が廃止されても経営可能な診療報酬体系”を実現しなくてはならないことになる。恐らく,その「切り札」になるのが,“望ましい5基準”の係数化ではないだろうか。5基準をクリアできた病院は,外来収入がなくなっても経営を維持することができる。しかしクリアできない病院では,外来分が減収となり,淘汰されていくことになる。対象病院・準備病院が目標の1000施設を大きく超えているにもかかわらず,今年度も準備病院(調査協力病院)の募集を実施した背景も,この点にあるのではないだろうか。

 今後のDPC関連病院の“舵取り”は,ますます難しくなっていくのである。