約470万件 − 平成19年7月から12月までの間に,厚生労働省が収集したDPCの調査協力データ数である。1428病院から寄せられた総数だが,今後,ますます厚生労働省が持つ診療データは増加していくだろう。DPCに限らず,この4月からは400床以上の病院は電子媒体,あるいはオンライン請求となっている。これからは外来患者のデータも集まってくるのである。果たしてこれらのデータは,どのように使われるのであろうか。
周知のとおり,厚生労働省の狙いは一貫して「医療費削減」にある。平成20年度から5年間,第1期地域医療計画とともに医療費適正化計画も各都道府県で推進される。この“適正化”のために,診療データの分析や検証が用いられることは間違いない。地域別・疾患別の診療内容や医療費の統計が作成され,標準化が図られるのである。これは医学的根拠に基づいた「ガイドライン」とは本質的に異なるものと想定される。“この疾患に必要とされる医療費は○○円”という目安が設定され,その金額と診療報酬とのマッチングが行われることが予想される。
平成21年4月には原則的に全病院が,その後はクリニックが電子媒体やオンライン請求へと移行するため,さらに診療データの集積は進むことになる。同時に今年度から開始される特定健診・特定保健指導事業も,電子(オンライン)請求が義務付けられている。診療データばかりでなく健常者のデータも集まってくれば,当然,それらのデータは比較されるだろう。都道府県で発生する“格差”は問題視され,診療報酬体系に影響を及ぼすことは避けられない。今回の診療報酬改定では回復期リハビリテーション病棟入院料などで「成果主義」が導入されているが,今後は“どのような医療を行ったか”という報酬体系から“医療の成果はどうだったか”“標準的な治療を行ったか”という,実績や質による評価が取り入れられるものと考えられる。昨年には我が国でも「P4P(Pay for Performance)研究会」が発足しているが,廃止が予定されているDPCの調整係数に代わる評価体系としてP4Pを提唱するなど,活発な動きを見せているのである。
このように診療データが集積されることで,医療政策ばかりでなく,治療のスタンスも変化していくだろう。医療の質をモニターし,良質な医療にインセンティブを与えるという視点は誤ってはいない。むしろ「○○流」的な考え方は排除され,均質な医療が定着すると思われる。医療連携が当たり前となった現在,この方向性は望ましいことと言える。一方で問題となるのが「安価な医療=よい医療」と定義された場合だ。クオリティを向上させ,さらにそれを維持するにはコストが必要である。厚生労働省が収集する診療データには,そこまでの情報はインプットされていない。外来患者に対して医師が5分間指導しても,10分間指導しても,外来管理加算は同じ点数として請求される。あるいは入院患者に対して行われる喀痰吸引は,何度行っても1日に48点である(出来高算定の場合)。このような情報が適切に伝達されなければ,誤った方向に医療は進んでしまうことも危惧されるのである。 |