平成22年度医用原子力技術に関する研究助成総合報告会(主催:財団法人 医用原子力技術研究振興財団,後援:文部科学省,厚生労働省)が7月1日(金),アットビジネスセンター大手町(東京都千代田区)にて行われた。同研究助成は,同財団の設立の趣旨に基づき,事業活動の一環として研究助成選考委員会(委員長:阿部光幸 京都大学名誉教授)において実施されるもので,医用原子力技術に関する研究の推進を図り,その研究ならびに若手研究者の支援を目的としている。毎年,“診断技術に関する研究開発” “治療技術に関する研究開発” “薬剤等の研究開発”の対象分野から研究助成テーマが設けられ,40歳以下の研究者を対象に応募者を募り選考する。今回は平成22年度に実施された研究助成の成果報告が行われた。
冒頭,医用原子力技術研究振興財団常務理事の平尾泰男氏が挨拶をした。平尾氏は,近年,放射線を使用した診断,治療が発展してきているが,まだまだ研究途上であると言え,それを助成することは意義あることだと述べた。
続いて,国際医療福祉大学三田病院放射線科の久保敦司氏を座長として,“テーマ1:悪性腫瘍における分子イメージングの基礎的・臨床的研究” “テーマ2:IGRTに関する基礎的・臨床的研究”の研究報告がなされた。
テーマ1では,まず京都大学医学部附属病院放射線部の上田真史氏が「腫瘍の悪性化に関与するHIF-1 発現低酸素領域のRI/ 蛍光デュアル分子イメージング法の開発」について発表を行った。腫瘍の低酸素領域おける転写因子の一種である低酸素誘導因子(HIF-1)の,RIと蛍光によるデュアルイメージングの実験をin vitro,in vivoにて行った。同院で設計・作製したHSV-1TK由来の融合タンパク質を蛍光色素(Alexa 750)で標識し,RI製剤(I-125-FIAU,I-123-FIAU)を併用することで,甲状腺や胃への放射能集積などの課題はあるものの,担がんマウスにおけるデュアルイメージングに成功したと報告した。
次に,理化学研究所神戸研究所分子イメージング科学研究センターの金山洋介氏が,「微小がんの発見と発現分子診断を目指した複数分子同時イメージング法開発」について発表を行った。同研究所の新しい分子イメージング装置として開発された半導体コンプトンカメラ「GREI」による,抗体分子プローブを用いた腫瘍イメージング研究の進捗状況を報告した。3種の抗体医薬(セツキシマブ,トラスツズマブ,ベバシズマブ)によるイメージングに成功したものの,新規標的分子の探索や複数の抗体を用いた際の非特異的集積の緩和などの点で課題が残ったとした。
テーマ2では,はじめに国立病院機構 大阪医療センター放射線科の三上麻里氏が「高線量率組織内照射における画像誘導バーチャル刺入計画法の開発」について発表した。木村氏は,子宮頸がんに対する組織内照射のニードル刺入前のバーチャル刺入計画を立案し,近くの血管や重要臓器を避けながらがん病巣にアプリケータ刺入が可能なテンプレートシステムを作製した。そして,同テンプレートを用いたバーチャル刺入計画により,適切な組織内照射が行えたと報告した。
次に,広島大学病院放射線治療科の木村智樹氏が「肺機能画像を用いた肺癌に対する高精度放射線治療計画法の開発」について発表した。同研究では,低肺機能肺がん患者の正常肺への放射線照射体積を減少させ,安全性の向上を目的としており,4D-CTによる最適な肺機能画像の描出方法や,肺機能における新しい指標の確立,IMRTおよびVMATによる照射精度の検証などの結果を報告した。現在は,実臨床において放射能肺臓炎をどの程度抑えられるかの前向き臨床試験が進行中だという。
休憩を挟んで,“テーマ3:加速器による中性子捕捉療法の基礎的及び臨床応用に関する研究”と特別講演が行われた。座長は,大阪大学名誉教授の井上俊彦氏が務めた。
テーマ3では,京都大学原子炉実験所の田中浩基氏が「加速器BNCT中性子源のための耐放射線性を有する石英ファイバー線量計の開発」について発表を行った。同施設では,これまで原子炉を使用して中性子補足療法(BNCT)を行ってきたが,原子炉利用などについて再考し,加速器によるBNCTの開発を進めてきた。サイクロトロンベース熱外中性子源や中性子発生ターゲットの作製の概要などを説明し,課題として,従来の原子炉での照射よりも高速中性子成分の混入が多いため,皮膚線量への増加の懸念が残ったという。そのため,皮膚線量の正確な評価を行うための,石英ファイバーと液体有機シンチレータを用いた加速器中性子源用線量計を開発した。同線量計は,十分な耐放射線性を確保できた上,従来はできなかったオンラインでの評価や,検出器のヘッド交換による原子炉照射での測定も可能であるとし,その高い有用性を示した。
特別講演では,大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻医療技術科学分野医用物理工学講座の手島昭樹氏が,「がん放射線治療の質と基盤」について講演を行った。手嶋氏は,放射線治療の診療の質は,“構造(治療装備,人員)” “過程(診療行為)” “結果(治療成績)”の3要素で決まるとし,これらから問題点を特定し,改善することで質の向上につながると述べた。日本放射線腫瘍学会(JASTRO)は,全国の放射線治療施設の診療実態をモニタするため,1996年にAmerican College of Radiology(ACR)よりPatterns of Care Study(PCS)を導入したが,これまでの調査結果の分析により,装置等の装備面は徐々に充実してきたものの,患者の増加に対する放射線治療従事者の人材不足が浮き彫りになってるという。また,がん登録等によるがん患者情報の把握も課題だと指摘した。手嶋氏は,人材育成こそが今後のがん放射線治療の質を担保する基盤となり,また,情報系整備による正確な情報の取得が,過程や構造の分析に役立つため重要であると締めくくった。
最後は,平尾氏が猛暑の中の来場をねぎらって,閉会の挨拶とした。なお,同報告会では,各発表後には,会場からの質疑,または発表者同士による質疑応答が見られるなど,将来の実臨床への応用実現に向かう発表者,関係者の強い意欲と関心の高さがうかがえた。 |