3月26日(土),NPO法人 天かけるとGEヘルスケア・ジャパン(株)共催,富士フイルムRIファーマ(株)協賛により,「CT最新技術の臨床有用性セミナー」が尾道しまなみ交流館(広島県尾道市)にて開催され,60名の聴講者が集まった。
冒頭,NPO法人 天かける理事長の伊藤勝陽氏より,NPO法人 天かけるは,3月18日(金)に広島県より認証され,地域におけるゆりかごから墓場までの医療の改善に貢献する目的で設立されたとの挨拶があった。続いて,東邦大学医療センター大橋病院院長の甲田英一氏を座長としてセミナーが行われた。
はじめに,GEヘルスケア・ジャパンの沈 雲氏が,「次世代CT(HDCT)の主な技術特徴─ファントム実験による検証を中心に─」をテーマに講演した。ヘリカルCTの歴史の紹介や,CT技術開発のレビューを交えたX線被ばく低減の最新技術の現状についてファントムのデータを示しながら解説した。従来,5.9mSvが必要だった頭部パーフュージョン検査が,同社の“ASiR”技術で0.59mSvまで低減可能となったという。また,高速でX線管電圧を切り替えることで,潜在的に検査データが持つ情報をさらに分離収集するDual Energy(Spectral Imaging)の有効性は,ビームハードニングの影響を受けない画像の取得や,特に金属が原因のアーチファクトの低減,腎結石の診断能向上,骨と石灰化部位との分離能,微小転移性腫瘍と膿胞の鑑別能,腫瘤の鑑別と定量評価などにあると説明した。最後に,同社が開発した“Veo”と呼ばれる新しい再構成計算技術による,すべてのCT検査で被ばく線量1mSv以下を目的としたファントム検証(東京女子医科大学東医療センターでの研究)を紹介し,従来のバックプロジェクション法でのデータと比較し,その向上した画像を供覧した。
次に,慶應義塾大学医学部放射線診断科准教授の陣崎雅弘氏が「循環器領域でのGE Discovery CT750 HDの有用性」のテーマで講演した。陣崎氏は,循環器領域での冠動脈診断において,CT検査は有用性が高く,日本循環器学会のガイドラインでは,虚血性心疾患の中程度リスク群がCTの良い適応とされていると紹介した。欧米でもガイドラインは提示されているが,慢性閉塞性病変に対する冠動脈形成術の術前評価の有用性や,アジアで見られる先天性疾患などへの言及がない。アジアで行われている虚血性疾患の医療等におけるCT適用について,共同研究者とのガイドラインの作成状況についても報告した。現状のCTによる冠動脈病変の診断における限界として,不整脈時の適用,ステント内狭窄,石灰化病変での狭窄診断能の低さなどを指摘し,GE社のDiscovery CT750 HDの使用により,これらを改善できるか検証した結果を供覧した。72人のステント処置患者のデータ解析によると,従来のCT装置に比べ,2.5mmのステントを倍の精度で鑑別でき,ステント内の再狭窄の診断能の向上が示されている。また,新しい機能のDual Energyによる物質分別法(Material Decomposition)を末梢血管の重度石灰化病変に応用すると,血管造影の診断能と非常に良い一致を示した。心臓検査ではまだ臨床には応用できないが,献体心臓標本での検証結果は期待できるものであったと報告した。そのほか,Spectral Imagingを使ったVirtual Monochromatic Spectral Imaging(VMSI)という新機能の応用研究の成果を供覧した。VMSIは,Discovery CT750 HDに搭載された管電圧高速切り替え機能を使用するものであるが,検証によると,一定の被ばく量で比較した場合,70keVほどの電圧でノイズが最適に減少し,CNRが向上するとした。この条件が標準検査になる可能性が示唆された。
最後は,広島大学大学院放射線診断科教授の粟井和夫氏が「MDCTにおける造影剤投与法の考え方」をテーマに講演した。体内に投与された造影剤の動態について,時間濃度曲線のシミュレーションを用いて説明した。動脈系における動態と,実質臓器(肝臓)での造影剤による濃染をシミュレーションで示し,必要なヨード造影剤量,注入時間を解説した。造影剤注入時間が長い場合は,造影剤到達時間+注入時間となるが,造影剤注入時間が短い場合はテストボーラスが必要であるとした。さらに,造影効果の個人差の要因を解説し,体重,心拍出量による差とその対処を提示した。155kg,身長172cmの被検者の場合,体重だけでなく,除脂肪体重(Lean Body Weight)を使う有用性の例を解説した。また,体表面積を指標とする造影剤量の決定も検討していると報告した。 |