「第4回医療コンシェルジュ研究会」が,2011年1月29日(土)に恵比寿スバルビル(東京都渋谷区)で開催され,医療コンシェルジュ有資格者や医療関係者など,約80名が参加した。
NPO法人 医療コンシェルジュ研究所は,「患者の代理人」として病院における患者の受診環境を改善するための活動を行う医療コンシェルジュの啓発と育成のため,2006年に設立された。2011年1月現在,医療コンシェルジュ(MC)652名,医師事務作業補助者に相当するメディカルアシスタント(MA)137名の資格認定を行っている。同研究会は,既受講者や有資格者に対し,最新情報や他施設との情報交換の機会を提供し,また,MC/MAに興味を持っている人に対して,現場で活躍しているMC/MAとの交流の場を提供することを主眼に開催している。4回目となる今回は,実際に医療機関で働いているMC/MAからの成果発表も加え,総合的な討論が行われた。
同研究所理事長の深津 博氏の開会挨拶に続き,東京医科歯科大学大学院医療経済学分野教授の川渕孝一氏による特別講演「医療は本当にサービス業か」が行われた。川渕氏は,日本では在院日数短縮など医療費抑制の方向で政策が進められていることを受け,患者数・病床数や入退院など国内の現状と,社会保障の厚いデンマークやスウェーデンの状況を解説した上で,国民が納得する医療を行うために,患者本意,患者・家族のための医療連携が必要であると指摘。在院日数短縮を突き詰めるなど,経営からの視点ばかりを重視した医療では,患者・家族が納得する医療を提供することは難しいのではないかと述べた。そして,病院での応対に疑問を感じたという友人の体験を引き合いに出し,サービスという視点から見た場合の病院や医療関係者の応対について,参加者に考えさせるような講演を行った。医療連携における,メディカルソーシャルワーカーやケアマネジャーによる“つなぐ活動”の重要性を強調し,MCにも医療連携のなかでカバーしきれない部分をつなぐ活躍を期待するとした。また,治療について患者や家族が即断することの困難さを指摘し,レット・ミー・ディサイド(治療の事前指定書)の導入についても言及した。
次に,NPO法人 がんと共に生きる会副理事長の海辺陽子氏による講演「患者の家族として医療コンシェルジュに望むこと〜患者中心の医療の実現・定着のために〜」が行われた。父親を喉頭がんで亡くし,母親も胃がんを発病するという経験を持つ海辺氏は,米国のがんセンターの事例を紹介しながら,患者の家族として,また患者会活動を通じて考える,日本の医療に“あったらいい”ことについて詳述した。患者やその家族は,普通の生活を送る,早すぎる死をなくす,人間らしく最期を迎えることを望んでいるとし,MCはそんな患者の思いに寄り添ってもらいたいと期待を述べた。
休憩を挟んで,厚生労働省医政局総務課課長補佐の武内和久氏より指定発言が行われた。MCの制度化などを視野に入れた場合,その位置づけや役割の明確化と共有,社会にとってのメリットについての整理・発信,定量的な成果の把握,トレーニング・教育を通じた水準・質の担保が必要であろうと行政側からの視点を述べた。そして,MCのような患者の視点に立つ要素が,今後の医療において大きなトレンドになっていくだろうと予測を述べた。加えて英国のNHS(National Health Service:国民保健サービス)プランや,患者と医療提供者の間に立ち,MC的な役割を果たしているPALS(Patient Advice and Liaison Service:患者助言連携サービス)について紹介した。
続いて,医療機関でMC/MAとして活躍している5名をパネリストとして迎え,「医療コンシェルジュとして患者に寄り添う」をテーマにパネルディスカッションが行われた。パネリストは,戸燉搆b氏(愛媛大学医学部附属病院),岩澤千代子氏(社会医療法人誠光会草津総合病院),藤原希美氏(社会医療法人社団慈泉会相澤病院),矢口智子氏(医療法人社団浅ノ川金沢脳神経外科病院),古澤敦子氏(名鉄病院)の5名。各発表から,MCの活動の場は,病院の外来や病棟,百貨店内に設けられた健康相談窓口などさまざまであり,医療機関ごとにニーズを見極め,試行錯誤しながら,業務内容の決定,運用がなされていることが浮かび上がった。MC/MAの導入により,紹介患者のスムーズな受診や,医師・看護師の負担軽減,入退院の手続きや案内などにより患者満足度がアップするなどの成果が出ていることが報告された。
最後に深津理事長は,「医療コンシェルジュを導入している医療機関は150強あると把握しているが,対象となる急性期病院全体の2〜3%程度に過ぎず,もっと普及させたいと考えています。そのためには,導入によって業務の効率化・最適化が図れることをエビデンスをもって周知し,直接保険診療にはかかわらなくとも,メリットがあることを病院経営側に伝えていく活動の必要性を感じています。導入にあたっては,看護や医事の現場から反発を受けることもありますが,医療系の資格を持たない一般の方が力を発揮して問題解決につながることもあり,実際に未収金ゼロを達成したMAもいます。病院内にはさまざまな問題が混在していて,その解決には問題を定量的に数値化しなければなりません。その数値化に必要な,患者側の定量的な情報収集や,予約や受付,診療,入退院に至るまでの横断的な視点を持つことが,MC/MAの導入によって可能になると思います」とコメントした。 |