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取材報告

2010
アジア原子力協力フォーラム(FNCA)一般公開講座を開催
「原子力の平和利用―アジア地域における放射線がん治療と日本の役割」

戸渡速志氏(文部科学省)
戸渡速志氏
(文部科学省)

米倉義晴氏(放射線医学総合研究所)
米倉義晴氏
(放射線医学総合研究所)

町 末男氏(FNCA)
町 末男氏
(FNCA)

山田章吾氏(東北大学病院がんセンター)
山田章吾氏
(東北大学病院がんセンター)

幡野和男氏(千葉県がんセンター)
幡野和男氏
(千葉県がんセンター)

辻井博彦氏(FNCA/放射線医学総合研究所)
辻井博彦氏
(FNCA/放射線医学総合研究所)

C.R. Beena Devi氏(マレーシア)
C.R. Beena Devi氏
(マレーシア)

Miriam Joy C. Calaguas氏(フィリピン)
Miriam Joy C. Calaguas氏
(フィリピン)

Pittaya Dankulchai氏(タイ)
Pittaya Dankulchai氏
(タイ)

Dang Huy Quoc Thinh氏(ベトナム)
Dang Huy Quoc Thinh氏
(ベトナム)

Massoud Samiei氏(IAEA)
Massoud Samiei氏
(IAEA)

鎌田 正氏(放射線医学総合研究所重粒子医科学センター)
鎌田 正氏
(放射線医学総合研究所
重粒子医科学センター)

会場風景
会場風景

  文部科学省が主導するアジア原子力協力フォーラム(FNCA)の放射線治療プロジェクトの活動成果と参加各国への社会的貢献を紹介する一般公開講座が,2010年11月27日(土),社会文化会館三宅坂ホール(東京都千代田区)にて開催された(主催:文部科学省,放射線医学総合研究所)。
  FNCAは,近隣アジア諸国との原子力分野の協力を効率的かつ効果的に推進することを目的に日本が主導する原子力平和利用協力の枠組みで,オーストラリア,バングラデシュ,中国,インドネシア,韓国,マレーシア,フィリピン,タイ,ベトナムの10か国が参加している。FNCA体制のもとに推進されている放射線治療プロジェクトでは,アジア地域で発生頻度の高いがんに対する最適な治療方法の確立と治療成績の向上,さらにアジア地域における放射線治療の普及が図られており,これまでに子宮頸がんと上咽頭がんに対する放射線治療と化学療法の併用療法に関するアジア各国共通のプロトコルが作成され,現在,アジア諸国で広く用いられている。
  今回の講座は,「アジア地域における放射線がん治療と日本の役割」と題し,放射線治療プロジェクトの紹介のほか,強度変調放射線治療(IMRT)や重粒子線治療など,日本における最先端の放射線治療について講演が行われた。

  開会式では,戸渡速志氏(文部科学省大臣官房審議官,研究振興局担当)と,米倉義晴氏(放射線医学総合研究所理事長)の2名が挨拶に立った。戸渡氏は,FNCAの概要や放射線治療プロジェクトの成果を紹介し,これからもプロジェクトを積極的に推進していくとの方針を述べた。次に米倉氏が,放射線医学総合研究所が取り組んでいる研究内容や国際原子力機関(IAEA)協働センターとしての役割などを説明した上で,がんが日本国内だけでなくアジア地域でも増加していることから国際的対応が求められているとし,この機会にがん放射線治療への理解を深めてほしいと期待を述べた。
  続いて,FNCA日本コーディネーターの町 末男氏が,「原子力を利用してアジアの持続的発展に貢献するFNCA」と題したオープニング講演を行った。2000年に発足したFNCAの目的や現在までの経緯を説明し,11月18日に中国で行われた大臣級会合にて,モンゴルとカザフスタンが加わり,参加国が15か国になったことを報告。また,現在進めている11の協力プロジェクトのうち,農業分野における品種改良や成長促進剤,バイオ肥料などの開発成果,がんの放射線治療の成果について,具体的に紹介した。そして,アジア地域のエネルギー消費が増加していることを受け,将来的に天然ガスなど資源の枯渇が予測されることや,化石燃料の炭酸ガス発生による温暖化を抑制するために,持続可能なエネルギーとして,原子力の重要性を世界に発信していくことが必要であると説いた。原子力は一般に受容されつつあるが,そのリスク面が注目されがちであることから,原子力についてわかりやすく伝える,また,そのための人材を養成するといった取り組みを,日本がリーダーシップを発揮して進めていると述べた。

  講演1「我が国における最先端放射線治療」では,まず山田章吾氏(東北大学病院がんセンター長,放射線治療科教授)が,「我が国における放射線治療の現状」を講演した。わが国では,固形がんに対する治療は外科手術が主導してきたが,近年は機能温存が可能といったメリットから放射線治療が見直され,治療件数が増加している現状を説明。また,正常細胞への照射などのデメリットを克服するために定位放射線治療などの治療技術が進歩しているとし,一例として抗がん剤を併用した放射線治療について解説した。一方,放射線治療が,がん治療に占める割合は,専門家の不足から欧米の65%と比較して25%と低く,放射線腫瘍医や医学物理士など専門家を増やす必要性を指摘した。
  続いて幡野和男氏(千葉県がんセンター放射線治療部部長)が,「強度変調放射線治療(IMRT)」をテーマに講演した。まず,従来の3D-CRTとIMRTを比較して,IMRTの原理と実際についてスライドを用いて説明し,IMRT装置を使って名画を描く実験から,その高精細さを示した。IMRTの問題点として準備や治療に時間がかかること,また,山田氏も指摘したスタッフ不足を挙げ,スタッフ充足の必要性とチームワークの重要性を述べた。

  休憩を挟み,講演2「アジア地域に広がる放射線治療」が行われ,初めに「アジアにおける放射線治療の標準化に向けたFNCA活動」と題し,辻井博彦氏(FNCA放射線治療プロジェクトリーダー,放射線医学総合研究所理事)がプロジェクトのこれまでの治療成果を紹介した。辻井氏は,プロジェクトの中心活動として,アジア地域で頻度の高い子宮頸がんと上咽頭がんに対する放射線治療および化学療法の国際的な多施設共同臨床試験について詳述し,各国の専門医が集まりプロトコルを作成し,それに沿った治療,成績評価を行っており,大きな効果を生み出してきたことを報告した。続いてマレーシア,フィリピン,タイ,ベトナムの4か国代表による各国の放射線治療の現状とFNCA活動の貢献について講演が行われ,各国から,がん患者の増加に専門家や治療施設が追いついていないとの声が上がった。
  次に,Massoud Samiei氏(IAEAがん治療アクションプログラム局長)が,「IAEA/PACT:アジア太平洋地域における放射線医療のための自立的がん対策と基盤の構築」を講演。世界的ながん増加のデータを示し,途上国における医療水準の低さ,がん治療の世界的不均衡を報告した。将来的に増加が予想されるがんに対応するため,IAEAはがん治療アクションプログラム(PACT)を創設し,世界保健機構(WHO)とともに,がん対策における共同プログラムを展開していることを述べた。

  最後に特別講演として,鎌田 正氏(放射線医学総合研究所重粒子医科学センター長)が,「ここが違う重粒子線がん治療」と題し,最先端の重粒子線治療について講演した。従来の放射線と比較し,重粒子線のメリットとして,線量の高い集中性と強い生物効果を挙げ,正確に治療をするための方法や,臓器別の症例を示しながら治療の成功例などを紹介した。また,難治がんに対しても優れた治療効果を得ているとともに,より短期間に安全な治療を実施できると述べた。そして今後,FNCAの活動を通じて,重粒子線治療がアジア地域全体で,「いつでも」「どこでも」「だれでも」受けられるようになることへの期待を示した。


●問い合わせ先
財団法人原子力安全研究協会
国際研究部
TEL 03-5470-1983
http://www.nsra.or.jp/