NPO法人日本医療情報ネットワーク協会(JAMINA)は11月26日(金),東京医科歯科大学M&Dタワー大講堂において,セミナー「医薬品・医療材料開発の品質向上における医師関与の必要性」を開催した。このセミナーは,医薬品や医療機器の開発に医師などの医療現場からITを用いて発信することの重要性について考える場として設けられた。
まず,講演1としてJAMINAの理事長である東京医科歯科大学大学院生命情報科学教育部教授の田中 博氏が,「ユビキタス健康医療社会の実現と医療福祉ICTの今後の方向性について」と題して講演した。田中氏は,ユビキタス健康医療について,「どこでも」「いつでも」最良の医療・健康管理を受けられる情報環境が重要だとして,病院,地域医療,日常生活というそれぞれの場面において,情報通信技術を用いて,安全に疾病管理を行うための方策について説明した。また,生涯継続性のある健康・疾病管理,地域統合性のある医療・健康管理,日常生活基盤のユビキタス健康医療を新しい医療の軸として挙げ,医療再生のためにも,全国の地域で情報基盤を設け,それを統合し,レセプトの情報も組み合わせることで,日本版EHRを構築すべきであるとの見方を示した。
続く講演2では,米国に本社を置く市場調査会社であるWorldoneの最高執行責任者(COO)であるMorten Kirk氏が「ヘルスグローバル市場におけるマーケットリサーチの重要性」をテーマに講演した。Worldoneは,2000年に設立され,現在社員は200名。2010年度の売上高は37億円(前年度比70%アップ)を見込んでいる。同社では,「LeadPhysician」と呼ばれるオンライン上の市場調査を行っており,全世界80か国で51万人を超える医師が参加している。このLeadPhysicianでは,医師がオンライン調査に参加して,最新の医療ニュースを得ることができるほか,医薬品や医療機器の開発に意見を発信することが可能。調査に協力した医師にはAmazonの商品券などが謝礼として支払われる。2010年10月には,日本法人も設立されたが,現時点では日本からの参加者は3000名と世界的に見ると低い。Kirk氏は,このような同社の事業や日本での展開について説明した上で,今後の事業展開として,新たにフォーラムを開設することや,サーチエンジンの開発などを紹介した。
休憩を挟んで行われた講演3では,(財)医療情報システム開発センター研究開発部首席研究員の山田恒夫氏が講演した。山田氏の演題は「医用波形データの標準化―MFERは日本から世界へ―」。MFER(Medical waveform Format Encoding Rule)は心電図や脳波などの波形情報に特化した規格であり,日本から国際標準規格として提唱している。波形情報を相互に利用できるようにするためのものであり,容易に実装することができるなどの特長を持つ。山田氏はこれらについて説明した上で,ISOにおける標準化活動や実際にMFER規格が採用された製品,施設導入事例などを紹介した。また,山田氏は今後の展開として,中国との間での心電図の伝送実験などについても紹介した。
最後に行われた講演4では,「かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX)を用いた『治験IT化の実際について』〜特に市販後副作用情報収集システムの開発と今後の実応用に関して〜)」と題し,香川大学瀬戸内圏研究センター特任教授の原 量宏氏が登壇した。原氏は,香川県で取り組んでいるK-MIXについて,地域連携パスなどの運用状況について説明した上で,現在の電子カルテは臨床試験に必要な情報が取り出しにくいなどの問題点を挙げた。そして,これからの治験は効率化,インターネット上での真正性,システムの接続性がカギになると述べ,香川大学における電子カルテシステムでの医薬品安全性情報報告の実装や,CDISC形式出力によるEDC(Electronic Data Capture)システムとの連携例を紹介した。これらを踏まえた上で,原氏は,電子カルテシステムからの治験情報の入力が現実的なものとなりつつあると見方を示した。 |