第37回日本低温医学会総会(渡邊正志会長・東邦大学医療センター大森病院医療安全管理部教授)が11月11日(木),12日(金)の2日間,東京国際交流会館(東京・江東区)にて開催された。日本低温医学会は,凍結手術(cryosurgery)と凍結保存(cryopreservation)を二本柱に,低温の医学的応用や関連領域への応用などに関する研究をテーマとしている。中でも,凍結手術においては2010年1月,冷凍治療器「CryoHit」(Galil Medical社製/日立メディコ社販売)が経皮的治療および腹腔鏡下・開腹下手術にも使用可能な装置として,薬事承認されたことで,わが国でもようやく臨床応用が可能になり,新しい展開を迎えようとしている。そこで今回は,「凍結治療の新しい幕開け(The New State-of-the Art in Cryomedicine)」をテーマに,活発な議論が行われた。なお,今回もInternational Institute of Refrigeration(IIR)とInternational Society of Cryosurgery(ISC)との協同開催となっている。
CryoHitの認可は小腎癌が対象であり,日本低温医学会,日本泌尿器科学会,日本Endourology・ESWL学会,日本インターベンショナルラジオロジー学会が共同でまとめた「小径腎癌凍結治療のガイドライン」に則って治療を行うことなどが承認条件となっていることから,ガイドラインの実施医基準で明記されている学会公認の「2010年度凍結治療教育講習会」が本総会にて開催された。
11日には,カンファレンスルーム1において,上記の凍結治療に関する教育講習会「総論」コースが行われた。はじめに,日本低温医学会理事長の隅田幸男氏が,「Cryosurgery and cryopreservation, history of cryosurgery」と題して,世界における凍結治療と凍結保存の歴史や,凍結手術学会の歩みなどについて概説した。また,九州大学大学院工学研究院の高松 洋氏は,「A freeze phenomenon from the perspective of thermodynamics / heat transfer engineering」と題して,クライオプローブの冷却原理であるジュール・トムソン効果について概説したほか,クライオプローブの温度分布のシミュレーション結果を報告し,それを踏まえたアイスボールの大きさとマージンとのバランスについて考察した。続いて,凍結治療の問題点について2つの発表が行われた。帝京大学医学部附属溝口病院外科の杉山保幸氏は,「Peculiar complications of cryosurgery(Possibility of the tumor increase)」と題して,凍結治療における免疫応答について述べた。がんと免疫との関係を踏まえた適切な凍結治療のタイミングについて考察したほか,凍結治療によって得られる液性免疫の抗腫瘍メカニズムについて詳述。一方,問題点として,以前所属していた岐阜大学における動物実験の結果などを示し,凍結治療の対象や方法によっては腫瘍を増大させる可能性があると指摘した。岩手医科大学医学部の若林 剛氏は,「Peculiar complications of cryosurgery(Coagulopathy etc.)」と題して,凍結治療による合併症について概説した。凍結治療は,主に実質臓器の腫瘍に対する有効な治療法であり,低侵襲で痛みがないなどの高い有用性がある。一方,全身の合併症として,凍結融解に起因した凝固異常(凝固障害),クライオショック,肝臓や腎臓の凍結に起因した肝不全および腎不全,心筋梗塞,また,局所の合併症として凍った腫瘍の破損(cracking),凝固異常やクライオプローブに基づく出血,壊死組織の感染による膿瘍,胆管損傷に伴う胆汁漏,反応性胸水などがあると紹介。さまざまな論文や,自身が慶應義塾大学で凍結治療を行った100例に対する検討結果などを示し,凍結治療を行うにあたっては,細心の注意を払う必要があると述べた。
11時からは,会場をメディアホールに移して,会長講演やランチディスカッション,教育講習会,特別講演などが行われた。
会長講演では,渡邊氏が「My cryosurgery」と題し,凍結治療による免疫活性,ラジオ波焼灼術(RFA)との比較,CryoHitの紹介,治療ガイドラインの概略などについて述べた。その上で,凍結治療を行う際のポイントとして,免疫を含めた患者の状態把握の重要性,大きな腫瘍の治療は行わない,一度で治療せず頻回に行う,化学療法・免疫賦活・他の焼灼術と組み合わせて治療するという4点を挙げた。
続いて行われたランチディスカッションでは,東京慈恵会医科大学大学院医学研究科教授の原田潤太氏が座長を務め,Galil Medical, Asia Pacific ManagerのPam Schwartz氏が「Specification CryoHit」と題して, CryoHitの特長について紹介した。MRI対応のクライオプローブは,径が1.5mmと従来の約半分にまで細くなり,種類や本数,配置を工夫することで腫瘍に最適なアイスボールを作ることが可能であり,約4cmの腎腫瘍に対応することが説明された。北海道大学大学院保健科学研究院の清水 匡氏は,「The actual use of CryoHit」と題して講演した。凍結融解による細胞障害の原理や,MRIをガイドに使用するメリット,マージンのとり方,プローブの配置や使用本数などの治療のポイントについて解説したほか,2001年3月〜2002年10月まで同大学および東京慈恵会医科大学附属柏病院で行われた,肝がん,腎がん,子宮筋腫の計60例に対するCryoHitを用いたオープンMRIガイド下経皮的凍結治療の臨床試験の結果について報告。肝がんでは局所制御率81.3%,3年生存率60%という結果が得られたほか,子宮筋腫については約8割に症状の改善が見られたと述べた。
次回の第38回日本低温医学会総会は,2011年10月6日(木),7日(金)の2日間,杉山保幸会長のもと,都市センターホテルにて開催される予定である。
CryoHitの展示風景
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