日本放射線腫瘍学会(JASTRO)は,第23回学術大会を11月18日(木)〜20日(土),東京ベイ舞浜ホテルクラブリゾート(千葉県浦安市)で渋谷 均氏(東京医科歯科大学腫瘍放射線医学分野教授)を会長として開催する。それに先だって,10月15日(金)に「切らずに治すがん治療,放射線治療の進歩と実力」と題して,学術大会のプログラムとJASTROの活動を紹介するプレスカンファレンスを開催した。
最初に,日本放射線腫瘍学会第23回学術大会の会長である渋谷氏から,今大会のプログラムのハイライトの紹介があった。大会のメインテーマは「明日の笑顔に願いをこめて」で,特別講演として,国立がん研究センター理事長の嘉山孝正氏の「日本がん医療の問題点と今後の方向性」,宇宙航空研究開発機構の川口淳一郎氏による「はやぶさが挑戦した人類初の小惑星イトカワへの往復飛行」など4題が行われる。特別企画シンポジウムは「世界と日本の放射線腫瘍学」と題して米国,欧州,韓国の放射線腫瘍学会の代表によるディスカッションを予定している(詳細はこちら)。
渋谷氏は,東京医科歯科大学で行っている頭頸部がんの小線源治療の現状についても紹介した。インフォームドコンセントやセカンドオピニオンの普及で,患者側はさまざまな治療方法を求める傾向があり,小線源治療へのニーズが増えているが,全国の実施施設は1998年の106施設から2007年には76施設まで減っている状況だという。
続いて,JASTRO放射線治療推進委員長の西村恭昌氏(近畿大学教授)が,「放射線腫瘍医を増やす方策−がんプロ,医学生セミナー」を講演した。西村氏は,日本の放射線治療の一番の課題は放射線腫瘍医が少ないことで,これをいかに増やすかが使命であるとして,JASTROとしての取り組みの現状と今後の方針を説明した。がん診療連携拠点病院を中心に放射線治療装置の整備が進められているが,拠点病院におけるIMRT(強度変調放射線治療)の実施率は15%で,これは人員不足によるものだという。そのため,IMRTが実施可能な施設に患者が集中し,近畿大学や京都大学では前立腺がんのIMRTは6か月待ちという状況になっている。こういった状況の中で,2007年度から始まった「がんプロフェッショナル養成プラン(がんプロ)」では,全国18拠点大学が参加して放射線腫瘍医コースでの養成を行っているほか,日本医学放射線学会(JRS)と共同で専門医制度を一本化し,「放射線科専門医」と,さらに研修を積んだ「放射線診断専門医」「放射線治療専門医」を設ける新しい専門医制度を来年からスタートするなど,人材の養成と専門性の向上に取り組んでいる。さらに,西村氏は,医学生リクルートやJASTROが他学会に先駆けてはじめた医学生,研修医のための夏季セミナーなどの人材養成関連の事業を紹介し,今年5月には文部科学省に対して,今年度で終了予定のがんプロの継続と大学における放射線腫瘍学講座の独立などの要望書を提出するなど,放射線治療に携わるスタッフの養成に対してさらなる取り組みが必要であることをアピールした。
最後に講演したJASTRO理事長の平岡眞寛氏(京都大学教授)は,同学会の活動報告とあわせて放射線治療の問題点について次のように述べた。
「日本における放射線腫瘍学の問題は,放射線医学の中の1つの領域として位置づけられていることだ。欧米では,腫瘍学(Oncology)の1つの部門としてキャリアをスタートするが,日本では放射線科に入局して画像診断から学ぶことになる。そのため,腫瘍専門医を育成するという環境が不十分で,キャリアアップに時間がかかってしまう。これは,放射線治療に限ったことではなく,医療の中でがんの領域が大きくなりすぎて,卒前,卒後教育を含めて日本の医療体制が臓器横断的な領域(がんや感染症など)への対応が遅れていることが課題で,医療界全体として腫瘍学に対する体制を抜本的に見直すことが重要だ」 |