東京大学医学部附属病院（以下，東大病院）と公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン^＊1（以下，DMHC）は，東大本郷キャンパス内に，遠方から入院する子どもに付き添う家族が利用できる滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス　東大（以下，東大ハウス）」を建設することを発表した。10月7日，東大病院で開催された記者発表会には，東大病院病院長の武谷雄二氏のほか，東大病院小児医療センターセンター長/小児科教授の五十嵐　隆氏，東大病院副院長/事務部長の櫛山　博氏，DMHC理事長の開原成允氏（国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科大学院長）が出席した。

　 「ドナルド・マクドナルド・ハウス（以下，ハウス）」は，一般的にホスピタリティハウスと呼ばれ，入院している子どもの付き添い家族のための滞在施設。日本では2001年に国内1号ハウスが開所し，東大ハウスは国内8か所目となる。
　 東大病院に入院する小児患者は年間で延べ10500人おり，なかには高度小児医療を受けるために地方や遠方からの入院を余儀なくされるケースも多い。小児患者には親の付き添いが必要となることから，入院費や宿泊費用など家族の経済的負担も期間が長期になるほど膨らむ。このような実態への対応策として，東大病院ではホスピタリティハウスを検討し，ハウスの招致が決まった。

　 冒頭，武谷氏は，小児医療は目覚ましい進歩をしているが，特に，先天性疾患や悪性腫瘍に対する治療では治療期間が非常に長期化しており，長期入院患者の家族を支えるための施設が待望されていたと挨拶した。小児（15歳未満）の心臓移植を認める法令改正（2010年7月，改正臓器移植法）で，東大病院が心臓移植実施施設^＊2に認定されたこと，また，東大病院小児医療センターが「こども救命センター^＊3」として都から指定を受け，小児の重症症例を必ず受け入れるようになったことが，今回の招致につながったと説明した。

　 次に，五十嵐小児医療センター長より，東大病院における小児医療の現状が説明された。東大病院の入院患者には，総合的で高度な治療を求めて，小児科も含め他の病院からの紹介患者が多いことや，小児科の疾患別では，高度で長期の治療が必要な疾患が全体の72％を占めていることなどを，グラフを示しながら解説した。五十嵐氏は，就学年齢になれば，長期の入院が必ずしも良いわけではなく，患者のQOLを守るためには院内の学校に通い，治療はできるだけ外来でというのが望ましいとし，キャンパス内に東大ハウスが設立されることは，患児と家族，病院にとっても福音となると期待を述べた。

　 この後，開原氏よりハウスの概要が説明された。ハウスの運営は，寄付とボランティアによって支えられており，ホテルではなく，「家庭」を病院の近くに作る HOME AWAY FROM HOME という理念のもとに世界中で広がっていると紹介。開所後は，東大ハウスを日本の小児医療に活用してほしいと述べた。

　 東大ハウスは，東大本郷キャンパス敷地内に2011年秋に開設予定。4階建て，12室を用意するとしている。

*1　病院で闘病生活を送る難病・重病の子どもの家族への支援を目的に，日本マクドナルド（株）の出資金により設立された。一般的にホスピタリティハウスと呼ばれる滞在施設，「ドナルド・マクドナルド・ハウス」の建設・運営をはじめ，福祉，医療分野におけるボランティアへの助成などを行っている。ハウス運営や助成などの各事業の費用は，企業や個人からの善意の募金・資金寄付，また，財団主体の募金活動によって集められる。

*2　東大病院，大阪大学医学部附属病院，国立循環器病研究センター（大阪）の3施設

*3　東大病院，国立成育医療研究センター，日本大学医学部附属板橋病院，都立小児総合医療センターの4施設