ホーム の中の取材報告の中の 2010の中のフィリップスエレクトロニクスジャパン,小児MRIフィリップスユーザーズミーティング(CUTE)を開催

取材報告

2010
フィリップスエレクトロニクスジャパン
小児MRIフィリップスユーザーズミーティング(CUTE)を開催

会場風景
会場風景

西村 玄氏
西村 玄氏

藤田和俊氏
藤田和俊氏

武村 濃氏
武村 濃氏

  (株)フィリップスエレクトロニクスジャパンは,小児MRIフィリップスユーザーズミーティング(Children mr Users TEchnical meeting:CUTE)を,9月11日(土),東京都立小児総合医療センター(府中市)で開催した。
  CUTEは,西村 玄氏(東京都立小児総合医療センター放射線科 部長)を発起人として,小児MRIの検査や撮像のテクニックなど,臨床現場に有意義な情報を交換する場として今年から発足した。第1回のミーティングとなる今回は,「頭部&脊髄」をテーマに,小児MRIの臨床経験や取り組みについての各小児医療施設からの報告,フィリップスからの技術講演,読影医の視点から小児MRIのトピックスを取り上げた特別講演,施設見学,フィルムディスカッションが行われた。
冒頭に挨拶した発起人の西村氏は「小児専門施設では,限られた時間の中で決められたシークエンスで撮影を行うのが精一杯というのが現状だが,新しいMRIのシークエンスはさまざまなポテンシャルを持っている。小児MRIを行う専門施設が現状や課題を共有し,最新の撮像法やシーケンスを学ぶことで,明日からの診療に役立てられるような場になることを期待している」とコメントした。

  施設紹介では,東京都立小児総合医療センター(以下都立小児),埼玉県立小児医療センター(同埼玉小児),長野県立こども病院(同長野小児),群馬県立小児医療センター(同群馬小児)から,小児MRI検査の現状と課題について,検査件数や撮像シーケンスなどのデータから,入眠管理の方法や固定具の工夫まで具体的,実践的な報告があった。
  報告の中では,小児のMRI検査で課題となる安静が難しい子供に対して,鎮静までの手順や体動を抑える固定具など検査での工夫が紹介された。鎮静の工夫では,都立小児ではCT,MRIと一般撮影の廊下を分けて,照明を暗くし静かなエリアを設けた。埼玉小児では,入眠には回復室3室を使用し,MRIの脱着式寝台を使ってそのまま検査を行うことで移動時に起きてしまうことを防いでいる。また,安静な検査のためには,家族の検査への理解が不可欠であり,説明を十分に行い前日に寝不足を徹底すること,検査の順番を工夫し状況によって順番を入れ替えるなどの柔軟な対応を行っている。撮影時の工夫としては,頭部の撮影に未熟児用保育器を使用したり(埼玉小児),体位を変えることなく頭部と脊椎の検査が可能なポリカーボネイト製の特注固定具を使っている(群馬小児)ことなどが紹介された。また,安全管理では検査前に検査中にT2*画像の検査中に画像にアーチファクトが発生したことで,おもちゃの磁石を誤飲していることがわかったケースなどが報告され,小児検査の難しさ,大変さを感じさせた。

  技術講演では,フィリップス同社のMRアプリケーションの武村濃氏が「小児領域に対するフィリップスの取り組み」を講演した。武村氏は,小児MRIで工夫が必要なポイントとして,受信コイル,ポジショニングや補助具,スキャン技術やテクニック,周辺技術・機器を挙げ,それらに対するフィリップスの取り組みを紹介した。フィリップスでは,小児専用コイルを用意しており,その中から8チャンネルのSENSE Body/Cardiac CoilとSENSE Head/Spine Coilを紹介。Head/Spine Coilでは,患者を動かすことなく頭と全脊椎を検査することができることを説明した。さらに,これらのコイルで可能になるフィリップスの高速撮像法であるSENSEについて,小児領域での有用性を述べた。また,検査時の騒音をカットするAcoustic Hood,検査のワークフローを向上するSmartExam,ライティング事業部と共同開発した検査環境“Ambient Experience”などの技術や製品を紹介した。

  特別講演では,藤田和俊氏(東京都立小児総合医療センター)が「小児頭部&脊髄に関するポイント(読影医の視点から)」と題して,微少出血の検出に有用性が高いとされる磁化率強調画像の小児MRIにおける臨床について,小児脳における変化や応用など臨床画像を含めて講演した。磁化率強調画像は,組織の酸素消費の状態や脳表血管分布の把握に有効であり,今後の発展に期待する画像シークエンスだとまとめた。

  フィリップスでは,今後,取り上げる領域を広げながら,CUTEを年1回開催していく予定だ。


●問い合わせ先
株式会社フィリップスエレクトロニクスジャパン
広報部
TEL 03-3740-4551
http://www.healthcare.philips.com/jp/


東京都立小児総合医療センター

東京都立小児総合医療センターは,都立病院再編計画の一環として,都立清瀬小児病院,都立八王子小児病院,都立梅ヶ丘病院の3施設と,旧都立府中病院(現多摩総合医療センター)の小児科を統合して,多摩メディカルキャンパス内に2010年3月に開院した。「こころ」と「からだ」を総合した小児医療の提供をめざし,総合診療部の設置,専門医療の充実,周産期医療体制の強化として多摩総合医療センターとの連携した総合周産期医療センターの開設など,多摩地域における小児医療の拠点施設として整備された。また,小児専門ERを設置し,東京都が9月からスタートした“こども救命センター”の指定医療機関となるなど,小児救急医療にも力を入れているのが特長だ。
同センターは,多摩総合医療センターと施設が一体化しており,病床数は426床(9月現在,フルオープンで561床),外来は身体と心を合わせて1日平均750人となっている。放射線科は,1階の検査コーナーのほか3階の手術室部門にCTと心臓血管撮影装置が設置されている。また,地下1階に核医学部門がある。スタッフは,放射線科医師3名,診療放射線技師17名などとなっている。
今回,小児MRIフィリップスユーザーズミーティングの会場となった同センター放射線科の西村 玄部長,千葉 茂技師長に,施設の現状と小児MRIのこれからについてインタビューした。

  院内は木のオブジェなど武蔵野の森がコンセプトとなっている
院内は木のオブジェなど武蔵野の森がコンセプトとなっている

千葉茂氏(放射線科技師長)

●小児総合医療センターは,多摩地域の小児の基幹病院です。東京都の“こども救命センター”にも指定され,民間医療機関と連携して三次救急を中心に小児に特化した高度な専門医療を提供することが役割です。放射線科としては,依頼された検査を安全,確実に行うことが一番重要なことです。
小児の画像検査は,大人とは異なり時間と手間がかかります。子供にとって検査は基本的に嫌なこと,怖いことですから,簡単には終わりません。検査時には,スタッフが2名ついて,抑制を行いながらタイミングを見て撮影を行います。当センターの技師の定員は17名ですが,通常の検査よりも手間がかかるだけに,マンパワーの問題が一番の悩みですね。

MRIはAchieva 1.5T(フィリップス)が稼働
MRIはAchieva 1.5T(フィリップス)が稼働

●MRIは,現在1台で2006年に都立清瀬小児病院に導入された(Achieva 1.5T)を移設しました。将来的に増設などの拡張に対応できるようにスペースは確保しています。MRI検査数は月間100人,1日平均7人前後です。
MRIは被ばくがありませんので,検査を受ける子供には安全で,親にとっても安心な検査です。一方で,検査時間がかかり息止めや安静が必要ですので,いかに検査の際に鎮静を図るかが課題です。当センターでも入眠室を4室設け,検査室に向かう廊下の照明を落としたり,MRIの着脱式ベッドを使用するなど工夫をしていますが,検査が時間通りいかないことが常です。患者の状況を確認しながら,ミスや事故がないように注意を払って行っています。
その意味で,特殊な事情がある小児MRIの撮像テクニックや検査の運用などの知識や経験を共有できる,今回のCUTEのような会は有効だと思います。

●小児総合医療センターは,まだスタートしたばかりですが,都民の税金で作られた病院ですので,その役割を十分に果たせるような運営が必要です。期待に応えられるよう,安全・安心の医療の提供に力を入れていきます。


西村 玄氏(放射線科 部長)

●小児MRIの画像診断は,基本的には成人と変わらず,疾患と正常組織のコントラストが高く疾患の認識が容易で,その点でCTに比べても診断能の高い検査です。また,基本的には造影剤を使用せずにほとんどの疾患で診断が可能です。CTは,検査スピードの向上で簡単に短時間に行えるようになりましたが,やはり造影剤を使わなければ十分な情報が得られません。MRIの高速撮像化がさらに進めば,個人的にはMRIはCTを凌駕するポテンシャルを持っていると考えていますが,技術的にはまだ時間がかかりそうです。
小児のMRI検査には鎮静状態が必要で,すぐには検査ができません。CTでも鎮静は必要ですが,数秒で撮影できるので固定をしっかりすれば検査が可能です。小児のMRIは,鎮静のために成人と違って敷居の高い検査になっているのが現状です。

●通常は,スクリーニングとしてまずCTを行い,MRIは精密検査の位置づけです。MRIがファーストチョイスになるのは,複雑な診断が必要な脳の疾患や整形外科領域の疾患などです。高速撮像法などの登場で,小児のMRI検査が増えてきつつあることは事実です。
その一方で,小児MRIの課題はいろいろな撮像法やシーケンスがあり,多くの情報が得られます。それが,どの程度臨床レベルで役に立つのかが,まだ十分に理解されていません。日常の診療に追われる現場では,新しい撮像法やシークエンスを試す余裕がなく,技術をなかなかアップデートできないのが現状です。その意味で,このCUTEが各施設で取り組んだ新しい経験を共有して,臨床に生かせるような機会になれば一番いいですね。
機器の進歩はメーカー側に任せるとして,われわれは何が臨床に役に立つかを探り検査に生かしていくことが必要です。

●個人的には,心臓疾患に興味があり,MRIによる心機能評価に取り組んでいます。心臓では,超音波がファーストチョイスですが,MRIではフェイズコントラスト法を使った血流の情報から,特に術後の心機能の評価で有用性が高いところです。心臓手術が進歩し先天性心疾患の手術が成功して成人するケースも多くなってきました。そういった患者さんの長期的な予後について,MRIで情報を得られないかについて関心を持って取り組んでいるところです。

●第1回のCUTEでの発表を聞いても,施設によって運用や取り組み方には違いがあるのだなと感じました。小児の専門施設の間でも,共有できる経験や情報は,予想以上にあるのではないでしょうか。その意味で,今後のユーザー会の発展に期待しています。

(2010年9月11日 文責:iNnavi.NET)