株式会社フィリップスエレクトロニクスジャパンは6月19日(土),UDXカンファレンス(東京都千代田区)において,「Philips MultiTransmit Symposium」を開催した。
わが国では2005年に3T MRIの全身撮像が薬事承認を得て,国内での本格的な導入が始まった。頭部領域では高いSNRによる良好な画像が得られていたが,腹部領域ではRF磁場の不均一などを理由に,なかなか臨床応用が進まなかった。こうした状況の中,フィリップスは,2008年の北米放射線学会(RSNA2008)において,複数のRF送信源を持つMultiTransmit技術を搭載したハイエンド3T MRI「Achieva 3.0T TX」を発表。翌年の国際医用画像総合展(ITEM in JRC 2009)においても国内発表した。このMultiTransmit技術は,被検者ごとにRFを調整し,RFパルスを細かくコントロールすることで,シングルのトランスミットに比べ格段に画質の安定化を図ることができる。また,局所SARの上昇を抑えることで,撮像時間を従来の40%短縮化できる。これにより腹部領域でも高画質の画像を撮像できるようになり,検査の適用を広げている。さらに,MultiTransmit技術は,既存の3T装置にも後付けで搭載することも可能である。現在フィリップスの3T装置は全世界で715台,国内で100台を超える導入実績があるが,Achieva 3.0T TX以前の3T MRIを使用している施設にとっても,これは大きなメリットだと言える。
当日は,開会に先立ち,同社ヘルスケア事業部マーケティング本部MRビジネスマネージャの高瀬英知氏が挨拶し,これからの3T MRIには,MultiTransmit技術が不可欠になると述べた。
プログラムでは,まず「MultiTranmitの魅力―概念から有用性まで―」と題し,同社モダリティスペシャリストの廣瀬加世子氏が,MultiTransmit技術の開発の経緯や,これまでの3T装置との比較を交えた技術的特長について解説した。廣瀬氏は,まずMultiTransmit技術のキーワードとして,患者ごと,コントラスト,スピードを3つ挙げた。そして,患者ごとにRF調整を行えることから安定性が向上し,コントラストがよくなったことで高画質を実現,さらには撮像時間の短縮化が図れていることを説明した。また,MultiTransmit技術の概念として,バードケージコイルとクォドラチャー送信,single transmitとMultiTransmit技術の送信原理,B1キャリブレーションの3点を中心に解説した。その上で,今後の方向性として,小児や頭頸部,心臓などの領域での撮像について触れ,32ch SENSE Head coil for 3.0Tや心臓用キャリブレーションを紹介した。
続いて,「MultiTransmitでの臨床に於ける初期経験について」と題してユーザー施設からの発表が行われた。座長は東海大学の今井 裕氏。まず,「3T MultiTransmit MRIとSmartExam Breastを併用した乳房撮像の初期使用経験」をテーマに静岡県立静岡がんセンターの古宮泰三氏が報告した。同センターでは,2010年の5月の実績で,Achieva 3.0T全体の検査の23%にあたる48件の乳房のMR撮像を行っている。古宮氏はこの使用経験に基づき,SmartExam BreastとMultitransmit 技術を併用することで信号の不均一のない画像を撮像できるという有用性について,症例画像を提示しながら説明した。続く,長岡中央綜合病院放射線科の山本哲史氏は,「MultiTransmit Achieva 3.0T TX Quaserの当院における初期経験について」をテーマに発表した。同院は,装置の更新にあたり,当初3T装置に対する印象が良くなく,全身で使用できるという点から1.5T装置の導入も検討していた。しかし,MultiTransmit技術が搭載されたAchieva 3.0T TXが発表され,撮像時間の短縮化により検査数増加が見込めること,造影MRIや乳腺MRIへの対応などの観点から,3T MRIへの更新を決めた。MultiTransmit技術により,信号ムラのない画像が得られており,装置更新の効果が得られている。今後は,さらなる検査数の増加とMRSなどこれまでできなかった撮像にも取り組んでいきたいと山本氏は,今後の展望を述べた。
これらの発表を終えた後,同社常務執行役員営業本部長の島田和実氏が,今後の臨床現場の課題を解決し,シンプルでユーザーの負担を減らす技術開発を進めていくと挨拶して,盛況のうちに終了した。 |