6月19日(土), 秋葉原コンベンションホール(東京都千代田区) において,第10回目となる3T MR研究会が開催された。今回の当番幹事は角谷眞澄氏(信州大学医学部画像医学講座)。なお,今回も前回同様MR Angiography研究会と合同での開催となった。18回目となるMR Angiography研究会の当番会長は,齋藤陽子氏(弘前大学大学院保健学研究科医療生命科学領域放射線生命科学分野)が務めた。
3T MR研究会は,わが国で3T MRIが全身用として薬事承認を得た年である2005年11月に設立準備委員会が設けられ,翌2006年1月21日に第1回目の研究会が,代表幹事である杉村和朗氏(神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野教授)が当番幹事を務め,千里ライフサイエンスセンター(大阪府吹田市)で開催された。3T MRIを臨床現場に普及させることを活動の目的としており,以降,年2回のペースで開催され,今回で10回目を迎えた。と同時に同研究会は当初より10回で閉会することとしており,今回が最後の研究会となった。
当日は,午前中に行われたMR Angiography研究会を引き継ぐ形で,両研究会の合同シンポジウム「企画:3T MRIの醍醐味,そしてこれから…」が行われた。この企画は,3T MRIがわが国の臨床現場に登場してから5年が経つ中で,1.5T装置との比較し,どのような有用性と課題があるのかを報告する場として企画された。角谷氏が司会を務め,領域別に3T MRIの使用経験が発表された。
はじめに大阪大学大学院医学系研究科放射線医学講座の金 東石氏が「肝のMRI」をテーマに,登壇した。金氏は肝臓の場合,3T装置は1.5T装置に比べ T2コントラストは優れるが,T1では劣るとした上で,造影MRIではコントラストが同等であると述べた。そして,MultiTransmitのようなRF磁場の不均一を改善する技術が登場したことで,造影コントラストの向上が期待できるとした。さらに,金氏は今後の展望として,32chコイルや高速シーケンスの組み合わせで,3T MRIのメリットを生かした検査ができるようになるだろうと述べた。
続いて消化器領域について,東海大学医学部基盤診療学系画像診断学の今井 裕氏が使用経験を発表した。今井氏は,3T装置は当初信号ムラやコントラスト不良などの問題があったもののMultiTransmit技術の登場により,信号ムラが改善し,撮像時間が短縮していると述べた。さらにフリップアングルの安定化によりコントラストも良くなっていると説明した。その上で,1.5T装置との比較を交えながら造影MRIにおいてe-THRIVEを用いることでCNRの向上が図れたと説明した。
次いで「後腹膜のMRI」をテーマに,昭和大学医学部放射線医学教室の後閑武彦氏が発表した。後閑氏は,後腹膜領域での3T MRIについて,高いSNRにより画質が向上し,正確な診断に寄与していると述べた。その上で,今後は3T装置の潜在能力を引き出して臨床的価値を高めていくことが重要だとまとめた。
この後,登壇した島根大学附属病院放射線部の吉廻 毅氏は,前立腺のMRI/MRSをテーマに発表した。吉廻氏は,前立腺がんにおける3T MRIの診断について,施設や機種,放射線科医などの違いにより,診断結果が異なってしまう可能性があると指摘した。そして,3T装置の場合,非侵襲的で,かつ短時間で生体内の代謝産物情報を取り出すMRSが有用であろうと述べた。
引き続き,京都大学大学院医学系研究科放射線医学講座(画像診断学・核医学)の富樫かおり氏が,女性骨盤領域の3T MRIについて発表した。富樫氏は,使用開始当初の3T装置について,磁化率アーチファクトやSARの増大などの問題があったと指摘。その解決策として,磁化率アーチファクトはPATを上げ撮像時間を短縮したり,3DシーケンスによってSARの問題を解決するといった対処法を示した。また,ダイナミック造影MRIでの有用性について言及した上で,現状では3Tのメリットを生かし切れていないとして,コイルの多チャンネル化などに期待を示した。
休憩を挟み,骨軟部領域について,神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野の藤井正彦氏が報告した。藤井氏は,3T MRIの高いSNRにより空間分解能が向上し,関節軟骨や靱帯損傷などでの診断の確信度が高くなると述べた。また,1.5Tと同じSNRならば撮像時間を短縮させることができ,検査数を増やすことにもつながり収益の向上にも結びつくと説明した。このほか,藤井氏は,3T装置はT2 mappingなどに使うことで骨軟基質の減少といった生化学的評価にも高い有用性を持つと症例を示しながら解説した。
7番目の発表では,名古屋大学大学院医学系研究科分子総合医学専攻高次医用科学講座量子医学分野の長縄慎二氏が,頭頸部領域における3T MRIをテーマに登壇した。長縄氏は,内耳の撮像における3T MRIのメリットについて,単純3D-FLAIRによる迷路リンパ液組成変化の描出,造影3D-FLAIRによって血液迷路関門の破たんが見えるようになったこと,内リンパ水腫の検出などを挙げた。そして,3T MRIの発展により今後は迷路内部解剖を知らなければいけない時代になるとの見方を示した。
最後の演題では,三重大学医学部附属病院中央放射線部の佐久間 肇氏が,心臓領域における3T MRIの使用経験を報告した。佐久間氏は,心臓領域における3T MRIは, RFの不均一やT1緩和時間の延長が問題となると指摘。その上で,負荷検査による心筋虚血診断,冠動脈MRA,血流計測には有用性が高いとし,冠動脈CT,負荷心筋SPECTと同等の情報を,低コストで被ばくもなく得ることができると述べた。
これらの報告を受けて,角谷氏はシンポジウムのまとめとして,5年間で3T MRIの課題が数多く解決され,高いSNRを生かした装置のメリットが多く出てくるようになったとまとめた。
シンポジウムに続き,教育講演が行われた。順天堂大学医学部放射線医学講座の青木茂樹氏が司会を務め,岩手医科大学先端医療研究センターの佐々木真理氏が「脳の“動き”をMRIで究める:緩和現象から循環代謝まで」をテーマに講演した。佐々木氏は,MRIで脳の動きをとらえることについて,原子レベルとしてMRS/CSI,分子レベルとして神経メラニン画像と磁化率強調画像,細胞レベルとして拡散強調画像,組織レベルとして灌流強調画像,巨視レベルとしてMRA,それぞれ3T装置でのメリット・デメリットを整理して報告した。そして,岩手医科大学で年内に稼働を開始する予定である7T MRIの設置の様子などを紹介。3T 装置の限界を超え,7Tという超高磁場により,位相イメージングなど新しい手法が登場することに期待していると述べた。
すべての演題が終了した後,杉村氏が総括として,3T MR研究会のこれまでの歩みを振り返った。同研究会は,3Tの高いSNRを有効活用し,全身に利用することをめざして,5年間の予定で活動してきた。当初は5年間で高磁場MRIの半数は3T装置になると見込んでいたが,経済不況の影響もあり,そこまでは普及していない。杉村氏は,こうした状況も踏まえた上で,今後はMR Angiography研究会と合併し,新たにAdvanced MR研究会として,活動を発展させていくことを宣言した。その1回目の研究会は,2011年5月28日(土)に千里ライフサイエンスセンターにおいて,三次元CT・MR研究会と合同で開催される。当番幹事は杉村氏が務める予定である。
最後に,角谷氏がまとめとして,429名の出席者があったことを報告し,最終回にふさわしい研究発表の場になったと述べて,3T MR研究会はその幕を閉じた。
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