(社)日本画像医療システム工業会(JIRA)は6月1日(火),KKRホテル東京(東京都千代田区)で,平成22年度通常総会を開催した。リーマンショックに端を発した世界的な経済不況や医療費抑制政策などを背景に,画像診断機器関連産業は,厳しい状況にあり,画像医療システムの国内市場は平成19,20年度と2年連続で前年よりも縮小した。しかし,政権交代などの影響から昨年度から国内市場は回復基調にあり,対前年比で上半期103%,下半期116%の伸びを見せている。こうした状況下で行われた今回の通常総会では,加藤久豊会長が議長を務め,平成21年度事業報告と収支決算報告の承認,平成22年度事業計画と収支予算の承認,理事会選任理事の承認,平成22,23年度役員の選任,の4議案について説明が行われ,すべて承認された。
JIRAでは,今年度,「アナログからデジタルへ」,「ハードウェアからソフトウェアへ」,「国内から海外へ」というキーワードを示し,「行政への政策提言と連携強化」,「画像医療IT産業の成長促進」,「適正な診療報酬をもとめる活動と提言」,「医療機器の『安全・安心』への取り組み推進」,「国際活動の強化」,「国際整合を踏まえた標準化活動の強化」,「JIRA基盤の強化」の7つの基本方針を掲げている。総会では,この方針に基づく今年度の活動の概要が報告された。さらに,「JIRA将来構想プロジェクト」について,和迩秀信理事から説明が行われた。JIRAでは,このプロジェクトの重点戦略として,組織改編し,各部会・委員会の業務の見直しを行うとしている。具体的な取り組みとしては,新たにJIRA産業戦略室を設置する。このJIRA産業戦略室は,JIRAの戦略の企画・立案・発信を担うとしている。また,関連機器部会を発展させて,新たに産業振興委員会を設置。JIRA-IT特区,企業経営特区などの活動を担当することとした。さらに,従来の支部に代わり地域委員会を設け,地方ブロックごとの活動を強化していく。このような組織の見直しに伴い,2010年の7月中旬は,事務局を移転する予定としている。加えて,公益法人改革関連3法の施行に伴い,平成23年,24年をめどに一般社団法人へ移行する予定である。
これらの事業展開も踏まえ,加藤会長は,政府が2009年末にまとめた「新成長戦略」やIT戦略本部が5月11日に発表した「新たな情報通信技術戦略」,経済産業省が6月1日に公表した「産業構造ビジョン」について触れ,医療は日本を支える産業であり,貢献できるよう活動していきたいと述べた。
当日は,通常総会に先立ち講演会も行われた。2題あった講演では,はじめに(株)イリモトメディカル代表取締役の煎本正博氏が「放射線科医による画像IT技術の有効性─システムベンダーとの良好な関係の構築─」をテーマに登壇した。煎本氏は,外保連や日本医学放射線学会での活動を通じてJIRAと協力してきたことについて説明したが,必ずしも放射線科医とメーカーとの利害は一致しているわけではないと問題を提起した。その上で,画像診断管理加算などにより,放射線科医が疲弊していると指摘した。さらに,自身が遠隔読影企業を設立する経緯を紹介し,患者さんや依頼先のメリットを最優先にした読影サービスを行っていると述べた。また,不要な被ばくを減らすために精検率を下げるという観点から検診の読影にも力を入れていると説明した。一方で,煎本氏は,遠隔読影がへき地など地域医療に貢献するだけでなく,多忙の都市部の放射線科医の負担を減らし,全国均一な画像診断を行える環境を実現すると述べた。そして,まとめとしてメーカーとの読影室での意見交換,DICOMの相互運用性,患者の視点に立ったシステム開発が重要だとした。
続いて,東京農工大学学長の小畑秀文氏が,「生きている人体の解剖─計算解剖学が拓く近未来の診断と治療─」と題して講演した。小畑氏は,まずCADの現状について,映像化技術,画像処理技術を説明した上で,これまでのCADの歩みを紹介した。そして,現在のCADは特定領域の単機能システムであり,画像情報の有効活用が必要だとして,平成15年度から4年間かけて行われた文部科学省科研費特定領域プロジェクト「多次元医用画像の知的診断支援」について紹介し,「電体新書」,「電脳医学大全」のデータベース開発などを解説。計算機上に構築された臓器構造モデルなど,次世代のCADの方向性を示した。さらに,人体モデリングについて,海外で行われた「Visible Human Project」,「Virtual Human Embryo」,「Virtual Anatomina」を紹介した。さらに脳のstatistical modelなどを紹介し,計算解剖学によりpersonalized medicineをめざすとの考えを述べた。
このほか,当日は通常総会後に表彰式が行われた。JIRA前会長である猪俣 博氏らに感謝状が贈られたほか,JIRAの活動に貢献した個人,部会,ワーキンググループなどが表彰された。 |